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| I. | プロローグ |
赤道上空約3万6000kmの静止軌道上を、約24時間で周回している放送衛星(BS:Broadcasting Satellite)。また、通信衛星(CS:Communication Satellite)を利用して、直接契約世帯にテレビやラジオなどの電波をおくりとどける放送サービスのこともいう。日本では郵政省(現、総務省)がBS放送とCS放送を区別する政策をとってきたことにより、BS放送のことを衛星放送とよぶことが多いが、日本以外の国々では両者を区別していない。
| II. | 衛星放送の仕組み |
衛星放送の利点としては、電波をはるか上空からおくることで山や建築物などの障害物の影響をうけにくく、通信品質も均一化されるため、ゴースト(多重像)のない、きれいな映像をみることができる。また、基地局や中継施設を必要としないため、離島や山間部などでも受信が可能となる。さらに、1機の衛星で広範囲な地域に放送サービスを提供することが可能である。一方で、衛星の寿命は5~15年と短く、地上の通信設備も高額となる。
静止衛星は地上局からおくられてきた電波を受信し、トランスポンダーとよばれる衛星中継器で増幅して、地上におくりかえしている。契約世帯では、この衛星からの電波をパラボラアンテナというお椀形(わんがた)のアンテナで受信して視聴するようになっている。BS放送とCS放送は、基本的な原理は同じであるが、BS放送は、最初から多数の視聴者を相手とする放送を目的とした大出力の放送衛星(BS衛星)を利用しているのに対し、CS放送では本来は1対1の通信を目的とした小出力の通信衛星(CS衛星)を利用する。そのため、CS放送ではBS放送に先行してデジタル放送化に移行し、多チャンネル放送などを実現した。→ デジタル放送:デジタル衛星放送
| 1. | ソフトとハードの分離 |
また、地上波放送とことなり、衛星放送では1989年(平成元年)には電波法と放送法が改正されたときに、ソフトウェア(放送コンテンツ)を提供する事業者と、そのためのハードウェアを提供する事業者とが分離された。これは、事業者のコスト負担を軽減することで、放送事業への新規参入をうながすことを目的にしたもので、BS放送では受託委託放送制度が採用され、CS放送では受託委託放送制度とともに電気通信役務利用放送制度が採用されている。
受託委託放送制度では、委託放送事業者とよばれる放送番組の制作および編集をおこなう事業者が、放送衛星を管理・運営する受託放送事業者に番組の放送を委託し、そのまま放送してもらう仕組みとなっている。
一方、電気通信役務利用放送制度では、放送番組の制作・編集をおこなう主体は電気通信役務利用放送事業者とよばれ、通信衛星を管理・運営する電気通信事業者から衛星中継器(トランスポンダー)を利用する電気通信役務の提供をうけて放送する仕組みとなっている。
それとは別に、各委託放送事業者がおくりだす番組を衛星にむけて送信(アップリンク)したり、視聴契約の申し込みをうけつけ、その後の顧客管理や料金の請求・集金をおこなうプラットホームとよばれる事業者もある。
| III. | 日本の衛星放送の歴史 |
衛星放送に使用する放送衛星の軌道位置とチャンネル数は、1977年(昭和52年)に開催された世界無線通信主管庁会議(WARC)において決定された。この会議では、南北アメリカをのぞいた世界各国の軌道位置とチャンネル数がきめられたが、赤道上空の静止軌道を使用するにあたっては、赤道直下の国々から将来の利用のための余地をのこすことがもとめられ、原則として各国に1つの軌道と5チャンネルが配分された。ヨーロッパ各国はこれにしたがったが、広い国土面積をもつ国では複数の軌道と多くのチャンネルが配分され、日本も地形的な観点から多くのチャンネルを要求し、東経110度の軌道位置と、1、3、5、7、9、11、13、15の計8チャンネルが承認されている。この周波数割り当て計画は79年から発効し、15年間の放送衛星業務を実施することがさだめられた。
しかし日本では日本放送協会(NHK)やWOWOWなどの衛星放送が開始されたが、多くの国、とくに途上国では自力で衛星放送を実施することが困難なため、多くの周波数は利用されてこなかった。その一方で、通信衛星に対する需要の急速な高まりから、利用できる周波数の増加や見直しをもとめる声が高まっていた。そこで、WARCの後をひきついだWRC(World Radio Communication Conference:世界無線通信会議)では1997年(平成9年)の会議で、見直しを決定した。日本は既存の周波数を継続して使用することがみとめられたが、放送業界などからは1周波数で1つのチャンネルしか使用できないアナログ放送ではなく、効率よく多チャンネルで利用できるデジタル放送への移行をもとめる動きが活発化した。
