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| III. | 文芸叙事詩 |
文芸叙事詩とは、著名な詩人が、すでに確立された叙事詩の形式を意識的に利用して書いた詩である。民族叙事詩と同様、ある国の神話的・歴史的伝統が題材としてあつかわれる。ローマでは、国民叙事詩が前1世紀に最高潮に達した。ウェルギリウス作の「アエネーイス」は世界最高の文芸叙事詩のひとつにかぞえられている。ペルシャでは、フィルドゥーシーが史実をもとにして国民叙事詩「シャー・ナーメ」(王の書。1010完成)を生みだした。
古典期をすぎてのちのヨーロッパの大文芸叙事詩としては、ポルトガルにルイス・デ・カモンイス作の国民叙事詩「ウズ・ルジアダス」(1572)があり、イタリアにはアリオストの「狂えるオルランド」(初版1516、最終版1532)、タッソの「リナルド」(1562)と「解放されたエルサレム」(1575)がある。スペンサーの「神仙女王」とミルトンの「失楽園」もこのグループにふくまれる。
19世紀に叙事詩はさまざまな形をとった。ワーズワースは、自伝的な長編詩「序曲」(1850)の中で、彼の生涯の出来事を題材として人間の想像力を探求した。バイロンは、オッタバ・リーマ(8行詩)をもちいて「ドン・ジュアン」(1818~24)を書き、14~17世紀のイタリア・ルネサンス期にみられたまじめな要素をふくむ喜劇的叙事詩を復活させた。この作品では、軽快な文体による社会批評が詩にくみこまれている。アメリカの詩人ホイットマンには「自己の歌」(「草の葉」所収。初版1855、最終版1892)という短い叙事詩があり、一人称の語り手が自身を自然と人類の総体に重ねあわせて表現している。
20世紀のイギリスの叙事詩には、ハーディの長編詩劇「覇王」(1903~08)があげられる。アメリカではハート・クレーン(「橋」1930)、T.S.エリオット(「四つの四重奏」1943)、エズラ・パウンド(「詩編」1930~70)、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(「パタソン」1946~58)、ジェームズ・メリル(「サンドオーバーのかわりつつある光」1976~82)などの詩人たちが、国民叙事詩を提供する試みをおこなった。