| 検索ビュー | 紙 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
植物繊維を主原料とし、これを水中でからみあわせ、うすい平面状にのばして乾燥させたもの。情報の記録や伝達、包装だけでなく、沈殿物の濾過から建材まで、広範につかわれている。紙を製造することを、製紙あるいは抄造(しょうぞう)といい、とくに水に分散させた繊維を、網か簀の子のようなものですくって形にすることを、「紙をすく(抄く、漉く)」という。紙の消費量は文明の尺度といわれており、低コスト、短時間で紙を製造する技術が開発されたことで、世界の人々の教育水準は向上し、情報伝達を活発にした。
| II. | 紙の製法 |
紙をつくるのには、手作業と自動化された機械工程とがあり、手作業で紙をつくることを「手漉き」という。現在では、消費される紙のほとんどが、機械化された工場生産になっているが、独特の感触や色合いが必要な日本画や書、手工芸品には、手漉きの和紙もつかわれている。
| 1. | 手作業による製紙 |
手作業による製紙技術の基本工程は、2000年以上も変化していない。
| 1.A. | 製紙原料 |
最初の工程は、まず桶(おけ)に藁(わら)、葉、粉砕した木片、ぼろ布などの繊維原料をいれて、重い棒やハンマーで原料をくだく。この工程は、叩解(こうかい)とよばれる。原料の不純物は、最初のうちは流水で除去されるが、繊維がじゅうぶんに細かくなると、不純物が繊維とまじりあい、水にながれなくなる。この段階の原料はハーフスタッフとよばれる液状になり、紙をすけるようになる。
| 1.B. | 手漉き |
紙をすく道具は、モールド(型)という金網でできた枠である。この金網には、ウォーブパターン(四角の網目)と、レイドパターン(簀の目)がある。レイドパターンは、縦に太い針金、横に細い針金をとおしたもので、すくときに金網の目の形が表面に模様をつくり、ウォーブ紙やレイド紙とよばれるものができる。
モールドは、取り外しのできる木製のデッケル(すき桁:すきげた)という型枠にとりつけられている。桶の繊維をふくむ水を、デッケルですくいあげると、モールドの表面に繊維と水がまじりあったうすい膜がのこる。ここで、デッケルを前後左右にゆらすと、モールドの表面に均一に混合物が分散し、繊維がからみあって膜が強度をもつ。ゆらされている間に、モールドの金網から混合物の水分が除去され、膜がじゅうぶんにかたまってモールドからはがれるまで放置する。
| 1.C. | 脱水 |
モールドをデッケルからはずし、モールドを裏返しにして、半製品の紙をフェルトの布の上にゆっくりとおき、さらにその上にフェルトをかぶせて、半製品の紙をのせる。このように、紙をフェルトではさむ工程の結果、重なった山をポストという。ポストをプレス機にかけ、100t以上の圧力をかけて水分を除去する。その後フェルトから紙をはがし、重ねて圧縮する。この工程を何回もくりかえす。このとき、紙の上下をいれかえるようにする。この繰り返しで、製品になった紙の表面を緻密(ちみつ)にし、光沢をもたせることができる。製紙工程の最後は、乾燥室につりさげて、水分が完全に蒸発するまで乾燥させる。
| 1.D. | にじみ防止 |
インクをつかって文字を書いたり、印刷につかう紙には、乾燥後に、動物性の糊(のり)でできた溶剤につけるサイジングという工程がある。サイジングされた紙を乾燥し、最後に、金属板やなめらかな厚紙ではさんで圧縮する。そうしないと、インクがにじみ、線や絵がぼやける。短時間軽く圧縮するとざらついた肌合いの紙ができ、長時間強く圧縮するとなめらかな表面の紙ができる。
| 2. | 機械による製紙 |
1450年ごろに、グーテンベルクが活版印刷をはじめると、紙の需要は飛躍的に増大した。17~18世紀にかけてさらに紙の需要が増大したため、ヨーロッパの製紙で唯一の原料であったぼろ布が不足した。そこで、量産に適した原料と工程の機械化が必要になった。
| 2.A. | 叩解の機械化 |
