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ゴム
I. プロローグ

わずかな外力をくわえても大きな伸びをしめすが、外力をのぞけば瞬時に元にもどる高分子化合物(ポリマー)。弾性限界(変形範囲)はきわめて大きく、ゴム弾性体、エラストマーともよばれる。日本語の「ゴム」という言葉は、オランダ語のgomの音訳である。

ゴムには天然ゴムと合成ゴムとがある。天然ゴムは炭化水素の一種、イソプレンが重合したもので、ゴムノキから採取されるラテックスとよばれる乳白色の樹液からつくられる。一方、合成ゴムはおもに、ブタジエン、スチレンなど、各種の不飽和炭化水素から合成される。

切手の裏側の糊(のり)につかわれるアラビアゴムなど、高分子多糖類をゴムとよぶこともあるが、ここでは、ラテックスからえられる天然ゴムについて解説する。

II. ラテックス

パラゴムノキなどの植物にふくまれるラテックスには、直径0.05~2µm(マイクロメートル:100万分の1m)ほどのゴムの微粒子(ゴム炭化水素)がコロイドとして分散している。組成としては、水60%、ゴム炭化水素36%、タンパク質2%のほか、糖類や無機塩類などをふくんでいる。

天然ゴムは、ラテックスを加工して、あつかいやすいように固形にしたもので、生ゴムともいう。また、広く合成ゴムをふくめて加硫前の原料としてのゴムのことを生ゴムということもある。ラテックスは生ゴムの原料となるが、そのまま製品にもちいられることもあり、ゴム手袋や哺乳瓶(ほにゅうびん)のゴム乳首、気球の球皮(エンベロープ)、ゴム風船、避妊具などといった、うすいものや接着剤への用途が多い。

1. 生ゴムの製造

採取されたラテックスは、濾過によってゴミや異物を除去したあと、水でうすめられる。これにギ酸や酢酸などの凝固剤をくわえて処理すると、ラテックス中に分散していたゴム炭化水素の微粒子が凝結し、白色の凝固物がえられる。凝固物には水分がふくまれるので、ローラーで圧力をくわえてしぼりだす。さらにローラーで数ミリのシートに成形し、木材の煙でいぶしながら50°Cくらいの温度をたもち、3~5日かけて乾燥させる。こうしてできあがるのが、スモークドシートとよばれる生ゴムのシートで、燻煙(くんえん)によって赤褐色に着色する。

また、ラテックスを亜硫酸水素ナトリウムNaHSO3で漂白し、強力なローラーで表面に細かな皺(しわ)のついた縮緬状(ちりめんじょう)のシートに成形し、熱風乾燥させると、ペールクレープとよばれる淡黄色の生ゴムシートができあがる。こちらは価格が高く、淡色のゴム製品など高級品にもちいられる。これらのシートを重ねあわせ、約50cm角の立方体にプレス成形したものをシートゴムとよんでいて、色調や異物の混入度により等級がきめられる。

一方、シートゴムとはちがい、凝固したゴムの小粒子(クラムという)をプレス成形により約70 × 40 × 15cmのブロックにしたものは、ブロックゴムとよばれている。こちらも使用する原料や含有物の多少により等級がきめられている。

2. 構造と性質

生ゴムはイソプレンCH2=C(CH3)CH=CH2の分子が付加重合したもので、1つのイソプレン単位構造の中に1個の二重結合がある。この二重結合部分はほかの原子と結合しやすい性質をもち、とくに空気中に存在する酸素やオゾンと結合することでゴム特有の弾性がうしなわれ、劣化してしまう。生ゴムには約93~94%のポリイソプレンがふくまれているが、ほかに樹脂やタンパク質などをふくみ、平均分子量は約30万である。生ゴム中のポリイソプレンはシス–1,4結合で構成された規則正しい構造となっている。そのため、結晶性があり、分子が長くつらなっていることと、あいまって引張り強さや、耐摩耗性などの機械的な強度にすぐれている。

生ゴムは黄褐色をおびた半透明の固体である。0~10°Cの温度におくと、かたく不透明になり、液体空気の温度-190°Cでは、透明な固体となる。20°C以上ではやわらかく弾性をもつが、50°C以上に加熱すると弾性がうしなわれ、可塑性(熱可塑性)と粘着性があらわれる。200°C以上に加熱すると、生ゴムは分解して融解する。

