| 検索ビュー | 脳下垂体 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
下垂体ともいわれる。脊椎動物にみられるほかの内分泌腺の働きを支配する腺。脳下垂体からでるホルモンは、他のほとんどすべての内分泌腺を刺激したりおさえたりしている。また、体を成長させるホルモン、水分のバランスを調整するホルモンも分泌される。
→ 内分泌系:ホルモン
脳下垂体は、視床下部近くの、頭骨底(蝶形骨)の鞍形のへこみ(トルコ鞍)の中にあり、茎状の組織によって脳の底にくっついている。赤みがかった灰色の豆の形をした小さな器官で、腺の性質をもった前葉と神経の性質をもった後葉からできている。
前葉は、咽頭のいちばん上の部分から発生した上皮細胞(→ 上皮)の集まりで、上皮細胞ひとつひとつの間を血管がとおっている。後葉は、脳の底の部分から発生したもので、神経の性質をもった結合組織と分泌組織でできている。前葉と後葉の間には前葉と同じものから発生した中葉とよばれる部分がある。
| II. | 脳下垂体前葉 |
牛や羊、豚の脳下垂体前葉から、体内の10~12の機能を調整するホルモンがとりだされて分離精製され、アミノ酸からできた8種類のペプチドホルモン(→ ペプチド)であることが確認された。
成長ホルモン(GH)は、ソマトトロピンあるいはSTHとよばれ、正常に骨がのびていくためには不可欠なホルモンで、思春期になって性ホルモンが性腺からでるようになると成長ホルモンは作用しなくなる。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺が正常にはたらくようにし、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は、副腎皮質の活動をコントロールしたり、ストレスに抵抗して体をととのえる反応をおこしたりする。プロラクチンは乳腺刺激ホルモンともよばれ、乳腺に作用して乳汁分泌をうながす。妊娠中にほかの脳下垂体ホルモンや性ホルモンの刺激によって乳汁をだす準備ができている乳腺組織にだけ作用する。
卵胞刺激ホルモン(FSH)は、女性では卵巣を刺激してグラーフ卵胞をつくり、男性では精子をつくるように刺激する。黄体形成ホルモン(LH)は、女性では排卵後に卵胞ホルモンをつくるようにうながしたり、乳汁の分泌を開始させる。また、男性では精巣がテストステロン(男性ホルモン)をつくるようにうながす。
1975年、実験動物では、ストレスをうけると天然麻薬の作用をするエンドルフィンが脳下垂体からでることが発見された。エンドルフィンとACTHとははじめは1つの大きなタンパク質をつくっていて、大きなタンパク質のまま分泌されるが、その後それぞれにわかれて作用をする。エンドルフィンとACTHはともにストレスがあるとでてくるホルモンで、一体になって分泌されることで2つのホルモンの生理活性が調和的にはたらく。
大きなタンパク質であるプロホルモン(前ホルモン)には、メラニン細胞刺激ホルモンもふくまれている。この小さなペプチドは魚類や両生類の皮膚の色を調節するホルモンと構造が似ているが、ヒトではどのような働きをしているかはわかっていない。
視床下部から小さな血管をとおって脳下垂体前葉におくられた化学伝達物質が、前葉のホルモン活性を調節している。
1950年代にイギリスの神経学者G.ハリスは、視床下部から脳下垂体に血液をおくっている血管を切断すると、脳下垂体の働きがわるくなることを発見した。64年には、成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモンのチロトロピンや、性腺刺激ホルモンの分泌を調節する、ホルモン放出因子とよばれる化学物質が視床下部にあることがわかった。69年にアメリカの内分泌学者R.ギルマンらが、脳下垂体から甲状腺刺激ホルモンがでるように刺激するチロトロピン放出因子を分離して、その性質をつきとめた。
