| 検索ビュー | 生態系 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
熱帯雨林やサンゴ礁の生態系はきわめて種の多様性(→ 生物多様性)にとむといわれる。これは逆に、熱帯雨林やサンゴ礁以外にも、さまざまな生態系があることを意味している。事実「生態系とは、ある地域に存在する生物と無機的な環境とをひとまとめにしたもの」である。ちなみに、無機的な環境とは、水や空気、土などであり、さらに日照などもくわえなければならない。無機的な環境は物理的な環境ともいいかえられる。
また生態系は自然生態系、農地などの人為生態系、都市などの人工生態系とにわけることもできる。
| II. | 生態系とは |
生態系の定義の「ある地域」をすべて具体的にしめすことは不可能である。それほど地球上の生態系は多様性にとんでいる。
| 1. | 地球という生態系 |
ツンドラや温帯落葉樹林(→ 森林)、熱帯雨林などは、それぞれが独自の生態系をなしているが、ほかのすべてのタイプの森林、つまりサバナや熱帯季節林、熱帯低木林などと一括して森林生態系とされる。
さらに砂漠や淡水湿地(→ 湿地帯)、島など、ほかの地上の生態系とともに大きくくくって陸上生態系とし、海洋生態系と対比されることもある。
重要なことは、それぞれ独自性をもつ個別の生態系も相互に影響をあたえあっていることである。陸上生態系と海洋生態系をあわせれば、地球生態系という一つの大きな生態系となるのである。
一方、生態系は細分化も可能である。たとえば熱帯雨林の林冠部生態系、沿岸の潮だまり生態系というように。また生態系と生態系の接点に成立する生態系もある。たとえばマングローブは林生態系であり、同時に潮間帯にも生態系は成立する。
生態系と生態系とは、はっきり境界でわけられないことが多い。たとえば湿原生態系は、集水域の森林生態系をふくめて成立しているからである。
| 2. | 自然生態系 |
各生態系の中では、植物と動物、あるいは動物と動物が、水や空気(→ 大気)、土壌などと密接にかかわりながら、直接あるいは間接的なつながりをもって生きている。端的には食物網あるいは食物連鎖をとおして、生態系がエネルギーを伝達し、栄養物質をつかい、栄養循環させる機能をはたしていることが明らかにされている。
生態系は循環システムであり、植物が光合成によって太陽の光エネルギーから有機物を生産することが基点にあるので、植物は生産者とよばれる。また動物は消費者、微生物は分解者として、循環システムの各段階でそれぞれの役割をになっている。これが自然生態系である。
自然生態系の中で、それぞれの生物種は特定の地位を占めており、これを生態的地位(ニッチ)という。ヒトは生態系からぬけだしたという説もあるが、これはヒトの生態的地位が生態系からはみだしてしまったとみているわけである。
ここでは、主要な生態系についてのみ概略的に解説する。生態系の機能については「生態学」参照。
| III. | 熱帯雨林 |
熱帯の森林生態系のうちで、もっとも種の多様性にとむ生態系は熱帯雨林である。熱帯雨林は主として赤道地帯に発達しており、とくに大きくまとまった熱帯雨林は中南米、東南アジア、西アフリカに存在する。熱帯雨林は地球上の陸地の6~7%を占めるにすぎないが、地球上に現存する生物種の半数をこえる種が生育、生息するとみつもられている。
| 1. | 高温多湿の環境と多様性 |
熱帯雨林の生態系を構成している環境の特徴は高温と多湿である。高温と降雨は四季を通じてかわらず、年降水量は少なくとも2000mmから、多い場合は1万mmにも達する。赤道をはなれるにしたがって雨季と乾季の差がみられるようになり、そこには熱帯季節林が出現する。熱帯雨林にくらべ種の多様性はおとるが、それでも温帯のどんなタイプの森林よりも種の多様性は高い。
