| 検索ビュー | 茶事 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
茶の湯においてもっとも正式な客のもてなしは、茶の湯の料理、懐石とともに濃茶(こいちゃ)と薄茶(うすちゃ)をもてなす「茶事」である。かつては茶会といったが、近年は大勢の客をまねく大寄せの茶会がふえたので、これと区分する意味で小人数の正式の茶会を茶事とよんでいる。茶事には季節の移り変わりや、1日の時間の流れにそってさまざまな種類があげられる。ここではそのいくつかを紹介する。
| II. | 茶事の流れ |
11月初旬、立冬をむかえると茶室の「炉」を開く。このころ、春につんだ葉茶(新茶)を、茶壺(ちゃつぼ)の口封を切ってつかいはじめる。「口切(くちきり)」の時節とよび、その年の新茶のつかいはじめのこの時期が茶の湯の世界での正月とされ、露地の竹垣の竹を青竹にかえたり、茶室の畳をあらため、障子をはりかえるなどしてむかえる。
この「口切」「開炉(かいろ)」の時節の茶事は、正午に客を案内してはじめられる。正午から約4時間かけて、懐石、濃茶、薄茶の順で客をもてなすこの「炉・正午の茶事」がもっとも正式な茶事であり、茶事の基準となる型といえる。
季節の移り変わりでおこなわれる茶事としては、口切のほかに、冬の夕方から客をまねき、夜長をたのしむ「夜咄(よばなし)」、厳冬の夜明けをたのしむ「暁の茶」がある。また5月初旬に立夏をむかえ、炉から風炉にうつりかわる時期は「初風炉」の名で茶事がおこなわれる。さらに暑さのきびしい夏には、朝のすずしさをたのしむ「朝茶」がおこなわれる。秋も深くなり、10月におよべば、「名残の茶」の茶事がおこわれる。深まる秋の風情をあじわい、昨年来つかってきた茶壺の中の残り少ない葉茶を、主客ともに感慨深くあじわう茶事である。茶の世界の歳末にあたる時期で、もっとも「侘(わ)びの心」が感じられる時期の茶事である。
また、1日の流れの中で正午より1時間はやくはじめ、先に濃茶をすすめ、あとで懐石をもてなす「前茶」、不意におとずれた客を茶事の形式でもてなす「不時の茶」などがあり、「正午」をふくめたこれらの茶事は炉、風炉の時節に関係なく、1年じゅうおこなわれる。
| III. | 炉・正午の茶事 |
先にのべたように、もっとも正式で、茶事の基準となるのは「炉・正午の茶事」である。以下、この茶事の流れを紹介する。
亭主は書状で客に茶事の案内をする。日時、茶会の主旨、また当日の連客などをつたえる。茶会の前日には客の代表が亭主をたずね、あらかじめ茶会の礼をのべ、客の数などをつたえる「前礼(ぜんれい)」もおこなわれる。茶会の当日、亭主は露地・茶室をきよめ、諸道具の用意につとめる。
| 1. | 客の入来 |
あつまった客は「寄付(よりつき)」とよばれる場所で、亭主の案内をまつ。案内をうけた客は外露地へ出て、庭中で亭主の「迎え付け」をまつ。
| 1.A. | 迎え付け |
亭主は露地の中ほど、「中門」の戸をあけ、蹲(つくば)って客に対し言葉なしに一礼する。客は正客(しょうきゃく)を先頭に「中門」の方へすすみ出て、蹲い、亭主の礼をだまってうける。これが「迎え付け」である。亭主は「中門」を少しあけたまま(どうぞ入ってくださいとのしるし)茶席へもどる。客はいったん外腰掛へもどり、しばらくして正客から順次「中門」をとおって茶席へすすむ。
| 2. | 初座(しょざ) |
客は茶席近くの蹲踞(つくばい:石の手水鉢)で手と口をきよめ、躙口(にじりぐち)から茶席に入る。床の間にかけられた掛物を拝見し、炉の近くによって釜(かま)や炉縁・炉中を拝見し、正客は床の間に近い座を占め、次客以下も座をさだめる。
| 2.A. | 席入り |
客が拝見をおわって着座すると、やがて亭主は茶席に出て、茶事の初めの挨拶(あいさつ)をする。この時はじめて亭主と客は言葉をかわす。
| 2.B. | 炭点前(すみてまえ) |
「炉・正午の茶事」ではまず、炉の炭をつぐ。湯がわくように炭をくみ、香を炉に焚(た)く。客が香合の拝見をおわると、亭主は茶の料理、懐石を客にもてなす。
| 2.C. | 懐石 |
亭主は膳(ぜん)を客にすすめる。膳にははじめ、向付(むこうづけ:前菜)、飯椀(めしわん:飯を少量)、汁椀(味噌汁:みそしる)、スギの箸(はし)がのせられている。亭主は席中へ出て、まず客の盃に酒を少しすすめる。つづいて煮物(汁をはって、中に魚・鳥の料理をいれたもの)、焼き物(魚を焼いたもの)などを出し、いったん亭主はしりぞく。客だけで料理をたのしむこの時間を「亭主の相伴(しょうばん)」とよぶ。当日の料理を亭主も味見する時間といえよう。食事をおわると亭主は吸物(少量のすまし汁)をすすめ、その後主客の間で盃のとりかわしをおこなう「八寸」(海と山の2種の肴(さかな)をもったもの)の時間となる。八寸と酒をもちだした亭主は客に酒をすすめ、客からも亭主に酒をすすめて、主客の対話がつづく。最後に客はすべての食器を懐紙できよめてふき、客一同そろって箸を膳におとすことで音をたて、食事のおわったことを知らせる。亭主は膳をひく。
| 2.D. | 菓子 |
