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| I. | プロローグ |
水素原子と、電気陰性度の大きな原子とでできる分子において、水素原子が仲立ちになり分子間あるいは分子内にできる結合をさす。水素結合は分子間力よりも強いが、共有結合やイオン結合にくらべるとはるかに弱い結合である。
| II. | 共有結合における電気的な偏り |
鉄原子Feや酸素原子O、窒素原子N、塩素原子Clなどのように電気陰性度の大きな原子と水素原子Hがつくる共有結合では、共有電子対は電気陰性度の大きな原子に引きつけられ、部分的にイオン結合性を帯びることになる。たとえば、塩酸分子HClでは、塩素原子Clは水素原子Hにくらべて共有電子対を引きよせる力が強いため、水素原子は電子の分布が少なくなり、いくぶんか正(+)電荷を帯びるようになる。このときの状態をあらわすために、微少量をあらわすδ(デルタ)をつかい、水素原子側にδ+と記入し、塩素原子側はいくぶん負(-)電荷を帯びることになるのでδ-と記入することがある。このように、異種原子間の共有結合では共有電子対に多少なりとも偏(かたよ)りがみられる。このような状態を結合に極性があるという。
Hδ+–Clδ-
| III. | 極性分子と無極性分子 |
上記のように結合に極性のある分子を極性分子とよぶ。一方、3個より多くの原子からできる分子では、分子の形が対称のものでは分子全体として電気的な偏りが生じない。このような分子のことを無極性分子とよんでいる。


| IV. | 極性分子と水素結合 |
無極性分子どうしは分子間力で引きあっており、この力は分子量が大きな分子ほど強くはたらく。しかし、塩酸HClのように極性分子では、分子間力よりも強い電気的な引力で引きあっている。このため、塩酸分子は共有結合でできる分子だが、部分的にイオン結合の性質(イオン結合性)をもつようになる。このとき、正(+)に帯電している水素原子Hと負(-)に帯電しているとなりの分子中の塩素原子Clとの間に電気的な引力である水素結合がはたらくことになる。
Hδ+–Clδ-…Hδ+–Clδ- (… は水素結合をしめしている)
水素結合の名前の由来は、水素原子を仲立ちとした結合のためである。水素結合がはたらいている物質の例としては、水H2OやアンモニアNH3、フッ化水素HF、硫化水素H2Sなどがある。また、タンパク質の3次元的構造の形をきめるのも水素結合であり、デオキシリボ核酸(DNA)の螺旋構造(らせんこうぞう)も水素結合による引力の結果できあがるものである。
| V. | 水の特殊な性質 |
水素結合によってできた水には次のような特殊な性質がそなわっている。

| 1. | 密度は4℃で最大 |
水は水素結合で引きあって結晶(氷)をつくる。一般に物質が液体から固体への変化(状態変化)をおこすときは、物質を構成する粒子どうしの引力が強くはたらくため、体積が減少し密度がますのがふつうである。しかし、水が凍るときには水分子どうしは分子間力よりも強い力の水素結合で引きあうために、写真の分子模型のように空隙(くうげき)の多い結晶をつくることになる。このため、例外的に水の固体は液体よりも密度が小さく、水面に浮く氷をつくるのである。
このことは、寒冷な海洋を航海する船舶にとっては、大きな危険をともなうことになる。しかし、仮に水の結晶である氷の密度が水よりも大きかったならば、氷は水面下に沈むことになる。その場合、内陸部の湖沼は、冬期には水底まで凍りつくことになり、魚類をはじめとした底生生物の越冬はきわめて困難になって、現在のような多様な水生生物はみられなかったであろう。
また、水の密度は4°Cで最大であるが、これにも水素結合が関係している。0°Cで、氷がとけて水になることはよく知られているが、1個1個の分子レベルまで水素結合が完全に切りはなされたわけではない。0°C以上の場合でも、水分子が水素結合で結合した結晶の断片がのこっていると考えられる。この断片がなくなっていくと分子間のすき間は小さくなり、水の密度は大きくなる。しかし、温度があがっていくにつれ分子運動が活発になり、分子間の間隔が広がっていき、密度は小さくなっていくのである。これらの要因のため、4°Cのときに密度が最大になり、これ以上温度が上昇すると、ふたたび密度は小さくなるのである。
冬期に内陸部の湖沼で表面が0°C以下で氷結していても、ツンドラ地帯のように地下が凍結していなければ、水底付近では密度の大きな4°Cの水が滞留している。そのため、底生生物あるいは越冬する魚類にとっては生息しやすい環境となっているのである。
| 2. | 水の比熱は大きい |
水の蒸発熱が大きいのも水素結合によるものである。水分子どうしは水素結合の強い力で引きあっており、これを切りはなすには大きなエネルギーを必要とする。このため、水の熱容量は大きく、すぐれた蓄熱物質と考えられる。比熱も大きく、アルコールの2倍、金属の10倍にもなる。海岸付近の気候が温暖な理由として、日中は太陽熱を水が水蒸気になることで吸収し(潜熱ともいわれる)、気温の上昇をふせいでいるからである。また、夜間には温度低下にともない空気中の水蒸気が水になるときに蓄えていた潜熱(→熱の「潜熱」)を放出するため、極端に温度が低下することはないのである。これとは逆に、砂漠地帯などで昼夜の寒暖の差が大きいのは、熱を蓄えるための水が存在しないからである。
水 + 熱エネルギー → 水蒸気
水蒸気 → 水 + 熱エネルギー
| 3. | 水の沸点は1気圧のもとで100℃ |
水は分子量が18という小さな物質であるにもかかわらず、その沸点は異常に高い。これも水分子どうしが水素結合で結びついており、簡単には蒸発しないからである。
| 4. | 蒸発熱が大きい |
これも水分子の特徴であり、別表のように分子量がかなりちがうにもかかわらず、水は常温では液体となる物質の中では、きわめて沸点も高く、蒸発熱も大きい。