印刷するには、[ファイル] メニューの [印刷] をクリックします。
II. 紙の製法

紙をつくるのには、手作業と自動化された機械工程とがあり、手作業で紙をつくることを「手漉き」という。現在では、消費される紙のほとんどが、機械化された工場生産になっているが、独特の感触や色合いが必要な日本画や書、手工芸品には、手漉きの和紙もつかわれている。

1. 手作業による製紙

手作業による製紙技術の基本工程は、2000年以上も変化していない。

1.A. 製紙原料

最初の工程は、まず桶(おけ)に藁(わら)、葉、粉砕した木片、ぼろ布などの繊維原料をいれて、重い棒やハンマーで原料をくだく。この工程は、叩解(こうかい)とよばれる。原料の不純物は、最初のうちは流水で除去されるが、繊維がじゅうぶんに細かくなると、不純物が繊維とまじりあい、水にながれなくなる。この段階の原料はハーフスタッフとよばれる液状になり、紙をすけるようになる。

1.B. 手漉き

紙をすく道具は、モールド(型)という金網でできた枠である。この金網には、ウォーブパターン(四角の網目)と、レイドパターン(簀の目)がある。レイドパターンは、縦に太い針金、横に細い針金をとおしたもので、すくときに金網の目の形が表面に模様をつくり、ウォーブ紙やレイド紙とよばれるものができる。

モールドは、取り外しのできる木製のデッケル(すき桁:すきげた)という型枠にとりつけられている。桶の繊維をふくむ水を、デッケルですくいあげると、モールドの表面に繊維と水がまじりあったうすい膜がのこる。ここで、デッケルを前後左右にゆらすと、モールドの表面に均一に混合物が分散し、繊維がからみあって膜が強度をもつ。ゆらされている間に、モールドの金網から混合物の水分が除去され、膜がじゅうぶんにかたまってモールドからはがれるまで放置する。

1.C. 脱水

モールドをデッケルからはずし、モールドを裏返しにして、半製品の紙をフェルトの布の上にゆっくりとおき、さらにその上にフェルトをかぶせて、半製品の紙をのせる。このように、紙をフェルトではさむ工程の結果、重なった山をポストという。ポストをプレス機にかけ、100t以上の圧力をかけて水分を除去する。その後フェルトから紙をはがし、重ねて圧縮する。この工程を何回もくりかえす。このとき、紙の上下をいれかえるようにする。この繰り返しで、製品になった紙の表面を緻密(ちみつ)にし、光沢をもたせることができる。製紙工程の最後は、乾燥室につりさげて、水分が完全に蒸発するまで乾燥させる。

1.D. にじみ防止

インクをつかって文字を書いたり、印刷につかう紙には、乾燥後に、動物性の糊(のり)でできた溶剤につけるサイジングという工程がある。サイジングされた紙を乾燥し、最後に、金属板やなめらかな厚紙ではさんで圧縮する。そうしないと、インクがにじみ、線や絵がぼやける。短時間軽く圧縮するとざらついた肌合いの紙ができ、長時間強く圧縮するとなめらかな表面の紙ができる。

2. 機械による製紙

1450年ごろに、グーテンベルクが活版印刷をはじめると、紙の需要は飛躍的に増大した。17~18世紀にかけてさらに紙の需要が増大したため、ヨーロッパの製紙で唯一の原料であったぼろ布が不足した。そこで、量産に適した原料と工程の機械化が必要になった。

2.A. 叩解の機械化

製紙の機械化は、叩解の工程からはじまった。ヨーロッパでは、中世から水車や風車がつかわれており、これにスタンパーという太い棒を連結して叩解をおこなっていた。1670年には、ホランダービーターとよばれる半連続式の叩解機が、オランダで発明された。これは、円筒とそれとむきあう容器の両方に鉄製の刃をとりつけ、円筒が回転しながら原料をほぐし、繊維を一定の長さに切るもので、1733年になってフランスで本格的につかわれるようになった。

リファイナーという連続式の叩解機は、アメリカで1858年に開発された。この形式は、コーン型のスピーカーのように、底面が大きい円錐(えんすい)の上に刃をとりつけたものを2つむきあわせて、反対方向に回転させて繊維をくだくもので、ジョルダンタイプまたはコニカルタイプとよばれた。ダブルディスクタイプという装置も、1925年にアメリカで開発されている。この機械は、円板に多数のすき間をつくり、その部分が刃になっているものを、2枚反対方向に回転させるものだった。

