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核エネルギー
I. プロローグ

原子核の分裂や融合によって放出されるエネルギー。物理的にしろ化学的にしろ、原子核にしろ、エネルギーというのは、仕事をしたり、熱や放射を放出する能力のことである。1つの系における全エネルギーはいつも保存されるが、他の系に移行したり、形をかえたりすることがある。なお、核分裂物質から連続して熱エネルギーをとりだす装置については、原子炉を、核燃料については濃縮ウランをそれぞれ参照。

1800年ごろまで、主たる燃料としてつかわれていたのは材木であった。材木のエネルギーは、生きている間に木が太陽から吸収してたくわえたものである。産業革命以後は、石炭や石油といった化石燃料に依存してきた。

化石燃料もまた、その根源は太陽エネルギーである。石炭のような化石燃料が燃焼すると、石炭の中の水素原子と炭素原子が結合し、水と二酸化炭素が発生する。そのときに1kg当たり1.6kW/時、あるいは1炭素原子当たり10eV(電子ボルト)の熱が放出される。このエネルギーの大きさは、原子の電子の構造の変化から生じる化学変化に典型的なものである。放出された熱の一部は隣接する燃料をじゅうぶんに加熱し、燃焼反応は持続する。核エネルギーは、新しく登場したエネルギーである。

II. 原子の分裂と融合

原子は、小さく重い正の電荷をおびた原子核を、電子がとりまいてできている。原子核は、原子の質量のほとんどをになっており、それ自体、中性子と陽子からなっている。これらの粒子は、電子を原子核にむすびつけている電気的な力よりもはるかに強い核力によってむすびつけられている。陽子と中性子は総称して核子とよばれるが、ある原子核の質量数Aというのは、この核子の数をあらわす。

原子番号Zは、正電荷をもっている陽子の数をあらわす。特定の原子核は¿ κのようにあらわされる。たとえば、¯Uは、ウラン235をあらわす。同位体

原子核の結合エネルギーは、原子核の中で陽子と中性子がいかに強く核力によって結合しているかをあらわす尺度である。核子1個当たりの結合エネルギー、つまり1個の陽子または中性子が原子核からひきはなされるのに必要なエネルギーは、質量数Aの関数である。結合エネルギーのAに対する変化をあらわす曲線は、次のことをしめしている。つまり、曲線の左のほうの軽い原子核が2つあつまって重い原子核をつくるか、またはずっと右のほうの重い原子核が分裂して軽い2つの原子核に分裂すると、もっと結合の強い原子核が形成され、エネルギーが放出される。

重水素の原子核である重陽子(ªH)が2個結合すると、

の反応によって核融合がおこり、1個のヘリウム3原子と、1個の自由中性子(¦n)と、3.2MeV(メガ電子ボルト:100万eV)、あるいは5.1 × 1013ジュール(1.2 × 1013 cal)のエネルギーが生成される。また、たとえば¯Uが中性子を吸収したときには、
の反応によって核分裂がおこり、セシウム140、ルビジウム93各1個と3個の中性子と約200MeV、つまり3.2 × 1011 ジュール (7.7 × 1012 cal)のエネルギーが生成される。核分裂反応で放出されるエネルギーの大きさは、典型的な化学反応で放出されるエネルギーの1000万倍に達する。

核化学

III. 核分裂による核エネルギー

(2)の反応式から、核分裂によるエネルギーの放出について2つの特徴がわかる。1つは、原子核1個の分裂によってえられるエネルギーがきわめて大きいということである。たとえば、1kgのウラン235を24時間で分裂させると、100万kWの発電所に相当するエネルギーがとりだせる。2つ目は、1個の中性子の吸収ではじまった分裂過程で、分裂したウラン235の原子核から平均して2.5個の中性子が放出されるということである。

こうして放出された中性子は、さらにすぐ2個の原子核の分裂をひきおこす。そこからはさらに4個以上の中性子が放出される。このようにして自己増殖する反応、つまり連鎖反応がおこり、エネルギーが持続して放出されるのである。

天然のウランは、ウラン235を0.71%しかふくまず、残りは核分裂をおこさないウラン238である。天然ウランの状態のままでは、いかに量を多くしても、連鎖反応を維持できない。核分裂でとびだす中性子は約1MeVの初期エネルギーをもっているが、このエネルギーの中性子が次の核分裂をひきおこす確率は小さい。しかし、中性子が水素、重水素、炭素などの軽い原子と弾性衝突をくりかえして減速されると、核分裂をひきおこす確率は数百倍も増加する。このことが、エネルギーの生産を目的とする核分裂炉の設計にあたっての基礎となる。

1942年、アメリカのシカゴ大学で、イタリアの物理学者エンリコ・フェルミが最初の原子核分裂の連鎖反応に成功した。このとき、フェルミ原子炉では天然ウランの塊を純粋な黒鉛の層に一定の分布で配置し、黒鉛が中性子を減速するようにした。