製紙の機械化は、叩解の工程からはじまった。ヨーロッパでは、中世から水車や風車がつかわれており、これにスタンパーという太い棒を連結して叩解をおこなっていた。1670年には、ホランダービーターとよばれる半連続式の叩解機が、オランダで発明された。これは、円筒とそれとむきあう容器の両方に鉄製の刃をとりつけ、円筒が回転しながら原料をほぐし、繊維を一定の長さに切るもので、1733年になってフランスで本格的につかわれるようになった。
リファイナーという連続式の叩解機は、アメリカで1858年に開発された。この形式は、コーン型のスピーカーのように、底面が大きい円錐(えんすい)の上に刃をとりつけたものを2つむきあわせて、反対方向に回転させて繊維をくだくもので、ジョルダンタイプまたはコニカルタイプとよばれた。ダブルディスクタイプという装置も、1925年にアメリカで開発されている。この機械は、円板に多数のすき間をつくり、その部分が刃になっているものを、2枚反対方向に回転させるものだった。
木材から紙をつくる方法は、スズメバチの巣にヒントをえて、フランス人レオミュールによって1719年に考案されたが、実際に木材をすりつぶして紙をつくる機械は、1844年にドイツのケラーが発明している。
| 2.B. | 化学薬品の利用 |
化学薬品で木材をほぐす方法は、1853年に、イギリスのバージスが苛性(かせい)ソーダをつかったのが初めである。67年には、アメリカのティルマンが二酸化硫黄をつかい、85年には、スウェーデンのダールが、苛性ソーダと硫化ナトリウムをつかって木材をほぐすのに成功している。これらの製法は、木材に蒸気で圧力をかけて、木材にふくまれるリグニンを薬品で分解するもので、機械式の叩解に対して蒸解(じょうかい)とよばれる。この作業でつくられる繊維は、強度はおとるが、ほかの木材繊維と混合してつかわれる。
| 2.C. | 抄紙機の発明 |
抄きの工程では、1798年にフランスの発明家N.ロベールがベルトコンベヤーのようにながれながら金網が回転する、長網抄紙機の特許を取得し、1808年にイギリスのヘンリー・フォードリニアとシアリー・フォードリニアの兄弟が実用化した。そのため長網の抄紙機をフォードリニア機という。翌09年には、イギリスのジョン・ディキンソンが、円筒形の金網で紙をすく機械を発明し、17年には、イギリスのヒースが紙の表面に光沢をつける、カレンダー装置を発明した。
| 3. | 機械による製紙工程 |
機械をつかった製紙は、手作業の場合と基本的には同じである。工程の最初は原料の調整だが、近代の製紙でつかわれていた原料は、綿か麻のぼろ布(ラグ)と木材パルプだったが、現在では95%以上の紙が、木材のセルロースからつくられている。新聞紙などのもっとも安価な紙には、機械ですりつぶした材料だけがつかわれる。近年では、木材資源の保護と生産の効率化のため、廃棄された紙も大量に原料にされる。高級な紙では、化学的に処理された木材パルプ、あるいはパルプと綿繊維の混合物が、最高級の筆記用紙などでは、綿の繊維だけがつかわれる。
| 3.A. | 蒸解 |
紙の原料となるラグは、まず最初に機械で洗浄して汚れや付着物をとりのぞいてから、大きな回転窯の中で数時間、石灰とともに蒸気で圧力をかけて煮たてる。石灰は、油脂やラグにふくまれる不純物と反応して、水に不溶なものになるので、あとの工程で水であらいながす。同時に、色素がとりのぞかれて白色になっていくが、漂白剤をつかう場合もある。
| 3.B. | 叩解 |
次の工程は叩解である。長さがまちまちの繊維原料をほぐし、一定の短い繊維に切りそろえ、紙の変色などの原因になる不純物を除去する。叩解機におくられたラグは、細かく切断されてばらばらの繊維になり、金網でできた洗浄用の円筒が配置されている桶にいれられる。ここで汚れをのぞき、完全にばらばらの繊維になるまでほぐされる。この時点で、染料や顔料と、にじみを防止する松脂(まつやに)や糊剤のようなサイズ剤、さらに白陶土や硫酸カルシウムなどの填料(てんりょう)をくわえる。これはできあがったときの紙に重みと厚みをくわえ、インクなどをにじませずに付着させる工程である。
