| 検索ビュー | 分光学 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
スペクトルを研究する分野。化学元素はすべて固有のスペクトルをもっている(→ 元素)。この事実は1859年、ドイツの科学者グスタフ・キルヒホフとロベルト・ブンゼンが、新しいプリズム分光器を開発して化学分析をおこなったときに発見した。
分光器には、プリズムをもちいるものと回折格子をもちいるものとがある。プリズムをもちいる分光器は、外部光源からの光がはいるスリット、いくつかのレンズ、プリズム1つ、接眼レンズからなる。分析する光は、平行な光線にするためにコリメーター・レンズをとおってからプリズムにはいる。そして、スリットの映像が接眼レンズのところで像をむすぶ。プリズムで光がいろいろな色にわかれるので、実際には、ことなる色のスリットの映像がいくつかならんでみえる。こうしてキルヒホフとブンゼンは、化学元素がそれぞれある特定の色の光(スペクトル)を発したり吸収したりするということを発見したのであった。→ 光学
| II. | 分光写真器 |
接眼レンズをカメラにおきかえたものが、分光写真器である。スペクトル線とよばれるスリットの像の波長(色)は、フィルム上の位置から計算できるので、カラー写真でなくてもよい。分光写真器は紫外線から可視光、さらに赤外線の波長1200nm(ナノメートル:10億分の1m)まで対応できる。
極紫外線と赤外線領域での分光分析も、可視光線と同じようにしておこなう。ただしガラスはそのような光線をとおさないので、レンズやプリズムは石英、蛍石、カリ岩塩、岩塩などでつくる。レンズのかわりに凹面鏡をつかうこともある。写真の感光剤も特殊なものをもちいる。このようにして紫外線スペクトルは波長60nm未満までしらべることができる。赤外線スペクトルは、特殊な方法をつかえば波長0.01cm以上までしらべることができる。
| III. | 分光光度計 |
分光光度計は、標準光源の強度と比較して、特定のスペクトルの強度をはかるためにつかわれる。試料をとおってきた光と標準光源とをくらべて、あるスペクトルを発生または吸収する物質が、試料にどのくらいふくまれているかを知るのである。分光光度計は検出器にボロメーターや光電管をつかっているので、可視光線以外の領域のスペクトルの分析もできる。ボロメーターは赤外線スペクトル分析に適し、光電管は紫外線スペクトル分析に適している。
| IV. | 回折格子 |
回折格子をもちいる分光器は、ドイツの物理学者ジョセフ・フラウンホーファーが1800年代につかったのがはじめである。この分光器はプリズムをつかわず、金属または鏡の表面にたくさんの平行線をダイヤモンドでひいたものをつかう。これを回折格子といい、プリズムのように光を散乱する働きをする。
よい回折格子は光を散乱する力が強いので、スペクトルの細かいところまで分離することができる。凹面鏡に回折格子の線をきざめば、凹面鏡が光を散乱すると同時に像をむすぶ役割をはたすので、レンズがいらなくなる。つまり、光が透明な物質の中をとおりぬける必要がなくなる。紫外線の領域全体、さらにX線の領域まで、このような分光器がつかわれる。分光写真器や分光光度計にも回折格子をつかうことができる。
| V. | スペクトル分析 |
吸収されたり発生したりする光の単位は、光子(フォトン)または量子とよばれる微小な粒子である(→ 量子論)。1つの光子がもつエネルギーeは、振動数uに比例し、波長λに反比例する。これを簡単にあらわす式は次のようになる。

ここでhはプランク定数、cは光の速度である。原子や分子が放出または吸収する光の色、つまり波長(すなわちエネルギー)は、その原子や分子のもちうる運動エネルギーと位置エネルギーをたした全エネルギーによっている。エネルギーは、原子や分子の構造、動き方などによって複雑にかわる。原子を構成しているのは原子核とそれをとりかこむ電子である。
