| 検索ビュー | 釉薬 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
釉(ゆう:うわぐすり)ともいう。焼き物の表面をおおうガラス状の被膜。その基本的な原料は岩石と灰で、1000°C以上の高温で焼成されることにより溶融してガラス状の膜となり、器の表面などに付着する。施釉の効果は、吸水性のある陶器素地(きじ)が液体や気体を吸収しないようにする、もろい器体の強度を高める、器の表面をなめらかにして汚れを落ちやすくする、美的装飾など、さまざまある。
釉薬は、西アジアでガラス製造技術を応用して誕生したとされ、東へはシルクロードやインド洋経由でアジア諸国につたえられ、西へは地中海を経由してヨーロッパに伝播(でんぱ)した。このように東西に広まった施釉技術は、各地の風土によって多彩に変化し、独自の発展をとげた。
一方、ユーラシア大陸の東部に位置する中国でも古くから緑釉、褐釉の陶器が生産されたとされるが、その起源は明らかでない。中国では高温での焼成技術が早くから発達して硬質な焼き物がつくられ、独自の施釉がおこなわれた。原料にふくまれる金属成分で1000°C以上の高温に耐えるものはかぎられるため、鉄や銅を呈色剤とした単色釉の陶器や、青花(せいか)とよばれる磁器染付などがつくられた。この施釉技術は朝鮮半島をへて日本にもたらされる。
| II. | 日本の釉薬の発達 |
| 1. | 自然釉の時代 |
日本における自然釉の出現は5世紀代といわれ、大阪府の陶邑(→ 陶邑古窯跡群)や、名古屋市東山地区などから、表面にガラス状物質が付着した須恵器が出土している。須恵器は当時、山の斜面を縦にほった窖窯(あながま)で高温焼成されたもので、燃料となる草木中にふくまれるケイ酸塩化合物や金属などの成分がとけて自然釉の現象をもたらしたと考えられる。
燃料となる草木は、水分のほか、有機質の脂肪酸類や繊維類、無機質成分などからなり、ほかに、成長過程で根から吸収した土中の有機質成分をもふくむ。そのうち、ケイ酸塩、アルカリ金属類のカリウムやアルカリ土類金属のカルシウム、鉄、ニッケルといった金属成分は植物の体内で分解されずに蓄積される。これらが釉の主成分であり、焼成時の熱化学反応によってガラス状物質に変化するのである。なお、自然釉が淡黄色または淡青色を呈するのは、土中に多くふくまれている鉄成分のためである。
| 2. | 施釉陶器の出現 |
| 2.A. | 灰釉 |
自然釉の発見により、灰を器面にふりかけて焼成する技術へ発展した。その古い例として、7世紀後半に猿投山(さなげやま)周辺(現、名古屋市の東方)でつくられた灰釉陶器(かいゆうとうき)がある(→ 猿投窯)。これは「原始灰釉」ともよばれており、釉の原料として灰をくわえる「灰釉」の調合、施釉技術が生まれるのはさらに後のことである。
| 2.B. | 緑釉、三彩 |
灰釉陶器の普及と同じころ、中国、朝鮮地方から色あざやかな緑釉陶器の製造技術が日本に伝播する。金属成分をふくむ岩石を呈色剤として原料にくわえた最初の釉薬である緑釉は、銅を呈色剤とした鉛ガラス系の釉で、1000°Cをこえない低温で焼かれた。飛鳥地方(現、奈良県明日香村を中心とした一帯)の7世紀代の遺跡から出土したものが古い例である。これらの緑釉陶器は中国の唐からの伝来品を模倣したもので、おもに祭祀器(さいしき)としてもちいられた。緑・褐・白の3色でいろどられた唐三彩を模倣した「奈良三彩」といわれる陶器もつくられた。緑色の釉は銅を呈色剤に、褐色の釉は鉄成分を多くふくんだ赤土などを呈色剤にしており、基礎釉となる白とかけあわせて三彩としている。このように、中国から伝来した器を模倣することによって、釉薬の開発、施釉や装飾の技術がめざましく発展することになった。
| 2.C. | 鉄釉 |
中国・朝鮮との交流が深く、地域的に良質な原料にめぐまれて、須恵器などが古くから焼かれていた日本では、鉄を呈色剤とした施釉技術をうけいれることは容易であった。たとえば、鎌倉時代から室町時代にかけての瀬戸では、宋(中国)や朝鮮半島からつたわった天目を模倣するとともに、築窯技術、高温焼成の技術を発展させて、古瀬戸釉を生みだした。また、鉄分が多い粘土である鬼板(おにいた)や褐色土などの原料が手に入りやすいことから、黄瀬戸や青磁などがつくられるようになり、鉄釉系の施釉技術は幅広くなった。
| 3. | 施釉技術の成熟 |
室町後期から安土・桃山時代にかけて、瀬戸や美濃で施釉技術はさらに成熟し、茶の湯の発展によって華やかで洗練された施釉陶が数多くあらわれる(→ 瀬戸焼:美濃焼)。鉄釉をほどこしたものを焼成中にひきだす漆黒釉の「引出黒(ひきだしぐろ)」、銹絵(さびえ)の上に長石を原料とした泡状白色釉がかかった志野、志野でも、下地にかけた鬼板の鉄が長石釉とまざって鼠色(ねずみいろ)を呈するものがあり、これは「鼠志野」とよばれる。これら鉄釉の幅広い活用のほか、灰釉をもちいた黄瀬戸、緑釉の染め分けに銹絵をきかせた織部なども知られる。