イギリスの植物学者ウィットモアらは、中央アメリカのコスタリカにおける低地熱帯雨林の調査で、熱帯雨林の種の多様性をあらためて明らかにした。わずか100m²の調査地点に233種の維管束植物をかぞえたのである(1985年)。これはテニスコートの半分ほどの面積に、イギリス全体の植物種の約6分の1に相当する種が存在するということをしめしている。
熱帯雨林の林冠は閉鎖的で、日光が地上に達するのをさまたげているが、それでも、林冠と樹幹および林床は、それぞれことなる多種多様な動物のハビタットとなっている。熱帯雨林の中でもとりわけ豊かな林冠の生態系については、現在くわしい調査がすすめられているところである。
| 2. | 高い生物生産力と大規模伐採 |
熱帯雨林の生態系の大きな特徴は、土壌には栄養物質がとぼしいが、ほかの生態系にはあまりみられない高い生物生産力がそなわっていることである。年間の純生産量は2.0kg/m²から3.5kg/m²ほど、生物体量(バイオマス)は、どんな生態系よりも大きく45kg/m²、ときには80kg/m²をこえる。言葉をかえれば、熱帯雨林は世界でもっとも莫大な量の植物資源のある所で、大規模な森林伐採は、ここに目をつけておこなわれてきた。
熱帯雨林の伐採は毎年、日本本土の半分に相当する面積におよび、とくに1960年代から70年代にかけての伐採ははげしく、熱帯諸国全体で平均年率約0.6%、面積にして約7300haが破壊されたという統計もある。
| 3. | 森林火災 |
伐採は木材の採取だけではなく、人口の急激な増加にともなう農地や農園の拡大、それにともなう移住(インドネシアのスマトラ島パプアなど)によっても、大々的におこなわれてきた。さらに森林火災(→ 山火事)も熱帯雨林の消失に拍車をかけている。
たとえば1987年にブラジルでは、火災によって2000万haの森林がうしなわれたが、このうち800万haは熱帯雨林であった。
原因をエルニーニョと関連づけられることもあるが、インドネシアの森林火災は、焼畑ではなく、アブラヤシの植え付けのためにはなった火が、異常な乾燥によって拡大したものである。1997年と98年にはスマトラとカリマンタンだけの焼失面積でもは約750万ha(南米のパナマ全土とほぼひとしい)に達し、インドネシアの熱帯雨林生態系に大きなダメージをあたえた。
熱帯雨林の伐採には、最大の用材輸入国である日本も深く関与しており、伐採後の植林にとどまらず、生態系の復元という見地からの貢献がのぞまれる。
| IV. | 亜熱帯林生態系 |
日本の国土は南北に長く、温帯が大部分を占めるが、小笠原諸島や南西諸島(琉球諸島)は亜熱帯であり、生物地理学上は東洋区にふくまれ、とくに南西諸島の種の多様性は、本土をはるかにしのいでいる。
| 1. | 固有種 |
琉球諸島と小笠原諸島の生物相も多様性が高いだけでなく、固有種や固有亜種の割合が高い。沖縄本島のヤンバルクイナやノグチゲラ、奄美(あまみ)大島のアマミノクロウサギ、小笠原諸島のメグロやオガサワラオオコウモリなどは、すべて固有種である。
多くの固有種や固有亜種をふくむ多様な種のハビタットは、琉球諸島ではイタジイ(→ シイ)を優先種とする常緑広葉樹林である。琉球列島のユニークな生態系はイタジイがなければ成立しなかっただろう。残念なことに、最大の常緑広葉樹林帯である山原(やんばる:沖縄本島北部)は第2次世界大戦後、大規模な伐採がすすめられてきた。現在は林道の建設が大きな問題である。
| 2. | 林道の影響 |
1997年には全長35kmの大国林道が貫通したが、なお林道の建設はおこなわれている。林道建設のためにおこなわれる伐採は森林面積をへらし、林縁効果によって、のこされた森林の一部に悪影響をあたえ、野生動物の生息地や行動圏(→ 縄張り)を分断したり、自動車により事故死する野生動物をふやすなど、生態系にあたえたダメージははかり知れない。→ エッジ効果
また、伐採跡地に露出した特有の赤土は、降雨の際にどっと川に流入し、すぐ海を赤くそめることにもなった。その結果、海の生態系やサンゴ礁生態系にも打撃をあたえている。その流域にすむリュウキュウアユ(アユの亜種)の存続もおびやかされている。生態系の保全をはかるには、なによりも伐採を大幅に規制し、早急に有効な赤土対策をあみだす必要がある。
