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保全生物学とは、生物の多様性の危機に呼応して発達した学際的科学である。1970年初頭には、すでに多くの科学者は、生物多様性の危機がせまっていることを認識しはじめていた。そして80年代には、人間活動が原因で生じている膨大な数の動植物を絶滅の危機からすくい、生物多様性の消失速度をおさえるためには、新しく学際的なアプローチが必要であるとの認識から、アメリカ合衆国の科学者を中心にして、保全生物学会が設立され、保全生物学が誕生した。
生物多様性には、遺伝子、種、生態系、景観の4つの階層的なレベルがふくまれる。すなわち、それぞれの種内の遺伝的多様性や種数の多様性、生物群集や物質循環の多様性をふくむ生態系の多様性、空間的な配置構造や機能による景観の多様性である。 これら4つのレベルでの生物多様性が、現在、世界じゅうでうしなわれている。景観と生態系レベルでは、熱帯雨林、ウェットランド、サンゴ礁、海洋島(大陸と陸続きになったことのない島)での人間活動による自然改変がいちじるしく、その結果、そこに生息する生物種の減少や絶滅をひきおこしている。また、ある種が絶滅する過程では、遺伝子の多様性の減少が生じている(→ 絶滅の渦)。 したがって、これら4つの生物多様性のレベルは相互に作用しあい、現在の生物の多様性の減少が生じているといえる。
保全生物学は「使命の科学」ともよばれるように、2つの明確な目標をもっている。第1に、人間活動が生物の多様性や種の絶滅にあたえる影響や原因を明らかにするための基礎研究をおこなうことである。第2に、生物多様性を保全するための実際的な方策、とくに種の絶滅をふせぐための方法を開発することである。これらの目標を達成するためには、生態学や進化生物学(→ 生物学)、遺伝学、分子系統学など従来の生物関連の学問分野だけでなく、コンピューターシミュレーション(→ 景観生態学)、環境科学関連の工学、環境経済学、環境倫理学(→ 応用倫理学)、環境法学などの分野との従来にはなかった共同作業が必要となる。
保全生物学の基礎的な側面としては、4つのベルでの生物多様性の構造や機能の解明、生物間相互作用を明らかにすること、および種や生物群集の変化の観察記録をおこなうなどの多様な課題がふくまれる。 また、現在、生物多様性の減少の主要な原因となっている(1)生息地の破壊、(2)生息地の分断化(→ エッジ効果)、(3)生息環境の汚染と悪化、(4)乱獲、(5)帰化種の増大による在来種、固有種の減少、(6)病気の蔓延(まんえん)などによって、特定の地域の遺伝子や種、生物群集、生態系、景観の構造や機能がどのような変化や影響をうけているのかを明らかにする研究がすすめられている。
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