| 検索ビュー | 歯 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
脊椎(せきつい)動物や少数の下等動物の上顎(うわあご)と下顎についている硬い石灰化した組織。おもに咀嚼(そしゃく)するのにつかわれる。ガリガリかじったり、穴をほったり、たたかうためにつかう動物もいる。歯の形は進化がすすむにつれて発達した。サメのようにマツカサ形の歯がうろこのように列をつくっている単純なものから、哺乳類のように複雑な形をしたものまである。
| II. | ヒトの歯 |
ヒトの歯は、かむ以外にも大事な働きをしている。たとえば、話をするときには舌が歯をおし、歯がつっかい棒の働きをしたり、歯と舌をこすって、ある音(おん)が発音される。顔の形や表情もつくったりしている。歯がぬけていたり、生え方がととのっていなかったりすると、容貌(ようぼう)に影響する。
| 1. | 歯の構造 |
ヒトの歯は、歯冠とよばれる外にでた部分と、歯根とよばれる顎(あご)にうまった部分からできている。歯冠のいちばん外側の層はエナメル質という石灰化した組織で、体じゅうでいちばん硬い。エナメル質の内側には象牙(ぞうげ)質という骨のような物質があり、エナメル質の内側から顎までひろがって歯根をつくっている。
歯根の象牙質は、セメント質の硬くてうすい膜につつまれ、歯根自体は歯根膜の弾力性にとむ線維でしっかりとささえられている。歯根膜は、セメント質から歯槽硬線とよばれる顎の厚い骨の層までのびている。
歯冠の象牙質は歯髄腔をとりかこみ、歯髄腔は歯根までのびて歯根管になる。歯根の先端の歯根管の穴から血管や神経や結合組織が歯根や歯髄腔にはいっている。
| 2. | 歯の発生 |
ヒトの胎芽では、妊娠第2カ月目に外胚葉組織と中胚葉組織でできた歯蕾(しらい:または歯胚)がでてくる。このうち外胚葉組織は石灰化してエナメル小柱(エナメル芽細胞)になり、さらに発達して歯冠をおおうようになる。これに対して、中胚葉組織は歯冠の象牙質と歯髄腔に分化し、象牙質の石灰化がつづいて、歯根と歯根管ができる。
その後に血管や神経や、結合組織が、歯根管をとおって歯髄腔までのびてくる。歯胚のある細胞は、象牙質をたえずつくるので歯根が長くなり、それにつれて歯髄腔と歯根管はせまくなる。歯が発達しつづけると、歯が生えだす力で歯冠は歯茎をつきぬけて外にでてくる。
| 3. | 乳歯と永久歯 |
ヒトでは顎が発達しはじめるころに20本の乳歯が生え、顎がじゅうぶんに発達してくると32本の永久歯に生えかわる。顎が発達して大きくなるにつれて、乳歯の歯根ははなればなれになってすきまができ、そこに永久歯が生えてくる。永久歯が生えてくると顎の組織が圧迫されて乳歯の歯根が吸収され、歯冠だけがぬけおちる。このようにして永久歯が1本生えるたびに乳歯の歯冠がぬける。
| 4. | 切歯、臼歯、犬歯 |
永久歯の歯冠には切歯、臼歯、犬歯の3種類がある。
切歯は前歯ともいい、食物を切りとるのに適した鋤(すき)形をしていて、中切歯と側切歯が上下左右に各1本合計4本ずつある。側切歯のすぐ奥には犬歯、つづいて2本の小臼歯(しょうきゅうし)があり、犬歯にはとがった先端が1つ、小臼歯にはとがった先端が2つあって、食物をひきさくための歯になっている。小臼歯の奥が第1大臼歯、第2大臼歯、第3大臼歯で、これら3本は、かむ表面がわりあい平らになっているため、食物をすりつぶしたり、おしつぶしたりできるようになっている。
こうして食物は、切歯に切りとられ、犬歯と小臼歯で小さくされ、大臼歯ですりつぶされて、消化できるような大きさになる。ヒトの歯はまだ進化の途中にある。顎が小さくなり、食物が精製され余分な大臼歯が必要でなくなると、親知らず(知歯)とよばれる第3大臼歯はきえていくだろう。
| 5. | 歯列 |
歯の生える順序はきまっている。この順番がくるうと、乳歯がぬけおちなかったり、乳歯のあとに生える永久歯がなかったり、永久歯が骨にうまって生えてこなかったり、よけいな歯が生えたりして、歯がただしくならんで生えない。また1本の歯がぬけると、となりの歯はぬけたあとのほうにかたむき、ぬけた歯と上下でむかいあっていた歯も、ぬけたあとのすきまへのびるので、歯がずれ、歯列不正や不正咬合になることがある。
歯を顎にくっつけているのは歯根膜の弾力性にとむ短い線維であるため、このようなずれをおこす。ヒトの顎の関節は蝶番(ちょうつがい)関節なので、うごく範囲がひろく、そのため歯も大きくうごくが、通常はとなりあっている歯とむきあっている歯が、歯にかかる力を均等にしてずれないようになっている。不正咬合がひどい場合は、専門の矯正歯科医に歯の位置をなおしてもらわなければならない(→ 歯科)。