| 3.C. | パルプ |
紙をすく前のお粥(かゆ)のような状態になった原料をパルプという。製紙につかうパルプの製法は、機械パルプ化法と化学パルプ化法の2種類が代表的である。機械パルプ化法は、機械で樹皮をはがした木材に水をかけながら、はげしく回転する研削砥石(といし)にあて、すりつぶしてパルプにする。このパルプでつくられた紙は、価格はやすいが表面があらく変色しやすいので、安価な新聞紙の生産や、高品質の紙でつかう木材繊維と混合するためだけに使用される。
化学パルプ化法には数種類の方法があるが、代表的なクラフト法では、細かくくだいた木材を水にいれ、苛性ソーダと硫化ナトリウムをくわえ、高温高圧の釜でにる。その過程で、樹脂やリグニン、ヘミセルロースなどを分解して除去し、純粋なセルロースの繊維だけをのこす。
| 3.D. | 抄紙 |
次の工程は抄紙(しょうし)である。フォードリニア機の金網のベルトを回転させ、パルプをベルトの上に均一に広げ、下にある木製の箱で大部分の水を吸収する。この水は再度パルプに混合される。ベルトの下にある送風機は紙を乾燥させるのを補助する。ここを通過した半製品の紙は、表面が金網になった円筒の回転でおくられ、紙の表面に模様をつける。さらに、文字や模様の透かしがほどこされることもある。これは、紙の質と製造元をしめすためである。
| 3.E. | 脱水 |
すきあがった紙は、2つのフェルトでおおわれたクーチングロールの間をとおる。この工程は、紙をじゅうぶんにひっぱりながら、紙の組織からさらに水をおしだし、繊維をしっかりさせるもので、手作業による製紙工程での脱水と同じである。クーチングロールから、なめらかな金属製のプレスロールの間を通過し、布のベルトの上におくられる。これら一連のロールをとおって、紙の表面がなめらかになる。
| 3.F. | 乾燥 |
圧縮加工の後は、加熱したロールの間を数回通過し、完全に乾燥させる。次の工程はカレンダー装置による処理で、ゆっくりと冷却したロールの間におくり、表面をつぶしてなめらかにし、紙を回転する刃で断裁する。紙がロール状にまかれてつかわれる場合は、断裁せずにまきとる。特殊紙はさらに加工される。ティッシュペーパーのほとんどは、乾燥用に単独の蒸気加熱装置がついているヤンキー機でつくられる。
| 4. | 透かし |
手漉きでも、機械による製紙でも、紙に透かしをいれることがある。原理は、紙の一部に光がよく透過する部分をつくって、文字や模様をつくることで、紙幣、証券、小切手などの偽造防止や、書簡や記録用の用紙に高級感をだす目的がある。1282年には、イタリアのファブリアーノで透かし入りの紙が製造されていた。ヨーロッパでは、製造した工場や年代、紙の発注者、製品の種別を表現する記号や文字がつかわれ、骨董品(こっとうひん)、美術品などの鑑定では、重要な手がかりになる。
| 4.A. | 透かしの方法 |
透かしの方法は多数あるが、抄造の工程でいれるのは、ウォーターマークとプレスマークが代表的である。ウォーターマークは、すくときに網や簀の子の上に針金などでつくった透かしの型をおき、紙になったときにその部分だけうすくする。プレスマークは、すくいあげた紙にスタンプのようにほった金属などをあてて、その部分だけ紙のすき間をつぶして光が透過しやすくする。
| 4.B. | 特殊な透かし |
そのほかに、油性の透明インキで印刷する方法、中間に色のある紙をはさんですく方法がある。黒透かしというのは、ふつうの透かしと逆に、一部だけ光が透過しにくい部分をつくる方法で、日本の紙幣につかわれている技法である。
| 5. | 紙の大きさ |
アメリカでは、紙は標準サイズの連(れん)として販売される。紙の連はふつう480枚になるが、絵画用の連と手製の紙は472枚になる。書籍用の紙と新聞紙は、1連が500枚で、正式には516枚である。もっともありふれた書籍用の紙のサイズはオクタボ(112 × 168cm)である。輪転機用の新聞紙は、ロールとよばれるさまざまな寸法の巻き物になっている。典型的な新聞紙のロールは、アメリカの大都市でつかわれているもので、幅がおよそ168cm、長さが7925mもあり、重さは725kgになる。
