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永久磁石
I. プロローグ

強磁性体に外部から磁場をかけて磁化する場合、磁化の状態より材料を分類すると、2つの種類がある。

一方は外部磁場をとりのぞくと材料に磁気がのこらない場合である。このような磁性体を軟磁性材料、磁心材料といい、これを利用して電磁石がつくられる。

もう一方は外部磁場をとりのぞいても、材料に磁気がのこる場合で、これを硬質磁性材料、永久磁石材料、または単に磁石材料というが、いずれも同じものである。

この材料をもちいてつくった一定の形状の物体を磁石または永久磁石という。本項は後者の永久磁石についてのべ、電磁石については別項で解説する。

II. 磁石の歴史

前1000年にはすでに、中国で南北をさす磁石利用の指南車がもちいられていた。前600年ごろ、ギリシャのマグネシア地方で天然の磁鉄鉱が羊飼いによって発見されたのが、マグネットの語源である。

磁石の研究が本格化したのは19世紀であったが、この時代には磁石材料の特別な発展はなかった。磁石材料の技術と工業が本格化したのは20世紀になってからである。

20世紀の初期に、本多光太郎博士、三島徳七博士らによって、鉄、コバルト、ニッケルなどを主体とした磁石合金が発明され、これがアルニコとよばれる工業材料に発展、今日にいたっている。20世紀の中期には加藤与五郎博士らによって、新しい酸化物系の磁石が発明され、これも今日にいたるまで工業生産がつづいている。

20世紀後半になると、希土類金属を利用したいわゆる4f系強力磁石が開発され、これらが今日の磁石工業の主流となり、その最盛期をむかえている。

III. 磁石の原理

磁石はN極とS極をもっており、異極は吸引し同極は反発する。また磁石は鉄、ニッケル、コバルトなどほかの磁性体を吸引する。このような性質はどこから発生するのか。また強い磁石をつくるのには、どうすればよいか。これらの機構について説明しよう。

1. 磁気とスピン

電気と磁気は比較対照される。電気ではその基本に自由電子なるものを考え、その動きによって電気現象が説明される。しかし、磁気では、自由電子に相当する磁子のようなものは考えられない。そこで物質の磁気を発生する根源として、原子に所属する核外電子の自転運動スピンに着目する。

このスピンは通常、プラス、マイナス1/2の量子数をもつ。電子がこのプラスマイナスで対をなしているときは、磁気が発生しない。不対のスピンがあるときに磁気が発生する。

そこで周期表から不対のスピンをもつ原子をさがすと、まず目につくものは鉄、コバルト、ニッケルである。これらの原子は電子の3d軌道に不対電子があり、そのため磁性をもつ。

さらに実用面からみれば、鉄、コバルト、ニッケルは安価で豊富な材料であるので、これら3d金属およびその合金が、まず20世紀の初頭に工業材料として磁石の主流となったのである。

2. 希土類と磁性

さて次に、不対スピンをもつほかの原子をさがしてみると、希土類金属(ランタンからルテチウムまでの15元素)があることがわかる。これらは3d軌道でなく、4f軌道に不対スピンの電子をもつ。4f電子は外界の影響からまもられているから、磁気の点からみれば、すぐれた磁性をもつはずで、高性能の磁石が製作できるはずである。

昔は希土類金属を精製する技術がなく、高価な金属であったので、磁石に利用されていなかったが、1970年代になると、希土類金属を安価に製造する技術が発展し、同時に希土類金属の磁性の研究が進展し、これらをあわせて、新しい4f金属系の強力磁石がぞくぞくと発明されるようになった。

これらの中で実用的に成功したものがサマリウム磁石およびネオジム磁石であり、これらが今日の強力磁石の主流となっている。

希土類元素

IV. 磁石の種類と特性

磁石に要求される基本的な磁気特性は、磁化曲線の第2象限すなわち減磁曲線でしめされる。この曲線上で重要な点は、残留磁化、保磁力、最大エネルギー積である。

このうち磁石の性能は、まず最大エネルギー積の値によって評価される。磁石を応用する場合、その動作点が最大エネルギー積の単位と一致するように設計されねばならない。最大エネルギー積の単位は、メガガウスエルステッド(単位記号はMGOe)でしめす。