| V. | 湿原生体系 |
尾瀬ヶ原とか釧路湿原の名はよく知られている。これらの湿原は厳密には淡水湿原という。世界的にみると淡水湿原は陸地の約6%を占めているとされる。
| 1. | 湿原とは |
植物が堆積(たいせき)して、浅い池や沼をおおいつくした状態が湿原である。湿原の生態系もまた植物が主役であり生産者だが、湿原の生態系は低層湿原、中層湿原、高層湿原にわけられ、主役の植物種および植物群は同一ではない。低層湿原の主役はヨシ、高層湿原では蘚類のミズゴケである。
低層、高層は標高をしめすと思われがちだが、現在では主役の植物がなんであるかによって区別されている。より具体的にいえば、水面の下で泥炭ができる状態のものが低層湿原、水面の上に発達した泥炭ができている湿原が高層湿原である。泥炭は簡単にいえば植物の遺体であり、高層湿原ではミズゴケの遺体が多くを占めている。→ 泥炭地
| 2. | ラムサール条約 |
ラムサール条約(正確には、とくに水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)の湿地(ウェットランド)の定義は「湿地とは、天然のものであるか一時的なものであるかを問わず、さらには水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水(かんすい:塩分をふくんだ水、海水)であるかを問わず、沼沢地、湿原泥炭地または水域をいい、低潮時における水深6mを超えない海域を含む」(1条1)となっている。
きわめて幅が広く多様な生態系が列挙されているが、すべてに共通していることは、陸地と水面がであう所に成立している生態系といえよう。湿原もこのような境界流域にできている。
| 3. | 湿原の成り立ち |
釧路湿原は海に近い平野にあるが、起源は沿岸にあったラグーン(潟湖)だといわれる。同じ北海道で海の近くにある湿原でも、霧多布湿原の場合は砂丘が起源だといわれる。内陸部の湿原の多くは湖沼が起源である。
沼が湿原になるには、どれほどの時間を要するか。つまり泥炭の堆積速度はどのくらいか。平均的には1年に堆積するのは1mm。したがって深さが2mの池が埋めつくされるには2000年かかるわけである。湿原生態系の成立には、これだけの時が必要とすれば、それだけでも湿原の重要性と価値は大きいといえる。
| 4. | 湿原の植生 |
湿原とは総体的には栄養物質の存在量の少ない生態系である。そこで湿原の植生は、貧栄養に耐えられる種にしぼられる。高層湿原ではミズゴケが中心だが、ほかにミカヅキグサ、オオイヌノハナヒゲ、ツルコケモモ(→ コケモモ)などと、食虫植物のモウセンゴケ、ナガバノモウセンゴケ、タヌキモ、コタヌキモなどがみられる。すべて貧栄養的な環境条件に適応できる植物である。
ちなみに、水差しの形をしているウツボカズラは、熱帯の湿原の食虫植物として知られている。この食虫植物は「土壌」が貧栄養なので、動物を「食べて」栄養をおぎなっているのである。
湿原をよく観察すると、外縁部にはヨシやイワノガリヤスなど背の高い種の群落や、ハンノキなどの樹木が生え、中央部とは景観がちがうことがある。外縁部は中央部より栄養物質の補給があるからであろう。
湿原生態系の継持に必要な水分は周囲の森林からめぐまれ、湿原はまた下流の森林に水をながす。ことなる生態系が相互にたすけあっているといってもよい。
| 5. | 磯焼け |
湿原と海の生態系とのつながりでは、磯焼けとの関係が注目をあつめている。
「磯焼け」は北海道では日本海沿岸に顕著な現象である。岩礁の表面に石灰藻類(→ 紅色植物)がはりついて白化し、岩礁の生態系を撹乱する。結果として有用なコンブやワカメ、ノリなどの付着を困難にし、アワビやウニの漁獲高も極端に減少する。ところが太平洋沿岸では磯焼けはほとんどみられない。松原勝彦北海道大学教授は、「磯焼けは鉄分の供給不足が原因であり、太平洋沿岸では、湿原の泥炭で生成される鉄イオンが供給されているので磯焼けはおこらない」と解説している。