木材から紙をつくる方法は、スズメバチの巣にヒントをえて、フランス人レオミュールによって1719年に考案されたが、実際に木材をすりつぶして紙をつくる機械は、1844年にドイツのケラーが発明している。

2.B. 化学薬品の利用

化学薬品で木材をほぐす方法は、1853年に、イギリスのバージスが苛性(かせい)ソーダをつかったのが初めである。67年には、アメリカのティルマンが二酸化硫黄をつかい、85年には、スウェーデンのダールが、苛性ソーダと硫化ナトリウムをつかって木材をほぐすのに成功している。これらの製法は、木材に蒸気で圧力をかけて、木材にふくまれるリグニンを薬品で分解するもので、機械式の叩解に対して蒸解(じょうかい)とよばれる。この作業でつくられる繊維は、強度はおとるが、ほかの木材繊維と混合してつかわれる。

2.C. 抄紙機の発明

抄きの工程では、1798年にフランスの発明家N.ロベールがベルトコンベヤーのようにながれながら金網が回転する、長網抄紙機の特許を取得し、1808年にイギリスのヘンリー・フォードリニアとシアリー・フォードリニアの兄弟が実用化した。そのため長網の抄紙機をフォードリニア機という。翌09年には、イギリスのジョン・ディキンソンが、円筒形の金網で紙をすく機械を発明し、17年には、イギリスのヒースが紙の表面に光沢をつける、カレンダー装置を発明した。

3. 機械による製紙工程

機械をつかった製紙は、手作業の場合と基本的には同じである。工程の最初は原料の調整だが、近代の製紙でつかわれていた原料は、綿か麻のぼろ布(ラグ)と木材パルプだったが、現在では95%以上の紙が、木材のセルロースからつくられている。新聞紙などのもっとも安価な紙には、機械ですりつぶした材料だけがつかわれる。近年では、木材資源の保護と生産の効率化のため、廃棄された紙も大量に原料にされる。高級な紙では、化学的に処理された木材パルプ、あるいはパルプと綿繊維の混合物が、最高級の筆記用紙などでは、綿の繊維だけがつかわれる。

3.A. 蒸解

紙の原料となるラグは、まず最初に機械で洗浄して汚れや付着物をとりのぞいてから、大きな回転窯の中で数時間、石灰とともに蒸気で圧力をかけて煮たてる。石灰は、油脂やラグにふくまれる不純物と反応して、水に不溶なものになるので、あとの工程で水であらいながす。同時に、色素がとりのぞかれて白色になっていくが、漂白剤をつかう場合もある。

3.B. 叩解

次の工程は叩解である。長さがまちまちの繊維原料をほぐし、一定の短い繊維に切りそろえ、紙の変色などの原因になる不純物を除去する。叩解機におくられたラグは、細かく切断されてばらばらの繊維になり、金網でできた洗浄用の円筒が配置されている桶にいれられる。ここで汚れをのぞき、完全にばらばらの繊維になるまでほぐされる。この時点で、染料や顔料と、にじみを防止する松脂(まつやに)や糊剤のようなサイズ剤、さらに白陶土や硫酸カルシウムなどの填料(てんりょう)をくわえる。これはできあがったときの紙に重みと厚みをくわえ、インクなどをにじませずに付着させる工程である。

3.C. パルプ

紙をすく前のお粥(かゆ)のような状態になった原料をパルプという。製紙につかうパルプの製法は、機械パルプ化法と化学パルプ化法の2種類が代表的である。機械パルプ化法は、機械で樹皮をはがした木材に水をかけながら、はげしく回転する研削砥石(といし)にあて、すりつぶしてパルプにする。このパルプでつくられた紙は、価格はやすいが表面があらく変色しやすいので、安価な新聞紙の生産や、高品質の紙でつかう木材繊維と混合するためだけに使用される。

化学パルプ化法には数種類の方法があるが、代表的なクラフト法では、細かくくだいた木材を水にいれ、苛性ソーダと硫化ナトリウムをくわえ、高温高圧の釜でにる。その過程で、樹脂やリグニン、ヘミセルロースなどを分解して除去し、純粋なセルロースの繊維だけをのこす。

