| 検索ビュー | 加速器 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
加速器は粒子加速器ともいい、物理学で、電荷をおびた素粒子やイオンを高いエネルギー状態に加速するのにもちいられる装置。加速器は現在、物理学の研究につかわれるもっとも大型で高価な実験機器となっている。加速器は3つの部分からなる。素粒子やイオン源と、粒子が自由に飛行できる真空に近いまでに減圧された管、粒子を加速するための電場である。
電荷粒子は電場によって加速される。イギリスの科学者コッククロフトとアーネスト・ウォルトンは1932年、大きな電位差の電極を真空にした容器の両端におくことによって、陽子を25万電子ボルト(eV)まで加速することができた。
もうひとつの静電加速器のタイプは、アメリカの物理学者ロバート・バン・デ・グラーフによって開発されたバン・デ・グラーフ加速器である。これはバン・デ・グラーフ起電機と同じ原理をもちいて、電極間の電位差はうごくベルトで電荷をはこぶことによって高めていく仕組みで、15MeV(1500万電子ボルト)まで粒子を加速することができるものもある。
| II. | 線形加速器 |
高周波の電場をもちいて電子や陽子などの電荷粒子を直線的に加速する加速器は、1920年代から考案されたもので線形加速器、リニアックともよばれる。真空中に中空となった円筒形の電極をいくつか直線状にならべ、となりあった電極には逆向きの位相の高周波電圧をくわえる。電荷粒子は円筒電極の軸方向にはしるが、電極の隙間(すきま)をとおるごとに同方向の電場の作用によって加速される。
線形加速器は、理論的にはいくらでも高エネルギーの粒子に加速することができる。アメリカのSLAC国立加速器研究所の線形加速器(SLC)は、全長が3kmあり、電子や陽電子を50GeV(500億電子ボルト)まで加速することができる。そのほか、線形加速器は素粒子実験のほかに、医療における放射線治療(→ 放射線医学)や工業用の放射線源としても利用されている。また、シンクロトロンの入射器の多くが線形加速器となっている。
| III. | サイクロトロン |
アメリカの物理学者アルネスト・ローレンスは、1930年に円形加速器サイクロトロンを開発して39年のノーベル物理学賞を受賞した。
サイクロトロンは線形加速器を螺旋状(らせんじょう)にまきあげたものに似ていて、たくさんの管のかわりに、中には加速用の電極が入った2つの半円形の真空室があるだけである。それは背中合わせになった大文字Dの形をしているので、ディーとよばれる。強力な電磁石でつくられる磁場によって、ディーの中心部のイオン源から出た電荷粒子は円をえがいて運動する。電荷粒子はディーとディーの間隙を横切るたびに高周波電圧により加速されて、エネルギーをまし、加速器の周辺部のほうへむかって螺旋状に運動半径をましていく。じゅうぶんなエネルギーを獲得すると、電荷粒子は加速器から外にとびだす。
| 1. | シンクロサイクロトロン |
サイクロトロン内で原子核の電荷粒子が20MeV以上のエネルギーを獲得すると、相対性理論にのっとり、電荷粒子の質量が相当に増加する。そのため、電荷粒子は減速し、ディーの間にくわえられる加速用パルスの位相にずれがおこる。この問題を解決するために、旧ソビエト連邦(ソ連)の物理学者ウラジミール・ベクスレルとアメリカの物理学者エドウィン・マクミランが、周波数変調を利用したシンクロサイクロトロンを開発した。
シンクロサイクロトロンでは、電荷粒子を加速する高周波電圧の周波数を荷電粒子の加速につれて自動的に調節をおこなう。つまり、荷電粒子の質量が増加すると、加速電圧の周波数がわずかに低くなり、荷電粒子と歩調をあわせる(シンクロする)のである。その結果、サイクロトロンよりも加速することができる。しかし、周波数による変調をおこなうために、イオンビームはパルス状となって、連続した荷電粒子の流れをとりだすことができない。また、最大エネルギーがませばますほど、荷電粒子は螺旋運動のための大きな空間を必要とし、装置は大型になる。
| IV. | ベータトロン |
電子は、加速されると、比較的低いエネルギーで質量が増大する。1MeVのエネルギーで静止質量の2.5倍の質量になる。シンクロサイクロトロンでは、このような大きな質量変化に対応することができない。そこで、電子(ベータ粒子)の加速には電磁誘導を利用したベータトロンがつかわれる。最初のベータトロンは、1940年にアメリカの物理学者ドナルド・カーストによってつくられた。
ベータトロンも円形加速器で、電磁石の磁極の間にドーナツ形の真空容器をおき、電子はガイドフィールドとよばれる磁場によって円形軌道をまわる。電磁石に交流をくわえると円形軌道の磁束が変化し、それによって発生する誘導起電力が電子を加速する。この間はガイドフィールドも磁束も電子の軌道半径を一定にたもつように変動する仕組みをもつ。電子を数十万回ほど回転させると、3GeV程度の高エネルギー電子をえられる。また加速電子を金属性のターゲットにあてて発生するX線が医療や工業用実験に利用されている。
| V. | シンクロトロン |