| III. | 世界の釉薬 |
白色磁器にふさわしい白い素地や高火度にたえる土にめぐまれた東アジア諸地域とちがって、ギリシャ、ローマ、エジプトなどの地中海沿岸地域では、塩分や鉄分を多くふくむ赤みの強い土壌が多い。これらの土は高温での焼成にはむかないため、低温焼成で焼き締まる釉組成が発達した。使用する釉薬はおもに、鉛やアルカリ金属類であるナトリウム、カルシウムなどをベースにしたガラス素地に、呈色剤となる金属顔料をまぜたものである。焼成温度は800°Cから1000°Cまでで、低温焼成であるため金属原料自体は溶融せず、したがって釉色は色あざやかな状態で表現でき、また細部にまで装飾できる。
中国など東洋でつくられた白色の焼き物に魅せられたヨーロッパ諸国は、赤みの強い粗土の素地表面に錫釉(→ 錫)をかけて白色下地をつくり、そこに絵画的な装飾をほどこした。イタリアのマヨリカ陶や、中国からつたえられた芙蓉手(ふようで)などを模倣したイランの芙蓉手、オランダのデルフト陶といった軟質陶器はその典型的な例である。
1709年、ドイツの錬金術師ベットガーの発明によりヨーロッパでも磁器の焼成がはじまり、施釉技術は大きく変化する。磁器の焼成温度は1300°C以上と高いが、もともとの施釉は低温でおこなわれていたため、繊細な描写を必要とする上絵は800°Cぐらいの低温で焼かれ、この方法は現在もひきつがれている。上絵にもちいる釉薬(上絵具)の原料もほとんどかわっていない。これらの釉は低温度で焼き締まるため変質が少なく、その原料加工は比較的容易である。あざやかな色彩を表現できるもので、磁器の上絵付用の絵の具として広くつかわれている。
| IV. | 呈色の要因―呈色剤と焼成法 |
一般に釉薬は、岩石にふくまれる金属を呈色剤として、長石や灰、素地となる土成分などとまぜることによりつくられ、これらのバランスによって、色合い、粘性、ガラス質の透明感、硬さ、素地との相性などが決定される。基本的に、釉と素地の熱膨張率がほぼひとしくなるように調製する必要がある。また、釉の呈色には、原料の組成だけでなく、焼成の温度や炉内の状況などが大きくかかわってくる。ドイツの化学者ヘルマン・ゼーゲル(1839~93)は、釉の調合比を客観的にあらわす化学式「ゼーゲル式」や、陶磁器の焼成温度を測定する「ゼーゲルコーン(ゼーゲル錐)」などを発明して、現在の施釉技術の確立に貢献した。
| 1. | 鉄の呈色作用 |
黄褐色の黄瀬戸とあわい青緑色の青磁は、一見、組成のことなる釉薬がもちいられているように思えるが、基本的な原料組成は同一で、呈色剤である鉄の含有量はともに2~3%。焼成する状態によって、これほどちがった色になるのである。
焼成状態を左右するのは供給される酸素の量である。酸素量がじゅうぶんに多い状態での焼成を酸化炎焼成といい、酸素が不足した状態での焼成を還元炎焼成という。黄瀬戸が黄褐色を呈するのは、空気(酸素)を豊富にあたえられて酸化炎焼成される際に釉の表面で鉄の酸化反応が生じるためである。一方、同じものを還元炎焼成すると、酸欠状態の窯内で鉄は焼成に必要な酸素成分をうばわれて還元反応を生じ、その結果、淡青色に発色する。
鉄の濃度による呈色の違いをみると、鉄2~3%の場合は、上述のように還元炎焼成で青緑色、酸化炎焼成で黄褐色、その中間で褐色となる。鉄濃度を高くすると、酸化炎焼成・還元炎焼成いずれの状態でも褐色から黒色になる。10%以上の鉄濃度では、他の金属成分とともに鉄成分が分離して表面にうきでることがあり、その場合、漆黒の釉表面に結晶斑(はん)があらわれる油滴天目や細い筋がはしる禾目天目(のぎめてんもく:→ 天目)など、さまざまな現象が生じる。さらに鉄濃度が高い酸化鉄そのものは、赤色顔料としてもつかわれる赤色を呈し、高温環境にさらされない上絵焼成用の顔料(赤)などにもつかわれる。
| 2. | 銅の呈色作用 |
銅の呈色反応の原則は、還元炎焼成では赤、酸化炎焼成では緑、である。ただし、銅以外にカルシウム、マンガン、バリウム、亜鉛などのアルカリ金属がまざることで、銅自体がイオン化したり銅コロイド(→ コロイド)になるなど化学構造が変化するといわれており、このため、銅を呈色剤とした釉の呈色範囲は幅広い。織部の緑釉のほかに、鈞窯の紫紅釉や赤い辰砂釉(しんしゃゆう)など、さまざまな色に発色する。なお、銅の融点は1083°Cであり、この温度をこえて焼成すると、釉の色抜けや、他の器物に銅の色が付着することがある。
| 3. | その他の金属 |
鉄、銅以外の金属呈色剤として、黒緑色に発色するマンガン、青のコバルトや呉須(染付の顔料)、赤色に発色させる釉には銅のほか金もつかわれるなど、ほとんどの金属にはそれぞれの呈色作用がある。しかし、低温焼成される鉛や、黄色に発色するカドミウム、赤色のセレンなどは、人体に悪影響をおよぼす重金属類として使用を制限、あるいは禁止されているものもあり、金属呈色剤を使用する際には注意する必要がある。