認知心理学
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認知心理学
VII. 知識の体制化

本来これは意味記憶や記憶表象、コンピューター科学の文脈では知識表現knowledge representationなど、長期記憶の枠組みに位置づけられるものであるが、ここでは長期記憶が、知識としてどのように体制化されているか、また知識は、現在の認知活動にどのように稼働されるかに関する研究の一端として簡単に紹介する。

1. カテゴリーの体制化

われわれはさまざまな事物について概念を形成し、それによって事物の本質的な特徴を理解している。本質的な特徴とは、その事物を定義するものといいかえてもよい。たとえば三角形とは「内角の和が2直角となる図形」、円とは「中心からの距離が一定である点の集合」であり、逆にこの定義をみたすものはそれぞれ三角形や円という概念にふくまれるものである。

しかしながら、われわれが日常経験する自然概念(カテゴリー)は、みなこのように明確に定義されているかといえば、かならずしもそうではない。ロッシュは、自然物のカテゴリーは、それぞれ辞書的定義によって、たがいの境界を明確にする形で、体制化されているわけではないことを明らかにした。

ロッシュはまず「基礎カテゴリー」という概念を提示する。これは、三毛猫、シャム猫、ペルシャ猫、シマ猫など多様な猫が一般には「ネコ」という同一名でよばれるように、個々具体の個物が自然界でとる自然なまとまりのことをさす。鳥、魚、リンゴなども同様に基礎カテゴリーである。ロッシュによれば、それぞれの基礎カテゴリーは、複数の上位カテゴリーや下位カテゴリーをもつ。ネコの場合であれば、動物や哺乳類がその上位カテゴリーであり、上にしめした三毛猫、シャム猫、等々がその下位カテゴリーである。

1.A. 属性

下位カテゴリーに属する個々の事物は、それぞれいくつかの属性をもっている。これらはその個物にだけある特徴もあれば、ほかの下位カテゴリーに共通するものもある。その点からすれば、基礎カテゴリーは下位カテゴリーの個物に共通する属性をもつと同時に、その属性がほかの基礎カテゴリーの属性との示差性を明らかにしているということになる。

基礎カテゴリーである「ネコ」は、特有の形、大きさ、泣き声をもち、俊敏さ、体や毛並みの柔らかさ、肉食などの特徴や属性をもち、それらの一部は基礎カテゴリーの「イヌ」と重なるにしても、ほかの多くの属性は「イヌ」のそれとことなることによって、われわれは「ネコ」を「イヌ」と見まちがえることはまずないのである。

ロッシュの考え方の特徴は、知覚世界の中の事物は属性の束によって特徴づけられ、属性の束の相違がカテゴリー間の差異を説明するとみるという点にある。

1.B. 族類似性

ロッシュはさらに同一カテゴリー内の成員間の関係を考え、個々の成員は「族類似性」(family resemblance)によってむすばれているとみる。この考えの背後には、あるカテゴリー内の成員は、その典型性の程度において順位づけられる、という考えがある。たとえば、「鳥」というカテゴリーにおいて、スズメやウグイスは、その形状や飛翔(ひしょう)の形態などの点からして、だれもが「鳥」カテゴリーの典型的成員だと考えるが、定義の上ではたしかに鳥カテゴリーにふくまれるものであっても、フクロウやニワトリ、さらにはダチョウになると、典型性の点では、順位は明らかに低くなると考えるだろう。

典型性の高い成員どうしは、共通属性を多くもち、したがって族的類似性が高い。この原理にもとづけば、同一カテゴリー内の成員を2次元空間に配置することが可能になる。実際、ある個物があるカテゴリーの成員であるかどうかをできるだけはやく判断させるとき、その反応時間は、典型性が高いほどはやいことが知られている(典型性効果)。

2. 意味(命題)ネットワーク理論

概念や名詞の意味を考えるときに、意味特徴semantic featureの集合によってそれを表現することが、これまで幾度となくこころみられてきた。たとえばスミス、およびショーベンとリップスは、コマドリとニワトリと鳥の意味を意味特徴によって表現することをこころみた。それによれば、そのいずれも「うごく」「翼をもつ」「羽毛がある」という共通する意味特徴をもついっぽう、「飛翔する」は、コマドリと鳥に共通するが、ニワトリは、この意味特徴をもたないこと、また「さえずる(囀り)」や「小さい」という特徴もニワトリはもたないことなど、先のロッシュの属性の集合という考えに近い整理が可能になる。