生ゴムは水や塩基(アルカリ)、弱酸(酸と塩基)、アルコール、アセトンにはとけないが、ベンゼンやガソリン、四塩化炭素CCl4、二硫化炭素CS2などで溶解する。酸化剤で容易に酸化され、空気中でゆっくりと酸化されて弾性をうしない、もろくなる。そのため、通常のゴム製品に使用されるゴムは、5%程度の硫黄を添加して加熱した加硫ゴムである。

生ゴムではイソプレンの分子が線状に結合しているのに対し、加硫ゴムではゴムの分子間に硫黄原子による架橋結合(橋架け結合)が生じ、全体として網目状の結合をつくっている。そのため加硫したゴムは、強度と弾性が高まり、溶剤にもとけにくくなる。加硫ゴムは温度変化に対しても安定で、気体を透過しにくい。ただし硫黄の量が30~50%になるとゴムの弾性がうしなわれ、エボナイトとよばれるかたい固体になる。

III. 天然ゴムの歴史

天然ゴムは11世紀のマヤ文明のころから、中南米で使用されていたと考えられている。1492年、コロンブスのアメリカ大陸「発見」当時、天然ゴムは先住民の間で、スポーツ用のゴム球や、衣服の防水、履物、容器などに利用されていた。アメリカ大陸を征服したスペイン人は、これらのゴム製品を模倣しようとしたが成功せず、およそ2世紀の間、ゴムはヨーロッパ人にとってはたんなる珍重品であり、学術的な興味の対象にしかすぎなかった。

1731年、南アメリカを調査したフランスの地理学者ド・ラ・コンダミーヌは、アメリカ先住民につたわるゴムの原始的な製法を、学術報告書としてヨーロッパにつたえた。70年にはイギリスの化学者プリーストリーが、ゴムで鉛筆の文字をこすると文字がきえることを発見した。ゴムの英名rubber(こするもの)は、このときの発見に由来している。このころ、松脂(まつやに)からえられるテレビン油が、ゴムの溶剤につかわれるようになった。91年にはイギリスのS.ピールが、ゴム引きの防水布を開発し、ゴム製品ではじめての特許をとった。1823年、イギリスの化学者C.マッキントッシュは、ゴムの溶剤にナフサを使用して、すぐれた品質のゴム引き布を開発した。

1. ゴムノキ

ゴムの樹液(ラテックス)を出す植物は400種以上もあるが、東南アジアをはじめとして世界じゅうで栽培されているゴムノキのほとんどは、トウダイグサ科に属するパラゴムノキである。パラゴムノキはアマゾン地方が原産であり、採取されたゴムがアマゾン川の港であるパラ(現、べレン)から輸出されたのでこの名前がつけられている。

19世紀、ゴムの供給地は、アマゾン川流域にかぎられ、生産はブラジルが独占していた。ゴムは熱帯雨林に点在する野生のゴムノキから採取されていたため、ひじょうに労力を要し、ゴムの需要が増加すると、ゴム価格の暴騰と供給量の不足をまねいた。当時の先進工業国イギリスはゴム産業の合理化をはかり、1876年に探検家H.ウィッカムは、禁輸品だったゴムの種子をひそかにブラジルからもちだした。ゴムの種子はロンドンのキュー・ガーデン(王立植物園)で発芽し、77年にセイロン島(現、スリランカ)の植物園に移植された。ゴムノキはさらにマレー半島などにうつされ、東南アジアの各地でプランテーションによるゴム生産がはじまり、1913年には東南アジアでの生産量が南アメリカにおける生産量をこえるまでになった。

一方、南アメリカ各地でもゴム生産のプランテーション化がこころみられたが、枯れ葉病のため失敗におわった。ゴムノキの生産適地は、赤道周辺の地域の中でも年間降雨量が2000~4000mmに達する熱帯雨林地帯といわれていたが、現在では北緯30度付近でも栽培が可能になっている。

天然ゴムの生産量は2003年では797万tで、もっとも多いタイ、インドネシアをあわせると世界じゅうの6割を、また、それにマレーシアや中国南部、南アジア(インド、スリランカ)などをくわえると世界の9割以上を生産している。一方、南アメリカでの生産量はきわめて少なくなっている。

