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顔料
I. プロローグ

顔料は水や油脂、アルコール、有機薬品などにとけない不透明な色素が微粉末状になったのもので、着色するのに利用される。顔料とは逆に、水や油脂などにとけて、おもに繊維の着色などに利用されるものは染料とよばれている。顔料は、水や油脂などとねりあわせ、塗料や印刷用インキ、絵の具などとして表面に塗布する着色剤として広く利用されている。また、プラスチックやゴムなどでは、ねりこんで素材の内部にまで着色したり、充填剤(じゅうてんざい)や補強剤としても使用されている。

人類における顔料の使用の歴史はきわめて古く、なかでも酸化鉄を主成分としたものの利用は有史以前にさかのぼることができる。古代中国においては辰砂からえられる赤色顔料の朱(しゅ)がつかわれ、古代エジプトでもエジプト青(CaCuSi4O10)とよばれる最古の青色顔料の利用が知られている。

II. 顔料の分類

顔料の種類はきわめて多いが、鉱物などの天然顔料と工業的に生産された合成顔料があり、無機顔料と有機顔料とに大別される。またそれ自身の着色力はないが、ほかの顔料の増量や希釈などに利用される白色の体質顔料などもある。

1. 有機顔料

有機合成によりつくられる色素の中で顔料として利用されるもので、透明度も高く、濃度の高いものが多い。また着色力にもすぐれ、色調もあざやかなものが多い。一方、太陽光の紫外線などには弱く、耐久性にとぼしいという欠点がある。しかし現在では、石油化学合成により大量に生産されており、種類も多く、もっとも一般的な顔料である。

1.A. レーキ顔料

有機顔料に分類されるレーキ顔料は、オーラミンやマラカイトグリーンなどの水溶性染料を塩化バリウムやタンニン酸、モリブデン酸などを作用させて不溶性としたもの(この操作をレーキlakeという)。もっとも一般的な有機顔料である赤色顔料や黄色顔料のアゾ系顔料もレーキ顔料に分類される。アゾ系顔料は両端にベンゼン環(ベンゼン)をもった窒素の二重結合をもつアゾ基をもつアゾ化合物によるもので、ジアゾニウム塩と芳香族化合物とのカップリングにより合成される。アゾ基の数によりモノアゾ(アゾ基が1つ)、ジスアゾ(2つ)などがあるが、現在ではアゾ基をふくむ重合体からなる縮合アゾ系顔料が主流となっている。縮合アゾ系顔料は1957年にスイスで開発されたもので、安価ではあるが性能がおとるアゾ系顔料の欠点を克服し、性質が向上している。このほかにも青色顔料であるフタロシニアン系顔料もよく利用されている。

2. 無機顔料

無機顔料は不透明で濃度もじゅうぶんではないが、有機顔料にくらべ日光に強く、耐久力が大きいという特徴をもつ。また、無機顔料には赤色顔料の朱やべんがら、白色顔料の鉛白(えんぱく)など古くから利用されてきたものが多い。利用としては有機顔料と同じく塗料や印刷用インキ、プラスチックの着色などにつかわれている。

2.A. 赤色顔料

鉛丹(えんたん)は橙色(だいだいいろ)から赤色の粉末で、主成分は四酸化三鉛Pb3O4(酸化鉛)。光明丹(こうみょうたん)ともよばれる。赤色顔料として利用されるほか、鉄骨などの錆(さび)止め塗料にもよくつかわれている。また鉛ガラス(ガラス)や陶磁器につかわれる釉薬の原料としても使用されている。

朱利用の歴史は古く、中国ではすでに殷の時代には使用されていた。天然には水銀の主要鉱物である辰砂(しんしゃ)として採掘されたものが利用されてきた。主成分は赤色硫化水銀HgSで、現在では水銀と硫黄から黒色硫化水銀をつくり、加熱・昇華したものが多く利用されている。絵の具や印鑑の朱肉、漆器、塗料などに使用されている。ただし値段も高く、有毒性である。