IV. 核燃料と廃棄物

原子炉につかわれる燃料は危険物であり、その取り扱いには注意をはらわなければならない。原子炉の使用済み燃料の処理は、さらに深刻な問題であり、原子力技術はこの点においては未完成である。

1. 核燃料サイクル

原子力発電所はエネルギーサイクル全体の一部にすぎない。軽水炉でもちいられているウラン燃料サイクルが、現在世界的にもっとも広く普及している。このサイクルには多くの段階がふくまれている。ウラン235を約0.71%ふくんでいる天然ウランは、地表あるいは地下にあるウラン鉱から採掘され、濃縮ウランにされる。

濃縮ウランは燃料加工工場におくられ、核分裂性の酸化ウラン粉末にされ、セラミックのペレットにかためられ、耐腐食性の燃料棒につめられる。燃料棒は燃料単位にくみたてられて原子力発電所におくられる。

典型的な100万kWの加圧水型原子炉には約200個の燃料単位があり、ウラン235の劣化や中性子を吸収する核分裂生成物の蓄積のために、その3分の1は毎年交換される。使用された後の燃料は、それにふくまれている分裂生成物のためにおびただしい放射能をおび、相当量のエネルギーを発生している。炉心からとりだされた燃料は、水のはいった貯蔵用プールで1年以上保管されて冷却される。

冷却期間がおわると、使用済み燃料単位は厳重に遮蔽(しゃへい)されたキャスクとよぶ容器にいれられ、永久貯蔵施設か再処理工場に輸送される。再処理工場では、のこっているウランや原子炉で生成されたプルトニウム239が回収され、放射性廃棄物が濃縮される。

1.A. 再処理

使用済み燃料の中には、ほとんど最初のままのウラン238と、約3分の1に少なくなったウラン235と、原子炉で生産された若干のプルトニウム239がふくまれている。直接に永久貯蔵施設におくられるときには、これらのエネルギー資源は利用されない。使用済み燃料が再処理されるときには、ウランは工場でリサイクルされ、核分裂性のプルトニウムは分離されて、新しい燃料のウラン235の一部におきかえられたりして使用される。

しかし、プルトニウム239は兵器生産に不法に利用される可能性があるので、アメリカでは使用済み燃料の再処理はおこなっていない。日本は、フランスの工場に再処理を依頼している。

増殖炉の核燃料サイクルにおいては、プルトニウムはいつも新しい燃料としてつかわれる。新しい燃料単位をつくるときには、リサイクルされたウラン238、同位元素分離工場で貯蔵されている劣化ウラン、回収されたプルトニウム239の一部が原料となる。現在累積している使用済み燃料だけでも、多くの増殖炉を何世紀にもわたって運転することができるので、ウランを新しく採掘する必要はない。

増殖炉は、自分自身に燃料を補給するのに必要な量以上のプルトニウムを生産するので、回収されたプルトニウムの20%は、将来に新しい増殖炉の運転を開始するときのために保存される。天然ウランにふくまれているウラン235をつかうのではなく、新しい燃料はウラン238から増殖されるので、ウランのもっている潜在的エネルギーの75%が増殖炉燃料サイクルで利用可能になる。

すべての燃料サイクルの最終段階は、何千年もの間、生物に危険をあたえる可能性を有する高放射性廃棄物の長期保存である。廃棄物の安全な貯蔵技術として、いくつかのものは満足いくように思われる。しかし、それを明らかにするような大規模施設は1件も建設されていない。使用済み燃料単位は、遮蔽され警備の厳重な貯蔵所で将来の処分のために貯蔵されたり、安定した化合物に変換されたり、セラミックやガラスの中に固化されたり、ステンレス鋼のキャニスターとよばれる容器に密封されたり、地下深く安全な地質構造にうめこまれたりする。

V. 原子核融合

核エネルギーの解放は、結合エネルギー曲線の質量数の小さいほうの端においても、2つの軽い原子核がいっしょになることによっておこる。太陽のような星から放射されるエネルギーは、星の深い内部でおこなわれているこのような核融合反応から生まれている。そこに実現している巨大な圧力と1500万°Cという高温のもとでは、水素原子核が結合し、太陽が放出するエネルギーの大部分を生成しているのである。

原子核融合は、1930年代初期に、質量数2の水素の同位体である重水素の標的に、サイクロトロン(加速器)で高エネルギーに加速された重陽子をうちこむことによってはじめて達成された。重陽子を加速するのに大きなエネルギーがついやされ、そのエネルギーの大部分は標的における熱となってうしなわれた。したがって有用なエネルギーはとりだされていない。50年代になって、最初の大規模な核融合エネルギーが解放された。それは、アメリカ、ソ連、イギリス、フランスによる水爆の実験であり、それらは制御されないエネルギーの爆発であった。

1. 核融合反応

核融合においては、電荷をもった粒子が接近して結合する必要があり、そのためにはきわめて高い温度で粒子の運動エネルギーを大きくして反応させる必要がある。反応する気体の温度は摂氏5000万°Cから1億°Cの高温を必要とする。この温度では、水素の同位体である重水素と三重水素の気体は、核融合反応