2. 加工法の発達

アメリカでは1830年代からゴム製品が普及しはじめたが、そのころのゴムは気温がさがると硬化し、気温があがるとべとついて異臭をはなつ欠点があり、製品の寿命も短いものだった。しかし34年、ドイツの化学者F.リューダースドルフとアメリカの化学者N.ヘイワードは、硫黄をくわえることでゴムの性質がいちじるしく向上することを発見した。この現象は39年、アメリカの発明家C.グッドイヤーによっても発見された。それ以後、硫黄を添加した加硫ゴムによって、自動車のタイヤや、列車のバンパーなどにもゴムの用途が広まった。

2.A. 再生ゴムの利用

プランテーションによる大量生産がはじまるまで、ゴムは貴重品としてあつかわれ、使用後の再利用も、ゴム工業の初期から研究されていた。1877年ごろ、アメリカのC.ミッチェルは、使用後のゴムを加熱した硫酸で分解したのち、原料として再利用する方法を開発した。1905年ごろには、アメリカの化学者A.H.マークスが、使用したゴムを塩基(アルカリ)で処理する方法を開発し、より劣化の少ない再生ゴムの生産に成功した。

2.B. 添加剤による品質向上

1905年ごろ、マークスの設立したゴム研究所につとめる化学者G.オーエンスレーガーは、アニリンなどの化学物質が加硫を促進することを発見した。加硫促進剤の使用によって、硫黄の添加量や加硫時間は大幅に低減し、同時にゴム製品の品質も向上した。同じころ、アメリカのW.グッドリッチは、炭素粉末(カーボンブラック)をゴムに添加して強度を高める方法を発明した。カーボンブラックは12年ごろから自動車タイヤに使用されはじめ、タイヤの耐久度はそれまでの10倍ほど高くなった。酸化防止剤など各種の添加剤も開発され、ゴムの耐用年数も延長された。

IV. 生ゴムの加工と用途

ラテックスを凝固、乾燥させた生ゴムは、配合、加工、加硫の各工程をへて、最終的なゴム製品へと加工される。

1. 配合工程

ゴムの配合加工工程では、ゴム製品の用途や仕様に応じて、加硫をおこなうための加硫剤や加硫促進剤、物理的特性を向上させるための補強剤や老化防止剤、加工性を高める軟化剤(可塑剤)など、生ゴムにさまざまな薬剤がくわえられる。

加硫剤でもっとも多く利用されるのは粉末の硫黄だが、セレンやテルルなどの多価金属酸化物も、大量の硫黄と混合して利用される。そのほか過酸化ベンゾイルC14H10O4など一部の有機化合物にも、硫黄原子と同様にゴム分子間に架橋結合(橋架け結合)をつくる作用があるので、加硫剤とともにもちいられる。加硫促進剤は加硫の進行速度をあげ、かつ低温で加硫を進行させる物質で、加硫時間や加熱温度、硫黄の量を節約する。加硫促進剤にはチアゾール系やスルフェンアミド系など各種の有機薬剤がもちいられている。

補強剤は、ゴム製品の硬さや引張り強さ、弾性、引裂抵抗、耐摩耗性などといった機械的特性を高めるために利用される。代表的なものは黒色のカーボンブラックだが、淡色のゴム製品には、白色の二酸化ケイ素(ホワイトカーボン)などがつかわれる。老化防止剤は、古くなったゴムの硬化やひび割れ、べとつきを防止するためのもので、各種のアミン化合物やフェノール類が利用される。

軟化剤は各種の配合剤の分散をよくし、ゴム練りや加工を容易にするために添加され、石油樹脂や松脂、脂肪酸などが利用される。充填剤(じゅうてんざい)はゴム製品の加工性の改善やコスト低下のために添加される物質で、石灰(炭酸カルシウム)やクレイ(ケイ酸アルミニウムAl2Si2O5(OH)4)、タルク(含水ケイ酸マグネシウム3MgO・4SiO2・H2O)などが使用される。着色剤には二酸化チタン(酸化チタン)、酸化亜鉛、リトポンなどの白色顔料(顔料)や、各種の有機染料(染料)などがある。

