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ウイルス

ウイルス Virus
百科事典項目
項目構成
IV

複製

ウイルスは自己複製に必要な酵素などの物質をもたないので、感染相手の宿主細胞のものを利用する。したがってウイルスの複製とは、成分を個々に宿主細胞に合成させ、新しいウイルス粒子にまとめるプロセスである。複製はウイルスが細胞へ入るときからはじまる。ウイルスの外殻が細胞の酵素によってのぞかれると、ウイルスのRNAまたはDNAが細胞内のリボソームに接触し、そこでウイルスの核酸が特定するタンパク質の合成を指示する。核酸と、ウイルスのタンパク質の殻の構成単位がそれぞれ合成されたのち、2つの構成要素から新しいウイルスがくみたてられる。1個の感染したウイルスは、数百から何千にも増殖することができる。増殖したウイルスは、宿主細胞をやぶってでるが、細胞膜から出芽し細胞を殺さずに放出されるウイルスもある。感染が無症状、つまりウイルスは細胞内で複製するが、細胞に害をあたえない場合もある。

RNAをふくむウイルスは、RNAがDNAとは独立して複製される点で独特である。RNAがメッセンジャーRNA(mRNA)として機能し(遺伝学)、細胞のリボソームや代謝系を利用して間接的に自己複製する場合もある。ほかに、RNAウイルスが外殻内に酵素をもっていて、この酵素がウイルスRNAの合成を指示する場合もある。レトロウイルスといわれる一群のRNAウイルスは、RNA分子からDNAを合成する逆転写酵素をもつ。こうしてつくられたDNAは、ウイルスの遺伝物質としてはたらく。

細菌ウイルスと動物ウイルスでは、感染にあたって細胞表面との反応にいくぶん違いがある。たとえば大腸菌に感染するT系バクテリオファージは、まず細菌の表面に吸着してから、自身のDNAを細菌内に注入するが、外殻は細菌の表面にそのままのこる。しかし、核酸が細胞に入ったのちのウイルス複製の基本手順は同じである。

1

ウイルスの人工合成

2002年、アメリカのニューヨーク州立大学の研究グループは、RNAの全塩基配列(ゲノム)データをもとに、ウイルスを人工的に合成することに世界ではじめて成功した。人工合成したウイルスはポリオウイルスである。人工合成の方法は、まず、ポリオウイルスのRNAゲノムデータをもとに、そのデータの完全なコピーである相補的なDNA(完全長cDNA)をDNA合成装置でつくり、さらに、そのDNAを鋳型にして酵素をつかってポリオウイルスのRNAを合成した。そして、そのRNAを、実験用の細胞から抽出した液にまぜたところ、RNAがタンパク質をつくりだし、正二十面体の殻をもった完全なポリオウイルスができあがった。この人工ウイルスは本物と同様に、病気をひきおこす病原性ももっていた。

このように、ただの情報であるゲノムデータから、ウイルスが合成できることがはじめて実証された。しかも、つかわれた技術や知識は10~20年前に確立されたものばかりである。ウイルスのゲノムは、すでに500種類以上のウイルスで解読されており、インターネットでデータが手に入るようになっている。また、DNA合成装置などは、バイオ産業や遺伝子工学の分野ではふつうにつかわれている。このようなことから、テロリストなどが、猛毒ウイルスのデータをつかって上の方法を悪用したり、生物兵器に使用したりする危険性があり、懸念されている。しかし、ポリオウイルスは塩基の数が約7500しかないのに対して、たとえば天然痘ウイルスは約20万もあり、人工合成するには手間も時間もかかり困難だといわれている。

V

医学におけるウイルス

感染症とたたかう医学にとって、ウイルスは大きな課題である。多くのウイルスが人間にとって重大なさまざまの病気をひきおこす。

ウイルス病の中には、毎年何百万人もかかるインフルエンザもある。そのほか、しばしば致命的となる狂犬病出血熱脳炎小児麻痺黄熱などの重大なウイルス病もある。ウイルスは、細菌感染などによる深刻な合併症をひきおこすこともある。インフルエンザ、はしかおたふく風邪、単純ヘルペスや水疱瘡や帯状ヘルペス(ヘルペス)、呼吸器疾患、はげしい下痢いぼ肝炎などは、よくみられる感染例である。

さらに風疹ウイルスやサイトメガロウイルスなどは、胎児に深刻な奇形や死をもたらすことがある。エイズは、レトロウイルスによってひきおこされる。ヒトのとの関連が明らかなレトロウイルスは2つしかないが(HTLV)、乳頭腫(パヒロマ)ウイルスのいくつかも関連がうたがわれている。

他のウイルスも、ある種の癌や多発性硬化症やその他の退行性の病気などの慢性病に関連しているという証拠がふえている。さらに最近発見されたウイルスとして、乳児胃腸炎の病原であるロタウイルスや食中毒をひきおこす小型球形ウイルス(SRSV)などがある。

VI

流行

ウイルスは人から人へ広まって、新たな患者をふやす。インフルエンザやはしかのウイルスは、咳(せき)やくしゃみによって飛沫感染(ひまつかんせん)する。下痢などをひきおこすウイルスは、便を介して経口感染する。さらに、黄熱ウイルスやアルボウイルスなどは昆虫によって媒介される。ウイルス病は、風土性か、流行性のどちらかである。流行性ウイルス病の代表が、ほとんど毎年世界じゅうで流行するインフルエンザである。

VII

治療

現在、ウイルス感染症に対する完璧(かんぺき)な治療法は存在しない。ウイルスを撃退する薬の大半が、細胞も傷つけてしまうからである。唯一効果的な方法は、ワクチンの使用による予防である。たとえば、1970年代に世界規模で天然痘ワクチンを使用したおかげで、この病気は撲滅された。

ヒトや他の動物用にたくさんの抗ウイルス性のワクチンが開発されてきた。ヒト用ワクチンには、はしか、風疹、小児麻痺、インフルエンザなどに対するものがある。ワクチンへの抗原が体の免疫系を刺激して、ウイルスの感染を予防するタンパク質、すなわち抗体をつくるのである。ワクチンには、病原性をなくすために殺してある(死ワクチン)か、病原性を弱めてある(生弱毒ワクチン)ウイルスがもちいられる(免疫法)。

抗ウイルス物質として有望なインターフェロンは、細胞自身によってつくられる。この無毒のタンパク質は、ウイルスに感染した動物細胞によってつくられ、ウイルスの感染から他の細胞をまもる。インターフェロンを癌治療に使用する研究が精力的にすすめられている。インターフェロンは純粋な形ではかぎられた量しか手に入らなかったため、最近まで使用が限定されていた。しかし、遺伝子クローニングという新技術のおかげで大量に入手できるようになった(遺伝子工学)。

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