シンクロトロンは加速器の中でもっとも強力なもののひとつである。シンクロトロンも円形加速器の一種で、粒子が大きなリング状の管の中をはしり、管には粒子がその中心を運動するようにたもつため電磁石もリング状に配列している。粒子は入射器で数百万電子ボルトまで加速されたあと、リング状の管に導入される。
サイクロトロンやシンクロサイクロトロンの場合には、粒子に円形軌道をえがかせるために、中心部から周辺部まで一様な磁場を作用させているが、シンクロトロンの場合、粒子は加速器の中を1周するたびに、1カ所または数カ所で加速される。粒子が軌道からはずれないように、リングの磁石の強さは粒子のエネルギーが増加するにつれて強くなる。数秒後に粒子のエネルギーは1GeV以上に達してから、実験装置または衝突させる標的にむかって射出される。粒子が加速され速度があがるにつれて、粒子の軌道半径が大きくなるサイクロトロンやシンクロサイクロトロンの場合は、一様な磁場をつくりだす巨大な電磁石が必要となる。一方、シンクロトロンの場合は、粒子の軌道半径を一定にたもつことができるために円軌道にそった磁場だけでよく、中心部の磁場は必要としない利点がある。また、軌道半径が一定であることから、より大型の装置をつくることもできる。なお、シンクロトロンの原理は、1945年にエドウィン・マクミランとウラジミール・ベクスレルが独立に発表している。
シンクロトロンは陽子にも電子にもつかえるが、大型装置のほとんどは陽子シンクロトロンである。電子シンクロトロンの場合、最初ベータトロンで粒子を加速してからサイクロトロンの方式に切りかえ、さらに加速する。一方の陽子シンクロトロンの場合は、線形加速器であらかじめ加速された陽子を円軌道にいれて、磁場と加速用高周波電圧の両方を変化させながら加速する。
| VI. | 貯蔵リングと衝突型加速器 |
貯蔵リングは加速した荷電粒子を貯蔵するための装置で、磁場によって粒子を閉じこめている。しかし、高エネルギーの粒子が磁場により急速に軌道をまげる際にシンクロトロン放射によってエネルギーをうしなうために、それをおぎなうための加速が必要とされている。
シンクロトロンが静止した標的に加速粒子をたたきつけるのに対して、衝突型加速器(コライダーとも)は粒子どうしをより強く衝突させている。シンクロトロン放射によるエネルギー損失をなくすために数キロメートルにもわたる直線状の線形加速器(リニア・コライダー)もあるが、現在稼働中、または計画中のものはリング状で、2組の粒子はリング内で反対方向に加速され衝突させられる。
CERN(ヨーロッパ素粒子物理学研究所)にあったLEP(1989~2000年稼働)は全周が27kmという最大級のリング状の衝突型加速器のひとつだったが、その跡地にLHC(Large Hadron Collider:ハドロン衝突型大加速器)が建設された。アメリカのフェルミ国立加速器研究所のテバトロンは2008年にLHCが稼働を開始するまでは世界最大の加速器であった。日本では、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)にあるKEKBという衝突型加速器が1998年(平成10年)から稼働している。KEKBは、おもにCP対称性の破れを研究するために、8GeV(80億電子ボルト)と3.5GeVの陽電子を全周3kmの2つのリングにそれぞれ蓄積し、その交差点で衝突させている。実験の結果、B中間子が大量に生成されることからBファクトリーともよばれている。
| 1. | LHC |
衝突型加速器は強力なものであるが、今日の理論を検証するためにはさらに強力な装置を必要としている。2008年から実験を開始したCERN(ヨーロッパ素粒子物理学研究所)のLHC(ハドロン衝突型大加速器)では、地下トンネル内におかれたパイプの中で陽子ビームを電磁的に加速し、1個の陽子が7TeV(7兆電子ボルト)のエネルギーをもった状態で、正面衝突させる。その結果、2個の陽子の衝突によって、14TeVのエネルギーが解放されることになる。このような大型の加速器が必要とされるのは、原子よりもさらに微細な素粒子の研究のためで、これまでも標準モデルは従来の加速器により完全に実証された実績がある。しかし、ヒッグス粒子や超対称粒子といったものの研究には、さらに大型の装置が必要とされている。LHCでは、ヒッグス粒子などを発見する計画である。
| VII. | 応用 |
加速器は原子核の探求に利用され、新しい素粒子が発見されたり、原子核における現象が解明されたりしている。1GeV以上の装置は原子核を構成する基本粒子の研究にもちいられる。これまでに基本粒子は数百個わかっている。現在の課題は、原子核より小さい粒子が秩序ある配列をしている規則や原理を発見することである。このような配列は、化学における周期表のような役割を原子核物理学においてはたすだろう。LHC(ハドロン衝突型大加速器)やフェルミ国立加速器研究所などの大型加速器では、誕生してマイクロ秒という年齢の宇宙(→ ビッグバン理論)を再現するようなはげしい粒子の衝突を実験することができる。こうした研究によって、宇宙の構造についての理解が深まることになる。
→ 粒子検出器