日本では、さまざまな大きさの紙がある。一般に多くつかう紙にはA列とB列があり、そのほかに四六判(788 × 1091mm)、菊判(636 × 939mm)などがある。A列0判が841 × 1189mmで、コピー用紙などでよくつかうA4判はその1/16で、210 × 297mm、B列0判は1030 × 1456mmである。B列の紙は、同じ番号のA列の紙のほぼ1.5倍の面積になり、どちらも縦と横の長さは、1:Ãの比率になっている。そのため、用紙を半分に切っても、縦と横の比率はかわらない。日本でも、印刷業などで連という単位をつかうが、欧米とはちがい、1連とは1000枚のことをさす。
| III. | 紙の歴史 |
前1500年の小アジアでは、ヒツジ、ヤギ、牛などの皮を水洗いして、表面に鉱物質の白い粉末をすりこんだものが、紙のかわりにつかわれていた。この紙は、小アジアのエーゲ海に面したミシア地方の都市ペルガモン(現、ベルガマ)にちなんで、パーチメント(羊皮紙)とよばれた。ほかの地域でも、紙が製造される前は、皮や布、うすくはいだ木材や竹などが筆記用につかわれた。
| 1. | 紙はパピルスからか |
英語のPaperは、古代エジプトのパピルスが語源になっている。しかし、実際にパピルスからつくられたのは、紙というよりも茣蓙(ござ)に近いものだった。パピルス文書は、前700年ごろと推定される、エジプトの墳墓から発掘されているが、記録用にパピルスがつかわれはじめたのは、前2000年代に文字が登場してきた時代と推定されている。
筆記材料としてのパピルスの製法は、根元に近い部分を60cmほどの長さに切り、中心部の髄(ずい)を幅2~3cm程度にうすく切りだして、約1mm程度重なるように平行にならべ、その上に直角に同じようにならべてから、圧力をかけて脱水する。現在の紙のように1枚ずつ裁断できず、長い巻き物にして運搬された。
| 2. | 紙は中国に生まれる |
漢字の「紙」という文字は、絹糸をよりあわせた糸と、「平らで、やわらかい」を意味する氏からできている。これは、植物がつかわれる以前には、絹布をおる工程ででる材料で紙をつくっていたためである。中国では、前2000年代から絹織物がつくられていた。織物にするのは長い繊維で、短い繊維は絮(じょ)といい、これを麻などと混合して紙にしていたと推定されている。
| 2.A. | 蔡侯紙という紙 |
中国の「後漢書」「宦者列伝」に、宦官の蔡倫が105年に、樹皮、布、魚網などをつかって紙をつくったという記録があり、かつてはこれが紙の始まりと考えられていた。しかし、1980年代に甘粛省で発掘された紙は、前2世紀のものと推定されるところから、蔡倫は、アサ、竹、イネわら、コウゾなどを原料とした紙の製法をまとめた人物と考えられるようになった。
三国時代に魏では、蔡倫の製法による蔡侯紙という紙が広くもちいられ、製法の名手があらわれた。原料は、おそらくクワなどの樹皮で、竹の型がつかわれていた。紙の製法は、長く中国の外につたわることはなかったが、150年ごろには、ぼろ布からつくるものが、中国と隣接するトルキスタン地方につたわった。610年には日本にも伝来し、757年には中央アジアにも広まった。
| 2.B. | 製紙技術の伝播 |
800年ごろにエジプトに紙がつたわり、900年ごろには完全にパピルスにとってかわった。900年代にムーア人がヨーロッパへ製紙技術をつたえた。1150年ごろにスペインのサティバにヨーロッパで最初の製紙工場がつくられ、89年にはフランスのエロー、1276年にはイタリアのファブリアーノに製紙工場ができ、その後3世紀ほどでヨーロッパ各地に広まった。15世紀の中ごろに、携帯できる本の印刷が現実的になり、紙の製造を促進した(→ 印刷)。イギリスで最初に製紙工場がつくられたのは1495年のことで、アメリカでは1690年になってからである。
| 2.C. | 中国における紙の発展 |
