| 検索ビュー | 年代測定法 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
岩石や鉱物、遺跡の発掘物の年代をもとめる方法のこと。さまざまな岩石や鉱物の年代がわかれば、地球の歴史をたどることができる。過去のできごと、たとえば山脈の隆起、大陸の移動、生物の進化、気候の変化などは、すべて地殻の中に記録されているからである。
考古学でも土器などの年代をもとにして人類の歴史をさぐることにつかわれている。
| II. | 相対年代と絶対年代 |
19世紀には、時代の前後関係(相対年代)だけを明らかにすることがおこなわれていた。相対年代はおもに、地層がつみかさなっている順番を手がかりにして、くみたてる方法である。たとえば、みだれていない連続した地層では、上に重なっている層は下の層より新しい。これを「地層累重の原理」とよび、このように地層の順番を研究する学問を層序学、あるいは層位学という。
ある地域での地層の順番だけではなく、別々の地域にある地層どうしを対応させるためには、同じ化石をふくむ地層どうしを対比させる必要がある。それをもとにして、地質時代は大きく4つの「代」にわけられた。先カンブリア時代、古生代、中生代、新生代である。それぞれの時代は、さらにいくつかの「紀」にわかれている。→ 地質学
考古学では、石器や土器の形や特徴をもとにして、石器時代、青銅器時代、鉄器時代というある程度の文化年代に区分することがおこなわれている。日本では、旧石器時代、縄文時代、弥生時代などという。
相対年代だけでは、それぞれの時代の長さや地球のほんとうの年齢はわからなかった。絶対年代は発掘物の時代を自然科学的な方法でもとめた年代である。それがわかるようになったのは、20世紀にはいってからで、放射年代測定法などの新しい方法によって地質年代のほんとうの長さを知ることができるようになった。
年代を決定するには、絶対年代と相対年代をくみあわせる必要がある。
| III. | 放射年代測定法 |
絶対年代をもとめる方法として最初に確立されたのが、放射年代測定法である。1896年に放射能が発見され、放射性元素の性質がわかるとすぐに、年代測定につかわれるようになった。この方法では、不安定な放射性元素の原子が崩壊する速度が一定であるということを、地球の岩石の時間をはかる「時計」として利用する。放射性元素の崩壊速度は、その元素の原子の数が半分に減少するまでの時間、つまり半減期によってあらわす。
| 1. | 理論の基礎 |
ウラン、トリウムなどの放射性元素は、自然に崩壊して別の元素になったり、同じ元素の別の同位体になったりする。同位体とは、同じ元素で質量がことなる原子のことで、化学的・光学的な性質はかわらない。同じ元素の同位体を区別するために、たとえば質量数14の炭素を「炭素14」などと書く。
もとの放射性元素を母元素、崩壊してできる元素を娘元素という。たとえば炭素14のように1回の崩壊で安定な娘元素になる母元素も多いが、安定な元素になるまでに何段階もかかるものもある。ウラン235、ウラン238、トリウム232などは、そのような多段階の崩壊をする。
娘元素が安定であれば、母元素がすべて崩壊してしまうまで、娘元素がたまっていく。しかし、娘元素もまた放射性元素だった場合、娘元素ができる速度と崩壊する速度とが同じになるところで平衡状態になる。
| 1.A. | 崩壊の種類 |
放射性元素の崩壊にはいくつかの種類がある。
アルファ崩壊は、原子核がアルファ線を放射する崩壊で、アルファ線というのは陽子と中性子2つずつが結合した粒子、つまりヘリウムの原子核である(→ 原子)。アルファ崩壊をすると、原子番号(陽子の数)が2少なくなり、質量数(原子核の陽子と中性子の数)は4少なくなる。
ベータ崩壊では、原子核の質量数はかわらずに、電荷が1つふえたりへったりする。ベータ線を放出する物質のほうが、アルファ線をだす物質よりも、放射能が強い。
3つ目は、電子捕獲である。原子核に電子がとりこまれ、陽子とむすびついて中性子ができる。原子番号は1少なくなるが、質量数はかわらない。
4つ目はガンマ崩壊で、ガンマ線という電磁波を放射する。
| 1.B. | 半減期 |
放射性元素の性質をあらわすときに、半減期という言葉をつかう。半減期というのは、その元素の原子数の50%が崩壊するためにかかる時間のことである。半減期に達すると原子の数は2分の1になり、さらにもう1回の半減期がすぎると、のこっていた半分がさらに半分になり、もともとあった量の4分の1がのこる、というようにへっていく。半減期はそれぞれの放射性元素に固有の値であり、数十億年というものから数マイクロ秒のものまである。たとえば、炭素14の半減期は約5730年、ウラン238の半減期は約45億年である。
| 1.C. | 炭素14法 |
放射性炭素による年代測定法は、1947年にアメリカの化学者リビーらが開発した。考古学、人類学、海洋学、土壌学、気候学、地質学などの分野でよくもちいられる。