3.D. 抄紙

次の工程は抄紙(しょうし)である。フォードリニア機の金網のベルトを回転させ、パルプをベルトの上に均一に広げ、下にある木製の箱で大部分の水を吸収する。この水は再度パルプに混合される。ベルトの下にある送風機は紙を乾燥させるのを補助する。ここを通過した半製品の紙は、表面が金網になった円筒の回転でおくられ、紙の表面に模様をつける。さらに、文字や模様の透かしがほどこされることもある。これは、紙の質と製造元をしめすためである。

3.E. 脱水

すきあがった紙は、2つのフェルトでおおわれたクーチングロールの間をとおる。この工程は、紙をじゅうぶんにひっぱりながら、紙の組織からさらに水をおしだし、繊維をしっかりさせるもので、手作業による製紙工程での脱水と同じである。クーチングロールから、なめらかな金属製のプレスロールの間を通過し、布のベルトの上におくられる。これら一連のロールをとおって、紙の表面がなめらかになる。

3.F. 乾燥

圧縮加工の後は、加熱したロールの間を数回通過し、完全に乾燥させる。次の工程はカレンダー装置による処理で、ゆっくりと冷却したロールの間におくり、表面をつぶしてなめらかにし、紙を回転する刃で断裁する。紙がロール状にまかれてつかわれる場合は、断裁せずにまきとる。特殊紙はさらに加工される。ティッシュペーパーのほとんどは、乾燥用に単独の蒸気加熱装置がついているヤンキー機でつくられる。

4. 透かし

手漉きでも、機械による製紙でも、紙に透かしをいれることがある。原理は、紙の一部に光がよく透過する部分をつくって、文字や模様をつくることで、紙幣、証券、小切手などの偽造防止や、書簡や記録用の用紙に高級感をだす目的がある。1282年には、イタリアのファブリアーノで透かし入りの紙が製造されていた。ヨーロッパでは、製造した工場や年代、紙の発注者、製品の種別を表現する記号や文字がつかわれ、骨董品(こっとうひん)、美術品などの鑑定では、重要な手がかりになる。

4.A. 透かしの方法

透かしの方法は多数あるが、抄造の工程でいれるのは、ウォーターマークとプレスマークが代表的である。ウォーターマークは、すくときに網や簀の子の上に針金などでつくった透かしの型をおき、紙になったときにその部分だけうすくする。プレスマークは、すくいあげた紙にスタンプのようにほった金属などをあてて、その部分だけ紙のすき間をつぶして光が透過しやすくする。

4.B. 特殊な透かし

そのほかに、油性の透明インキで印刷する方法、中間に色のある紙をはさんですく方法がある。黒透かしというのは、ふつうの透かしと逆に、一部だけ光が透過しにくい部分をつくる方法で、日本の紙幣につかわれている技法である。

5. 紙の大きさ

アメリカでは、紙は標準サイズの連(れん)として販売される。紙の連はふつう480枚になるが、絵画用の連と手製の紙は472枚になる。書籍用の紙と新聞紙は、1連が500枚で、正式には516枚である。もっともありふれた書籍用の紙のサイズはオクタボ(112 × 168cm)である。輪転機用の新聞紙は、ロールとよばれるさまざまな寸法の巻き物になっている。典型的な新聞紙のロールは、アメリカの大都市でつかわれているもので、幅がおよそ168cm、長さが7925mもあり、重さは725kgになる。

日本では、さまざまな大きさの紙がある。一般に多くつかう紙にはA列とB列があり、そのほかに四六判(788 × 1091mm)、菊判(636 × 939mm)などがある。A列0判が841 × 1189mmで、コピー用紙などでよくつかうA4判はその1/16で、210 × 297mm、B列0判は1030 × 1456mmである。B列の紙は、同じ番号のA列の紙のほぼ1.5倍の面積になり、どちらも縦と横の長さは、1:Ãの比率になっている。そのため、用紙を半分に切っても、縦と横の比率はかわらない。日本でも、印刷業などで連という単位をつかうが、欧米とはちがい、1連とは1000枚のことをさす。