中国の六朝時代(→ 六朝文化)になると、書家や文人が紙を珍重したので製紙技術は発展したが、量産には限界があり、晋の時代まで公文書には簡牘(かんどく:木や竹をうすく切りだしたもの)がつかわれた。東晋末の楚で簡牘が廃止され、虫害をふせぐため、黄色の染料で染色した黄紙が公文書にもちいられるようになった。
9世紀には、広東省産の竹紙が有名となった。紙の生産は各地でおこなわれるようになり、とくに安徽省は製紙の中心地となり、宣州で産出される宣紙は、現在にいたるまで書画用として珍重されている。原料となるアサ、竹、フジ、フヨウ、コウゾなどの繊維をすいただけの生紙のほか、さまざまな加工をほどこした熟紙があらわれた。唐代には、紙に透かしをいれる水紋紙(花簾紙ともいう)などの手法も考案された。また、薛濤牋(せつとうせん)とよばれる上質でうつくしい紙も唐代につくられた。
| 3. | 日本への伝来 |
中国で発明された紙は4世紀ごろ朝鮮につたわり、写本や外交文書として日本にも伝来した。やがて、国内の原料に適合した製紙技術が開発され、独自の発展をとげた。
日本の伝統的な製紙技術で抄造される紙を一般に和紙とよび、手工芸品として珍重されている。
| IV. | 近代日本の製紙業 |
西洋式の製紙技術は、明治維新とともに導入された。新しい時代の雰囲気の中から、新聞や出版が盛んになり、需要に対応する大量生産の製紙技術が必要になった。
| 1. | 明治から大正の製紙業 |
1867年(慶応3)にパリ万国博覧会に随行した渋沢栄一は、近代国家建設のために、紙幣や公債、切手などの国内生産が急務であることを政府に建議し、製紙会社設立を提唱した。73年(明治6)、抄紙会社が設立され、75年に操業を開始。その前年に、日本で最初に機械製紙をはじめた旧広島藩主浅野長勲(ながこと)は、日本橋に有恒社という会社を設立し、製紙をはじめている。同時期に、京都と神戸でも製紙工場が設立され、欧米の技術導入と外国人技術者の指導のもとで操業した。これらの製紙原料は、いずれも綿のぼろ布だった。
1881年(明治13)、抄紙会社は日本人技術者の手によって、藁をパルプにすることに成功し、日清戦争後、紙パルプ産業も発展していった。89年には、製紙会社(のちの王子製紙)の気田工場で、国産のせいろ型蒸解釜で亜硫酸パルプの製造に成功し、翌90年、富士製紙入山瀬工場では、砕木パルプ(グランドウッド・パルプ(GP))の製造に成功した。さらに1910年には王子製紙の苫小牧工場が操業を開始した。この段階で日本の近代製紙産業が確立し、25年(大正14)、富士製紙が樺太(現、サハリン)の落合工場で、クラフトパルプ(硫酸塩パルプ)の製造を開始した。
| 2. | 昭和の製紙業 |
1931年(昭和6)に樺太工業泊居工場で、多段漂白法による人絹用のパルプの製造を開始した。41年には国内産パルプの生産量は127万tに達し、戦前の最高を記録したが、以後急激に減少し、45年の敗戦時には20万tにまで減少していた。
1955年ころには、段ボール箱の需要が多くなり、板紙生産が急増した。63年には、国内の紙パルプ原料が不足し、チップの輸入が増加するようになった。64年には、十條製紙(現王子製紙)がリファナー・グランドウッド・パルプ(RGP)の製造を開始し、各社が追随した。この年には、広葉樹パルプの消費量が針葉樹パルプをこえた。66年、日本加工製紙が、世界ではじめて合成紙を製造した。以後、多くの製紙会社が合成紙にとりくみ、新たな合成紙を生産したが、73年の第1次石油危機によるコストの急上昇で、多くの会社が撤退した。
1973年には、日本の紙・板紙の生産量は世界第2位となり、74年、王子製紙苫小牧工場でサーモ・メカニカル・パルプ(TMP)設備が稼働し、カラー印刷に対応した新聞紙が生産できるようになった。一方、製紙会社からの排水で河川や湾岸の汚染が問題となった。→ 公害問題:公害対策基本法
| V. | 新しい機能をもつ紙 |