| 6. | 保全 |
湿原の生態系は、日本でも世界でも、かならずしもよく保全されているとはいえない。環境汚染や、周辺部の開発の影響をうけているケースはかぞえきれないほどである。世界有数のパンタナル湿原(ブラジル)も、日本最大の釧路湿原(日本の湿原の60%を占める)も例外ではない。
| VI. | 干潟生態系 |
潮止め堤防の工事の進行をめぐって諫早(いさはや)干潟(→ 諫早湾)とムツゴロウの名は、あらためて全国に知れわたった。干潟の生態系がはたしている役割がささいなものならば、問題は大きくならなかったはずである。諫早干潟だけではなく、春になると日本の干潟にはシギやチドリの姿が急激にふえる。干潟にはかかせない風物詩である。
シギやチドリは、遠く熱帯アジアやオーストラリアから渡来して、翼をやすめ、ゴカイやカニなどを食べて体力をつけ、北方の繁殖地にむかう鳥たちである。すなわち日本の生態系が海外の生態系とむすばれていることをしめす1つの例であり、干潟の生態系の撹乱は国際的な問題といえよう。
| 1. | 諫早干潟の重要性 |
諫早干潟は1997年4月の潮止め堤防の完成によって消滅をまぬがれなくなった。この面積約3000haもある、諫早湾最奥部の泥質干潟の生態系は、ムツゴロウやエツ、ソラスボなどの魚類をはじめ、ハイガイやアサクサノリなど、この地域に固有の種をふくむ多種多様な生物の宝庫だった。一般に生産力が高い干潟の中でも、とりわけ生産力が高く、国内では最高で、1km²当たりの魚介類の年間生産力は22.6tという報告がある。魚介類が豊富だったころの瀬戸内海で記録された生産力に匹敵する生産力である。干潟と水田の1a当たりの粗収入を比較したところ、干潟のほうが約5倍も収益があることがわかったという。
| 2. | 干潟の浄化機能 |
干潟の生態系は、沿岸水域の汚染をふせぐ高い機能をもっている。具体的にいうと、アサリ1個が1時間で1リットルの水を浄化する。ゴカイの汚泥処理能力もアサリにおとらず高い。干潟の表面にびっしりと繁殖し、ムツゴロウの主食にもなっている珪藻類は、炭酸ガスを吸収して酸素を放出する。
1haの干潟の生態系が、人間の排出する窒素やリンや汚泥を浄化する代わりに、人間自身が排水処理技術を駆使しておこなったとしたら、約40万ドルを要すると指摘した研究者もアメリカにいる。
諫早干潟の消滅によって淡水化した干潟の浄化は、だれが、どのようにおこなうのか。経費はいくらかかるのか。漁業を軽視して諫早干潟の息の根をとめ、もし目的どおり防災の効果があげられなかったら、諫早湾の潮止め堤防の建設にまさる自然破壊はないといえよう。
諫早干潟は日本が加盟しているラムサール条約によって、「登録はされていなくても自然保護区を設け、保全を促進しなければならない」(4条1)。つまり保護すべきウェットランドに該当するのである。
住民の反対の声によりゴミ処理場の建設が中止された愛知県の藤前干潟は2002年(平成14)にラムサール条約に登録された。また、01年には東京湾の三番瀬の埋め立て工事が堂本千葉県知事により中止が表明されている。その一方で、沖縄市の泡瀬干潟など各地の干潟については依然として埋め立ての計画が進行している。干潟の生態系の保全に力をそそぐ政策が今ほどもとめられているときはない。
| VII. | 海洋生態系 |
海洋は地球の表面の約70%を占めており、サンゴ礁生態系、干潟生態系、マングローブ生態系などをひっくるめて海洋生態系とすることもできる。この生態系にふくまれる種の多様性はきわめて高く、熱帯雨林の生態系におとらない。たとえば動物分類学上の「門」は海洋生態系が28門(うち13門が固有)、陸上生態系が11門(うち1門が固有)である。
| 1. | 陸よりも豊かな海 |