その2、3年後には彼のグループとアメリカの生理学者A.シャリーのグループが、LHとFSHがでるように刺激する黄体形成ホルモン放出因子と成長ホルモンがでないようにはたらくソマトスタチンを分離した。このように脳と内分泌系とはつながっていることをあきらかにした業績によって、1977年に彼らはともにノーベル生理学・医学賞をうけた。また、ヒトのソマトスタチンは、組みかえDNAを細菌に導入してつくられた最初の遺伝子工学の産物のひとつである。
エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンは、経口避妊薬(ピル)にもはいっているが、これらのホルモンの作用は視床下部からでる放出因子の働きを考えるとよくわかる。卵巣が、受精できる成熟した卵子細胞をつくるまでには、ヒトの正常な月経周期で数回のホルモン変化がおきる必要がある。
まず、体のエストロゲン濃度が低くなると、卵胞刺激ホルモン放出因子(FRF)が脳下垂体にながれていって卵胞刺激ホルモン(LH)の分泌を刺激し、エストロゲン濃度が高くなる。プロゲステロンの濃度が低くなったときも同じようにフィードバックがかかって、黄体形成ホルモン放出因子(LRH)がでて黄体形成ホルモンが分泌され、プロゲステロンの濃度が高くなる。
卵巣で成熟した卵胞がエストロゲンをだすとエストロゲン濃度が高くなり、視床下部にはたらいてFSHを一時つくらないようにし、プロゲステロン濃度が高くなると脳下垂体がLHをつくらないように視床下部を刺激する。このように、ホルモンの分泌パターンが変化して受精できる卵胞がつくられる。
経口避妊薬を毎日のんでいて、合成エストロゲンと合成プロゲステロンがいつも体の中にあったり、エストロゲンとプロゲステロンを注射したりすると、視床下部はこれが正常なホルモンの刺激であるかのようにみなす。そのため、卵巣は卵胞を成熟させないので、月経がなくなり避妊できる。
| III. | 脳下垂体中葉 |
下等な脊椎動物では、脳下垂体の中葉は皮膚の色をかえる働きをするメラニン細胞刺激ホルモンをだす。ヒトでは、おさないときのほんの短い期間と妊娠中にあらわれるが、どんな働きをするのかわかっていない。
| IV. | 脳下垂体後葉 |
後葉からはバソプレシンとオキシトシンの2種類のホルモンがでる。バソプレシンは抗利尿ホルモンともよばれ、腎糸球体にはたらいて腎臓をとおる血漿から水を吸収させ、尿量をへらす。オキシトシンは子宮や腸や細動脈の平滑筋を収縮させる作用があり、妊娠の最終期には胎児がでてくるように子宮の筋肉を収縮させたり、出産後は乳腺から母乳が放出されるようにする。1953年にオキシトシンが化学的に合成されたが、これが最初の合成脳下垂体ホルモンである。バソプレシンは56年に合成された。
| V. | 脳下垂体の病気 |
腫瘍、敗血症、血栓、感染症のあるものなどが原因となって、脳下垂体が正常にはたらかなくなることがある。脳下垂体前葉からホルモンがじゅうぶんにでないと、小人症、小先端症、シモンズ病、フレーリッヒ症候群などをおこす。
脳下垂体前葉のホルモンの欠乏が子供のときにおこると小人症になり、思春期におこると手足の骨が細くて弱い小先端症になる。シモンズ病は脳下垂体前葉がひろい範囲で傷つくとおこる病気で、老化がすすみ毛や歯がぬけ、貧血ややせの症状がみられ、死亡することもある。
フレーリッヒ症候群は、前葉のホルモン欠乏や後葉あるいは視床下部の障害が原因になって肥満、小人症、性的発達の遅れなどの症状があらわれる。前葉ホルモンの影響をうけている腺も、脳下垂体前葉ホルモンが欠乏すると正常にはたらかなくなる。
前葉ホルモンのひとつソマトトロピンが分泌されすぎると慢性的に進行する先端巨大症をおこし、体のある部分が大きくなる。後葉ホルモンが欠乏すると尿崩症になる。