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器物や信書、文書に文字や文様を押しうつして、持ち主や書いた人をあらわし、また権利や義務を主張するために使用された。日本では印鑑がその代表的なものである。西アジアに起源をもち、エジプトやヨーロッパにもつたわり、東アジアで広くもちいられる。形や用途、さらに使われ方は地域によって多様で、時代による移り変わりもある。
古代の西アジアにはスタンプ印章と円筒印章があった。スタンプ印章は押しつけて使用するもので、円筒印章は円筒形の石材に文様をほりこんでおり、かわく前の粘土板文書に押しつけながら回転させて印影をつける。軸部の孔(あな)に紐(ひも)をとおして携帯する円筒印章は、シュメール人の考案とされるが、各地に広まり、豊富な模倣品を生んでメソポタミア文明の特徴をしめす遺物のひとつとなった。 ヘロドトスの著書「歴史」には、「バビロン人の多くが印章(円筒)と杖(つえ)をもつ」とする記述がみえ、印章が一般にもよく使用されていたことがわかる。当時の印章については、文様の宗教的解釈や美術的説明が多い反面、役割や扱われ方については未解明なことが多い。 前6000~前5000年ころの最古の印章はスタンプ形で、トルコのチャタル・ヒュユクなどから、土製や石製のものが出土している。はじめは、牛やシカなどの動物をデザインしたものがみられるが、ウバイド期(→ ウバイド文化)からは爬虫類(はちゅうるい)や鳥類などもデザインされ、狩猟や祭りの場面もとりいれられた。材料は土製のほかに滑石の一種である凍石、大理石、蛇紋石などさまざまで、形も護符形やボタン形、動物をかたどったものなど多様である。 円筒印章はメソポタミアに前3000年ころあらわれ、まもなくスタンプ印章にとってかわった。はじめは祭りや儀式、一列にならんだ動物などをデザインしたものが多く、のちには幾何学文もあらわれた。シュメールの初期王朝時代には楔形文字のほか、神話の題材、家畜、ライオンなどがほりこまれ、アッカド時代には神々や祭司、王が登場した。新バビロニア時代(→ バビロニア)まで、円筒印章は広くつかわれたが、その前のアッシリア時代にスタンプ形が復活し、アケメネス朝ペルシャ時代になって円筒印章は使用されなくなった。 インダス文明では、多くの印章が都市遺跡で発見されている。つまみである鈕(ちゅう)が背面についた方形のスタンプ印章で、まれに円筒印章もある。スタンプ印章の大きさは1辺4~7cmの凍石製が多い。一角獣やコブウシなどの1頭の大型動物と数個のインダス文字や記号をきざんでいる。右から読むインダス文字が印章には数多くきざまれているが、いまだ解読されていない。
西アジアの印章はエジプト文明やエーゲ文明にもつたわった。古代エジプトでは王や官吏が使用したが、バビロニアから入った円筒印章はあまり広まらずに消滅した。中王国時代以後は陶製や石製のスカラベ形印章が普及する。1~11cmの小判形の印章で、名前や神像などがほられ、紐をとおして携帯したり、指輪になった。スカラベはタマオシコガネのことで、古代エジプトでは「天にのぼる太陽の象徴」とされ、再生や創造のシンボルとして神聖視されていた。 エーゲ文明でもスタンプ印章がこのまれ、護符としても愛用された。形は円錐形(えんすいけい)やピラミッド形などで、象牙(ぞうげ)や凍石でつくられた。はじめは西アジア的な動物文様や神話の題材をほりつけたものが多く、のちには魚類をはじめ海の生物なども題材にとりあげられたり、楕円形(だえんけい)のものがつくられたりした。
古代ギリシャではエジプトから輸入されたスカラベ形印章や、貨幣形印章がこのまれ、フクロウやウマ、神像などの題材が採用された。イタリア半島の古代エトルリア人(→ エトルリア文明)はスカラベ形印章をこのんだが、のちのローマ時代になるとすたれている。古代ローマでは貨幣と同様に自分の肖像や祖先の肖像が多くなり、指輪形の小さな印章もつくられた。こうした印章は、メノウなどの貴石に浮彫(陽刻)をほどこしたカメオなどとともに美術品としてたいせつにされた。
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