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環境ホルモン物質によるホルモン撹乱作用は、従来の毒性の概念ではとらえられない特異な特徴がある。それは第1に、環境ホルモンはppt(1兆分の1)といった微量でその作用があらわれることがある。たとえば、胎児の特定の時期や乳幼児、妊婦などがこれらの物質に暴露されると、通常ではおこらない生理機能、生殖機能の撹乱がおこる場合がある。 第2に、影響をうけた本人に毒性があらわれるだけでなく、世代をこえて影響があらわれることである。場合によって、胎児のときに暴露をうけた影響が成人になってから発現する場合もある。 第3に、環境ホルモンの場合、従来の化学物質の毒性評価があてはまらない可能性が高い。従来の毒性評価は、ほぼ大用量になればなるほど毒性が高くなるという考えでなされてきたが、ホルモンや微量元素などひじょうに微量で明確な作用をもつ物質の場合には、低用量や中用量、大用量といった量の変化によりその作用が質的に変化する。すなわち「逆U字型用量反応」という特性をもっている。通常の毒性試験では予測しにくく、低用量の毒性が問題になる。
環境ホルモンの問題は日本でも顕在化している。国立環境研究所の堀口敏宏氏の調査では、日本沿岸の94カ所において海産巻き貝のイボニシとレイシガイにメスがオスの性徴(ペニスや輸精管をもち、卵管に異変がおきる)をもつインポセックスがみつかり、この現象の原因は船底防汚塗料としてもちいられたトチリブチスズ化合物であることが明らかにされた。 また、全国各地の産業廃棄物処理場などのゴミ焼却炉の周辺では、高濃度のダイオキシン汚染がおこっていることが報告され、住民の健康障害が問題にされている。日本人の母乳中のダイオキシン濃度は世界でも高い値(成人許容量の6~7倍)をしめしている。厚生省(現、厚生労働省)も全国のゴミ焼却炉の排ガス中のダイオキシン濃度を公表した。ダイオキシンには抗エストロゲン作用などのホルモン撹乱作用があることは報告されているが、その詳細はまだ明らかではない。 ヒトの精子数の減少も報告されているが、精子数の測定法の標準化や、環境ホルモン物質の精子および精子形成への影響について因果関係を明らかにするには、今後さらに研究が必要である。 環境ホルモンは深刻な問題をはらんでいるが、日本においてはその研究や対策ははじまったばかりである。評価方法の国際標準化の試みが先進国で開始され、今後、人間をふくめた生物に対する個々の環境ホルモンの内分泌撹乱作用の有無や環境ホルモンと発癌性、環境ホルモンと慢性毒性、環境ホルモンと催奇形性との因果関係などを解明するための基礎研究が早急に必要である。 日本政府も1998年には総額180億円を環境ホルモン対策に投じることを決定した。そのうち68億円は調査・研究費にあてられる予定である。今後、大規模な環境ホルモンの実態調査や、因果関係を明らかにする基礎研究データの蓄積により、予防原則をふくめた手遅れにならない対策が講じられることが期待されている。
2001年8月、環境省は世界ではじめて、工業用洗剤の原料に広く利用されているノニフェノールが魚類のメス化に強い影響をあたえていることを確認した。実験では、ことなった濃度のノニルフェノールをまぜた水槽内で卵から2カ月の間メダカを飼育したところ、水1リットルに11.6µg(マイクログラムは100万分の1g)のノニルフェノールを混入した水槽のオス13匹のうち4匹にメス化が確認された。これらのオスでは精巣の一部に卵母細胞をもつ雌雄同体となっており、濃度が高いほどさらにメス化するオスの数はふえていた。さらに試験管実験では、ノニルフェノールはメダカの女性ホルモン受容体への結合性がきわめて高いことも確認された。環境省ではこれらの実験結果から魚類を中心とした生態系への影響の可能性をみとめ、生物への影響がない濃度を1リットル当たり0.6µgと算定しているが、ヒトへの影響は「ないか、あっても弱い」としている。 ノニルフェノールは1980年代にイギリスの河川で精巣に卵をもつ魚や、精巣が異常に小さなオスが発見されたことで、環境ホルモンとしての作用がうたがわれていた。そのためヨーロッパ諸国では使用削減への取り組みがおこなわれているが、日本では工業洗剤の界面活性剤の原料として2000年では1万6500t製造されている。かつては家庭用洗剤にも利用されていたが、1990年代後半から使用は中止されている。 1998~99年に環境庁(当時)が全国の河川や排水路、湖沼を対象に実施した全国調査では1574地点のうち617地点で検出されている。さらにそのうちの71地点で0.6µgの濃度をこえており、2地点では12µgをこえる濃度が検出されている。
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