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相対性理論
I. プロローグ

最初は、相対運動のつじつまのあわない部分を説明しようという試みだったが、そこから発展して物理学におけるもっとも重要な基礎概念のひとつとなった。相対性理論は、おもにアルバート・アインシュタインによって20世紀初めに完成され、のちに物質とエネルギー、空間と時間、重力と加速度の本質的な統一を明らかにする基礎となった。

II. 古典物理学

相対性理論が発達する以前の物理法則は、17世紀後半にイギリスの数学者・物理学者アイザック・ニュートンによって体系化された力学の原理にもとづくものであった。ニュートン力学(古典力学)と相対論的力学は基本的仮定や数学的展開がちがっている。しかしほとんどの場合、結論はそれほどかわらない。たとえば、玉突きの玉が別の玉にあたったときの運動は、どちらの力学にもとづいて計算してもほぼ同じ結果となる。数学的には古典力学のほうがはるかに簡単だから、このような計算には古典力学をもちいるほうがよい。しかし、もし玉突きの玉の速さが光の速さに近ければ、2つの力学は、玉の運動についてまったく別の結果を予言する。今日では、相対性理論がただしい結果を予言し、ニュートン力学ではあやまった結果となることが確認されている。

2つの結論の違いは、19世紀にオランダの物理学者ヘンドリック・ローレンツとアイルランドの物理学者ジョージ・フィッツジェラルドが別々に発見した1つの因子によってきまる。これはローレンツ因子とよばれ、物体の速さによってきまる量で、ふつうg(ガンマ)であらわされる。

ここでvは物体の速度、cは光の速度である。通常の古典力学であつかうgはほぼ1に等しい。たとえば弾道学であつかう最高速度は、1.6km/秒程度(マッハ4.7)で、太陽をまわる地球の速度は約30km/秒である。後者のgの値は1から10億分の5だけずれているにすぎない。したがってふつうの地上の現象に関しては、相対性理論で考える必要はほとんどない。相対性理論は、ひじょうに大きな距離やひじょうにたくさんの物質の集合を計算するときに重要になる。量子論がひじょうに小さなものに適用されるように、相対性理論はきわめて大きなものに適用される。

1887年に、マイケルソン=モーリーの実験がおこなわれた。アメリカの物理学者アルバート・マイケルソンと化学者エドワード・モーリーは当時、宇宙をみたしている電磁放射の媒体と考えられていたエーテルの存在をたしかめようとしたのである。もし太陽が空間に静止しているとすると、地球は約30km/秒の一定速度で太陽の周りを公転している。たとえ太陽あるいは太陽系が空間に対して運動しているとしても、地球の公転運動の速度の方向がたえず変化しているので、地球の速度は、1年のある時期には太陽の速度に公転の速度が加算されたものになり、また別の時期には公転の速度が減算されたものになるはずである。しかし、実験結果は予想をうらぎる説明不可能なものであった。エーテルに対する地球の見かけの速度は、1年を通じてまったくかわらずゼロだったのである。

1. マイケルソンとモーリーの実験

マイケルソン=モーリーの実験は、具体的には2つのちがう方向で光のつたわる速さの差を測定するものである。もし、光が空間を30万km/秒ですすむとすると、観察者が同じ方向に地球の公転速度30km/秒でうごいているときは、光は29万9970km/秒で観察者の場所をとおりすぎるはずである。観察者が反対方向にうごいている場合には、光は観察者の場所を30万30km/秒で通過するはずである。しかし、マイケルソンとモーリーはこの違いを検出することができなかった。検出できないのは光の伝播(でんぱ)が地球の運動に影響されないからだと説明することはできない。天文学ですでに光行差の現象として、天体の発する光の角度は地球の運動の影響をうけることがわかっていたからである。

1893年に、フィッツジェラルドとローレンツは、物体が空間を運動するとき運動の方向の長さがg因子(ローレンツ因子)だけ短くなるという仮説を発表した。この仮説により、マイケルソン=モーリーの実験の否定的結果を以下のように説明できる。この収縮のため、光が同じ時間の間にすすむ距離は実際にはもっと短い。つまり、光はゆっくりと運動していると考えられる。しかし、距離の測定につかわれた装置も同じように収縮するので、この収縮の効果はかくされてしまう。ゆえに光が1秒間にすすむ距離は実際にどの程度の速度であるかとは無関係に30万kmと測定され、速度変化が検出できないというのである。ローレンツ収縮またはローレンツ短縮とよばれるこの仮説は、当時は、絶対的な運動を測定しようとするすべての実験を説明できるわけではないので、不完全であるとみなされていた。

