| 検索ビュー | 薬物依存症 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
薬をのむと精神的な安心感がえられることから、ふだんから精神的、肉体的に薬にたよってしまう状態。薬物依存がひどくなると、薬が体の中で生理的に変化をおこし、薬なしではいられなくなって中毒状態になる。たとえば、薬をのみつづけているうちに、だんだん体が薬になれてきて、量をふやさないと効き目がなくなったり、薬の効果がきえたあとに禁断症状がでたりする。禁断症状は、薬の種類によってさまざまだが、おもに吐き気、下痢、痛みなどがあらわれる。禁断症状がでなくても、薬をつかいたいという気持ちが強いときには、心理的な依存や習慣性があるとされる。
動物実験によると、アヘン、アルコール、コカイン、鎮痛薬などは、自分からくりかえし摂取しようとする。これらは強い刺激反応をおこし、習慣的に使用されやすい。マリファナや幻覚剤などは、実験動物ではそれほど強い刺激反応はないが、人間の場合は習慣になる。
依存症をおこしやすい薬は、アヘン系、鎮静・催眠薬(→ 鎮静薬)、興奮薬、幻覚剤、大麻、吸入剤の6種類にわけられる。
| II. | アヘン系 |
ケシから抽出したアヘンを原料とするモルヒネや、ヘロイン、メサドンなどが、代表的なものである。医療的には、モルヒネは、痛み、咳(せき)をおさえるほか、小腸の動きをおさえて下痢を改善する。モルヒネから合成されたヘロインは、はじめ咳をおさえる薬としてつかわれていたが、間もなくひじょうに強い中毒性があることがわかり、現在は、製造、使用ともに禁止されている。不安、不眠、吐き気、発汗、痙攣(けいれん)、嘔吐(おうと)、下痢、発熱などの禁断症状があらわれる。→ 麻薬
1970年代に、エンドルフィンやエンケファリンという麻薬類似物質が脳から自然に分泌され、麻酔作用があることがわかった。麻薬の作用はエンドルフィンやエンケファリンによく似ており、これらの物質の分泌が少ないと、体が麻薬にたよりやすい、という説もある。
| III. | 鎮静・催眠薬 |
鎮静・催眠薬の代表は、バルビツレートである。1900年代初期から不安、不眠症の薬やてんかんの治療薬としてつかわれていた。アルコールに似た重い依存性(→ アルコール依存症)をひきおこす。やめるとすぐ、ふるえ、不眠、不安がおこり、1日後に痙攣や意識の混濁があらわれる。常用しているのを急にやめたり、大量にもちいたり、アルコールをのんだときに使用すると、死にいたる危険もある。
ベンゾジアゼピンは、いわゆるマイナートランキライザー(→ 精神安定剤)で、不安、不眠、てんかんの治療にもちいられる。バルビツレートよりも安全だということで、今ではバルビツレートにかわってつかわれることが多いが、いっぽうで、その中毒が問題になってきている。
| IV. | 興奮薬 |
コカインとアンフェタミン系が代表である。コカインは、南アメリカ産のコカの木の葉からとった物質で、苦味のある白い結晶状の粉末である。医療用には、鼻やのどの麻酔、また手術中、血管を圧縮して出血を少なくする目的でつかわれている。1970年代から乱用がふえはじめたが、乱用すると精神的にも肉体的にも深刻な問題がおきる。80年代に登場した「クラック」は、煙にしてすいこむもので、中毒性がひじょうに強い。
アンフェタミンは1930年代に、風邪などの治療薬としてはいってきたが、のちに神経系に影響をあたえることがわかった。肥満の人が、食欲をおさえるためにもちいられたこともある。現在では、ナルコレプシーや、子供の多動症の治療につかわれている。いっぽうで、警戒心を強め、気分を高め、疲れや眠気をへらす作用がある。アメリカでは「スピード」という俗称でよばれ、覚せい剤取締法の対象になっている。