べんがらも朱と同じく利用の歴史が古い赤色顔料で、名はインドのベンガルに産するものを輸入していたことに由来し、紅殻とも書かれる。主成分は酸化鉄(III)Fe2O3で、黄色味が強いものから暗赤色のものまで製法により違いがある。値段が安く、塗料や絵の具、ゴムの着色など需要は多い。べんがら塗

2.B. 青色顔料

群青(ぐんじょう)は、同じ青色顔料である紺青(こんじょう)とともに大量に利用されている。古くは鉱物のラピスラズリが利用されていたため高価であったが、19世紀にフランスで人工的な合成方法が開発されたことで広くつかわれるようになった。二酸化ケイ素(シリカ)、アルミナ、ソーダ、硫黄から合成される。別名をウルトラマリンともいう。塩基には強い性質だが、酸には弱い。印刷用インキとして使用されるほか、紙やプラスチック、ゴムなどの着色などにもよくつかわれる。

紺青も利用が多い青色顔料で、印刷用インキやペイントなどに利用されている。フェロシアン化ナトリウムに硫酸鉄(II)と塩化カリウム、硫酸アンモニウムをくわえ、沈殿物を酸化させたものが利用されている。化学物質としては、ヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)カリウムFeK[Fe(CN)6]、またはヘキサシアノ鉄(II)酸鉄(III)アンモニウムFe(NH4)[Fe(CN)6]である。日本語の紺青以外にもプルシアンブルー、ベルリン青、ベレンス、ミロリーブルーなど多くの名前でよばれている。

2.C. 黄色顔料

黄鉛(おうえん)はクロム酸鉛PbCrO4が主成分で、クロム酸ナトリウム水溶液と硝酸塩水溶液を混合したもの沈殿物としてえられる。耐光性にすぐれており、塗料や印刷用インキなどに利用されているが、有毒である。また硫化水素により黒色にかわるという欠点がある。別名をクロムイエローともいう。

カドミウムイエローは硫化カドミウムCdSが主成分で、カドミウム塩の水溶液に硫化水素または硫化ナトリウムをくわえてできる沈殿物である。着色力は強く、ラッカー塗料や絵の具、プラスチックの着色などに利用されている。溶剤や薬品、熱などにも耐性がすぐれているが、毒性も強いために「毒物及び劇物取締法」の劇薬に指定されている。

2.D. 白色顔料

亜鉛華(あえんか)は、酸化亜鉛ZnOの別名で、白色顔料として利用される。また、毒性がなく、皮膚や粘膜を収斂(しゅうれん)させる性質があることから、古くから医薬品としても利用されている。

鉛白も古くから利用されてきた白色顔料で、かつては白粉(おしろい)としても利用されていた。鉛に酢酸の蒸気と二酸化炭素を作用させることでつくられ、主成分は炭酸水酸化鉛(II) 2PbCO3・Pb(OH)2である。油脂と結合することで丈夫な被膜ができることから塗料としての需要が多いが、亜鉛華とちがい有毒である。また陶磁器の釉薬や塩化ビニルの安定剤としても使用されている。

チタン白(しろ)は白色顔料の中でもっとも着色力や隠蔽力(いんぺいりょく)にすぐれている。主成分は酸化チタン(IV)TiO2で、塗料としての利用のほかに、紙や合成繊維の艶(つや)消しなどにもつかわれる。また無毒であることから化粧品などにも使用されている。

リトポンは、硫酸バリウムBaSO4と硫化亜鉛ZnSの混合物である。硫化バリウムと硫酸亜鉛を水溶液中で反応させてできた沈殿物を、空気を遮断(しゃだん)した状態で800°C前後の温度により焼成してつくられる。着色力や隠蔽力にすぐれ、おもに塗料としての需要が多い。

2.E. 黒色顔料

カーボンブラックは、黒色の無定形炭素の粉末で、粒子がきわめて細かく、3~500nm(ナノメートル:10億分の1m)しかない。煤(すす)や油煙などであるが、おもに炭化水素や油脂を不完全燃焼させたり、熱分解することでつくられる。印刷用インキや塗料などの利用のほかにタイヤ用ゴムやプラスチックの補強剤、カーボン紙などにもつかわれている。