紙を機能や用途から分類すれば、印刷・情報用紙(印刷用紙やOA機器用紙など)、包装用紙(種々のクラフト紙)、衛生用紙(ティッシュペーパー、生理用品、紙おむつなど)、さまざまな工業用や家庭用の雑種紙、板紙(段ボールなど)の5つに大別することができる。最近では、基本的にはこの5つの分類のどれかに属しながら、これまでにはなかったまったく新しい機能や用途をもった紙が研究・開発されている。
| 1. | 高分子をつかう紙 |
1955年(昭和30)になって、ナイロン、ダクロン(→ ポリエステル繊維)、オルロン(→ プラスチック)をもとに、これらの繊維を木材パルプと混合したもので紙がつくられた。このような紙は従来の製紙機械で製造でき、ふつうの紙に似たものから織物に近い材料まで、幅広く利用されている。これらは、特異な性質をもっており、電気の絶縁体、空気清浄器のフィルター、録音用のテープ、作業靴、衣服の裏打ちなど、天然繊維の紙にはない多くの応用分野がある。
| 1.A. | 有機合成紙(プラスチックペーパー) |
プラスチックをつかう紙のうち、フィルム合成紙は、ポリスチレンやポリプロピレンなどを押し出し成型したのち、表面に白色顔料などをぬり、印刷や筆記をしやすくしたものである。耐水性、強さ、無塵性、防湿性などにすぐれ、多くの特殊分野で応用されている。水にぬれてもやぶれないという特質から、ポスター、地図、封筒などに利用されるほか、おりまげても広がりやすいフィルムでできているため、選挙の開票作業の効率化に、投票用紙としてもつかわれている。
高密度ポリエチレンの繊維を不規則につみ重ね、加圧熱接着するスパンボンド法による合成紙は、とくに耐水性があり、引き裂きに強く、耐磨耗性があり、軽く、不透明で発塵がないため、特殊な封筒やフロッピーディスク用の袋などにつかわれている。また、ポリプロピレン繊維を原料として、スパンボンド、メルトブローなどの方法でつくられる不織布(紙)は、強い耐水性とすぐれたドライ感があるため、紙おむつの表面材料に利用されている。
| 1.B. | 水解紙・水溶紙 |
通常のパルプを化学的に改質した、カルボキシメチルセルロース(CMC)は、パルプと糊の中間的な物質で、酸とアルカリでの処理をくりかえして紙にすることができる。こうしてできた紙は、印刷も加工もでき、水によくとける。
パルプや合成繊維などを、接着剤(バインダー)で結合させたものが不織布である。製法は紙と同様に、水を媒介させてつくる湿式不織布と、直接バインダーや熱処理で繊維を接着する乾式不織布の2つがある。バインダーが水などの溶剤に溶解するものであれば、水解紙や水溶紙ができる。このような紙は、医療分野あるいは機密保持用など、広い用途が考えられる。
| 1.C. | 高吸液性紙 |
紙タオル、紙ナプキン、ティッシュペーパーなどは、吸水性・吸液性をもっていなければならない。このような吸水性を高めたものが、紙おむつや女性の生理用品につかわれる高吸液性紙である。
ふつうの紙おむつは、肌にふれる部分がポリプロピレンやポリエステル繊維の多孔質不織布で、その下に綿状のフラッフパルプの層が、さらにその下に高吸水性高分子膜の粒子をまぜた層がある。次に薄葉紙があって、外もれをふせぐポリエチレンシートが重ねられる。紙おむつの高吸液性は高分子膜に秘密があり、これが自重の400倍以上もの液体を吸収する。→ ハイドロゲル
最近の紙おむつは、肌にふれる部分にはポリマーが使用され、吸収した液体を逆もどりさせないようになっている。この材料は、入り口の孔径が約1000µm(マイクロメートル:1000分の1mm)と大きく、出口の孔径が約300µm程度の漏斗型の孔を多数もつ疎水性の不織布をつかい、これをさらに表面処理して、吸液特性を高くしている。
| 2. | 無機材料を混入した紙 |
紙には、製紙の工程で填料(てんりょう)がくわえられるが、特殊な機能をもたせるために、特別な無機材料を混入したものもある。
| 2.A. | 鮮度を保持する紙 |