海洋生態系の生物の多様性は、3億6100km²の面積もさることながら、そこに海水15億km³がたくわえられていることと、平均の深さが3800mもあることにもよる。
陸上生態系では地下数十メートルで生物が存在しなくなるが、海洋では海水のある所には、深海であっても生物の生存が可能である。海洋生態系は、地球の表面に接している物質ではもっとも量が多い海水という環境とかかわって成立しているからこそ、陸上生態系をしのぐ種の多様性をもちえたといえよう。
海洋生態系の中で種と生物量が集中しているのは、大陸棚縁辺部までの沿岸域と、外洋の水深200mまでの表層部であることは確実だが、深海についての研究がすすむにつれて、種の多様性がみとめられるようになってきた。また熱水が湧出している海底の水域においても未知の生態系が成立していることがわかったのは、1980年代になってからである。
→ 海洋生物
| 2. | 海の食物網 |
すべての生態系は植物の光合成にはじまるが、地球の表面のおよそ半分もある外洋の生態系は、植物プランクトンの光合成なしにはなりたたない。その意味では外洋の生態系はプランクトン生態系ともいえよう。この生態系の特徴は1ミクロン以下という微小な生物(バクテリア)から、体長が数十メートルにもなるクジラ類までが、複雑な食物網(→ 食物連鎖)を構成していることで、陸上生態系の食物網との違いは顕著である。
海洋生態系の当面の脅威は海洋汚染の進行だが、近い将来、地球温暖化による水温の上昇が、新しい大きな脅威となる可能性も否定できない。
| VIII. | サンゴ礁生態系 |
熱帯を中心にみられるサンゴ礁は、とびぬけて種の多様性にとむ生態系である。たとえばオーストラリア東北部の世界最大といわれるグレートバリアリーフは、南北に約2000km、面積は34万9000km²もあり、造礁サンゴ(→ サンゴ)が約350種、軟体動物が400種、魚類が1500種も記録されており、そのほかにも多種多様な無脊椎動物がいることはいうまでもない。
| 1. | 白保のサンゴ礁 |
日本のサンゴ礁生態系は、鹿児島県の南部を北限に、主として南西諸島に点在する。なかでも、八重山列島の石垣島東岸にある白保サンゴ礁は、新空港建設計画をめぐって全国的に知られるようになった。
沖縄県の本土復帰後、急速な開発と環境破壊によって、同県のサンゴ礁が壊滅的な打撃をこうむったのに、白保のサンゴ礁は、ほとんど影響をうけず健全な状態をたもってきた。白保のサンゴ礁生態系には、北半球では最大最古のアオサンゴ群落があるだけでなく、造礁サンゴをはじめ生物種の多様性にとんでいる。
魚類学者のジャック・T.モイヤー博士は、わずか100m³の範囲で150種もの魚類を確認したほどである。白保のサンゴ礁の種の多様性の高さは、造礁サンゴの種類がグレートバリアリーフのそれをうわまわることによっても明らかだ。
| 2. | サンゴ礁の成り立ち |
サンゴ礁を形成する造礁サンゴは褐虫藻を共生させているが、この褐虫藻がサンゴ礁生態系のもっとも基本的な階層を構成している生産者である、沖縄県のサンゴ礁の多くが死滅したのは、サンゴを食うオニヒトデの大発生と、流入した赤土がサンゴ礁をおおって、褐虫藻の光合成をさまたげたためである。赤土の流入は今もサンゴ礁をおびやかしている。
世界のサンゴ礁は60万km²で、地球の表面のたった0.1%だが、確認されている種は9万種をこえている。世界全体で、われわれが知っている生物種は170万種であるから、サンゴ礁生態系の種の多様性は高い。
しかし、サンゴ礁生態系は環境のわずかな変化にもたえられないもろい生態系で、「石灰岩の土台の上においた生命のうすっぺらい板」といわれる。今は世界的に保全の強化が必要な生態系なのである。
| IX. | 南極生態系 |
南極大陸は世界でもっとも高緯度にある、つまり赤道からもっとも遠い大陸であり、もっとも寒冷な気候の大陸である。「種の多様性は、ほとんどすべての生物において熱帯地方に近づくほど増加する」という法則を、裏がえして南極大陸にあてはめれば、種の多様性が低い大陸ということになる。確かに南極大陸には、わずかな生物しか生息していない。広大な中央高地や内陸の山岳地域で生物をみることは、ほとんど不可能である。
