株式会社
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株式会社
III. 株式会社の経営上の特徴

経営組織としての株式会社の特徴は、第1に基本的には大量生産と大量販売に適した産業に成立したということである。鉄鋼、鉄道、自動車、電機、石油、化学など、生産技術上、大量生産による「規模の経済」が機能する産業で巨大な組織としての株式会社が生まれた。

競争をかちぬくためには、ライバル企業よりも巨大化して規模の経済性を追求しなければならず、企業は垂直統合を志向した。たとえば自動車会社は、たんに車を製造するだけでなく、原材料の調達や販売も自社でまかなうようになった。この「統合の経済」によって、中間マージンやさまざまな取引コストを節約し、企業はさらに巨大化していった。

巨大化した企業は、複雑化した財の流れを調整するための管理機構を必要とするようになった。これが階層的な経営組織としての株式会社の第2の特徴である。多数の工場で生産される自社製品を材料購入から製造、販売、アフターサービスまで一貫して管理し「規模の経済」を生かすためには、権限と責任が集中された集権的な管理組織が必要となる。

株式会社の第3の特徴は、所有と経営の分離である。株式会社以前の経営組織は、個人企業あるいは複数の所有者がつくるパートナーシップだった。19世紀のイギリスでは、個人企業やパートナーシップは法人格や有限責任をみとめられてはいなかった。株式会社のメリットは、会社の所有者すなわち出資者のリスクの分散である。資産家が無限責任をもっておこなう企業形態とはこの点で明確に区別される。

企業が技術的に巨大な設備投資を必要とするようになるにつれて、有限責任の株主は大衆化し、経営実務に関する意思決定は取締役(会)に委託されるようになった。1920年代末には、A.A.バーリとG.C.ミーンズが明らかにしたように、アメリカのトップ企業(非金融会社)200社の3分の2は、所有によらない経営者によって管理されていた。また63年、R.J.ラーナーの調査によれば、アメリカのトップ企業200のうち85%が所有者ではない経営者(専門経営者)によって経営されていた。

この所有と経営の分離は、典型的なアメリカ社会の現象であり、パートナーシップの多いイギリスや財閥支配の戦前の日本ではそれほど顕著ではなかった。しかし経営組織の長期趨勢(すうせい)としては、所有と経営の分離は現代企業の普遍的特徴である。

株式会社の第4の特徴は、人的資源や熟練を内部化する傾向である。小規模な個人企業は労働をスポット的な短期雇用契約で購入する。ある年、当該企業が製品Aを生産販売していたとする。そのときに必要な熟練技術Xをもった労働者を、企業は労働市場から短期契約をむすんで調達する。その製品が流行遅れになり新製品Bが生産されるようになると、企業は新技術Yを労働市場から調達しなければならない。

このように外部労働市場に依存する企業は、技術革新の時代には膨大な取引コストを負担することになる。技術革新に対応するために、企業はむしろ自社内部で長期雇用によって熟練した人を育成するようになった。労働者と長期雇用契約をむすび、企業の内部で熟練した人をそだて、どのような技術革新にも対応できるようにすることは、もちろん小規模な企業では不可能であり、大規模な株式会社によってはじめて可能になった。

現代の株式会社は、価格理論におけるたんなる「質点」というよりも、社会全体のシステムにかかわる重要な「制度」として認識されるようになった。「市場」という需要供給メカニズムの海にうかぶ、大小の島。それが現代の企業であり、多国籍企業の中には小国家の国家予算をこす売上高をあげるものも少なくない。

古典派経済学(経済学)は、企業を木にたとえ、どのような企業も正常の高さに達すればあとは活力をおとろえさせ、自然に朽ちていくものだと考えた。しかし20世紀後半、巨大な株式会社が、市場の「見えざる手」(アダム・スミス)にかわって産業内の分業をみずからコントロールするようになると、経営者は「見える手」(アルフレッド・チャンドラー)として組織をうごかすだけでなく、経済社会全体に影響をおよぼすようになった。経営者の経営倫理や企業の社会的責任がきびしく問われるようになったのも、当然の結果であった。