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化学繊維
I. プロローグ

天然繊維に対して、人工的につくられる繊維のこと。原料や製造法によって、再生繊維、合成繊維、半合成繊維、無機繊維に分類される。当初、化学繊維は高価な絹の代替をめざして開発され、現在では全繊維生産量の半分以上を占めている。衣料やインテリアのほか、自動車、土木、農業などさまざまな産業、分野で使用されている。

II. 製法

化学繊維をつくるには、ポリマー(高分子化合物)の原材料を高い温度に熱したり溶媒をつかってとかした粘性の高い液体を、小さい穴(ノズル)からおしだすことにより糸にする。これを紡糸(ぼうし)という。紡糸には、加熱・溶融した原料を空気気流の中で冷却・固化する「溶融紡糸」、溶媒にとかした原料を熱風中におしだして溶媒を蒸発させて固化する「乾式紡糸」、溶媒にとかした原料を凝固液中におしだして固化する「湿式紡糸」がある。ノズルの形により繊維の断面の形を円形やうすいリボン状などのさまざまな形にできる。

穴から出たあとの繊維を長くひきのばすと、糸の中で高分子が長さ方向に配列し、強度がます。また、ひきのばし(延伸)の仕方によって、強度や弾力性などを調整することができる。ちがった性質の原材料をくみあわせたり、糸の形や強さなどを思いどおり設計できたりすることから、天然繊維にない機能や肌触りをもつ多種多様な素材をつくれるのが化学繊維の利点といえる。

III. 再生繊維

再生繊維は天然繊維をいったん化学的にとかし、繊維がとけた溶液から紡糸する。大まかに分類して、植物の細胞壁の主要成分であるセルロース(繊維素)を原料にするセルロース系と、牛乳やトウモロコシなどのタンパク質を原料につかうタンパク質系の再生繊維がある。

商業生産された最初の化学繊維であるレーヨンはセルロース系の再生繊維である。1864年にフランスのシャルドンネ伯がニトロセルロースを原料に糸(硝化法レーヨン)の製造に成功、89年のパリ万博に「シャルドンネの糸」として出品した。ただニトロセルロースはワタ(綿)に硝酸を作用させた火薬原料であるため、きわめてもえやすく、衣料品への応用はできなかった。92年に英国のクロス、ビバン、ビードルの3人が発明したビスコースレーヨンは、木材パルプを原料にし、パルプ中の天然セルロースを化学的にとりだし繊維状に再生した。吸湿・吸水性にすぐれ、いろいろな染料によく染まるのが特徴で、衣服やカーテンといったインテリアなどに使用されている。

レーヨンの仲間にはキュプラがある。綿花の種子のまわりにある短繊維(コットンリンター)を原料とし、銅アンモニア法とよばれる製法で再生した。1918年にドイツのベンベルグ社が良質なキュプラの商品化に成功したため、「ベンベルグ」(商品名)とよばれることもある。細い糸ができ、やわらかい感触がある婦人服や和服などに使用される。銅アンモニアレーヨン

IV. 合成繊維

合成繊維は低分子量の化合物を化学反応(重合)でたくさんつなげてつくった高分子材料をノズルからおしだして糸にする。さまざまな種類があるが、生産量が多いポリエステル、ナイロン、アクリル繊維の3つを3大合成繊維とよぶ。

1. ナイロン

ナイロンは1935年にアメリカのデュポン社のカロザースが発明した。ナイロンはもともとデュポン社の商品名だったが、現在ではアミド結合(ポリアミド)でつながった合成高分子の総称になっている。摩耗(まもう)や折り曲げに強く、しなやかな感触がある。女性用ストッキングに採用され、高価な絹のストッキングを市場で凌駕(りょうが)したことで知られる。絹やワタ(綿)より軽くて水にぬれても水をすわないので、洗濯後にはやくかわく。原料の種類によりいくつかのタイプがあるが、衣料用に多く生産されるのはナイロン66とナイロン6で、日本で多く生産されるのはナイロン6である。一方、アメリカでは耐熱性の面でややすぐれたナイロン66が中心となっている。ナイロンは、衣料用のほかにはカーペット、タイヤコード、漁網、釣り糸などにも使用されている。

2. ポリエステル

ポリエステルは生産量がもっとも多い化学繊維で、天然繊維をふくめると綿花につぐポピュラーな素材である。繊維でポリエステルといえば通常、エチレングリコールがテレフタル酸とエステル結合してできた高分子であるポリエチレンテレフタレート(PET:商品名はテトロン)のことをさすことが多いが、ほかにもポリトリメチレンテレフタート(PTT)やポリブチレンテレフタート(PBT)などもふくまれる。耐熱性にすぐれ、ひじょうに強く皺(しわ)になりにくいのが特徴。吸湿性もあまりなく、ぬれても性質がかわらない。熱をかけるとその時の形を記憶する性質(熱可塑性)をもち、折り目やプリーツが保持されるため、衣服に広く応用されている。1980年代に新合繊とよばれた新しい風合いや質感をもたせた合成繊維素材は、ポリエステルを極細に紡糸したり断面形状を工夫したりしてできた。ナイロンにくらべ価格も安い。産業用にもシートや漁網、ロープ、テント、人工皮革など用途は広い。

3. アクリル繊維

アクリル繊維は羊毛に似た性質をもつ合成繊維。ふんわりとした肌触りで、セーターなどニット製品、毛布など寝装品に使用される。アクリルニトリルを原料として、湿式紡糸によってつくられる。熱をかけるとその形を記憶、いったん記憶した繊維でも70~80°Cに熱するとやわらかくなり、ふたたび形をかえることができる。この性質を利用して嵩(かさ)が大きい「ハイバルキー糸」にできる。

4. そのほかの合成繊維

以上の3大合繊のほか、ゴムのような伸縮性をそなえたポリウレタンは、アメリカではスパンデックスとよばれ、下着類や靴下、水着などに使われることが多い。

石油精製から生まれるプロピレンを重合してできたポリプロピレンは、繊維の中ではもっとも軽く、水にうく。酸やアルカリに強く汚れがつきにくいため、カーペットなどインテリアに使用される。

1931年にドイツで発明されたポリ塩化ビニルは、もっともはやく開発された合成繊維。丈夫で保温性にとむため肌着などに利用されているが、耐熱性があまりなく、アイロンがけが必要な衣類にはむかない。

日本で発明されたビニロンは、木綿によく似た合成繊維といわれる。現在は漁網など産業用におもに使用されている。

V. 半合成繊維

天然繊維に合成化合物を結合させた半合成繊維には、タバコのフィルターとしてつかわれているアセテートや、牛乳のタンパク質(カゼイン)をもとにしたプロミックスがある。

VI. 無機繊維

無機繊維のうちガラス繊維(ガラス)は細いガラス製の繊維で、強度が高く、もえない。ガラス繊維の織物にプラスチックをながしこんで固めた繊維強化プラスチック(FRP)は第2次世界大戦中にアメリカで航空機の燃料タンク用として実用化され、現在はボートやスキー板、ヘルメットなどスポーツ用品に多くつかわれている。

アメリカのユニオンカーバイド社が開発した炭素繊維は高強度・高弾性率の特長を生かして、航空宇宙分野のほかゴルフシャフトや釣り竿(つりざお)などレジャー用品に利用されている。

セラミック繊維はセラミックスのアルミナをふくむ繊維で耐熱性が高く、電気をとおさないのが特徴である。

→繊維の「合成繊維」:繊維産業の「合成繊維の成長」:テキスタイルの「合成繊維」