亭主は菓子器に菓子をいれて、客にすすめる。亭主は客に対し、菓子を食べおわったら、露地の内腰掛にしばらく出ることを乞(こ)う。
| 2.E. | 中立ち |
客が庭の腰掛にて(あるいは別の部屋へうつって)やすむ間に、亭主は茶席をはききよめ、濃茶の用意をする。この中休みを、中立ちとよんでいる。客が席入りして中立ちをするまでの茶事の前半を「初座」とよぶ。
| 3. | 後座(ござ) |
内腰掛で中立ちしていた客は、亭主のならす銅鑼(どら)の音を合図に再び席入りする。この中立ちから茶事のおわりまでを「後座」という。
| 3.A. | 濃茶点前 |
後座の濃茶の席では、掛物をとりはずし、床正面の壁に花入をかけて花を生ける。窓の簾をはずしたり、突上窓(つきあげまど)を高く開けて、茶席の中を明るくして、亭主は濃茶の点前をすすめる。
| 3.B. | 濃茶 |
客は濃茶をいただく。一碗(いちわん)をのみまわすこの濃茶が茶事の第一の目的である。亭主は濃茶をおいしくさしあげるために炭点前や懐石をもてなす。濃茶の場は主客とも、あらたまった心持ちでのぞむ。
| 3.C. | 拝見 |
濃茶でもちいた茶入や茶杓(ちゃしゃく)、茶入の袋などを拝見する。その後、釜の煮えも弱くなるので、2度目の炭点前をして炉の火をなおす。後炭(ごずみ)という。
| 3.D. | 薄茶 |
釜の煮えをまちつつ、亭主は煙草盆、干菓子(→ 和菓子)など客にすすめ、薄茶がはじめられる。薄茶をいただいた後、道具拝見につづき、当日の道具の箱書付なども拝見する。この薄茶の部分は、四季を通じてどの茶事においても最後の段階におこなわれ、主客の間のしたしみあるくつろいだ雰囲気のひと時をすごして茶事はおわる。
| 3.E. | 亭主見送り、退出 |
正客は頃を見はからって亭主に茶事の礼をのべ、茶席を退出する。亭主はくぐりの戸をあけて、見送りをする。客もくぐりの近くにまっていて、亭主の見送りに礼をかえし、露地をもどって帰途につく。
| IV. | 茶席でのマナー |
茶会は、亭主と客の協力によってなりたつ。とどこおりなく一会の趣向をもりあげるために、客の中から老練の人が「正客」となり、茶事の心得のある人が末席の「詰め」をつとめることになっている。初心者はこの役目をさけて間の席にすわるほうがよい。
服装はさっぱりとした清楚(せいそ)なものを着用し、和服ならば替えの足袋を、洋服ならば別の靴下を用意し、寄付ではきかえる。持参するものは、袱紗(ふくさ)、扇子、懐紙、白いハンカチ(あるいは手ぬぐい)、袱紗ばさみ(袱紗、懐紙、楊枝(ようじ)などをいれて懐中する)。また、参会に遅刻は厳禁で、定刻より15分くらい前に到着するように心がける。
| 1. | 座り方 |
正座がただしい座り方だが、掛物や花の拝見、道具の拝見、亭主が濃茶を練る間や、お茶や菓子をいただくとき以外はことわって足をくずすことは可能である。ただし、隣りの人に迷惑のかからないようにする。また道具の拝見の時は、粗相のないように両肘(ひじ)を膝(ひざ)にしっかりとつけて慎重に道具をあつかわなければいけない。
| 2. | おじぎの仕方 |
正座し(少し膝を開けてすわる)、背をのばして自然に胸をはり、手は膝の上に重ねておく。挨拶の際は膝前に扇を横におき、膝から指をそろえておろし、手のひらを畳につけて腰から上体をたおすようにして頭をさげる。
| 3. | 菓子の取り方 |
縁高(ふちだか)の菓子器:縁高は重箱のように重ねた菓子器で、ふつう一重に1個菓子が入り、蓋(ふた)の上に人数分の黒文字(クロモジの枝でつくられた楊枝)がおいてある。次客へ「お先に」という意味の礼をして、黒文字を1本とっていちばん下のお重にいれ、その上のお重を次客におくる。懐紙を出して、膝前のお重から黒文字をつかって菓子をとり、懐紙にのせていただく。
銘々菓子器:小さな菓子器に1人分ずつ菓子をのせて出された場合も、懐紙にとっていただく。あいた菓子器は正客から順にお詰めへとおくられるが、その際、器への配慮から懐紙を1枚はさんで次客へおくる。
| 4. | 茶のいただき方 |
濃茶:薄茶よりも濃い茶で、一碗の茶を連客一同で喫茶する。茶碗といっしょに袱紗がつくので、これで茶碗をうけて軽くおしいただく。茶碗のむこうをもって正面をさけるように少し手前にまわして、3口半ほどいただき、下において4つ折りにした懐紙で飲み口をきよめ、次客へおくる。
薄茶:薄茶は各々に一碗の茶が点(た)てられる。茶碗の正面をさけて数口でのみきる。茶碗の飲み口は、右手の親指と人差し指で左から右へ軽くふき、その指先は懐中の懐紙でふく。茶碗の拝見は、正面を自分のほうにむけて畳の縁(へり)外におき、指先を畳につけて全体の姿をみてから茶碗をとりあげ、見込み、口造(くちづくり)、胴、高台(こうだい)などの見どころを拝見する。この時、腕時計や指輪など金属のものは、あらかじめはずしておく。
茶席のマナーで大切なことは、わからないことは先輩や正客にたずね、教えをうけてすることで、見よう見まねではかえって失敗することがある。要は、亭主のもてなす心に対して失礼のないようにのぞむことが大切である。