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14世紀ごろヨーロッパにあらわれ、特有の文化、生活様式、言語、身体的特徴を共有してきた人々。閉鎖的で結束力の強い小規模の共同体単位で移動生活をおくる。現在では東アジア、東南アジア、アフリカの南半分をのぞく、ほぼ全世界に分布すると考えられている。かつては「ジプシー」とよばれた。しかし、この呼び方はしばしば蔑称(べっしょう)としてもちいられてきたため、彼らの言語であるロマニー語で「人間」を意味するロム、または複数形のロマという名称をもちいることが多い。ジプシーの名は「エジプトからきた人たち」に由来するとされるが、これはまったくの俗説である。彼らの起源は長い間不明だったが、ロマニー語の研究から、今日ではインド北西部が発祥地と推定されている。
ロムがインド北西部にいたころ、その社会の中のどういう人たちだったのか、また彼らが故地をあとにした原因はなにかなど、くわしいことは明らかになっていない。おそらく6世紀前後から移動がはじまり、とくに11世紀のイスラムのインド侵入のころ、もっとも大規模な移動がおきたと考えられている。彼らの移動経路は、ロマニー語にとりいれられた諸言語からある程度あとづけることができる。それによれば、イラン、小アジアをへて、14世紀ごろバルカン半島から東ヨーロッパに到達し、さらに16世紀までにイギリス、スカンディナビア、スペイン、ロシアなど、ほぼヨーロッパ全域にひろがったと思われる。 ヨーロッパにはいったロムは、自由気ままな放浪生活者という好意的な見方をされることもあったが、彼らの容貌(ようぼう)、服装、生活様式、閉鎖的集団などがヨーロッパ人と身体的・文化的・社会的にことなっているため、差別、迫害されることが多かった。スペインでは1499年から1783年までに、ロムの服装、言語、慣習を禁止する法令が、少なくとも10回以上だされた。フランスでは1539年にパリからの追放令がだされた。イギリスでも1563年に国外退去、さもなくば死刑という法令がだされた。17世紀のハンガリーとルーマニアでは多数のロムが農奴にされた。20世紀に迫害は頂点に達し、第2次世界大戦(1939~45)の間に、約40万人のロムがナチスの収容所で殺された。ロムに対する差別は、今なお根強い。
現在のロムの総人口は全世界で300万~600万人と推定されている。数が不確定なのは、ロムがしばしば人口に計算されないからである。人口がもっとも多い地域はバルカン半島、中部ヨーロッパ、ロシアをはじめとする旧ソ連の共和国で、そのほか西ヨーロッパ、中東、北アフリカ、アメリカにも小規模ながら散在している。 ロムが季節労働者として最初にアメリカにあらわれたのは植民地時代だった。19世紀終わりにロシアとバルカンからの本格的な移住がはじまり、現在はアメリカ合衆国とカナダに、10万人程度のロムがいると推定される。西ヨーロッパのロムには今も流浪生活をおくっているものが多いが、そのほかの大部分は定住している。たとえば、東ヨーロッパとバルカン半島にすむ100万人以上のロムのうち、流浪しているのは10%にみたないと思われる。アメリカ合衆国では、1930年代の大恐慌時代までは農村部を移動生活していたが、その後、大部分は東海岸および西海岸の大都市にすみついている。
分布がひろく、移動の歴史もさまざまであるため、ロムの文化と社会組織は一様ではない。しかし、伝統文化の神聖視、集団への強い帰属意識と団結力という特徴はどこでも共通している。また、ロム以外の者に接触するとけがれるとするインド起源とみられる観念があり、それが集団の閉鎖性と排他性を強めている。もうひとつの凝集力はロムの言語、ロマニー語である。ロマニー語は、インド・ヨーロッパ語族に属するが、多数の方言にわかれている。 宗教は、居住する国の信仰をうけいれることが多く、ローマ・カトリック、東方正教会、プロテスタント、イスラム教などさまざまである。しかし宗教儀式は家族や集団内部だけでおこない、教会、寺院、聖職者などにたよらないため、ロム独特のものが少なくない。 ロムの集団はいくつかの小グループ(氏族)にわかれ、各小グループは、出自と歴史によってむすばれたいくつもの家族からなっている。小グループには名目上のリーダーがおり、それを王あるいは女王と称することもある。しかし、この称号は政治的権威者を意味するわけではなく、たんに尊敬のしるし、あるいはロム以外の人たちに対する効果をねらったものにすぎない。ロムにはクリスという裁判制度があり、集団内のもめごとはその慣習にしたがってさばく。居住国の裁判制度や社会制度にうったえることは彼らの考えに反する。 ロムは家族中心の価値観をもち、年長者を尊敬し、彼らに権威をあたえている。結婚はふつう、当人同士の恋愛の結果というより、家族間または小グループ間の連帯を強めるためにおこなわれる。性道徳は厳格で、未婚女性にはいつも監視役がつきそっている。グループによっては花嫁代償の制度がのこっていて、夫側の家族から妻側の家族に支払いがなされる。 ロムの伝統的な職業は、音楽と芸能、馬の曲乗りや熊(くま)使いなどの動物の見世物、鍛冶(かじ)と金属細工、馬と家畜の取り引き、行商と小規模な商売、占いと病気治療、籠(かご)つくりや木彫などの工芸である。しかし、現在の産業社会ではそれらの職業で生計をたてることはむずかしく、季節労働者としてはたらく者も多い。
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