| 1. | 氷の大陸 |
南極大陸には、陸上生態系の形成に必要な土壌は地表に露出していない。地表全体の97%は、平均216mというあつい氷床におしつぶされている。地球上の淡水の80~90%は、この氷床なのである。
南極大陸で生物の多様性について論じることができるのは、ごくかぎられた沿岸部と南極半島である。この南極半島も大陸の一部のようにみえるが、氷床によってつながっているだけで、じつは島なのだという説がある。
| 2. | 強風と寒冷の大地 |
南極大陸は氷の大陸でありながら、湿度は低く、年降水量は150mmにすぎない。そのうえ風は強く、気温は低い。中央高地に生じた冷気をふくむ密度の高い空気が、斜面をすべるように吹きおりていく。この風は重力風(カタバ風)とよばれ、風速は平均14mだが、海上10~30km付近まで吹きだしていく。
大陸の東部沿岸は、冬の間に7回も8回も、風速45mにも達する台風並みの強風にみまわれる。強風は極度の低温と乾燥をもたらすから、生物の生存上、大きなマイナスになる。
気温は内陸および高地にいくにしたがって低くなり、内陸部には年平均気温が-55°C以下の超寒冷地がある。地球上で観測された最低気温は-89.2°C(1983年)で、中央高地のウォストーク基地(旧ソ連)で記録されている。沿岸部と南極半島の平均気温は、冬は-20°C、夏は-2°C~+1°Cである。
| 3. | 南極半島に集中する生物 |
南極半島は内陸ほど強風にさらされることもなく、しかも沿岸は、大陸全体で3%の氷床におおわれていない部分の大半を占めている。岩や凍土(→ 永久凍土層)が露出していれば、太陽エネルギーを熱エネルギーとして吸収され、凍土も解ける。南極大陸の中で、南極半島に生物の多様性がみとめられるのは、このような環境条件があればこそである。
南極大陸の緑色植物は地衣類、コケ植物、藻類(緑色植物や藍色植物)であり、これらが光合成をおこなう生産者である。大陸の広い範囲にみられる藻類以外は南極半島に集中しており、ここには固有種をふくめ種数も多い。南極半島のほかでは沿岸部にみられるだけである。
南極大陸には種子植物(顕花植物)は2種しか知られていない。イネ科のナンキョクコメススキ(英名はグラス)と、ナデシコ科のナンキョクミドリナデシコ(英名はピンク)。いずれも南極半島だけに分布している。
南極大陸の陸上生態系の中で、もっとも生産量が多い生産者は、45種のコケ植物で、南極半島や周辺の島々の砂地に群落がみられるが、それも海で魚を採食する海鳥類の糞(グアノ)によって土地が肥えているからであり、南極大陸の陸上生態系は海洋生態系との結びつきがたたれれば崩壊しかねない。けたはずれの氷と寒さと風という、きびしい環境のもとでは、種の多様性が高く複雑な食物網(→ 食物連鎖)ができる生態系の形成はありえないのである。
| X. | サバナ生態系 |
サバナは熱帯に特有の草原で、まばらに生えた低木が景観にアクセントをつけている。その低木の樹種は大陸によってことなる。アフリカでは主としてアカシア類であり、ところによってはバオバブが多い。サバナが北部にかぎられるオーストラリアでめだつ灌木(かんぼく)はユーカリ種である。
| 1. | 優勢なイネ科植物 |
サバナをおおっているのは、圧倒的に優勢なイネ科の植物である。サバナ生態系の栄養循環とエネルギーの流れは、イネ科の植物を軸にしてなりたっている。サバナのイネ科の植物は強い日照と高温のもと、少ない水分で多くの二酸化炭素を固定させる特異な光合成システムを発展させている。また貧栄養の土壌でも成長し、野火にも強い。