また、直接磁場を利用するには、残留磁化が大きいことが必要である。残留磁化は、磁化の飽和状態から外部磁場を0にしたときの磁化をしめし、単位はガウス(記号はG)でしめす。

さらに外界の磁場、振動などによって劣化しないためには、保磁力が大きくなければならない。保磁力は、磁化の飽和状態から外部磁場を0をこえて逆方向にして増加させるときに、磁化が0になるときの磁場の強さで、単位はエルステッド(記号はOe)でしめす。以下に各種の磁石材料およびその磁石特性をのべる。磁気

V. アルニコ磁石

合金の成分は、アルミニウム、ニッケル、コバルト、銅、チタンなどである。アメリカ合衆国ではアルニコ、イギリスではアルコマクス、ドイツではエルジットなどの名称で工業化されている。

アルニコ磁石は20世紀の初めに発明され、20世紀半ばまで、磁石の主流であったが、そののちフェライト磁石や希土類磁石においこされて、今日では衰退期にはいっている。しかし耐熱性がよい、劣化が少ないなどの特長から、今日なお特殊な用途に利用されている。

同じアルニコ磁石にも多種類あるが、その磁石特性は残留磁化1万(G)、保磁力1000(Oe)、最大エネルギー積6(MGOe)程度である。製造法は鋳造法、粉末焼結法が利用され、機械的硬度が大きく、切削、圧延などが困難という欠点がある(焼結)。

VI. バイカロイ、クニフエ、クニコ磁石

バイカロイは鉄、コバルト、バナジウム合金、クニフエは鉄、ニッケル、銅合金、クニコはコバルト、ニッケル、銅合金である。これらの磁石は圧延性があるので特殊用途に利用されている。磁石特性としては、残留磁化6000(G)、保磁力600(Oe)、最大エネルギー積2(MGOe)程度である。

VII. 鉄-クロム-コバルト磁石

合金成分は鉄、クロム、コバルトを主体とし、シリコン、モリブデン、バナジウム、チタンなどを少量ふくむ。この磁石は圧延性が良好で切削加工も容易という特長をもつ。磁石特性は、残留磁化1万3000(G)、保磁力700(Oe)、最大エネルギー積5(MGOe)程度である。

VIII. 白金コバルト磁石

白金とコバルトを原子比1対1にした合金を主体とする。特性は残留磁化7000(G)、保磁力5000(Oe)、最大エネルギー積12(MGOe)程度である。高価であるが、圧延性、耐食性がよいので医療など特殊用途に利用される。

IX. フェライト磁石

この磁石はほかの合金系とことなり、酸化物セラミック系である。結晶はマグネトプランバイト型六方晶で、バリウム系とストロンチウム系がある。製造法は、まず炭酸バリウムまたはストロンチウムと酸化鉄を混合して焼成し、六方晶フェライトをつくる。これを微粉末にして湿式または乾式で圧縮成形したのち、焼結して磁石とする。磁石性能は残留磁化4000(G)、保磁力3000(Oe)、最大エネルギー積4(MGOe)程度である。この磁石は性能はよくないが安価であるため、工業的に多量生産されている。しかし付加価値が小さいので、最近では日本国内の生産は衰退期にはいっている。

X. マンガン・アルミニウム・炭素磁石

マンガン・アルミニウム合金はマンガン55原子%に準安定の強磁性相があり、これは炭素によって安定化する。これを応用した磁石は、切削加工や押出し加工も可能で、密度は合金磁石として最小である特長がある。また原料として高価金属を使用しないので安価である。磁石性能は、残留磁化6000(G)、保磁力2500(Oe)、最大エネルギー積6(MGOe)程度である。

XI. 希土類磁石

この系列の磁石が今日の強力磁石の主流である。この系の磁石には多数の種類があるが、最初に開発されたものは、サマリウム・コバルト1-5型であるが、今日あまり利用されていない。次に開発されたものは、サマリウム・コバルト2-17型である。

その次に開発されたものが、いわゆるネオジム磁石で、成分はネオジム・鉄・ボロン2対14対1の化合物を中心としたものである。これが、あらゆる磁石の中で最強のもので、今日の希土類磁石の主流となっている。以下に各希土類磁石の特性をしめす。