彼らはさらに、それぞれの特徴に0から1の間の数値による重みづけを考えた。つまり数値の1.0は、その事物を特徴づけるうえで、その意味特徴が、本質的に重要であることを意味する。たとえばニワトリの意味の理解にとっては、それが「飛翔する」という特徴の重みづけが低いというばかりでなく、むしろ「あるく」とか「トサカをもつ」などの特徴の重みづけが高い、ということが重要だということになる。この確率論的意味特徴説は、われわれの言葉の意味理解の一端を比較的よく説明するものとうけとめられている。

意味(命題)ネットワーク・モデルを、コンピューターによる言語理解モデルとして、最初に提唱したのはキリアンで、このモデルはのちの研究に大きな影響をおよぼした。この意味(命題)ネットワーク・モデルには、いくつかの特徴がある。まず意味ネットワークの要素は、ノードとよばれる「点」でしめされ、それは上位カテゴリーや基礎カテゴリー、あるいは下位カテゴリーなど、記憶における個々の概念をあらわす。そのようなノードとノードが、矢印(方向性)をもった線でつながれて、ネットワークが構成される。まず個々の概念(ノード)は「もつ」「できる」「である」の3種類によって表示される。つまり、ある概念はいくつかの属性を「もつ」。またその概念は、いくつかの機能や働きをすることが「できる」。また、ある概念と他の概念との関係は、一方が他方の事例「である」という関係や、一方が他方の部分集合「である」という関係によってしめすことができる。

2.A. 階層構造

こうして階層構造をなすネットワークが構成される。一例としてカナリアとダチョウ、鳥、動物の意味的ネットワークを考えてみよう。まず動物は、生物の部分集合であり、頭や足をもち、食物を食べることができ、代謝や生殖の機能をもつ。鳥は、動物の部分集合であり、羽や翼をもつが、とぶことができるものもあれば、できないものもある。カナリアは、その鳥の部分集合であり、黄色い色をもち、とぶことができ、目の前のカナリアはその事例である。他方、ダチョウは同じく鳥の部分集合であり、羽と翼をもつが、とぶことができない。

このネットワークの特徴のひとつは、カナリアの場合、食べ物を食べることが「できる」という特徴が、そのノードに直接記入されていないにもかわわらず、間接的に規定できることである。つまり、動物は、食べ物を食べる。鳥は、動物の部分集合であり、カナリアは、鳥の部分集合である。それゆえ、カナリアは、物を食べるという関係が規定されてくる。このように、部分集合の考えによって、意味が階層化されていると考えれば、コンピューターに言葉や知識を記憶させるときに好都合であることは明らかである。

2.B. 活性化拡散モデル

コリンズとロフタスは、キリアンのネットワーク・モデルにもとづいて、活性化拡散モデルを提唱した。このモデルでは意味的に類似したものが、接近して、配置され、共通特徴をより多くもつ概念ほど、多数の項目とむすびあわされている。この理論では、このようなネットワークにおいて、ある概念が活性化されれば、それがネットワークにそって拡散していくと考える。したがって、ひとつのノードが活性化されれば、その近隣にあるノードも活性化されることになる。

この理論モデルによって、「カナリアは鳥だ」と「ダチョウは鳥だ」の文章の真偽判断の速度が、前者のほうが後者よりもはやいという典型性効果など、種々の実験結果が、よりよく説明できることがしめされてきた。

この活性化拡散モデルは、文章理解にも有効である。たとえば「カナリアは鳥である」という文章を理解するときに、まず主語の「カナリア」によってカナリアの意味(ノード)が活性化し、それが鳥概念ノードに拡散する。したがって、読みが鳥のところにきたときのその処理速度は、すでに鳥の意味が活性化しはじめているので、鳥という刺激を単独であたえられたときよりもはやいと考えられる。つまり、先のカナリアが後の鳥の意味処理にある種のプライミング効果をもつわけである。

