社会心理学
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社会心理学
III. 集団と個人

われわれはすでに幼児のころから保育所や幼稚園などの集団に参加し、以後、学校、部活動、会社、近所の寄合など、さまざまな集団に属してくらすことになる。同好の士がよりあつまって同好会のようなサークル(集団)をつくる場合もあるが、たいていはすでにある集団に個人が参加するという形をとるから、まずもって集団参加が問題になる。

1. 集団参加

人が集団に参加するのは、軍隊のようなものを別にすれば、それによってなんらかの利益が個人にえられるからである。これを個人の側からみれば、その集団が自らの価値実現に関して魅力があるからだということになる。人が有名大企業に就職することをめざすのは、そこに所属することによって経済的な豊かさ、生活の安定、社会的名声をえることができると思うからである。しかし、少し視点をかえれば、それと引き替えに判でおしたようなサラリーマンの生活を強いられるという短所もみとめざるをえない。それを不満に思う人は、もっと自分の活躍の場をもとめてベンチャー企業を志向するだろう。あるいは、趣味のサークルに参加するのと、留学をめざしてセカンド・スクールに参加するのとでは、めざしているものが明らかに相違する。してみると、個人がどのような集団に参加するかは、その個人が当面どのような価値実現をはかろうとしているかに規定されるとみることができる。

2. 集団規範と集団圧力

ほとんどの集団には、こうすべき、こうしてはならないといった集団の成員に対する規律や規範がそなわっており、集団に参加した個人はこの規範を遵守(じゅんしゅ)することがもとめられる。規範は明文化されている場合もあれば、されていない場合もあり、参加の時点でそれへの誓約をもとめられる場合もある。規範の遵守は規範逸脱者への制裁や排除・除名と対になっているから、当然ながらその集団参加の動機付けが強い者ほどそれを遵守する傾向が強く、その逆もいえる。集団の規範は集団を存続させ、成員を凝集させる力となるものであるが、ときとして個人の利益とぶつかることもある。そのようなとき、個人にとって集団規範はよそよそしく自分を疎外する力にみえてくることだろう。

一般に、集団はその成員に対して同質性をもとめるような斉一化の力をおよぼしてくる。企業や学校における制服の制定などがそのよい例である。この斉一化の力は規範的な力をおびているから、個人にはそれがひとつの集団圧力として経験され、それに対抗するのには困難をともなうことが多い。とくに全体が斉一的な判断をしめす場合に、個人がひとりだけほかとことなる判断や意見をもったり行動したりすることは困難である。このことは、のちにしめすアッシュの集団圧力に関する実験結果にみることができる。

3. 地位と役割

一般に集団は、地位と役割に関して構造化されているのがふつうである。会社組織でいえば社長を筆頭に、部長、課長、係長、主任、平社員の地位にわかれ、それぞれの地位にはそれにふさわしい役割期待がそなわり、その地位にある者はその役割期待にそった行動をとることがもとめられる。しかし、地位や役割は固定的ではなく年月とともに変動する可能性がある。それゆえ個人も、ただあたえられた役割をこなしているだけにあまんじるわけにはいかない。「でる杭(くい)はうたれる」という集団力学がある一方で、ほかの成員との比較過程がはたらき、その結果、昇進をめぐる競争が生じ、業績次第では「抜擢(ばってき)人事」もおこりえる。しかも、このような地位と役割をめぐる集団力学には、重層的なリーダー・フォロワー(上司・部下)の関係がともない、リーダーがどのようなリーダーシップを発揮するかによって、集団成員のまとまり(凝集性)や生産性が大きくことなってくる。

4. 集団の生産性と凝集性

集団は、その成員の地位と役割に応じた活動をとおして、一般になんらかの目標達成(生産性の向上)をめざす。病院組織であれば患者の治療や救命を、会社組織であれば利潤追求を、プロ野球のチームであれば優勝をめざすわけである。集団はこうした集団目標の達成にむけてその生産性を高めようとする働きをもつが、それと同時にその集団の各成員が集団としてまとまり(凝集性)をたもち、高い士気を互いに共有する方向にもおのずと機能する。この目標達成(生産性向上)と凝集性という集団のもつ2大機能は、ときには「チーム一丸となって」という高い凝集性がそのまま高い生産性にむすびつくというように、よい循環においてむすびつく場合もあるが、生産性と凝集性が拮抗(きっこう)する場合も少なくない。生産性一辺倒で馬車馬のような働きがもとめられ、上から命令・監督されるだけでは、そのうちに成員はしだいにやる気をうしなってまとまりをかくようになり、そうなると生産性も当然低下するだろう。ここに集団におけるリーダーの役割が生じる。

5. リーダーシップ

集団の2大機能に応じて、リーダーにもその機能実現にむけてのリーダーシップがもとめられる。つまり目標達成(生産性)に関しては、高い計画性、実行力、判断力、知識、技能などであり、凝集性に関しては、高い統率力、豊かな人間性(人間的魅力)、部下を思いやる共感性や包容力などである。ひとりのリーダーがこの両面をあわせもつことが理想であることはいうまでもない。しかし集団としてみれば、集団自体がこの2つのリーダーシップをもっていさえすればよいことになる。ここに、複数のリーダーによって2つのリーダーシップを分担掌握するという現代的傾向が生まれてくる。従来は、目標達成機能を重視したリーダーがイメージされやすかったが、今日ではそれにくわえて、集団維持機能(凝集性)重視のリーダーの重要性も認識されるようになってきた。実際、集団はさまざまな個性と人格をもった個人の集まりであるから、その成員間の人間関係のよしあし、ひいてはまとまりのよしあしは、集団の生産性に大きく影響する。それゆえ後者の集団維持機能リーダーは、成員間の協同と競争の原理にうったえながらも、それぞれの個性や適性をみきわめた人事配置やコミュニケーションのネットワークづくりをおこない、集団内の凝集性を高める方向にその指導性を発揮することがもとめられる。

このように、人はさまざまな集団に所属しながら、そこでの複雑な集団力学(グループ・ダイナミックス)にまきこまれて生きているのである。