社会心理学
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社会心理学
V. 社会的態度

社会的態度とは、ある対象や事象に対して、個人がもつ認知(知識、信念、価値観をふくむ)、感情、行動傾向の3要素からなるものである。たとえば原子力発電所について、「原発は安全性に関して疑問がある」という信念や知識をもつ人は、原発建設は「このましくない」という感情をいだき、反対運動に参加するなどの行動傾向をもつだろう。この3要素からなる全体がその人の原発に対する社会的態度を構成している。このような態度がいったん形成されると、以後その態度は新たにはいっていくる情報に対してフィルターとして機能して、その態度の持続をはかろうとする。先の例でいえば、原発は危険だということに関連した情報は容易にうけいれ、原発がなければ夏の電力ピーク時にクーラーがとまることもやむをえないといった情報は無視する方向にはたらく。

こうした態度がどのようにして形成されるかについては、いろいろな考え方があるが、たとえば次のような例を考えてみよう。ある日本人が米国に滞在中にある家庭で世話になった。夫婦ともたいへんな親日家にみえ、気持ちよく滞在できたが、帰りがけに道でその家の6歳になる子供とであったのでさよならをいうと、その子は顔をしかめて「イエロー」といったという。黄色人種に対する偏見や差別が大人ではカムフラージュされていても、大人のそのかくされた社会的態度に子供はいつのまにか同化し、そのような人種差別的な態度を醸成したものと考えられる。このような例に態度形成の一端をうかがうことができそうである。

1. 説得的コミュニケーションと態度変化

先にもみたように、態度はそれを存続させる方向にむかって情報を取捨選択するように機能するものであるから、いったん形成された態度を変化させることは一般にはむずかしい。これは、ある思想・信条の持ち主や宗教帰依者の洗脳がむずかしいことにも対応する。しかし、それまで一貫して保守党に投票していた人が、ある政治演説をきいたりテレビの報道をみたりするうちに、次の選挙では革新党に投票するようなことも実際にはおこる。このような態度変化がどのようにして生じるかは、社会心理学者の研究意欲をかきたてるテーマのひとつであった。

人の態度変化をうながす試みのひとつは説得であり、その目的でおこなわれるコミュニケーションを説得的コミュニケーションという。政治演説も、車のテレビ・コマーシャルも、前者は政治的態度を変化させるための、後者は購買行動を変化させるための説得的コミュニケーションと考えることができる。この場合、まずコミュニケーションの送り手とその説得効果に関する要因がいくつか考えられる。たとえば、送り手の信憑(しんぴょう)性(専門性と信頼性)、魅力、説得意図などである。受け手が当該問題にそれほど関心が高くない場合(それに対する態度が明確でない場合)、説得的コミュニケーションの内容が同一でも、一般に信憑性の高い人からのコミュニケーションのほうが説得効果は大きいといわれている。しかし、受け手が当該問題に関心が高い場合には、送り手の信憑性の効果はそれほど大きくないことも知られている。

送り手の魅力の効果については、著名人をコマーシャルに登場させて製品の宣伝をさせる場合がわかりやすい。また、説得意図については、あからさまな説得意図がある場合には説得効果がへることが知られている。

次にコミュニケーションの内容である。たとえば、説得する方向を支持するだけの一面的コミュニケーションと、支持・反対の両方を提示して説得をこころみる両面的コミュニケーションのいずれが説得効果が高いかに関する研究がある。日本のテレビ・コマーシャルは自社製品の長所だけを宣伝する一面的コミュニケーションが多いが、外国では、両面的コミュニケーションがかなりみられるという(スウェーデンのVOLVO社のコマーシャルは、自社の自動車が高価であることのデメリットをみとめつつ、その安全性と堅牢(けんろう)性のメリットを主張する内容になっていたが、これなどは後者の例である)。またこれは、受け手の知性度と関連していて、他の条件が同一ならば、受け手の知性が低い場合には一面的コミュニケーションが、受け手の知性が高い場合には両面的コミュニケーションが効果をもちやすいという。さらに、コミュニケーションの内容が受け手の恐怖を強くひきおこし、説得に応じたときにその恐怖を低減できる可能性がある場合には(自動車の事故の危険をうったえて、自動車保険に勧誘するような場合など)、高い説得効果がえられるという。これらは現に訪問セールスなどにその具体例をみることができるだろう。

2. 態度変化と認知の斉合性

態度の構成要素には行動傾向がふくまれている。それゆえ、態度変化がおこれば一般的には行動傾向も変化すると予想される。しかし、説得的コミュニケーションによって、特定事象に対する認知ないし意見は一時的に変化しても、感情や行動傾向までは変化しない場合も少なくない。それほどいったん形成された態度は頑強だということであり、時間が経過するうちに、先には確かに変化したはずの認知が以前に逆戻りすることさえある。そこで、逆に対象への感情や行動傾向が変化した場合に、態度(認知)がどのように変化するかという逆向きの研究が必要になってくるが、これにとりくんだのが認知の斉合性を問題にする一連の研究者たちである。

そのひとりは「対人関係の認知」の項でとりあげたハイダーであり、彼の主張しているP–O–Xモデル(バランス理論ともいわれる)が現在の文脈にそのまま該当する。PとOの人間関係が強まる方向にあるならば、P–Xの関係の認知、あるいはO–Xの関係の認知が、P–O–Xの関係の全体的なバランスがとれる方向に変化すると予想されるだろう。C.E.オズグッドとP.H.タネンバウムもハイダーの考えによく似た適合性理論を提唱する。これはハイダーのモデルにおけるP–X、O–Xの認知や評価にその強度(たとえば対象の好き嫌いや重要性の程度)を導入して、どのように3項関係の認知の斉合性がはかられるかをより正確に予測することを意図したものである。

フェスティンガーの提唱した認知的不協和理論も、態度変化における認知の斉合性に関係している。彼は2つの認知の間の関係を、協和的、不協和的、無関連の3種類にわける。そして人が不協和な関係にある認知を同時に2つもつと認知的不協和が生じて心理的緊張がおこり、それを解消する方向に圧力がかかると考えた。不協和を解消ないし低減するには、不協和な関係にある認知をかえる、協和的関係の認知を新たにふやす、協和的関係にある認知の重みづけをます、などが考えられ、フェスティンガーのおこなった実験によれば、実際に被験者は予想された方向に認知、つまり態度をかえたという。興味深いのは、この認知的不協和理論にしたがえば、自分の態度に反した行動をとった場合には、かえってその行動に合致した方向に態度が変化するという予測がなりたつこと、さらに、複数の選択可能性の中から1つをえらんだ場合、えらんだものの魅力は以前よりも高くなり、えらばれなかったものの魅力はかえって減じるという予測がなりたつことである。そして調査結果はフェスティンガーの予測をほぼ裏づけるものであった。

3. 説得に対する受け手の抵抗

説得的コミュニケーションのところでも若干ふれたが、説得の試みはしばしば失敗する。それはコミュニケーションの受け手が態度変化へのさまざまな「防衛」をはりめぐらすからである。たとえば、恐怖が喚起されても、それをまぬがれる具体的方策がみいだせないときにはかえって態度は変化しないとか、あるいは、ある話題に関して説得的コミュニケーションがあたえられることをあらかじめ予告しておくと、態度変化がはばまれるなどにそれがあらわれている。これらの諸事実も、総体としてみれば、個人の認知・感情・行動傾向を整合的にたもとうとする態度本来の機能によると考えることができるだろう。