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動物の行動

動物の行動 どうぶつのこうどう Animal Behavior
百科事典項目
項目構成
I

プロローグ

さまざまな動物の行動様式は、すでにプラトンやアリストテレスの時代から、好奇心あふれる知性の持ち主を魅了してきた。とくに興味をそそってきたのが、単純な生物が、まったくおしえられずに、複雑な仕事をやってのける能力を適切な時期に発揮することである。クモが巣をかける。けものや鳥が巣をつくり、歌を囀り、すみかをみつけ、餌(えさ)をつかまえたりする。このような行動は、2つのまったくちがった観点からみることができる。動物が自分のすることすべてを初歩から学習するのか、あるいはやるべきことを本能的に知っているのか。つまり氏か育ちかであるが、その一方だけではないことがわかっている。

II

しつけ:行動主義者

最近までアメリカで主流だった行動学説が行動主義で、もっとも著名なのがワトソンスキナーである。ワトソンによれば、厳格な行動主義者は、すべての行動は、呼吸や血液循環さえもが学習されるものだと主張する。彼らの考えでは、動物は事実上なにも書かれていない黒板に、偶然と経験によってメッセージを書きこむのだという。動物の行動は条件付けによってかたちづくられると彼らは考える。行動主義者は2種類の条件付けをみとめている。古典的条件付けとオペラント条件付けである。

古典的条件付けを発見したのは、19世紀末のロシアの生理学者パブロフである。彼は消化の研究をしていたときに、餌(えさ)をみた犬が自動的に唾液をだすことを知った。彼の言い方をかりれば、無条件刺激に対する無条件反応である。餌をやるたびにベルをならすと、犬はこの無関係な(条件付けられた)刺激と餌をしだいにむすびつけ、ついにはベルの音だけで唾液をだすことができた。つまり、犬はあるきっかけと餌をむすびつけて考えることを学習したのである。行動主義者は唾液の分泌を単純な反射行動とみなし、医師が患者の膝(ひざ)を金槌でたたくと足があがる反射のようなものとする。

もうひとつのカテゴリーであるオペラント条件付けは、アメかムチかの原則ではたらく。たとえばラットにオペラント条件付けをするには、バーをおすと餌がもらえるようにおしえる。最初はかごの正しい端のほうをむくと餌がもらえる。次はバーの隣にきたときだけ餌をもらえる。その次には体でバーにふれたときだけ餌をもらえるなどと、行動が課題に適合するまでつづけていく。行動主義者は、この種の試行錯誤学習にパブロフの連想学習をくみあわせれば、反射と単純な反応をいくらでもむすびつけて、自然があたえるきっかけに応じた複雑な連鎖反応ができると考える。極端な行動主義者にとっては、動物とは必要なすべての行動パターンを学習しなければならないものなのである。

III

素質:動物行動学者

反対に、動物行動学は、動物が知っていることの大半は生まれつきのもの(本能的)だとする。エソロジーともよばれるこの学問はヨーロッパで発達し、今ではアメリカでも主流となっている。たとえば狩りバチは、ミツバチだけをみつけてつかまえる。メスの狩りバチは何の経験もなくして精密な穴をほり、ミツバチをみつけて相手の首を慎重かつ正確にさして麻痺(まひ)させ、自分の巣にもどって、貯蔵場所に適正な数のミツバチがたまると、その中の1匹に卵を1個うみつけてから部屋を封印する。メスの狩りバチの全行動は、1つの特定の方法で機能するようにしくまれている。動物行動学者は、この一連の行動全体が生まれたときから狩りバチの遺伝子にプログラムされていて、このような生まれつきもっている生得的な誘導パターンが、程度の差はあれ動物界全体でみられると考える。極端な動物行動学者になると、新しい行動はすべて成熟によるか—たとえば鳥の飛行には学習は必要でなく、(ひな)に体力がつくまでまってからおこなわれる—または以下にのべる自動記憶の一種である刷り込みの結果だとさえ主張する。

ノーベル賞を受賞した3人の動物行動学創始者ローレンツティンバーゲンフリッシュは、遺伝子プログラムが動物の生活を指令する基本戦略を4つ発見した。信号刺激(しばしばリリーサーとよばれる)、運動プログラム、衝動、刷り込みをふくむプログラム学習である。

1

信号刺激(リリーサー)

信号刺激とは、動物が重要な物体や個体にはじめてであったとき、それらを認識できるようにするきっかけである。たとえばセグロカモメの(ひな)は、餌(えさ)をもらうために、だれにむかって、どうするべきかが、最初からわからなければならない。巣にもどってきた親鳥は、(くちばし)を下にむけて雛の前をいったりきたりする。雛は嘴の先の赤い斑点をつついて親鳥に餌をはきもどさせる。雛は、嘴の縦の線と赤い斑点が横にうごくという信号刺激のみを頼りに親鳥を認識する。木彫りの嘴でも本物の親鳥と同じ効果がある。編み棒に誇張した斑点をつけても、雛を反応させることができる。

信号刺激は視覚にかぎらない。雛が餌をねだる鳴き声は親鳥の給餌行動のリリーサーである。メスのガが発散する特別なにおい、つまりフェロモンは、オスをひきつける信号刺激である。触覚や電気的な信号刺激もある。

動物界で信号刺激が幅ひろくつかわれるのは、コミュニケーション、餌とり、捕食者(捕食)の回避である。たとえばヘビウの雛は、危険なサンゴヘビを本能的に認識してさける。ニワトリやカモの雛は生まれつきタカのシルエットを認識してにげる。餌の採集にもしばしば同様の信号刺激がつかわれる。狩りバチは、一連のリリーサーによってミツバチを認識する。まず風上からくるハチのにおいが狩りバチをひきつける。次に黒っぽい小物体ならなんでも攻撃にかりたてる。そして最終的には、狩りバチが刺そうとする物体のにおいが、攻撃すべきかどうかを決定するのである。

こうして一連のリリーサーを次から次へとつかうことで、それぞれ未完成でも大まかなきっかけの限定性がます。これはコミュニケーションに頻繁につかわれる戦略である。大半の動物種は、求愛や子育ての時期をのぞけば単独で生活する。混乱をさけるため、交尾の候補となる相手の性別や種を特定する信号は、明快で誤解されないものでなければならない。

たとえばトゲウオは、リリーサーをくみあわせたシステムをつかって、交尾が最大の効果をあげるように調整する。繁殖期になると、オスの腹側は鮮やかな赤にかわる。この色がメスをひきつけるが、ほかのオスの攻撃も誘発する。赤い物ならたいていの物がオスのトゲウオの攻撃性をひきだすのである。メスはオスの赤い信号にこたえて奇妙な姿勢をとり、卵でふくれた腹をみせる。これに刺激されたオスは、ジグザグにダンスして自分でつくったトンネルのような巣にメスをみちびく。メスが苦労して巣にはいりこんだあと、オスは鼻先でメスの尾にふれて身をふるわせる。この振動によってメスは産卵し、オスが受精させる。オスがこのバレエの最後の部分を演じないとメスは産卵しない。鉛筆でメスを振動させると、オスのトゲウオでないことがみえているのにメスは完璧に産卵してしまう。ただしこの場合オスは、儀式の最終段階をおえていないので、卵に授精せずに食べてしまう。

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