原子核は重く、ゆっくりうごくので、光の発生・吸収はしない。電子はそれぞれの軌道を高速でとびまわっている。この電子が、ある軌道から別の軌道へととびうつるとき、原子が特定の色の光子を1つ発生したり吸収したりするのである。分子の場合、構成しているのはいくつかの原子の原子核とそれをとりまく電子である。
分子が光を発生・吸収するのは、それぞれの電子が軌道をかえるときのほかに、分子の回転や、原子核の振動が変化するときなどにみられる。分子の回転や振動の仕方が変化すると、電子の動きも変化するため、やはり特定の色の光が発生または吸収される。→ ルミネセンス
ある分子または原子が発生した光子の波長がわかれば、その分子または原子の構造あるいは、またその部分の動きについて、いろいろな情報をえることができる。
| VI. | 連続スペクトル |
もっとも単純なスペクトルが、一定の領域の波長にわたってスペクトルが連続してあらわれる連続スペクトルである。これは白熱化するまで加熱した固体、液体、密度の高い気体などの放射でみられる。連続スペクトルにはすべての色の光がふくまれるので不連続な線がなく、ある色から次の色へと虹のように連続的にかわる。連続スペクトルは分光光度計でしか分析することができない。連続スペクトルを生じる理想的な物体を黒体というが、黒体が発するスペクトル中の色の強度は、温度によってのみかわる。
連続スペクトルのエネルギー分布に関しては3つの法則があるが、そのうち2つは、19世紀の終わりごろにドイツの物理学者ウィルヘルム・ウィーン、オーストリアの物理学者ルードウィッヒ・ボルツマン、ジョセフ・シュテファンらが発見した。1つ目はシュテファン・ボルツマンの放射法則で、黒体が放射する1秒当たりのエネルギーは、絶対温度の4乗に比例するというものである。2つ目はウィーンの変位則で、温度があがるにつれて、黒体放射のスペクトルが絶対温度に比例して振動数の高いほうにずれるというものである。3つ目の法則は1900年にマックス・プランクが発見したが、それはもっとも重要な、黒体が放射したさまざまな波長のエネルギー分布についての法則であった。
プランクは、実験の結果を説明するために、物体からの温度放射の熱力学的性質は、発生する仕組みや原子の性質についての仮定などにかかわらず、一定であるとのべたのである(→ 熱力学)。これらの考えから量子論が発展することになった。
| VII. | スペクトル線 |
スペクトル線とは、ある波長の所で線状にあらわれるスペクトルをいう。ある物質を蒸発させて、その蒸気が光りだすまで加熱すると、あるきまった色を発するようになる。ナトリウムランプの黄色、ネオンランプの赤色、水銀灯の青緑色などがそうである。これらの光のスペクトルでは、真っ暗な中にいくつかの特定の波長の線が明るくみえる。たとえばナトリウムの蒸気では、波長およそ589.1nmと589.6nmとの2本の線が黄色をつくりだしている。この2本の間の色の違いは人間の目ではわからないが、高性能の分光器をつかえば区別することができる。2本の線をそれぞれD2線、D1線とよぶ(→ フラウンホーファー線)。
ナトリウムの蒸気のスペクトルのエネルギーは、ほとんどが2本のD線に集中しているが、スペクトルにはほかにもたくさんの弱い線がある。アークで高温にしたり、電気火花で高温・電離状態にさせたりすると、ナトリウムのスペクトルにはたくさんのスペクトル線があらわれるようになる。
解像度の高い分光写真器をつかうと、1本1本のスペクトル線がとても細く、それ以外の部分はほとんど真っ暗なスペクトルがあらわれ、正確に波長をはかることができる。D2線の波長は588.9977nmと測定されている。質量のことなる同位体のない純粋な水銀のスペクトル線ではさらに正確な測定がされている。
| 1. | バルマー系列 |