をおこして、約17.6MeVのエネルギーを放出する。エネルギーは最初は生成したヘリウム4の原子核と中性子の運動エネルギーとしてあらわれるが、やがて気体や周囲の材料の熱に転換されていく。

もし気体の密度がじゅうぶんであれば(この温度では必要な密度は10-5気圧にすぎず、真空といってもよい)、エネルギーをえたヘリウム4原子核は周囲の水素ガスにエネルギーを伝達し、高温をたもち、融合反応の持続を可能にする、つまり核融合連鎖反応がおこる。このようになったとき、核融合が「点火」したという。

2. 基本的課題

核融合を利用するための基本的課題は、(1)気体をこのように超高温に加熱すること、(2)じゅうぶんな量の反応原子核を、気体の加熱と閉じこめるのに必要なエネルギーをうわまわるエネルギーを解放させるのにじゅうぶんに長時間閉じこめることである。次の段階における重要な課題は、このエネルギーをとりだして電気出力に変換することである。

10万°Cの温度でも、水素原子はすべてイオン化する。気体は正の電荷をもった原子核と負の電荷をもった自由電子の、電気的には中性な集合体になる。物質のこの状態はプラズマとよばれる。

3. プラズマの閉じ込め

核融合をおこすほど高温のプラズマは、ふつうの材料では閉じこめることはできない。プラズマは急速に冷却し、容器の壁は高温で破壊されるであろう。しかし、プラズマは電荷をもった原子核と電子でできているので、強い磁力線の回りをしぼりこまれた螺旋(らせん)状に運動する。これを利用すると、適切に設計された磁場をくわえることによってプラズマを物質の壁と反応させないで閉じこめることができる。

核融合装置が実用になるためには、エネルギー出力がプラズマを加熱し閉じこめるために必要なエネルギーをうわまわらなければならない。この条件は、プラズマを閉じこめる時間tとプラズマの密度nの積が1014より大きくなったときにみたされる。関係式

t n ≧ 1014

は、ローソン条件とよばれる。

4. トカマク装置

アメリカ、ソ連、イギリス、日本などで、1950年以来さまざまなプラズマの磁気閉じ込め方式が検討されてきた。熱核反応は観測されてきたが、ローソン値が1012をこえることはほとんどなかった。しかし、タムとサハロフによって提案されたトカマクという装置が、1960年代初めに有望な結果をしめしはじめた。

トカマクの閉じ込め容器は、小円の直径が約1m、大円の直径が約3mの円環体をなしている。大型電磁石により、約5万ガウスの環状(トロイダル状)の磁場が、この容器の中につくられる。円環と結合したトランスコイルで、プラズマの中に数百万アンペアの縦方向の電流が誘導される。その結果つくられる磁力線は円環体の中に螺旋をえがき、プラズマを安定的に閉じこめる。

小さいトカマクでの実験が成功したのち、1980年代初期から中期にかけて、アメリカのプリンストン大学、イギリスにある合同ヨーロッパトーラス研究所(JET)、日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)に3つの大型装置が建設された。トカマクでは、プラズマの高温はトロイダル状の大電流によって自然に抵抗加熱によってつくられる。新しい大型装置においては、中性ビームの注入によってさらに加熱がおこなわれ、点火条件が達成される。

5. 慣性閉じ込め

核融合エネルギーをえるためのもう1つの方法は、慣性閉じ込めによる方法である。この方法では、三重水素や重水素の燃料が小さいペレットに封入され、数方向からパルスレーザービームをあてる。これによってペレットが爆縮して核融合反応をおこし、燃料が点火する。アメリカ、日本など数カ国の研究所で、この方法の可能性が現在追求されている。核融合の研究は有望ではあるが、消費するよりも多くのエネルギーを生産するような、安定的な融合反応装置の開発には、おそらくなお数十年を要するであろう。研究は高価でもある。

6. 成果

しかし、1990年代初期に、若干の進歩があった。91年、歴史上はじめて、170万Wという相当量のエネルギーが、JETにおいて、制御された核融合によって発生した。93年12月には、プリンストン大学の研究者たちがトカマク融合実験炉で、出力560万Wの制御された核融合反応に成功した。しかし、いずれの場合も、運転に消費したエネルギーのほうが、生産したエネルギーよりも大きかった。さらに日本原子力研究所では0.61秒間、プラズマの閉じ込めに成功した。

もし核融合エネルギーが実用になれば、理論上、(1)海洋からの重水素が無尽蔵の燃料資源となる、(2)装置内の燃料の量が少量なので原子炉事故の可能性がない、(3)生成廃棄物の放射能が少なく、核分裂生成物よりも扱いが容易であるなどの利点が予測される。しかし、大規模技術の常として予測をこえた諸問題が発生することも歴史はおしえている。