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人は自然界から生きるために必要な食物を獲得し、それを口からとりいれる行為によって、生命を維持し、活動や成長に必要な栄養分を摂取している。
その意味では、動物も日々同じような行為をおこなって、生存しつづけているといえる。ただし、動物と自然界の食べ物の接点は、直接口である場合がほとんどで、ゴリラやチンパンジーなどの類人猿だけが手をつかって食べ物を口にはこぶという行為をおこなっている。チンパンジーの場合、まれに木の枝を棒のようにあつかって食べ物を採取することがあるが、これはきわめて偶然的で、それが道具としての使用にいたることはない。 人が食べるという行為そもそもが、動物のそれとは隔絶している。手や、その延長線上にある道具をつかって自然界から食べ物を獲得することができるのは、この地球上の生物の中でも人だけであり、生物としても動物としても人だけが特異なのである。 この特異さをもった人は二足歩行にはじまり、手を自由に動かし道具をつかうことで、より効率よく食べ物を獲得してきた。その結果が、人類の進歩と文明の発達をもたらしたといえる。現代文明における食事も、このそもそもの始まりを考慮にいれると、理解がしやすくなる。
現代では、都市生活者にとって、自然界から食物を直接えることは皆無といってよい。ベランダや庭を活用して野菜やハーブづくりをする人もいるが、それは食物の確保というよりもその作業自体がレジャーであったり趣味であったりする。一般には、商店やスーパーマーケットで食べ物を購入している。これが買い物である。貨幣による買い物が普遍化するのは現代生活の特徴である。現代人が自然の中で食物を採取しようとしても、有毒であるかないかはもちろん、食味可能かどうかの判定さえできないであろう。 歴史的には、まず自給自足の生活があり、物々交換がおこり、やがて貨幣による売買がおこなわれた。現代でも農家では自家用の米や野菜をつくって自給自足的な部分をのこしているし、漁家でも魚介類は自給自足していることもあるが、むしろ自給自足は例外となっている。農家や漁家でも、生産物はいちど市場に出荷してすべて換金して、貨幣をうけとる。その貨幣で必要な食材をえるのが当たり前となっている。都市生活者がそのみずからの労働の代償として賃金をえて、その貨幣によって食材や生活財をえるのとかわりはない。 貨幣はたいへん便利なもので、これさえもっていればいつでも好みの食材を多様に入手することが可能である。肉ひとつとっても、牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉などの家畜肉(→ 畜産)は手軽に入手でき、ときにはカモ肉、馬肉、イノシシ肉、シカ肉といった野生ものも食することができる。野菜はそれぞれの旬(しゅん)の食材が多彩に店頭、ショーケースにならんでいる。山菜の一部をのぞいて野菜類や果物類は、穀物とともにすべて栽培種で食べやすくなっている。魚は唯一天然ものだが、ウナギ、ハマチ(→ ブリ)、タイ、フグ、エビ、ホタテガイ、カキなどの養殖ものが増加している。 人工的な生産行為として家畜化、栽培化、養殖化があり、その延長線上に加工技術(→ 食品加工)がある。かつては自家製であった漬物や燻製、調味料などは工場生産され、缶詰、瓶詰をはじめ、インスタント食品、レトルト食品、冷凍食品なども近代的食品工場で量産化されている。これら多種多彩な食材、食品の中から必要とする食べ物を、経済や健康を考えて買うこと自体たいへん困難なことになりつつある。
食材を購入したら、通常はそれを調理して料理に仕立ててから食べる。その調理法は現在でこそ、切る、あえる、焼く、煮る、蒸す、いためる、揚げるなど多様であるが、この多様化に火がたいへん重要な役割をはたしている。戸外の火を炉として家屋の中に定着させることで、煮炊きの道具としての鍋、釜、甑(こしき)などが多彩に発達し、調理法がバラエティにとむようになった。この炉は調理と暖房の両用であり、東洋ではかまど(竃)という調理用を中心にした炉になり、多様な調理法が完成されていった。 一方、西洋における火の利用は、おもにマントルピース(暖炉)やストーブなどの暖房用(→ 空調)に進化して、調理法も串(くし)焼きや煮込み料理が中心となる。ただし、西洋の場合にはパンを焼くオーブンが独立していたが、産業革命時にコンロとオーブンを合わせもったレンジが発明され、さまざまな大きさの平鍋とともに急速に調理法が多彩になった。 日本では竃もあったが、囲炉裏という暖房調理兼用が普及し、都市の家でも火鉢や七輪などを発達させ、鍋物(→ 鍋料理)という伝統的な料理を今日までつたえている。この点に関しては、明治期の文明開化の象徴的な料理が、すき焼という牛肉の鍋物であったことと無縁ではない。 戦後日本の食生活の欧米化においても、じつは台所の近代化、すなわちレンジのくみこまれたシステムキッチンの普及と大いに関係があり、調理法自体が「煮る」からグラタンやホイル焼きなどの「焼く」、ソテーなどの「いためる」に移行していった。煮物であるおふくろの味は囲炉裏とともになつかしいもの、郷愁をさそうものとなっていった。
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