サマリウム・コバルト1-5型、残留磁化1万(G)、保磁力8000(Oe)、最大エネルギー積25(MGOe)。サマリウム・コバルト2-17型、残留磁化8000(G)、保磁力7000(Oe)、最大エネルギー積30(MGOe)。ネオジム磁石、残留磁化1万2000(G)、保磁力1万4000(Oe)、最大エネルギー積40(MGOe)。

希土類磁石の製造法は、溶解して合金を溶製したのちこれを微粉とする。この微粉末を磁場プレスで成形し、焼結、熱処理をほどこして異方性磁石とする。

XII. フェライト系ボンド磁石

フェライト系磁石は一般にもろくて硬いため、機械加工が困難で、複雑な形状や、肉薄の磁石が製造できない。この欠点を改良するためボンド磁石が開発された。

ボンド磁石はフェライト磁石の粉末を、プラスチック、ゴムなどと混合して成形したもので、寸法精度が高く、加工が容易で、可撓性(かとうせい:おりまげられる性質)をあたえることができる。反面、粘結剤を数%ふくむので、磁性はおとることになる。この系のボンド磁石の特性は、残留磁化2500(G)、保磁力2000(Oe)、最大エネルギー積1.5(MGOe)程度である。

XIII. サマリウム系ボンド磁石

サマリウム磁石には1-5型と2-17型があるが、ボンド磁石としては、2-17型が利用されている。製造法は、まず合金粉末をつくり、エポキシ、ナイロンなどの熱硬化性のバインダーを混合し、射出成形機や磁場プレスによって成形し、所定の熱処理をほどこす。磁石特性としては、残留磁化5000(G)、保磁力4000(Oe)、最大エネルギー積8(MGOe)が標準である。

XIV. MQ型ネオジム系ボンド磁石

1970年代初め、アメリカのGM社は、ネオジム磁石合金を溶融状態から急冷してアモルファスとし、適当な熱処理をほどこして、高い保磁力と、飽和磁化をもつ材料を開発した。この粉末を原料とし、粘結剤をもちいて成形し、ネオジム系のボンド磁石をつくることができる。

この方式による等方性磁石はMQ-Ⅰといわれ、その磁石性能は、残留磁化6000(G)、保磁力5000(Oe)、最大エネルギー積8(MGOe)である。この製造のときに、ホットプレスをもちいたものをMQ-Ⅱといい、最大エネルギー積13(MGOe)程度の磁石がえられる。またダイアップセット法を適用したものをMQ-Ⅲといい、前2者が等方性であるのに対してMQ-Ⅲは異方性磁石となり、最大エネルギー積は30(MGOe)に向上するといわれる。

XV. 超伝導永久磁石

1986年、新しいランタン・バリウム・銅酸化物系の高温超伝導体が発表されて以来、世界じゅうで盛んに研究がおこなわれた。その結果次々と新しい材料が発見され、各種の応用研究も進展している。この応用の中で、高温超伝導体を永久磁石として利用することが注目されている。

この場合、材料は、バルクの形状で利用されるので、材料の線状加工の困難性などを考慮する必要がないという利点がある。もちろんこの場合でも、材料の臨界温度、臨界磁場、臨界電流が大きいという基本の性質が必要である。

永久磁石への利用の場合、重要なことはマイスナー効果である。これは超伝導体に外部から磁場を印加すると、磁束が超伝導体内に進入しないことである。すなわち超伝導体は反磁性体であり、通常の磁石が強磁性体を利用するのとはまったくことなる点が重要である。

超伝導体に印加される外部の磁場がしだいに強くなると、たえられなくなって外部の磁束が進入するようになる。このように外部磁束が進入するときの挙動によって、超伝導体は、第1種と第2種に分類される。

1. 2つの超伝導体

第1種超伝導体とは、磁場がある限界に達すると、一挙に磁束が進入し超伝導が破壊するもので、これが臨界磁場である。

第2種超伝導体は下部臨界磁場と上部臨界磁場をもち、外部磁場が下部臨界磁場をこえると、磁束がしだいに超伝導体内に進入を開始し、外部磁場が強力なほど多くの磁束が進入する。そして上部臨界磁場をこえると、超伝導が破壊される。上部下部の臨界磁場の中間で進入した磁束は超伝導体中にピン止めされ、外部磁場を除去しても超伝導体中に残存保持される。