スペクトル線が出る理由を説明できたのは、まず水素原子のスペクトルについてであった。水素原子はもっとも単純な原子であり、スペクトルも単純である。1880年代初め、スイスの数学者・物理学者ヨハン・バルマーが、水素原子の可視スペクトルに、波長656.3nm、486.1nm、434.0nm、410.2nmの4本のスペクトル線を発見した。これらはそれぞれ、Ha、Hβ、Hg、Hδとよばれる。バルマーは、この4つの波長が1つの単純な数式であらわされることをしめした。

ここでNはそれぞれで3、4、5、6の値をとる。この式であらわされるスペクトル線の系列をバルマー系列という。その後、イギリスの天文学者ウィリアム・ハギンスが、この式のNの値をつづけてふやしていった波長のスペクトル線を、水素のスペクトルの紫外線領域に発見した。Nの値が大きくなるにつれてスペクトル線どうしが近づき、364.6nmで区別がなくなる。
| VIII. | ニールス・ボーアの業績 |
初めのうち、スペクトルとは、イギリスの物理学者マクスウェルの電磁気理論にもとづいて、原子の中の軌道をめぐる電荷をおびた微粒子が放射するものと考えられていた。しかしデンマークの物理学者ニールス・ボーアは1913年にこれを否定し、古典的な理論とプランクの量子論とをむすびつけて新しいモデルを提案し、水素原子が放射するスペクトルについての一般式をしめした。
この式は、バルマー線を説明できただけでなく、紫外線および赤外線領域のほかの系列のスペクトル線をも正確に予言し、のちに予言どおり発見されている。バルマーの式は、ボーアの式の特殊な場合にあたる。
ボーアは、正の電荷をおびた陽子の周りを、負の電荷をおびた電子が回転している水素原子が、こわれないで存在していることから、原子の安定にかかわるある基本的な長さをとりいれる必要があると考えた。
そのような長さは電子の電荷e、質量mのみの数式ではあらわせないため、もうひとつの基本的な定数をいれることを提唱した。これにはプランク定数hをつかうことに気づき、長さをあらわす次の式が提案された。

式による長さの値は10-8 cmとなり、これは水素原子の半径にあたる。そこでこの値は、ボーア半径またはボーア第1軌道半径とよばれている。
| 1. | 量子論 |
量子論は、それまでの理論とはまったくことなる革新的な考え方をもたらし、軌道の動きをhを単位として量子化したのである。すなわち、hより小さな動きはないとした。
こうしてボーアは、水素原子の安定を説明するために、第1軌道の最初のものに1単位をわりあてた。したがって、それよりも小さな軌道は存在しないことになった。次に、電子が陽子からはなれるにつれて、1つ前の軌道よりもhだけ高いエネルギーをもつ軌道をとりうる、と仮定した。2番目の軌道は2h、3番目の軌道は3hのエネルギーをもつということである。nを整数とすると、n番目の軌道はnhであり、n番目の軌道の半径は次の数式であらわせる。

古典的力学では、円軌道をめぐる粒子の運動エネルギーと位置エネルギーとの合計は負の値をとることがわかっていた。軌道の負の位置エネルギーが、正の運動エネルギーよりも大きいからである。
エネルギーの合計は、軌道の半径に反比例する。そこでボーアは、単位をあわせるために半径の逆数に負号をつけたものにe²/2をかけて、n番目の軌道をめぐる電子のエネルギーを次のようにあらわした。

電子がn番目の軌道からk番目の軌道へとうつるときエネルギーの変化は


上の数式を光子のエネルギーhc/λと等しいとおくことによって、電子がnからkの軌道にうつるときに生じる光子の波長λの逆数がもとめられる。


| 2. | スペクトル線系列 |
kを1とおいて、nの値を2、3、4とあげていくと、電子が高い軌道からもっとも低い軌道にうつるとき、紫外線領域にみられるライマン系列というスペクトル線の波長になる。そのほか赤外線領域にあるパッシェン系列、ブラケット系列、プント系列とよばれるスペクトル線も、kをそれぞれ3、4、5とおき、nにkより大きな整数の値をあたえることでえられる。