| 6. | 虫歯 |
正しくはう歯という。歯は虫歯になりやすい。口の中にいつも口内細菌がおり、炭水化物と反応して酸ができ、この酸がエナメル質をとかすのである。そこから別の細菌が象牙質へはいりこんで、最後は歯に穴をあける。虫歯がすすむと歯髄腔内の組織に感染し、ついには壊死(えし)をおこしたり膿瘍(のうよう)ができたりする。ひどくなると顎の骨に影響をおよぼす。
虫歯は腐敗性のガスを発生するので、歯髄の入り口がふさがっていると、ガスがとじこめられて歯髄内が圧迫され、ひどい痛みをおこす。歯根管から感染物質をとりのぞく歯根管治療がおこなわれるが、重症の場合には歯をぬいて治療する。
ほかの器官とちがって歯自身には回復力がないため、初期には重症の感染症の併発をふせぐ治療が必要となる。その後に、くさった歯質をとりのぞいて、金、銀アマルガム、磁器、合成セメント質、あるいはプラスチックなど化学作用のないものをつめる。虫歯になった歯を金属冠などでおおったりすることもある。
歯の衛生をたもち、定期的に歯の検査をうけていると歯の病気の予防に役だつ。炭水化物をおさえたバランスのとれた食事をしていれば、歯の感染症は最小限におさえられる。また、食後に歯をみがいて食物の残りかすをとりのぞくと虫歯をへらせるが、歯みがきは歯茎を傷つけないように歯が生えている方向にむかってみがく。
| 7. | 最近の進歩 |
2%のフッ化ナトリウム溶液を直接歯の表面にぬると、虫歯を40%へらすことができ、飲み水にフッ素を100万分の1くわえると虫歯を65%へらすことができると1949年に発表された。これには強い反対はあるが、この発表がされてから、フッ素処理が子供の虫歯をふせぐのに有効であることが証明されている。
また、虫歯を予防するために、子供の歯を細菌にふれないように密封する方法(小窩裂溝填塞法:しょうかれっこうてんそくほう)も開発された。1960年代後半には歯の移植も成功し、現在は義歯の移植もおこなわれている。虫歯の原因菌に対するワクチンも研究され、アメリカでは80年の半ばには臨床試験がはじめられた。
| III. | 歯の比較解剖学 |
歯と蝶番のようにうごく顎は、動物の進化のあらわれであり、海綿やクラゲなどの下等動物にはみられない。哺乳類の歯はもっとも進化していて、顎骨の穴にすっぽりと入りこみ、歯根膜にささえられている。また、げっ歯類以外のほとんどの哺乳類には最初の歯と永久歯の2組の歯が生える。
| 1. | 動物の歯の構造 |
動物の歯も人間の歯と同じ構造で、エナメル質、象牙質、セメント質、歯髄の4つでできている。しかし、それらの成分や構造は動物ごとにちがっていて、ウマではエナメル質が象牙質と歯髄の周囲だけをつつんでいるのではなく、歯冠全体の成分となっている。
| 2. | 動物の歯の種類 |
動物の歯は、それぞれの種(しゅ)の食べたりかんだりする必要性に応じて、何世紀にもわたって進化、発達してきた。
| 2.A. | 肉食動物と草食動物 |
種はちがっても、特定の目的のために発達した歯がある。たとえば肉食であるトラと、魚を食べるアザラシでは、獲物をしっかりとつかんでひきちぎるため、先端のとがった犬歯が発達している。草食動物のウマやウシは草やパルプのようなものを切りとるための切歯と、すりつぶすための大臼歯が発達し、大臼歯は平らで大きくなっている。イヌやネコには、食物をつぶしたりひきさいたりするための発達した犬歯が多くあり、大臼歯はするどく細くなっている。ゾウの大臼歯は食物をすりつぶすので先端が平らになっていて大きい。
哺乳類の一部やほとんどの魚類、爬虫類の歯は多生歯性で、たえず成長し新しい歯といれかわる。げっ歯類や、ゾウやセイウチのような牙(きば)をもった動物には、ふつう歯根が生じない前歯が数本ある。ビーバーは木をきってダムをつくるためにたえず切歯をつかって、1年に1.2mもの割合でのびる。
| 2.B. | 魚類と爬虫類 |
多くの魚類や爬虫類にはさまざまな形の歯があるが、一般には獲物をつかまえるため、するどい歯となっている。なかには舌や口蓋(こうがい)に歯が生えていたり、のどに、もう1組の歯があったりすることもある。ワニの歯は、ヒトと同じように顎にしっかりと植えられている。カメには歯はないが、両顎に硬くて、先端がするどい骨でできた口蓋がある。カエルなどの歯のない両生類には、生まれたとき卵のからをやぶるための卵歯をもっているものがあるが、これは生まれるとすぐにぬけおちて、2度と生えてこない。ガラガラヘビのような毒をもった爬虫類では切歯が発達して毒牙となり、獲物に毒を注入する働きをしている。チスイコウモリにも同じような切歯がある。