大気中の炭素14は宇宙線の照射によって生成され濃度がほぼ一定である。生体の中の炭素14も、植物は光合成によって大気をとりこみ、動物は食物連鎖によって植物とむすびついているので、生存しているときは、同じ濃度にたもたれる。その生体が死ぬと、生体の中の炭素は大気中の二酸化炭素と交換されなくなるが、炭素14はある速度で崩壊しつづける。このことを利用して、生体が死んだときの年代をはかることができる。
炭素14は崩壊速度がはやいので、もとめられる年代はおよそ5万年前までである。古いものほど、測定の誤差は大きくなる。
この方法はさまざまな有機物の年代決定につかえるが、使用する半減期の値の誤差や、大気中の炭素14濃度のばらつきがあると、その精度はさがる。有機物が死んだあとにほかの物質がまじったために、誤差ができることもある。放射性炭素の半減期は5570±30年とされていたが、1962年に5730±40年とあらためられた。したがって、それ以前にもとめた年代を修正しなければならなかった。そののち、核実験などによって大気中に放射能が拡散されたために、放射性炭素による年代は50年を起点として計算するようになった。
測定された年代は暦年代だけでなく、たとえば691±31B.P.のようにあらわされることも多い。B.P.はbefore physics(物理年前)の略である。
| 1.D. | 加速器質量分析法(AMS法) |
炭素14法が崩壊した炭素の質量数をかぞえるのに対して、のこっている炭素14の質量数をかぞえる方法である。たとえ試料が1mgでも測定することができるので、骨や歯、髪の毛、布、紙、氷などひろい範囲の分析ができる。また、測定にかかる時間も数分~数十分と短い。約6万年前までの測定ができる。
イタリア北西部のトリノ市にはキリストの遺骸をつつんだとつたえられている聖骸布(せいがいふ)がある。1987年に布の年代測定がこの方法でおこなわれ、1273~88年ごろにつくられた布であることがわかっている。
| 1.E. | カリウム・アルゴン法 |
カリウムの放射性同位体カリウム40が、崩壊してアルゴン40になることを利用する方法で、岩石の年代決定にひろくもちいられる。カリウム40の崩壊では、このほかにカルシウム40もできるが、年代決定にはつかわれない。カリウム40は雲母、長石、ホルンブレンドなどの鉱物に多くふくまれるため、さまざまな岩石の年代をこの方法で決定することができる。
アルゴンは岩石が125°C以上に熱せられると、岩石から遊離してしまう。そのため、この方法はおもに火成岩や火山灰などを測定するのにもちいられる。測定できる年代は約10万年前までである。
| 1.F. | ルビジウム・ストロンチウム法 |
古い地球の火成岩や変成岩、また月の岩石の年代決定にもつかわれる。480億年の半減期をもつルビジウム87がベータ崩壊によってストロンチウム87になることを利用する方法である。
娘元素のストロンチウム87は、アルゴンのように少しの加熱で離脱することはないので、カリウム・アルゴン法でもとめた年代を確認するためによくもちいられる。この方法で測定できる年代は1000万年以上前までである。
| 1.G. | トリウム230法 |
炭素14法がつかえる範囲よりも古い、20万年前までの海洋性堆積物(たいせきぶつ)やサンゴ礁などの年代決定につかわれる。トリウム230はイオニウムともいうが、ウラン238が崩壊する過程でできる同位体で、半減期は8万年である。トリウム230は海水中でつねに一定の濃度であり、一定の割合で海底の堆積物の上に沈殿することから、炭素14と同じように年代をもとめることができる。
| 1.H. | ウラン・鉛法 |
半減期45億年のウラン238は鉛206へ、半減期7億年のウラン235は鉛207に崩壊する。この半減期の違いをもちいて年代をもとめる方法がある。岩石鉱物は形成された年代によってウラン235と238の比がことなるので、鉛206と鉛207との比から、年代をだすことができる。この方法は先カンブリア時代くらいのひじょうに古い岩石に適している。
そのほかに半減期140億年のトリウム232の鉛208への崩壊も年代測定にもちいることができる。
| 1.I. | そのほかの放射性元素による方法 |
サマリウムとネオジムとの同位体をつかうサマリウム・ネオジム法では、1億年以上以前の岩石の年代がもとめられる。また、レニウムとオスミウムとの同位体の量をはかる方法もある。
| 1.J. | フィッショントラック法 |
フィッショントラック法は、ウラン238の自然核分裂によって、周りの鉱物やガラス質物質につく傷の跡を利用する方法である。天然のフィッショントラックの密度を、人工的につくったフィッショントラックとくらべて、年代を計算することができる。
この方法がもっとも適しているのは、雲母、テクタイト、隕石などである。ただし、高温に熱せられたり、地表で宇宙線にさらされたりした岩石については、正しい年代がえられないこともある。日本では、黒曜石の噴出年代による産地の推定や考古遺跡の年代測定にこの方法が効果をあげている。
| 2. | そのほかの絶対年代測定法 |
