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バッハ作品の価値は、彼の知性によるところが大きい。対位法の扱いにかけて、おそらくバッハをしのぐ名手はいないであろう。バッハは、バロック時代の音楽手法のすべてを理解して活用することができた。フランスの舞曲リズムとイタリア風の優美な旋律とドイツのこみいった対位法をもちいて、ひとつの楽曲をつくることも、不可能ではなかっただろう。また、音声とさまざまな楽器をくみあわせながら、それぞれに固有の音色と特性をそこなうことなく相乗効果をあげるような作品も書いた。さらに歌詞のある曲では、波うつような旋律で海をあらわしたり、イエスの説教にしたがう信者たちをカノンで描写するなど、音楽で言葉であらわされると同じ内容を表現することができた。 その時代のメディア、様式、ジャンルを正確に把握(はあく)して活用する能力にめぐまれていたバッハは、数多くのすぐれた編曲をしている。たとえば、バイオリン協奏曲のようなイタリアの合奏曲をチェンバロの独奏曲にうつしかえて、合奏曲のようにきこえる作品をつくった。また、いりくんだ複数の旋律をバラバラに分解することによって、バイオリンやチェロといった単旋律楽器に複雑におりなした多声フーガのテクスチュアをうつしかえるようなこともできた。鍵盤独奏曲の中には、オペラのレチタティーボのような、あたかも話をしているかのようなリズムや、音のまばらな作品もある。しかし当然のことながら、作曲技術が巧みだということだけがバッハの偉大さではない。とりわけ声楽曲ではっきりしているが、バッハの人間性をつたえてあらゆる人々の胸をうつのは、彼の表現力の豊かさなのである。
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