2. ピン止めの利用

超伝導体を永久磁石として利用する場合はこのピン止めを利用する。ふつうの永久磁石は、物質の原子磁気モーメントのそろい方を利用するもので、超伝導体の永久磁石は機構がことなる。したがって、超伝導体を利用すれば、通常の磁石ではえられないような、大きな飽和磁気をもつ磁石がえられる可能性がある。これが超伝導体が永久磁石として注目されるゆえんである。

XVI. 超伝導永久磁石の着磁

以上のように、超伝導体の磁石の機構は、ふつうの磁石とちがうので、着磁方法もちがっている。

まず、リング形状の超伝導磁石についてのべよう。この場合は第1種、第2種いずれの超伝導体も利用できる。リングに対して直角に、臨界磁場直下の外部磁場を印加すると、磁束は超伝導体中に進入せず、磁束はリングの穴の空間を貫通する。これによってリングには、超伝導電流がながれる。この状態で外部磁場を切ると、リングの穴を貫通している磁束はそのまま維持され、これによってリングは永久磁石となる。

次に、円柱状の第2種超伝導体を着磁する方法をのべる。この場合は上部臨界磁場以下で、なるべく高い外部磁場をかけると、円柱に磁束が貫通したまま超伝導が保持される。ここで外部磁場を切ると、円柱に進入した磁束はピンどめされてのこり、これによって円柱は永久磁石となる。

XVII. 永久磁石の用途

磁石の用途は、各種エレクトロニクス製品、OA、FA機器、モーター、アクチュエーター、電気自動車、磁気浮上列車(リニアモーターカー)、放射光装置のアンジュレーター、ウィグラー、自由電子レーザーなどの機器、医療用のMRIなど広範にわたっている。

高級磁石が利用される分野の比率は、年代によってことなるが、現在ではVCM(ボイスコイルモーター:CDプレーヤーなどにつかう)54%、モータージェネレーター17%、MRI11%、AD機器5%、そのほかとなっている。

特殊用途として、磁気記録、磁性流体、磁気トナーインク、磁気軸(軸受)、磁気カード、磁気分離機なども磁石の応用ということができる。

XVIII. スピントランジスター

半導体をまったくつかわず、磁石とそのほかの金属のみで構成される新型のトランジスターが、新しいデバイスとして注目されている。

磁石応用の新型トランジスターは、現在の半導体トランジスターにくらべ、すぐれた特性をもつ。たとえば、集積度は現在の100倍と巨大であり、スイッチングタイムは1ナノ秒と短い。これはさらに不揮発性メモリー、ロジックIC、LSIへと拡張され、その結果、新型コンピューター、新情報システムへと発展する可能性がある(集積回路)。

XIX. 磁性体中のキャリア

半導体においては、その中の電流キャリアとして電子と正孔を考える。ところが磁性体においては、従来磁性のみに着目して、電流キャリアについて無関心であった。しかし最近になって、磁性体の電流キャリアとして、アップスピン電子とダウンスピン電子の2種類を考え、その挙動によって特殊な電磁気機能があらわれるとする新発想が展開している。これを2電子モデルといい、このようなスピン電子に着目した技術全般をスピントロニクスという。

1. 微小デバイスの夢

磁石を応用したトランジスターの構造は、白金コバルト磁石の薄膜の上に、非磁性の金の膜をつけ、その上にパーマロイ合金膜をつけた微小デバイスである。

磁石をエミッターとし、パーマロイをコレクターとし、中間の金をベースとして回路をつくれば、バイポーラートランジスターと同じ構造になる。すなわち磁石からのアップスピン電子が金層に注入され、ライフタイムの間にエミッター層に到着し、ここでコレクター層がアップ磁化のときにのみコレクター側に電子が進入し、ダウン磁化のときは、反対の電子流となる。これによってトランジスター作用が出現する。

ハードディスク:フロッピーディスク