カナリアとダチョウが鳥であるかどうかの真偽判断速度の違いも、活性化拡散の度合いがカナリアとダチョウとでことなると考えれば、うまく説明がつく。同じことは、言語刺激についてもいえる。2つの言語刺激を少しの時間間隔をおいて提示し、それぞれの言語刺激が有意味であるか無意味であるかの判断をもとめる実験で、2つの言語刺激が意味的に連関していれば、2番目の刺激への反応が有意にはやくなる。このような意味的プライミング効果を説明するうえに、この活性化拡散モデルが有効であることは明らかである。

3. スキーマとスクリプト

長期記憶にたくわえられた知識や意味の情報処理を考えていくうえで、ラメルハートのスキーマ理論やシャンクのスクリプト理論はきわめて重要な意味をもち、またこれらの概念はほかの研究分野にも大きな影響をあたえてきた。とくに認知心理学においてこれらの概念が重視されるようになったのは、それがコンピューター言語で表現できる知識表現システムにおきかえられるからである。

3.A. ラメルハートのスキーマの定義

スキーマという概念そのものは、バートレットの古典的な研究にすでにみられる。人はある事柄を記憶するときに、それを何かに関連づけて記憶しようとするが、その関係づけをもとめるときの既得の知識構造のことを、バートレットはスキーマとよんだ。それを認知心理学の枠組みの中でつかえる概念に練成したのがラメルハートやシャンクである。たとえば、「買い物をする」というのは、店にでかける、品物をさがす、どれを買うかきめる、お金をはらうという一般的な構造をもつから、ひとつのスキーマである。

一般的に何かを買うということはなく、買い物はどこかで何かを買うという行為のはずである。店はいくつもあり、買うべき品物も無数にあるから、具体的な購買行動は、この一般的スキーマの各項を変数とみて、それを一定の値(デフォルト値)でおきかえていく行為だと考えられる。

さらに、スキーマは、埋め込み構造ないし包含関係によって、いくつかのスキーマが相互に関連する形にでき、その意味で、スキーマは知識のかたまりである。これがラメルハートのスキーマの定義である。

3.B. シャンクのスクリプトの定義

他方、シャンクは、レストランで食事をするという行為は、店にでかける、いすにすわる、メニューをみる、ウエイターにオーダーするなど、一連の連鎖した行為、つまりスキーマからなりたっており、したがって、通常のわれわれのレストランでの行為は、このレストラン・スキーマのプログラムにしたがってなされていると考え、このようなスキーマを俳優が台本にあわせて演技するときの台本になぞらえて「スクリプト」とよんだ。

われわれは世界でのさまざまな経験をスキーマやスクリプトの形に統合して長期記憶にたくわえ、また、今現在の認知や行動を、既得のそのようなスキーマやスクリプトをガイドに実行している可能性がひじょうに高い。つまり、過去の経験を知識として統合してたくわえつつ、現行の認知をそれによって枠づけるというように、スキーマやスクリプトは二重の機能をもっている。

こうして、スキーマやスクリプトに関する認知研究が多数生みだされることになった。また、文章読解など、心理学的に重要な認知研究のテーマでありながら、古典的な研究の枠組みのもとではじゅうぶんにとりくめなかった問題が、これらの概念をもちいることによって徐々に解明されつつある。

4. 認知心理学の拡張

これまで、知覚過程や記憶過程など、今日の認知心理学研究の中でももっとも基礎的な部分について解説をこころみてきた。この領域にかぎっても、最近の新しい研究動向を詳細に紹介することはむずかしい。知覚や記憶の領域以外でも、言語心理学の領域や思考心理学の領域で数多くの認知研究がなされており、とくに近年はコンピューター・シミュレーションをもちいた研究が盛んになってきている。そのような認知心理学をその全体にわたって知ろうと思えば、いくつか出版されている認知心理学シリーズを通読する必要がある。またさらに、ここに紹介したモデルもふくめて、今日の最先端研究における認知モデルをじゅうぶんに理解するためには、狭義の認知心理学だけでなく、よりひろい認知科学の基礎知識、つまり情報処理理論(情報理論)や人工知能など、コンピューター科学の基礎知識が必要になり、さらに神経生理学などの基礎知識も必要になってくるだろう。