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ステンレス鋼
I. プロローグ

錆(さび)をほとんど発生しない、耐食性にすぐれた特殊鋼。不銹鋼(ふしゅうこう:不錆鋼とも書く)ともいい、たんにステンレスやステンと略してよぶこともある。鉄は古代から有用な金属として広くつかわれてきたが、水や塩分の存在によって、容易に錆が発生して腐食が進行する。古来から油脂や塗料を塗布したり、内部に進行しない酸化物を表面に付着させたり、めっき(電気めっき)によって錆をふせいできたが、決定的なものではなかった。ステンレス鋼は、1910年代にイギリスで、刃物用の鋼にクロムをくわえた材料が実用化されたことにはじまる。

II. ステンレス鋼の成分

鉄にクロムを12%以上添加した合金は、鉄や炭素鋼よりも高い耐食性をもち、常温常圧の空気中ではほとんど錆が出ない。クロムだけでは耐食性がじゅうぶんでないので、ほかにニッケルもくわえることがある。このようにクロムなどを添加した合金を総称してステンレス鋼という。

ステンレス鋼を大別すると、クロムだけを添加したものをクロム系ステンレス鋼、ニッケルもくわえたものをクロム・ニッケル系ステンレス鋼という。

さらに機械的強度や耐食性、溶接特性を改善する目的で、チタン、アルミニウム、モリブデンなどの元素が添加されることもある。

III. 錆がでない原理

ステンレス鋼は、酸化によっておもにクロム酸化物の被膜が表面にでき、材料の内部まで酸化が進行しなくなる。このように、理論的には化学反応が進行するはずの条件下で、反応が進行しなくなって安定した化合物ができることを不動態化といい、発生する酸化物などの化合物そのものを不動態という。本来腐食しやすいアルミニウムが構造材として広くつかえるのも、表面に不動態ができるためである。

IV. ステンレス鋼の種類

成分だけでなく、金属組織の違いから、(1)マルテンサイト系、(2)フェライト系、(3)オーステナイト系、(4)2相系またはオーステナイト・フェライト系、(5)析出硬化系に分類される。

1. マルテンサイト系ステンレス鋼

クロムを13%程度ふくむ13クロム系が代表的。成分と熱処理条件でさまざまな性質のものがえられる。高い強度と耐食性、耐熱性がもとめられるタービンブレードやポンプなどにつかわれるが、炭素を多くふくむものは耐摩耗性がすぐれているので、刃物にも使用される。また、強磁性体でもある。

2. フェライト系ステンレス鋼

クロムを18%程度ふくむ18クロム系が代表的。焼き入れや焼き戻しはできないが、耐食性はマルテンサイト系よりも高い。用途は、一般の食器や厨房用品(ちゅうぼうようひん)、化学プラントなどが多い。マルテンサイト系同様、強磁性体である。

3. オーステナイト系ステンレス鋼

代表的なものは、クロム18%とニッケル8%が添加された18-8ステンレスである。焼き入れや焼き戻しはできず、非磁性体の材料。耐食性、加工性にすぐれ、化学工業や高級な食器、鉄道車両の本体としてつかわれる。切削や圧延を容易にするため、硫黄やセレンが添加されることもある。

4. 2相系ステンレス鋼

クロムが22または25%前後、ニッケルを4~6%、さらにモリブデンが2%程度くわえられたものが一般的。常温で、オーステナイトとフェライトの2つの組織が、ほぼ半分ずつ混在する。熱処理の条件を制御すると、機械的強度や耐食性の高い材料になり、おもに船舶や熱交換器など高温で腐食しやすい環境でつかわれる。

5. 析出硬化系

金属材料では、完全に溶解した液体から結晶ができることを晶出、固溶体から焼きなましや焼き戻しの熱処理によって、新しい組織ができることを析出という。もともとの組織を母相、新しくできる組織を析出相という。さらに、析出によって機械的強度が高くなることを析出硬化といっている。ステンレス鋼の熱処理で、条件をうまく制御すると、析出相が組織に適度に分散して、機械的性能が向上する。析出硬化系ステンレスは、クロムとニッケルのほかにアルミニウムや銅などを添加して、析出を効率的にする。

製鋼

V. ステンレス鋼の用途

ステンレス鋼は、耐食性が必要とされる石油精製所や化学工場のパイプやタンク、高温高圧の条件に対する強さが必要なジェット機、人工衛星に使用されている。外科用の機械や備品類はステンレス製が多い。また、ステンレス鋼は体液と反応しないので、骨折で骨の接合がむずかしいときに人工骨としてつかわれることもある。台所や食物を調理する場所では、調理器具はほとんどステンレス鋼である。ステンレス鋼の器具なら、食物に害をおよぼすことはなく洗浄も簡単である。

生体適合性材料

VI. ステンレス鋼の欠点

材料としての性能は高いが、ステンレスも万能ではない。製造コストが高くなるという経済的な問題のほかに、欠点もいくつかある。一般的なものとしては、硝酸などの酸化性の酸には高い耐久性があるが、塩酸などの非酸化性の酸には強いとはいえない。高温に熱すると表面に酸化物が発生して溶接しにくくなるという欠点もある。

フェライト系では、微量な不純物によって材料の性質が大きく変化するので、精密な成分管理が必要になること、切削や研磨などの加工が容易でなく、高精度の加工がしにくいという問題もある。