そのうえ、低木の進出をさまたげるため、バクテリアの繁殖を阻害する化学物質を生成して、土壌を窒素不足(栄養不足)にする種まである。こうして第1次生産者として優位をたもっているイネ科の植物は、多種多様な大型の第1次消費者である草食動物をやしなっている。それは東アフリカのサバナで、とくに顕著であり、アフリカゾウやキリン、シマウマ、アンテロープ類、スイギュウ、イノシシ類など、大型草食動物の個体数と多様性は世界に例がない。
サバナは草が主体のバイオーム(生物群系)なので、バイオマス(生物体量)は大きくなく、最大約5kg/m²にすぎないが、生産量は0.2~2kg/m²で、10倍のバイオマスをもつ亜寒帯林におとらない。つまり効率の高いバイオームといえよう。
| 2. | サバナの動物たち |
サバナの草食動物は、一様にイネ科の植物を食べているわけではない。たとえば東アフリカでは、ゾウは草も木もなんでも食べるが、しばしば灌木を根こそぎにしてしまう。木がたおれれば、そこには草が生える。ほかの草食動物にとっては有利である。
もっぱらイネ科の植物を食べている動物も多い。しかし、同じ植物をシマウマやヌー、トムソンガゼルというように、体の大きな順に部分をちがえて食べていく。しかも葉だけを食べて移動するので、草の食べられた部分の再生が可能になる。
サバナ生態系には、草食動物を食べる第2次消費者の肉食動物も多い。アフリカでもっともライオンの個体数が多いといわれるのは、タンザニアとケニアにまたがるセレンゲティ・マラ草原で、約2000頭。ほかにヒョウもいるが、大型肉食獣のバイオマスは全体の1~2%である。ライオンは、いかに草食動物の多い所で生きているかがわかるが、ライオンが実際に消費するのは草食動物のバイオマスの約15%にすぎない。
またサバナ生態系は、腐肉を食う動物によって汚染や撹乱をまぬがれている。サバナの掃除屋はハイエナとかジャッカルだけではなく、大型鳥類にもいる。ハゲワシやハゲコウである。
人口の急増による農地や牧場の拡大、住宅地の増加など、サバナには深刻な破壊要因が多くあり、保護区を設置するなどして、のこされた自然度の高いサバナ生態系の保全をはからないと、取り返しがつかなくなるだろう。
→ 保全生物学
| XI. | 島の生態系 |
島の生態系の特質のひとつに、しばしば「もろさ」が指摘されてきた。この「もろさ」を裏づけているのは、島の生物の絶滅速度の速さだろう。
| 1. | 「もろさ」をもつ生態系 |
ヒトの足跡が全世界におよびはじめた17世紀の初頭から、今日までに鳥類や哺乳類、爬虫類の絶滅の大部分が島でおこっていることは事実である。さらに今、絶滅の危機にさらされている種が多いのも島の生物である。南西諸島と小笠原諸島をあわせても全国土面積の1%にすぎないが、絶滅種、絶滅危惧種、危急種は植物で全体の28%、動物では40%を占めている。
このデータは、面積の広い本州や北海道に比較すると、島の生物が危機的な状態にあることをじつによくものがたっているが、同時に島には、それぞれに固有種が多いこと、特有の多様性がそなわっていることがわかる。小笠原諸島や南西諸島が「東洋のガラパゴス」といわれるゆえんである。
| 2. | 適応放散 |
島の生態系は進化の生きた教科書である。そこから最初に進化の道筋を読みとったのは、ダーウィンであり、ウォーレスだった。島、とくに大陸から遠くはなれた海洋島では、かぎられた種から、環境がゆるすかぎりの適応放散がおこなわれるし、「草から木」への進化がみられたりする。
ハワイ諸島のハワイミツスイ(→ ミツスイ)は22種にわかれ(うち7種が絶滅)、ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ(→ フィンチ類)は14種に分化した。それぞれの種は、大陸ではほかの科の鳥が占める生態的地位を、1つの科の鳥たちが占めているのである。
| 3. | 草から木へ |
草から木への例は、小笠原諸島ではキク科タンポポ亜科のアゼトウナ類に属する固有の3種のうち2種が低木に変化している。茎の下半部がまぎれもなくかたい木質なのだ。