コカインもアンフェタミンもともに、静脈注射をするとすぐに幸福感や食欲不振の作用があらわれる。長い間常用すると、急性の統合失調症に似たような症状がおこることがある。効果が切れたときにひじょうに不快な抑うつ症状があらわれるため、中毒におちいりやすい。
| V. | 幻覚薬 |
幻覚薬は、医療用にはほとんどもちいられていない。おもなものは、1960年代にひろまったLSD、サボテンの一種からとるメスカリン(→ ペヨーテ)などである。LSDをつかうと、孤立感・幸福感をおぼえ、幻覚におそわれ、音がきこえると色があらわれるように感じるなど、感覚がいりまじる状態がおきる。1度つかいだすと、使用量はどんどんふえるが、やめたときの禁断症状はあらわれない。
「エンジェル・ダスト」、「ロケット燃料」などの名前で知られるフェンサイクリジン(PCP)は、1970年代後半にはよくつかわれていた。しかし、現在は獣医師がときおり動物の麻酔や鎮静のためにつかうだけで、人間にはほとんどつかわれない。PCPをつかうと、孤立感をおぼえ、痛みに対する感覚がなくなる。急性の統合失調症に似た症状があらわれ、ときに破壊的な行動をおこすことがある。
| VI. | 大麻 |
タイマの葉・花・枝からつくられるのは、マリファナで、樹脂からつくられるのがハシシである。両方とも煙のかたちにしてすいこむ。作用も似ていて、リラックス感がえられ、時間のたつのがおそく感じられ、聴覚・味覚・触覚・嗅覚(きゅうかく)がするどくなる。車を運転する前にすいこむとたいへん危険である。また、タバコと同じように、肺に損傷がおこる(→ 喫煙)。
| VII. | 吸入剤 |
接着剤やシンナー、スプレーなどで、医療用の薬ではない。シンナーなどは中枢神経系の活動をおさえ、大量にすいこむと、自分の行動をコントロールできなくなったり、無意識状態になったりする。作用はすぐにあらわれて45分間ほどつづき、その後、頭痛・吐き気・眠気などがおこる。吸入剤は、判断力や思考力をそこなうだけでなく、筋肉や反射神経もそこなう。吸入剤は簡単に手にはいるため、常用していると循環系に障害がおこり、脳や心臓にわるい影響がでる。
| VIII. | 治療 |
薬物乱用者は、専門施設への入院治療がのぞましい。ドラッグの種類にかかわらず、治療の最終目標は、薬をやめさせることである。
治療には2つの方法がある。ひとつは、集団治療で、患者の問題は患者自身に責任をもたせようというものである。この方法は、ドラッグの常用者は精神的におさないため、成長のチャンスをあたえようという考え方にもとづいている。もうひとつは、より依存性の少ない物質をつかって、禁断症状を少しずつなくしながら薬をやめさせようというものである。
| IX. | 社会的な問題 |
麻薬類を習慣的につかうようになると、薬を手にいれるため、また常用や乱用によって、体や精神に障害をきたして、犯罪をおこすことがある。これは、世界各国でも大きな社会問題となっており、法律できびしくとりしまっている。
国連では、1990年に麻薬特別総会を開催し、91年からの10年間を「麻薬撲滅の10年」に決定した。薬物の乱用は、青少年の間にもひろがってきている。好奇心などがきっかけとなって薬物依存へとすすむことが多く、薬物を手にしないことがもっとも大切な予防法となる。現在日本でも、「ダメ。ゼッタイ。」をスローガンに薬物乱用防止の運動が全国で展開されている。
また、麻薬及び向精神薬取締法、あへん法、大麻取締法、覚せい剤取締法によって、麻薬・覚せい剤の取り扱いや使用を規制している。麻薬の使用は医療と学術研究だけにかぎられており、取り扱いも都道府県知事の許可をうけた者にかぎられる。最近は、乱用がみられる向精神薬の取り締まりが強化されている。