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I. プロローグ

木材を炭窯(すみがま)で蒸し焼きにした燃料で、木炭ともいう。また、薪が黒くやけのこった消炭(けしずみ)をさすこともある。「箋注(せんちゅう)和名類聚抄」(1827)に「須美墨也、以其黒為名、按須美染也、触之使物黒也」とあり、さわると黒くそまることからすみと命名されたと思われる。炭は世界各地にみられるが、木造家屋の無煙燃料に適し、火質がやわらかで持続性があることなどから、森林資源が豊富な日本では古くから利用され、燃料だけでなく生活のさまざまな分野に応用されてきた。しかし、今日では一部の飲食店や茶事などをのぞくと、日常生活では、ほとんど目にしなくなっている。

II. 炭利用の歴史

炭は、日本では縄文時代(縄文文化)の終わりごろには存在したとされ、古くから鉄や銅などの金属精錬や鍛冶屋などで産業用の燃料として利用された。一方、平安時代には文献にも登場し、貴族や上層の武士には暖房用としてもつかわれていた。しかし、これが一般家庭に燃料としてはいってくるのは、近世中期以降のこととされる。また、茶道(茶の湯)が普及すると炭質、炭色、火色などが問題とされ、炭は芸道の重要な一要素にもなった。

炭質の向上と同時に、炭の消費量も近世都市の繁栄とともに増加していったが、農村などでは無煙の燃料の使用は養蚕や製茶(チャ)にかぎられ、こたつにも消炭を利用していた。また、明治の前半までは冷害や凶作にくるしむ東北地方などで炭焼き業が奨励され、岩手や北海道は最大の木炭生産地となった。その後、石炭が木炭にかわって産業用燃料となると、練炭や炭団(たどん)などの家庭用の便利な燃料が発明され、炭の生産量自体は増加したが、その重要性は相対的に低下していく。大正半ばには従来の木炭と砂鉄によるたたら製鉄も、コークスによる近代製鉄に完全にとってかわられた。

III. 黒炭と白炭

炭は原木の種類や製造工程、熱量と火の持続性などによって、消炭と荒炭、あるいは黒炭と白炭などに区別される。

黒炭は炭窯を土できずき、炭化の後に窯を密閉して消火して製造される。茶の湯などにつかわれる良質の黒炭としては、クヌギからつくられる佐倉炭、池田炭が名高い。白炭は壁を石、天井を土できずいた炭窯をもちい、炭化後に精錬して白熱したものを窯から外にだし、土をかけて消火してつくる。ウバメガシを原木とした最高級木炭の紀州備長炭は白炭の代表とされる。

IV. 多目的な用途

炭は、木材とくらべると、無煙、軽量、不朽性、火熱の永続性などの点ですぐれているが、こうした炭の利点は多様な分野で生かされている。たとえば、炭熱は暖房、点火、調理、工業、火薬、医療、軍事などに利用され、また炭光は花火、宗教儀礼、信号、照明などにもちいられた。さらに炭はその特性から顔料や研磨剤、濾過、脱色脱臭剤、吸湿防腐剤、乾燥剤、栽培、絶縁体などにも応用された。炭から製造される活性炭は、現代でも水の瀘過や脱臭などに利用されている。

V. 炭焼長者の昔話

また炭は正月のお飾りにつかわれたほか、鍛冶、たたらや八幡信仰と深い関連をもつ炭焼長者の昔話や、炭焼きかまどの煙出し穴の発明者は弘法大師(空海)であるとする伝説もある。近代にはまずしい山村の生産物とされた炭が、かつては先端産業の燃料として重要で貴重なものだったということを、こうした民俗信仰からもたどることができる。

薪炭材