石灰とケイ酸を高温で焼成するか、機密容器にいれて高圧の水蒸気で熱すると、直径0.5µm以下、長さ10µm程度のゾノライト(ケイ酸カルシウム)の結晶が、鳥の巣のような形になる。このゾノライトは、800°C以上の耐熱性をもち、消火性があり、赤外線の放射率が高いほか、植物の成長と老化を促進するエチレンを吸着する。そのため、野菜や生花の鮮度保持に利用される。このほか、ゼオライトを添加した紙もエチレンの吸着性が高く、生鮮食料品の鮮度保持用にもちいられている。
| 2.B. | 酸化チタン内添紙 |
酸化チタンは、紫外線があたると自由電子を放出し、有機物を分解する光触媒機能をもっている。酸化チタンの微細な粒子を繊維表面に分散し定着させた紙は、タバコのヤニなどの汚れを分解するところから、内装材に利用されている。
| 2.C. | 無機繊維紙 |
ガラス繊維やセラミックス繊維(→ セラミック)、カーボン繊維、金属繊維などの無機繊維を応用した紙が開発され、高温や腐食性ガスの中でも耐久性のある、無機繊維紙がつくられている。ガラス繊維紙は、架橋型アクリル樹脂やエポキシ樹脂をバインダーとしてガラス繊維を結合させたもので、強度と電気絶縁性にすぐれ、加工が容易であるところから、プリント基板に利用するほか、床材や屋根材としてつかわれている。また、セラミックス繊維紙を段ボールのように加工したものは、触媒の坦体、熱交換機、除湿器、脱臭機などに利用される。→ 複合材料
| 3. | 記録紙 |
コンピューターなどの情報機器でつかう紙を記録紙といい、広い意味では、普通紙コピーの用紙や各種のレコーダーにつかう連続用紙もふくまれる。これらの紙は、機械で文字や画像を定着させるもので、寸法精度や特殊な性質が要求される。
| 3.A. | 感熱紙 |
コンピューターのプリンター出力やファクシミリの受信用につかわれる感熱紙は、表面に熱に反応して発色する材料を塗布し、印字装置にあるサーマルヘッドで、画像や文字を印刷する。サーマルヘッドは、微小な発熱体が集合した素子で、信号に対応して必要な部分が発熱する。
感熱転写紙というのは、クレヨンのように色のついたワックスを塗布した紙で、サーマルヘッドで裏から熱をくわえて、紙に印字したり、あらかじめ印刷してある画像などをアイロンで転写する。
| 3.B. | 感圧紙 |
感圧紙は別名ノーカーボンペーパーともいい、紙の裏に、マイクロカプセルという直径1~30µm程度の樹脂に発色剤をいれた粒子を塗布してある。ボールペンなどで文字を書くと、圧力でカプセルがやぶれ、下の紙に発色剤がつく。下にある紙の表面には、活性白土などの顕色剤という物質がぬってあり、発色剤にふれて色がでる。数枚重ねたものを、ドットマトリックス・プリンターで印字すると、一度で複写がつくれる。
インクジェット方式のプリンターは、水溶性のインクで印刷する。この装置につかう紙は、インクの吸収がはやく、耐水性があり、ドットを構成するインクの粒が、真円になることが要求される。インクが真円でないと、文字や画像の輪郭がくずれる。
| 4. | アラミド紙 |
ゴルフクラブや防弾チョッキなどに利用される、芳香族ポリアミド繊維は、高強度、高弾性率をもつ。その仲間のポリ・メタ・フェニレンテレフタルアミド繊維をつかったアラミド紙は、短繊維と微小結合分子(ファイブリッド)をまぜてすき、さらに高温高圧下で紙にしたものである。このアラミド紙には、高強度、耐熱性、難燃性があり、高い絶縁性もあるので、衣料用繊維に混紡し、消防服やカー・レース用スーツに利用するほか、絶縁材料、航空機のハニカム構造材としてつかわれている。
| 5. | 生体融合性のある紙 |
紙の繊維であるセルロースとよく似た構造をもち、昆虫や甲殻類の外殻成分であるキチンから繊維をつくり、これをすいた紙は、生体融合性がよく、薬理作用をもつため、医療用の紙としての用途が期待されている。コラーゲンなどからもこのような生体融合性繊維をつくることができ、人工皮膚から絆創膏(ばんそうこう)用のシート、臨床試験用の試験紙にいたるまで、さまざまな応用が考えられる。
| 6. | 電気・磁気特性をもつ紙 |