キク科の植物は、維管束植物の中でも世界の多くの島々に進出しているが、とくによく知られているのはガラパゴス諸島の木になったスカレシアである。ここには20種近いスカレシアが自生し、高さが10mをこえる種をはじめ、すべて2~3mの木本になっている。
キク科の植物は、島の植生に生態的地位のすきまがあれば、そこにはいりこむだけでなく、木本が欠けていれば草から木になり、生態系の有力な構成種ともなる。
| 4. | 種平衡 |
「島岐の生物地理学(ロバート・マッカーサー、エドワード・ウィルソン)」の種平衡の理論によれば、島に生息する種の数は、新しく移入してくる種の率と、島にいたものが絶滅する率とのバランスによって生じる。
島の種の多様性をきめる環境条件は複雑である。島の面積の大小、大陸との距離、大陸の種の多様性などとの相関関係があるからである。しかし、島の生態系が孤立した環境になりたっていることと、移入種の侵入や開発の影響をうけやすい、もろいものであることは確かである。
それにもかかわらず、大規模な開発や新たな移入種に在来種がおびやかされ、撹乱されつつある島の生態系は枚挙にいとまがない。最後に日本での近年の憂慮すべき移入種のケースをあげておく。三宅島のイタチと奄美大島のジャワマングースである。
| XII. | 砂漠生態系 |
さまざまな生態系が危機に直面したり撹乱されたりしている中で、砂漠の生態系だけは例外で、人為的要因による砂漠化が急激に進行し、砂漠の面積は確実に広がっている。
| 1. | 砂漠化の進行 |
ほとんどの砂漠は赤道をはさんで緯度10~15度の範囲にあって、恒常的に乾燥状態にある。植生はとぼしいか欠如している。砂漠に接する半砂漠地帯は年降水量が150~500mmあり、低木と草の植生もあり、牧畜も農耕も可能だが、砂漠化がめだつのは、この地帯である。
国連砂漠化会議では、砂漠化の恐れがある地域の総面積を2000万km²と推定し、実際の砂漠化は毎年約6万km²に達していることを確認した。この2000万km²がことごとく砂漠化すると砂漠の面積は約3倍になる。現在の砂漠と半砂漠をあわせた面積は地球の全陸地の約30%である。
| 2. | 砂漠の植物 |
砂漠の生態系では、植物も動物も、年間の降水量が60~100mm以下という気候条件に耐えられるように、水分の損失を少なくする形態や機能を進化させてきた。
植物では新世界のサボテン類、旧世界のトウダイグサ類が代表的で、ともに多年生の種である。低木や一年生の植物も極度の乾燥に耐え、塩化ナトリウム、炭酸カルシウムなど塩類と石灰分が高い砂漠の土壌に適応している。砂漠のすべての植物は耐塩性をもっているといえよう。
砂漠の植生地上部のバイオマスは0kg/m²ということもあり、半砂漠でも5kg/m²にすぎない。しかし、地下部のバイオマスは24kg/m²にもなることがある。砂漠の植物は根茎が発達しているからである。言葉をかえていえば、植物のバイオマスの大半は地下にある。砂漠の生態系では、栄養物質の循環は土壌中で活発におこなわれることにある。
| 3. | 砂漠の動物 |
砂漠の生態系にも、第1次、第2次消費者が想像以上に生存し、食物網ができている。たとえばゴビ砂漠にはフタコブラクダ(→ ラクダ)のような大型草食獣がいて、それを捕食するオオカミという第2次消費者がいる。野生のウマやノロバも砂漠に生きてきた。ヒトによって捕殺されてきたオオカミをのぞくこれらの大型哺乳動物は、絶滅の恐れが強いか、野生では絶滅してしまった。これもまた砂漠の生態系にヒトが介入した結果である。
どの大陸でも砂漠の生態系でめだつのは、ネズミ類をはじめ小型のげっ歯類が多様なことである。砂漠ではヤマネコやカラカル、キツネ、ハイエナなどが捕食者として小型げっ歯類を食べている。食うものも食われるものも、熱(砂漠によっては日中の地表の温度が90°Cにもなる)と乾燥という問題を解決してきたことはいうまでもない。一例をあげれば、北アメリカのカンガルーネズミは、巣の中にたくわえた種子が吸収した水分をえているので、水そのものは飲まないでも生きられる。