日本における衛星放送の歴史は、まず放送衛星をつかったBS放送からはじまった。放送衛星は、国際的な取り決めにもとづき、衛星の位置がきめられている。さらにチャンネル数も割り当てがある。一方の通信衛星は、使用する電波の周波数に関して国際的な取り決めがあるが、衛星の軌道位置に関しては自由度が高くなっている。また日本国内に限定された放送衛星とちがい、通信衛星は国内から海外に発信することもできる。しかし、放送衛星と比較して小出力であることから、当初は受信のために大口径のパラボラアンテナが必要だったが、デジタル化されたことでアンテナも小型化が可能となった。しかも、現在では、BSデジタル放送や東経110度CS放送も開始されており、両者の垣根はますます低いものとなっている。
| IV. | BS放送 |
日本のBS放送は日本放送協会(NHK)が難視聴地域を解消することを目的に、世界ではじめて1984年(昭和59年)に通信・放送衛星機構(現、独立行政法人情報通信研究機構)がうちあげた放送衛星ゆり2号a(BS-2a)による試験放送がおこなわれた。87年には衛星第1放送がはじまり、89年(平成元年)6月からは衛星第2放送をふくめた本放送に移行し、2波による24時間放送がはじまった。衛星第1放送では、ニュースやスポーツを中心とした国内外の独自の情報を提供しており、衛星第2放送は難視聴解消のために地上放送と同じ内容を同時に放送しているほか、娯楽や芸能・文化関係の番組や海外の番組なども提供している。
また、1990年には放送衛星ゆり3号a(BS-3a)がうちあげられ、民間の衛星放送として民放連などによって設立された日本衛星放送(現、WOWOW)が試験放送をはじめ、翌91年4月から本放送を開始した。WOWOWでは、電波にスクランブルという一種の暗号をかけて放送しているため、契約者はこの暗号を解除するためのデコーダーという装置をつかい番組をみるようになっている。番組は、音楽や映画、スポーツを中心としている。
一方で、ハイビジョンを開発したNHKを中核とし、民放や家電メーカーが参加して、ハイビジョン実用化を目的に1991年から試験放送を開始。94年からは、NHKと民放6社がハイビジョン番組を提供していた。その後、2000年からのデジタル放送開始にともない、デジタル放送に円滑に移行するため、07年にアナログハイビジョン放送は終了した。また、BS放送自体も11年までに完全にデジタル放送へ移行することになっている。
| V. | CS放送 |
CS放送は、本来は特定の顧客への配信に利用されていた通信衛星を放送サービスに利用したもの。日本では1985年(昭和60年)に、電気通信の自由化を目的とした電気通信事業法が制定され、日本通信衛星(現、スカパーJSAT)と、宇宙通信(現、スカパーJSAT)という2社が事業認可をうけた。さらに、89年(平成元年)の電波法と放送法の改正にともない通信衛星を利用したテレビ放送が可能となった。
実際のCS放送の開始は1992年4月からで、宇宙通信が東経162度の静止軌道にあげたSUPERBIRD-Bが利用された。翌5月からは日本通信衛星が東経154度の静止軌道にあげたJCSAT-2をつかい、放送サービスを開始した。当初はアナログ放送であったが、放送サービスのデジタル化の先陣をきって、東経128度のJCSAT-3を利用した96年6月からパーフェクTV!(現、スカパーJSAT)がCSデジタル放送(→ デジタル衛星放送)の試験放送を開始し、翌97年1月からデジタル多チャンネルによる本放送がはじまった。また、2002年からは衛星放送と同じ東経110度の静止軌道上にある通信衛星N-SAT-110を利用した東経110度CSデジタル放送も開始された。なお、N-SAT-110は、受託放送事業者である宇宙通信とJSAT(ジェイサット)が運営していた衛星であるが、両者とも08年10月、プラットホーム事業者であるスカイパーフェクト・コミュニケーションズと合併、スカパーJSATとなっている。
CS放送では、地上波放送やBS放送のような、ニュースや映画、スポーツなどさまざまな番組を1つのチャンネルでおこなう総合チャンネルとはちがい、基本的にはニュースや音楽、映画などの専門チャンネルとなっている点が特徴である。