紙やフィルムシートに、酸化鉄などの磁気記録層を形成したり、すきこんだりした磁性紙はプリペイドカードなどにする。さらに、圧電フィルムを紙ではさんだペーパースピーカーも開発されている。超伝導物質になる粉末を、木材パルプや合成パルプとまぜてすき、焼結した超伝導紙は、実現すれば多孔質で大面積の超伝導体がえられる。また、ステンレス繊維、ニッケルめっきカーボンファイバー、銅とニッケルを2層コーティングした導電性繊維などをシート状にした電磁波シールド紙は、高いシールド効果をしめし、コンピューターをはじめとする電磁波の防護用になる。
| 7. | その他の新しい機能性紙 |
空気中の水分を可逆的に吸収・放出したり、アルカリを吸着する機能をもつ調湿紙が開発されれば、閉鎖空間で一定湿度を保存する能力が、博物館などの文化財保存に利用できると考えられている。また、極細ガラス繊維をもちいた高機能フィルター紙は、空気や液体の濾過(ろか)機能が期待できる。油と親和性のある繊維とない繊維で構成される油水分離紙は、その濾過機能が、油の精製、海洋汚染などの環境対策に応用できる。さらに、紙またはその繊維に酵素を吸着させ、それを化学結合によって固定させた酵素固定紙は、尿や血清など臨床化学検査での用途が考えられている。
このほか、感熱性液晶やクロミック材料を紙に混合し、一定温度で色が変化するサーモクロミック紙(温度感知紙)、光エネルギーをうけて発色するフォトクロミック紙、色相の変化で紫外線照射量を感知する紫外線感知紙などは、工業や農業の分野、医療分野、日常生活分野で、さまざまな用途が考えられる。また、パルプの3次元網目構造に無機粉末や金属粉末をポリマーなどのバインダーによって、多量に含有させた填料高含紙という紙があるが、これは含有させる粉末によって耐熱、脱臭、電磁波シールドなど、さまざまな機能を発揮することができ、今後さまざまな分野での用途が考えられている。
| 8. | 紙と資源、環境問題 |
原料がほとんど木材であるところから、大量の紙を消費することは、森林破壊をまねく。また、都市のゴミのうち70~80%はオフィスからといわれ、その処理も大きな問題である。
| 8.A. | 再生紙 |
ほとんどの紙は、利用後はゴミとしてすてられる運命にある。しかし、限りある資源からつくられた紙の中には、新たな製紙原料として再利用できるものも多い。森林破壊や地球環境の汚染をこれ以上増大させないためにも、古紙は重要な製紙原料として位置づけられる必要がある。現在、日本における古紙回収率は50%弱、オランダ、ドイツについで世界第3位。紙・板紙生産量に占める古紙配合率は50%をこえている(板紙だけでは84%程度)。
現在、日本でもっとも多く生産される新聞用紙の原料パルプのうち、40%程度は古紙の脱墨パルプである。この古紙脱墨パルプの製造では、まずプラスチック、金属片、石などの異物をのぞいた古紙をパルパーにいれ、アルカリと界面活性剤(脱墨剤)をとかした水をくわえ、撹拌(かくはん)する。つまり離解である。そしてパルパーの底からクリーナーにおくり、ふたたび金属片や砂などを除去し、熟成塔にいれる。この段階で、繊維が水をふくんでふくらみ、印刷インキや異物などがとれやすくなる。くりかえし、ターボセパレーターで異物をのぞき、フローテーター内で界面活性剤によって印刷インキを繊維と分離させ、最後に繊維を洗浄・漂白(過酸化水素による漂白)して脱墨パルプをつくる。
| 8.B. | 非木材紙 |
森林資源を保護するため、木材パルプを原料としない非木材紙が開発され、実用化されている。繊維をふくむ物質は、すべて紙の原料となる可能性があるが、木材パルプに匹敵する非木材繊維には制約がある。その条件は、資源としての安定性、製紙用の繊維としての適性、収率の良さなどである。現在、非木材紙として利用されているものには、古来つかわれてきた綿や麻のほかに、ケナフ(アオイ科の一年生草本)、バガス(サトウキビのしぼりかす)、海藻、竹、トウモロコシ、バナナなどがある。なかでもケナフとバガスは、すでに実用化されている。しかし、原料繊維に適合するよう抄造設備を整備する必要があり、生産量が少ないと、既存の原料にくらべコスト高になるという問題もある。