2. 加工工程

ゴム製品への加工工程では、まず素練り・混練りという配合剤との混合の工程がおこなわれ、圧延・押出しの工程をへて成形される。

2.A. 素練り

原料となる生ゴムのシートは、適当な大きさに寸断されてから、素練り機にかけられる。素練り機には、回転速度のことなる2本のローラーの間で生ゴムをねるオープン・ローラー、その改良型で密閉容器内にローラーをとりつけたバンバリーミキサーなどの装置がある。素練りの工程では生ゴムの分子がひきのばされ、部分的に切断されることで、可塑性が高まってゴムが軟化するので、配合剤の混合や製品への成形がおこないやすくなる。ゴムの軟化度は後の工程と製品の品質に大きな影響をおよぼすので、温度や圧力が常に制御・管理されている。

2.B. 混練り

素練りした生ゴムに各種の配合剤をまぜる混練りでは、薬剤の飛散をふせぐため、おもに密閉型のバンバリーミキサーが使用される。混練りでは配合剤の量や種類、投入順序、混練りの時間、温度などが複雑に影響をおよぼしあい、微妙な操作の違いでゴムの性質が大きく変化する。かつての混練りの工程では、熟練作業者の経験と勘にたよって複雑な制御をおこなっていたが、現在ではコンピューター制御を利用して、ゴムの品質のばらつきをふせいでいる。

2.C. 圧延工程

混練りの完了した生ゴムをシート状に加工する場合は、カレンダーとよばれる加工機械がもちいられる。カレンダーは数本の金属ロールをそなえており、ロールの間におくられたゴムを一定の幅と厚さに圧延する。凹凸の模様や商標のついたロールをつかえば、ゴムシートに模様をつけたり、商標を押印したりすることができる。補強用の繊維をくみこんだゴムシートを製造する場合も、カレンダーをつかって繊維にゴムを圧着したり、擦り込んだりしていく。

2.D. 押出工程

押出の工程では、混練りしたゴムを、スクリュー式の押出機の先端にあるダイ(口金)からおしだし、断面形状が一定したゴム製品をつくりだす。ゴムホースや、窓用のゴムパッキングなどが、この方法で製造される。特別のダイをもちいれば、押出成形機をつかって補強用の繊維の筒にゴムをかぶせ、高圧用のゴムホースを製造することもできる。

2.E. 成形工程

圧延や押出工程をへた材料は、材料どうしをはりわせたり(積層工程)、補強用の繊維や金属などとはりあわせたりすること(貼り合わせ工程)で、複雑な形状へと加工することができる。そして、これらの加工の段階をへて最終製品の形状にまで成形することを成形工程という。

3. 加硫工程

成形工程をへたゴムに熱をくわえ、加硫反応や接着反応によって弾性をもつ製品をつくりだすのが加硫工程で、ゴム製品の製造にとってもっとも重要な工程である。通常の熱加硫では、混練の段階であらかじめ加硫剤をまぜ、ゴムが製品の形に成形された時点で150°C程度の熱処理をおこなって、加硫を完了させる。

ふつうはゴム製品の成形と加硫は、ほぼ同時におこなわれる。たとえば自動車タイヤの加硫では、加熱前の生タイヤを型にいれたあと、タイヤ内部に圧搾空気をおくってふくらませ、型に密着すると同時に加熱して加硫をおこなう。ゴム手袋やゴム風船など薄手のゴム製品の場合には、塩化硫黄S2Cl2の溶液、またはガスにひたして加硫させる冷加硫がおこなわれる。このほか紫外線、電子線、放射線(放射能)など、熱以外のエネルギーを利用した加硫もおこなわれている。

4. 用途

ゴムの弾性は衝撃、振動の吸収に適しており、19世紀末から自動車タイヤに使用されはじめた。現在でもゴムの用途では、自動車・車両用のタイヤが他を圧倒している。タイヤ以外でも、自動車には振動防止を目的とした各種のゴム製部品がつかわれている。鉄道ではレールと枕木(まくらぎ)の間に、振動防止用のゴム板を大量に使用している。ゴムの気密性もガス用ゴム管、ゴム風船、ゴムボートなどで有効に利用されている。ゴムの防水性を利用した製品では、レインコートや潜水用具があげられる。

タンカー事故などによる石油流出をふせぐオイルフェンスも、ゴムでつくられている。ゴムは電気絶縁性(絶縁体)をもつことから、電線被覆や電気工事用の安全手袋、安全靴にも使用される。工業用品ではコンベアベルト、ゴムホース、製紙用ロール、印刷用ロールなど、さまざまな方面に利用されるが、家庭用品でも靴底、消しゴム、スタンプ、ゴムボールなど多くの製品にゴムがつかわれている。