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石綿(いしわた、せきめん)ともいう。アスベストのアは「ない」、スベストは「消せる」、つまり「消せない」を意味するギリシャ語からきている。耐火性や耐薬品性、耐摩耗性にすぐれ、建材や工業材料として広く利用されていたが、アスベストの繊維を吸引すると、肺が繊維化するアスベスト肺(石綿肺)や肺癌、肺などの臓器をつつむ膜にできる悪性中皮腫(ちゅうひしゅ)などをひきおこすことから、現在では使用が禁止されている。 アスベストはケイ酸マグネシウムなどの含水ケイ酸塩鉱物からなる天然の無機繊維の総称で、角閃石系と蛇紋石系の2つに大きく分類できる。蛇紋石系のクリソタイル(白石綿、白アスベスト)は、かつては世界じゅうで産出するアスベストの95%を占めていた。角閃石系には、クロシドライト(青石綿、青アスベスト)、アモサイト(茶石綿、茶アスベスト)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトがある。なお、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトは生産量が少なく、石綿原料としては利用されていない。 とくに有害性が高いといわれる青石綿と茶石綿に関しては、1995年(平成7年)に労働安全衛生法により、製造や輸入・販売・使用などが禁止された。すべての石綿に関しても、2006年に一部の例外をのぞき全面禁止になった。
アスベストは多くの特長をもつ。(1)耐熱性・断熱性や耐火性にすぐれている。(2)酸やアルカリにも強く、腐食せず、化学的にも安定している。(3)摩擦や曲げや引っ張り(抗張力)などに強く、機械的性質にすぐれている。(4)電気絶縁性(→ 絶縁体)がある。(5)防音性にすぐれている。(6)柔軟で加工性にすぐれ、繊維におりこむことで不燃性の布をつくることができ、セメントとまざると丈夫な建材になる。(7)相対的に安価である。これらの特長から、20世紀初頭には「奇跡の鉱物」、「天然の贈り物」とよばれていた。 アスベスト繊維は織物として成形でき、不燃性で熱をつたえにくいことは古くから知られていた。後1世紀に古代ローマの軍人で博物誌家でもあったプリニウスがあらわした「博物誌」の中に、はじめてアスベストという言葉がつかわれている。しかし、アスベストそのものは、すでに前2世紀から知られていた。ローマ人は、火葬用の布やランプの灯心をアスベストでつくり、のちにマルコ・ポーロはアスベストを織物にすると便利だとしるしている。江戸時代の博物学者、平賀源内がつくったといわれる火浣布(かかんぷ)もアスベストである。 日本では、アスベストのほとんどは、建材として利用されてきた。アスベストに結合材(ふつうセメント)と水をくわえて混合し、鉄骨建造物の柱や梁(はり)などに吹き付け施行をおこなうことで、耐火被覆としていた。また、空調機械室やボイラー室などでも吸音・耐熱を目的として使用されていたが、1975年(昭和50年)に原則使用禁止となっている。ただし、禁止前に建築された建物には現在でもアスベストが使用されている可能性があるので、注意が必要である。 そして、板状や筒状などさまざまな形状に加工され、工業施設で保温材や断熱材としても利用されている。もっとも利用が多いのは、建物の外壁や屋根などに使用するスレートである。本来のスレートは天然の粘板岩のことだが、高価なことから代替品としてセメントにアスベストやパルプをくわえて板状に成形したものを石綿スレートという。不燃性や耐水性、耐久性、防音性にすぐれ、安価なことから日本では屋根材料として広く利用されてきた。 かつては日本でも北海道の富良野などでアスベストが採掘されていたが、ほとんどはカナダやジンバブエ、ブラジルなどからの輸入によるものが利用されてきた。1960年代から消費量の急増とともに輸入量が増加し、74年の35万tをピークに、90年代までは年間30万t前後が輸入されていた。その後、95年(平成7年)の青石綿と茶石綿の使用・製造・輸入禁止などをうけて減少に転じた。なお、2004年10月からは、アスベストの輸入は原則的に禁止されたが、それまでの輸入総量は988万tをこえ、そのうちの9割以上は建材として利用された。
アスベストの繊維や粉塵(ふんじん)をすいこむと塵肺の一種であるアスベスト肺という肺疾患に15~20年の潜伏期間をへてかかる。また、肺癌では15~40年、胸膜や腹膜に手術不能の癌である悪性中皮腫では20~50年の潜伏期間をへて発症することが知られている。なかでも悪性中皮種は、アスベストとの関係が深いといわれている。そこで近年ではアスベストの使用の見直しが検討されるようになり、ノンアスベスト製品の開発がすすめられた。屋根材や内装材など建築資材では、アスベスト代替建材が販売されている。 1980年代に入ってヨーロッパ諸国が、有害なアスベストの使用を法律で禁止した。86年には、ILO(国際労働機関)がアスベストによる健康被害から労働者をまもるための「石綿条約」を総会で採択し、アメリカ環境保護庁(EPA)も主要なアスベストの使用廃止とすべてのアスベスト製品の製造を全面的に禁止した。日本では、89年に健康を害するおそれのあるアスベストなどの粉塵を、大気汚染防止法(→ 大気汚染)で特定粉塵とさだめ、発生施設に規制を課した。95年に発生した阪神・淡路大震災によって倒壊した建造物からアスベストが飛散し、防護マスクの支援がおこなわれた。労働省(現、厚生労働省)は、95年4月からは、発癌性の高い青石綿と茶石綿の製造、輸入、使用を禁止するなど、規制を強化した。そして、2006年9月からは白石綿の耐熱・耐薬品性が必要で代替品がむずかしい一部のものをのぞき、全面的に使用・製造・輸入の禁止となった。 2005年7月に大手機械メーカーのクボタは、旧神崎工場(兵庫県尼崎市)で勤務していた労働者のみならず、その家族や工場周辺の住民の悪性中皮腫による死亡が工場でつかっていたアスベストが原因であったことをみとめた。アスベストによる健康被害が、アスベストを製造する工場や鉱山ではたらく労働者だけはなく、その家族や工場周辺にすむ一般住民にも広がっていることは、すでに1960年代から海外では報告があがっていた。こうした事実を、当時の労働省や環境庁(現、環境省)も把握していたことが判明し、日本での対策の遅れがあらためて問題となった。 2006年2月、労災認定対象外となる一般住民や、時効により労災申請をすることができなかった健康被害者らを救済することを目的とする「石綿による健康被害の救済に関する法律(略称、石綿健康被害救済法)」が成立。また、工場のプラントなどアスベストを使用している工作物の解体作業にともなう飛散防止の義務化やアスベスト廃棄物を処理し無害化をすすめるために、大気汚染防止法や廃棄物処理法など、アスベスト汚染問題に関連する4法も同時に改正された。→ アスベスト汚染
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