これらのスペクトル線の系列で、水素原子のスペクトルがなりたっている。しかしボーアの式であらわされるのは、スペクトルのうちおもな部分だけである。くわしく分光分析をすると、もっと細かいスペクトル線があり、それは3つの細かい構造からきている。電子軌道の楕円率、電子のスピン、陽子のスピンである。
実際には、たまたま電場や磁場が生じてしまうことや、また水素といっても通常は水素原子だけではなく重水素や水素分子がまざっていることを考えにいれなければならない。さらに、すべての粒子がでたらめに動きまわっているので、大小のドップラー効果があらわれる。これらの現象がすべてスペクトル線に影響するため、観察されるスペクトルは、理論で予想されるよりも複雑である。
蛍光、リン光(燐光)という発光現象は、特定の波長の光子が吸収されたあとに、それより長い波長の光子が放出されるためにおきる。蛍光でもリン光でも、光源から吸収された光子が、基底状態(もっとも低いエネルギー状態)にあった電子にエネルギーをあたえ、より高いエネルギー状態にもちあげる。
もちあげられた電子はより低いエネルギー状態へとおちるが、すぐには基底状態にもどらないため、吸収した光子よりも波長の長い光子を放出するのである。蛍光では、吸収と放出とが急速におこるので、光があたっている間しかつづかない。リン光では光子の放出がゆっくりとおこり、光源がきえてからも長くつづく。
ナトリウム原子は水素原子よりも複雑なスペクトルを生じる。ナトリウムは、軌道電子を11個もっている。内側に2個、その外側に8個、いちばん外側の軌道に1個である。ナトリウムのスペクトルを電気火花で発生させると、これらの電子がすべてスペクトル線をつくる可能性がある。アークや炎で発生させると、いちばん外側の電子だけがおもにスペクトル線をつくり、水素原子の電子と同じような動きをする。ただし、それより内側の10個の電子と相互作用をするために、動きがより複雑になる。
さらに、電子が軌道をうつるだけでなく、軌道ごとに離心率がことなることがあり、またそれぞれの軌道においても、電子はことなる軌道磁気モーメント→ (磁気モーメント)や角運動量をもつことがある。これらの違いによって、いくつかの系列のスペクトル線ができたり、わずかしか波長のかわらない2重線、3重線ができたりする。ナトリウムの重要なスペクトル線は、S線、P線、D線、F線、G線、H線などとよばれている。
| 3. | 分子のスペクトル |
原子の構造について物理学が手にいれた情報のほとんどは、分光学によるものである。同じように分子のスペクトルも、分子の構造をとき明かす役にたった。分子のスペクトルは、帯スペクトルとなる特徴がある。つまり、スペクトル線ではなく、連続スペクトルの一部のような幅のひろい明るい帯が、暗い部分の間にいくつかみえるようなスペクトルなのである。
帯は実際には連続ではないので、高精度の分光器をつかうといくつもの線にわけることができる。線の間隔は、スペクトルが回転によるものか振動によるものかでかわる。回転のエネルギー状態は少しの変化でも、間隔がせまくなる。したがって、回転のスペクトル帯は線がぎっしりつまってすきまがない。
振動のエネルギー状態は変化の幅が大きく、スペクトル帯は線のすきまがひろくなる。分子の電子のエネルギー状態がかわるときは、分子スペクトルにあらわれる線のすきまがさらにひろくなる。それ以外の帯は最高精度の分光器でも線に分離することはできず、連続的にエネルギーが吸収・放出されていると思われる。
| IX. | 吸収スペクトル |
原子や分子には吸収スペクトルがある。これは連続した放射を、原子または分子の液体または気体の中を通過させたときにえられる。たとえば、電子が第2軌道(n = 2)をまわっているような励起状態にある水素原子のガス(恒星の大気)の中を白色光が通過すると、電子は白色光から光子を吸収する。そのとき、吸収される光子の波長はバルマー系列の波長となる。
