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| VII. | 前古典派、古典派時代 |
1720年ごろからふたたび新たな動きがおこり、音楽様式の変革がはじまる。わかい世代の音楽家はバロックの対位法があまりに厳格で知識にたよりすぎると考え、より自発的で自然な音楽表現をこのんだ。単一のアフェクトを重んじ、全曲にわたって同一の気分を維持しようとする後期バロックの理念も、彼らにとってはあまりにかたくるしかった。
バロック様式に対する反動は、フランス、ドイツ、イタリアでおこったが、そのかたちは国によってちがっていた。フランスではフランソワ・クープランを代表とするロココ様式もしくはギャラント様式(フランス語で「宮廷様式」の意味)としてあらわれる。ロココ様式はホモフォニーの音楽構成を重視し、旋律と和音による伴奏という音楽形態をとった。その旋律は波状音をつくるトリルなどで装飾がほどこされた。バロックのフーガのような途切れのない音楽とは対照的に、ロココ様式の曲には別々のフレーズをいくつかくみあわせた舞曲風の作品が多い。短い標題音楽が典型で、鳥や風車など音楽以外のイメージを描写している。楽器としてはクラブサン(チェンバロのフランス語)がもっとも人気をあつめ、多数のクラブサン組曲が書かれた。
北ドイツにおこった前古典派様式は、感情過多様式とよばれる。軽快でみやびやかなフランスのロココ様式とはちがい、ドイツの前古典派は喜怒哀楽の多彩な人間感情を幅ひろく表現した。曲の規模もフランスより大きく、曲の統一をはかるために多様な技法が駆使され、音楽以外のイメージの助けはうけなかった。このためドイツ前古典派は、ソナタ形式のような抽象的な音楽形式と、協奏曲、ソナタ、交響曲といった大規模な器楽ジャンルの発展に重要な役割をはたすことになる。
イタリアの前古典派様式は、特別の呼称をもたない。その理由は、前代の音楽とそれほど大きな違いをもたなかったからだと考えられる。しかしイタリア人作曲家は、新しいジャンル、とりわけ交響曲の発展に多大な貢献をした。しばしばシンフォニアとよばれたイタリア・オペラの序曲は、ふつうオペラ本体とは音楽的にも演劇的にも関連性がなく、ときにはそれだけが単独でコンサートで演奏された。そしてついには序曲と同じ音楽構造の器楽曲が独立した器楽曲として書かれるようになる。この音楽形式は急-緩-急のテンポをとる3楽章で構成され、各楽章内での楽想の展開の仕方は、のちにソナタ形式とよばれるようになるパターンにしたがっている。
イタリア人作曲家がオペラの序曲ではない単独のシンフォニアを確立すると、ドイツの作曲家たちはすぐにこのアイデアをうけついで数々の独創的な工夫をくわえた。ドイツにおける前古典派の中心地は、ベルリン、マンハイム、ウィーンであり、彼らの活動の結果、音楽形式、ジャンル、表現手段とが細分化される。その顕著なものに室内楽曲と交響曲がある。両者は同じような音楽形式(構造)でありながら、形態の違いによって区別される。つまり室内楽曲は1楽器が1声部を担当し、交響曲は複数の楽器が1声部を担当する楽曲をさす。室内楽曲の中でも弦楽四重奏曲、弦楽三重奏曲、バイオリンの伴奏をともなう鍵盤楽器用ソナタなど、編成に応じてジャンルがさらに細分化された。オーケストラ用の楽曲にも、交響曲ばかりでなく、独奏楽器とオーケストラのための協奏曲などがある。
交響曲、ソナタ、協奏曲、弦楽四重奏曲は、どれも音楽形式(構造)は基本的に同じである。たいてい3~4楽章で構成され、そのうちの1楽章ないしは複数の楽章がソナタ形式による。18世紀半ばに登場したソナタ形式は、バロック時代末期に発展した調性理論が洗練された結果として生みだされたもので、複雑な和声構造をつくりだした。ソナタ形式の基本は、主調にはじまり、そこからいったんはなれ、ふたたび主調へもどる調構造である。この調の関係と、主題の提示とその展開、再現という構成法が巧みに組み合わされている。
18世紀音楽の最盛期は、ウィーン古典派とよばれる作曲家たちが活躍した世紀末である。ウィーン古典派の代表的作曲家は、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンであった。
オペラも18世紀に多くの変化をとげた。発祥の地イタリアでは、音楽つき演劇という当初の性格をほとんど失い、歌手の技巧を発揮させるアリアの集合体になった。しかしヨーロッパ各地の作曲家には、器楽による間奏や伴奏にふたたび重要な役割をあたえようとする者がいた。彼らのオペラでは合唱が重視され、さまざまな形式と様式のアリアが導入された。また、レチタティーボ(叙唱)、アリア、二重唱、合唱、器楽の部分を統合して一場面をつくる試みもおこなわれた。オペラ改革の重要人物はバイエルン出身のグルックで、1764~79年にウィーンとパリで代表作を作曲した。やがてモーツァルトは、古典派オペラの金字塔をうちたてる。彼の舞台作品では、声と楽器の音すべてが劇の進展と登場人物の性格描写に貢献しており、無駄がいっさいない。