今では、放射年代測定法以外の絶対年代測定法も、いくつか開発されている。時間とともにすすむ化学反応を利用したり、1年ごとに変化するものをつかったりする方法である。
| 2.A. | 年輪年代法 |
木の年輪の幅が、気温や雨量などの気候変化によって1年ごとに変化することに着目して、絶対年代を測定する方法。まず、伐採年代がわかっている多数の木材の年輪を詳細にしらべ、地域や樹種による長期間にわたる年輪幅の変動パターンを作成する。これが年輪標準パターンで、伐採年を知りたい木材があれば、そのパターンと年輪を照合することによって、伐採年をわりだす。
ただし、表皮や表皮に近い部分の年輪がのこっていないと伐採した年代の確定年あるいは推定年を判定することはできない。この場合、最外辺部にある年輪の年代は、資料木材の推定年代の上限をしめすにすぎない。この測定法は考古学だけでなく、建築史や美術史に関連する分野でも応用され、逆に変動パターンから古気候をしらべることもできる。
アメリカでは、早くからこの方法をつかって、先住民の研究にもちいられている。アメリカでは長寿なことで知られるヒッコリーマツ(→木の「生長の過程」)をつかい、今から8000年以上前までの年輪標準パターンがまとめられている。ドイツでは、ナラ類から同じくらい古い時代にさかのぼる標準パターンができており、フランスや東地中海周辺では6000年程度の標準パターンができている。
日本は湿気が多く地形も複雑で、成育環境の差が大きいため、パターン化された物差しをつくることはむずかしいとされてきた。しかし1980年代以降、奈良文化財研究所(旧、奈良国立文化財研究所)を中心に、スギ・ヒノキ・コウヤマキの3種の年輪年代学研究がすすんでいる。現在では、スギが今から前1313年まで、ヒノキが前912年まで、コウヤマキでは後741年から後22年までの1年単位の暦年標準パターンが完成している。
近年の成果では、2001年(平成13)2月に法隆寺五重塔の心柱(しんばしら)につかわれていたヒノキ材の年代が594年(推古2)とされ、670年(天智9)の焼失後に再建されたとする定説と矛盾し、新たな謎(なぞ)として話題になった。また、滋賀県甲賀市の宮町遺跡では、出土した宮殿クラスの掘立柱が年輪年代法により、紫香楽宮創建時期に近い743年(天平15)秋ころ伐採されたものとわかった。この結果から、宮町遺跡は紫香楽宮跡の可能性がきわめて高く、それまで紫香楽宮跡とされてきた場所は甲賀寺跡とされる証拠のひとつとなった。
東大寺南大門の仁王像の解体修理時には、そのヒノキ材の年輪年代測定がおこなわれ、大仏殿などの用材とおなじく、鎌倉時代初期の1196年(建久7)~1201年(建仁元)に伐採されたものがつかわれていることが判明、これは1203年とされる仁王像の完成年と整合する結果だった。さらに、山口県山口市の法光寺(旧、安養寺)の阿弥陀如来座像台座と同じ伐採年であることも判明し、東大寺の再建用材を調達するため周防におもむいた重源が、その拠点として創建したという寺の伝承を裏づけた。
ほかにも、大阪府の池上曽根遺跡の大型建物跡出土の直径50~60cmもあるヒノキ柱の1本が前52年に伐採されたことがわかった。土器様式などから推定されていた、この建物の年代より100年近くも古い時代に伐採された材木がつかわれていたことは、学界に衝撃をあたえた。これは学会に土器編年と年輪年代による絶対年代の整合性を検討させるきっかけのひとつになった。また、古代城柵のひとつ秋田県大仙市の払田柵跡(ほったのさくあと)から出土した柵用材のスギは、801年(延暦20)に伐採されており、不明な創建時期の貴重な手がかりとなっている。
→ 木
| 2.B. | 氷縞年代法 |
絶対年代をきめるために、はやくからもちいられていた方法で、20世紀の初めにスウェーデンの科学者がはじめておこなった。氷縞とは、氷河がとけるときに湖などの底に堆積した粘土と砂の層であり、1年ごとに縞(しま)ができている。この縞をかぞえると、更新世の氷河による堆積物の年代をはかることができる。この縞模様は、気候の変化によって厚くなったり、うすくなったりする。このことを利用して氷河が後退した年代を知ることができる。→ 氷河時代
| 2.C. | 熱ルミネセンス法(TL法)と電子スピン共鳴吸収法(ESR法) |
放射線の照射によってできたフリーラジカルをはかる方法である。
熱ルミネセンス法は、鉱物をある温度以上に加熱すると、それまでにうけた天然の放射線量に比例する量の光をはなつ、熱ルミネセンスという現象を利用する方法である。天然の放射線量がつねに一定であるとすると、石英などの鉱物の熱ルミネセンスを測定すれば、最後に加熱された時期をきめることができる。たとえば、土器の年代を熱ルミネセンス法で決定するということは、その土器が焼かれたとき以来ずっとうけてきた放射線のエネルギー量をはかるということになる。この方法は数十万年前までの年代決定にもちいられる。
電子スピン共鳴吸収法は天然の放射線によってたくわえられたフリーラジカルの量をはかる。この方法で、貝殻などの数十万年前の年代測定ができる。