光子を吸収した電子は、より高い軌道にうつる。ガスを通過したあとの白色光のスペクトルを分析すると、全体が明るい中で、ちょうどバルマー線にあたる波長のところだけが吸収されて黒くみえる。このようなスペクトルを吸収スペクトルという。吸収スペクトルは分子構造の研究によくもちいられる。
| X. | スペクトル分析の適用 |
スペクトル分析は化学と天体物理学で大いに役だっている。
| 1. | 化学分析 |
元素はそれぞれ特定のスペクトルをもつ。ただ、ことなる元素なのに波長の近いスペクトル線をだすこともあり、測定をあやまる可能性がある。たとえば、波長430.8nmのフラウンホーファーC線は、2つのことなるスペクトル線によってできる。カルシウムによる波長430.7749nmと、鉄による波長430.7914nmとである。
ふつうの分光器ではこの区別は困難である。しかし、カルシウムがだすほかのスペクトル線は、鉄がだすほかのスペクトル線とは明らかにことなる。したがって、スペクトル全体を、わかっているスペクトルと比較すれば、どちらか決定できる。未知の物質のスペクトルを、炎色試験のように炎で発生させたり、アークや火花などで発生させたりして、分光写真を1枚とるだけで、どの元素があるかないかを判断することが可能である。化合物の同定には、吸収スペクトルが役にたつことが多い。
紫外線領域の外のX線およびガンマ線のスペクトルは、適切な電離検出器をつかって検出する。ガンマ線のスペクトルは、中性子放射化分析でよくもちいられる。これは、原子炉の中である物質に中性子を照射すると、物質が放射性になってガンマ線をだすようになることを利用する方法である。これらのガンマ線のスペクトルによって、物質の中の微量な化学元素を同定することができる。この技術は従来の分光法とならんで犯罪捜査にももちいられている。
ラマン分光法は、1928年にインドの物理学者ラマンが発見した分析法で、化学の分野でひろく適用されている。ラマン・スペクトルは、ある条件のもとで可視光線あるいは紫外線が初めに吸収され、分子を回転または振動させたあとで、より低い振動数でふたたび放出されるときにできるスペクトルである。→ ラマン効果
赤外線領域よりもさらに波長の長い電波の領域のスペクトルには、磁場をもちいた2種類の分光法がつかわれる。ひとつは核磁気共鳴(NMR)と電子スピン共鳴(ESR)であり、分子の化学情報をしらべたり、細かい構造を明らかにするのにもちいられている。これらの方法では、電子や原子核のこまのようなスピンを利用する。まず試料を磁場の中におき、スピンの方向をそろえる。適当な電波でエネルギーをあたえると、試料の中の電子や原子核が反転して、スピンの軸が逆になるという現象がおこるのである。
| 2. | 天体物理学への適用 |
光源から分光器までの距離には制限がない。したがって、太陽の光を分光分析にかけることによって、太陽の構成元素を正確に化学分析することができる(→ 分光太陽写真儀)。フラウンホーファー線は19世紀の初めに太陽のスペクトルの中の吸収線として発見され、同じ線を地球上で発生させられるとわかったのは、その後のことである。ヘリウムは地球にも存在することがわかる何年も前に、太陽(ギリシャ語でヘリオス)の中に発見され、命名された。最近では、太陽の分光学的研究によって、水素の陰イオンが存在することをうらづける証拠もえられている。このように、星の分光学的研究をとおして多くの知識がえられる。星は超高温、超高圧、低圧など、地球上ではつくることもできない条件がそろっている実験室といえるからである。たとえば、星雲のある種のスペクトル線は、地球で未発見の元素によるものだと考えられ、仮にネブリウムとよばれていたことがある。しかし今ではこれは、よく知られた元素がひじょうに高い真空状態においてだすものだということがわかっている。