2. ローレンツ変換

1899~1904年に、ローレンツはマクスウェルの電磁方程式を、静止している場合にも運動している場合にも成立させる方法として、有効座標と局所時という概念を導入する。x方向に運動する物体の有効座標はx'=(x-vt)/(1-v²/c²)y、局所時はt'=(t-vx/c²)/(1-v²/c²)yとするもので、これらに対応する電磁場量の変換もしめされた。ポワンカレは、ローレンツの考えがマクスウェルの方程式を不変にする変換式であるとして、ローレンツ変換という名称をあたえた。同時期、アインシュタインは、ニュートン力学の時間と空間の概念を基本から検討して同じ結論をえていた。

III. 特殊相対性理論

1905年にアインシュタインは、重要な論文を発表した。その中で彼は2つの重要な原理を提唱している。1つ目は光速度不変の原理といい、2つ目は特殊相対性原理または共変性の原理とよばれる。光速度不変の原理というのは、あらゆる慣性系から観測する光の速度は一定であるというものである。この一見不思議な結果はマイケルソン=モーリーの実験によって支持されている。特殊相対性原理というのは、あらゆる慣性系は同等であり、どの慣性系でも同じ物理法則が成立するというものである。相対論以前の考え方では、2人の観測者がいて、一方が静止し、もう一方がうごいているとすれば、うごいている方にとっては光速度が変化するとともにローレンツ短縮の分だけ長さの測定をまちがえる。結果として測定される光速度が同じになる。しかし相対論の考え方では、両方の観測者が「自分は静止している」と主張する等しい権利をもつ。双方が自分は静止しているとする座標系で測定をおこなうことができ、どちらも同じ光速度を測定し、どちらにも測定のまちがいなどはない。各々の観測者の座標系はある座標変換で変換される。この変換はすでに知られていたローレンツ変換であったが、アインシュタインによって新しい解釈があたえられた。ローレンツ変換のもとで光速度は不変である。

特殊相対性理論による変換では、運動している物体での長さがかわるだけでなく、時間も質量もかわる。観察者に対して、相対運動をしている時計は、g因子だけおそくすすみ、質量はg因子だけ増加する。この時計の遅れはウラシマ効果とよばれる。当時発見されたばかりだった電子は、このことを立証する手段となった。放射性物質から放出される電子は光速に近い速さをもっている。したがってg因子は、ときには2にもなり、電子の質量は2倍にもなる。

高速でうごく電子の質量は、磁場をかけたときに軌跡がまがる曲率を測定することによってえられる。質量が大きいほどまげられる量は小さい(磁気)。実験はアインシュタインの予言をみごとに立証した。加速された電子の運動エネルギーは、E=mc²という公式のとおりに、質量に転換されたのである(原子:核エネルギー)。特殊相対性理論は、うごいている水の中での光速に関する実験や、運動する物体における磁力に関する実験などによっても実証された。

IV. 一般相対性理論

1915年、アインシュタインは、たがいに加速度をうけている物体をあつかう一般相対性理論を完成、16年に発表した。一般相対性理論は、特殊相対性理論と重力の法則との間にのこっていた不一致を解決しようとするもので、等価原理を基礎に重力についてまったく新しい定義をおこなった。等価原理とは、重力から生まれる力と加速度によって生まれる力とはすべての点において等価であるというもので、実験的にこの2つの力を区別することは不可能である。特殊相対性理論で、たとえば、なめらかなレールの上をはしる列車にのっている観測者は、静止しているのか一様な速さで運動しているのかを実験的に決定することはできないとのべた。一般相対性理論では、その列車が加速されたり、減速されたり、カーブをまがったりしたとき、のっている観測者はそのときにうける力が重力からくるのか、加速度からくるのかを区別することはできない、としたのである。

一般相対性理論は、多くの方法での確認がつづいている。たとえば、太陽のような質量の大きな物体のすぐ近くでは、光がまげられるはずである。これを実証するため、太陽のすぐ近くにあらわれる星の観測がおこなわれ、1919年と21年の皆既日食が利用された。皆既日食のときには、星の光が太陽光の輝きにさまたげられずに観察できるからである。遠征隊が組織されて日食時の星の位置が測定され、それが太陽から遠いところにあらわれる数カ月後の夜に観測された位置と比較された。一般相対性理論では、太陽のすぐ近くの星の位置が1.745秒の角度だけずれる計算であった。近年これに匹敵する観測は、電波望遠鏡の干渉計をつかって(電波天文学)、遠いクエーサーからの電波の偏位を観察することによっておこなわれた。測定結果は1%以内の精度で理論の予測値に合致した。ほかに一般相対論の検証としては、水星の近日点の移動、重力場による時計の遅れなどがあるが、いずれも一般相対論の予言の正しさが確認されている。

重力場をふくんだ大統一理論や万物理論が未完成である現時点においては、2つの相対論は、量子論やゲージ理論などとともに、現代物理学をささえる大きなものである。