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諫早干潟は1997年4月の潮止め堤防の完成によって消滅をまぬがれなくなった。この面積約3000haもある、諫早湾最奥部の泥質干潟の生態系は、ムツゴロウやエツ、ソラスボなどの魚類をはじめ、ハイガイやアサクサノリなど、この地域に固有の種をふくむ多種多様な生物の宝庫だった。一般に生産力が高い干潟の中でも、とりわけ生産力が高く、国内では最高で、1km²当たりの魚介類の年間生産力は22.6tという報告がある。魚介類が豊富だったころの瀬戸内海で記録された生産力に匹敵する生産力である。干潟と水田の1a当たりの粗収入を比較したところ、干潟のほうが約5倍も収益があることがわかったという。
干潟の生態系は、沿岸水域の汚染をふせぐ高い機能をもっている。具体的にいうと、アサリ1個が1時間で1リットルの水を浄化する。ゴカイの汚泥処理能力もアサリにおとらず高い。干潟の表面にびっしりと繁殖し、ムツゴロウの主食にもなっている珪藻類は、炭酸ガスを吸収して酸素を放出する。 1haの干潟の生態系が、人間の排出する窒素やリンや汚泥を浄化する代わりに、人間自身が排水処理技術を駆使しておこなったとしたら、約40万ドルを要すると指摘した研究者もアメリカにいる。 諫早干潟の消滅によって淡水化した干潟の浄化は、だれが、どのようにおこなうのか。経費はいくらかかるのか。漁業を軽視して諫早干潟の息の根をとめ、もし目的どおり防災の効果があげられなかったら、諫早湾の潮止め堤防の建設にまさる自然破壊はないといえよう。 諫早干潟は日本が加盟しているラムサール条約によって、「登録はされていなくても自然保護区を設け、保全を促進しなければならない」(4条1)。つまり保護すべきウェットランドに該当するのである。 住民の反対の声によりゴミ処理場の建設が中止された愛知県の藤前干潟は2002年(平成14)にラムサール条約に登録された。また、01年には東京湾の三番瀬の埋め立て工事が堂本千葉県知事により中止が表明されている。その一方で、沖縄市の泡瀬干潟など各地の干潟については依然として埋め立ての計画が進行している。干潟の生態系の保全に力をそそぐ政策が今ほどもとめられているときはない。
海洋は地球の表面の約70%を占めており、サンゴ礁生態系、干潟生態系、マングローブ生態系などをひっくるめて海洋生態系とすることもできる。この生態系にふくまれる種の多様性はきわめて高く、熱帯雨林の生態系におとらない。たとえば動物分類学上の「門」は海洋生態系が28門(うち13門が固有)、陸上生態系が11門(うち1門が固有)である。
海洋生態系の生物の多様性は、3億6100km²の面積もさることながら、そこに海水15億km³がたくわえられていることと、平均の深さが3800mもあることにもよる。 陸上生態系では地下数十メートルで生物が存在しなくなるが、海洋では海水のある所には、深海であっても生物の生存が可能である。海洋生態系は、地球の表面に接している物質ではもっとも量が多い海水という環境とかかわって成立しているからこそ、陸上生態系をしのぐ種の多様性をもちえたといえよう。 海洋生態系の中で種と生物量が集中しているのは、大陸棚縁辺部までの沿岸域と、外洋の水深200mまでの表層部であることは確実だが、深海についての研究がすすむにつれて、種の多様性がみとめられるようになってきた。また熱水が湧出している海底の水域においても未知の生態系が成立していることがわかったのは、1980年代になってからである。 → 海洋生物
すべての生態系は植物の光合成にはじまるが、地球の表面のおよそ半分もある外洋の生態系は、植物プランクトンの光合成なしにはなりたたない。その意味では外洋の生態系はプランクトン生態系ともいえよう。この生態系の特徴は1ミクロン以下という微小な生物(バクテリア)から、体長が数十メートルにもなるクジラ類までが、複雑な食物網(→ 食物連鎖)を構成していることで、陸上生態系の食物網との違いは顕著である。 海洋生態系の当面の脅威は海洋汚染の進行だが、近い将来、地球温暖化による水温の上昇が、新しい大きな脅威となる可能性も否定できない。
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