また1969年には、アリゾナ大学の月惑星研究所が土星をとりまく環をスペクトル分析し、ほとんどアンモニアの氷でできていることがわかった。94年7月に木星にシューメーカー・レビー彗星のかけらが衝突したあと、木星とその大気の組成を分析するのに分光学が利用された。衝突によって内部の熱いガスが木星の大気の表面にもちあげられ、それが望遠鏡でくわしく記録されたのである。
| 3. | 連星 |
観察者に対して光源が近づいたり遠ざかったりしているときは、スペクトル線の位置がずれる。この波長のずれがドップラー効果(→ 赤方偏移)であり、ずれをもちいて光源の相対速度を正確に測定することができる。一般に、ある星からのスペクトル線がすべて赤のほうにずれているときはその星が地球から遠ざかりつつあり、星の速度はずれの大きさから計算できる。逆に、星が地球にむかってうごいているときスペクトルが紫のほうにずれる。外宇宙の銀河のスペクトルにみられるドップラー効果は、宇宙が膨張していることをしめしている。→ 宇宙論
遠方にある星で、スペクトルが周期的に2つにわれるものがある。そして二重線になったあと、ふたたび1本の線にもどる。この現象は、2つの星が、望遠鏡で区別できないほど近くをたがいにまわるためにおこる。
このような星を連星または分光連星という。一方の星が地球に近づき、もう一方が遠ざかりつつあるとき、一方の星のスペクトルはすべて紫のほうにずれ、もう一方は赤のほうにずれる。両方の星が地球からの視線と直交してうごくときに2つの星のスペクトルは一致し、1本にみえるのである。→ 星
| 4. | 分子の運動 |
気体の分子は、つねに運動しており、どの瞬間をとっても分光器に近づきつつある分子と遠ざかりつつある分子とがある。したがって、すべての分子が静止しているときとくらべ、波長の短い光子や長い光子がある。このように波長が変化するため、それぞれのスペクトル線は少し幅がひろくなる。
温度があがると分子の平均速度がはやくなり、スペクトル線の幅がさらにひろくなる。したがって、特定のスペクトル線の幅を測定することで、太陽などの光源の温度を推定することができる。多くの場合、星の内側のほうが温度が高いため、幅のひろいスペクトル線が生じ、外側でスペクトルが吸収される。
星の外側のほうは低温であるため、吸収スペクトルの幅はせまい。結果として、このスペクトル線は、明るい部分の中心に暗い線がはいったようになる。この現象を自己反転という。
ドップラー効果と関連するものに、メスバウアー効果がある。ドイツの物理学者メスバウアーが、1958年に発見した。メスバウアー効果とは、1つの原子核から放出されたガンマ線を、もう1つの原子核がはねとばされずに吸収する現象である。吸収がおこるためには、放出されるガンマ線のエネルギーのスペクトルが、吸収する側の励起エネルギーのスペクトルとほぼ一致していなければならない。
放出する側と吸収する側とが少しでも相対的にうごくと、吸収する側にとってはガンマ線のエネルギーがちがって「みえる」。そこで、どちらかをうごかすことによって、ガンマ線のエネルギーを高精度でもとめることができるのである。この方法は、固体における原子核の電場および磁場の研究に重要である。この原理をつかうと、相対運動を正確に測定することができるため、宇宙船のドッキングなどに応用される。→ 宇宙探査:放射能
原子物理学の分野では、高分解能の分光分析をおこなって、原子核の大きさや形によって原子の構造がどのようにかわるのかを研究している。また、光源を磁場や電場におくとスペクトル線がわかれたり幅がひろくなったりする現象から、光源の原子構造や電場や磁場について、ほかの方法ではえられない情報をえることができる。
オランダの物理学者ゼーマンは1896年に、磁場の中においた光源からの光線を分光学的に分析し、スペクトル線の幅がひろくなったり数本になったりすることを発見した。この現象をゼーマン効果とよぶ。ドイツの物理学者ヨハネス・シュタルクが1913年、強い電場をもちいるとスペクトル線がいくつかにわかれる現象を発見した。これはシュタルク効果とよばれている。