対位法
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対位法
I. プロローグ

2つ以上の旋律(メロディ)を同時に進行させる作曲技法。語源のラテン語punctus contra punctumは「点対点」、つまり音符対音符のことだが、実際には旋律対旋律を意味する。複数の旋律が同時に進行する点ではポリフォニー(多声音楽)と同じだが、2つの用語の使い方には多少の違いがある。一般的に、ポリフォニーが「ホモフォニー」と対立する概念として音楽の構成を問題にするときや、中世の多声音楽をさすときにつかわれるのに対して、対位法はそれよりもあとの時代の音楽、たとえばヨハン・セバスティアン・バッハの作品などのテクスチュア(構成)や、多声音楽の作曲技法である16世紀の対位法をさす場合につかわれる。

身近な対位法のひとつに、単純なタイプのカノンである輪唱がある。イギリス古謡の「こげこげボートを」(譜例1)にみられるように、輪唱では曲が一巡するまで全声部(パート)とも同一の旋律をたどるが、各パートは時間をずらして歌にくわわる。1声だけのモノフォニーや、1つの旋律に和音の伴奏がつくホモフォニーの音楽では、聞き手の関心はつねにいちばん上の声部の旋律にむけられる。しかし輪唱では、時間をおいて次々にあらわれる旋律に聞き手の関心がむけられる。

ある意味では、複数の声部を同時にならす音楽すべてが、大なり小なり対位法を内包している。ホモフォニー音楽においてさえ、旋律と伴奏声部の間で対位法が成立する。しかし厳密には、ことなった声部の旋律が対等な力関係にあり、しかもそれぞれが進行の仕方(上行、下行、同度)やリズムの刻み方で独立している音楽を、対位法音楽とよぶ。

譜例1の輪唱で対位法の特徴を観察してみよう。この場合には、どの声部の旋律も同じであるから、旋律の重要性(力関係)はひとしい。ある声部が1つの音を保持している間に(たとえば、第4小節の第1声部、第6小節の第2声部)、ほかの声部の音はしばしばうごく(上行ないし下行する)。このような同度進行と上行または下行の組み合わせを、斜進行('*-,)とよぶ。1つの声部が上行(第6小節の第3声部)または下行し、ほかの声部がそれとは逆の方向へうごく進行(第6小節の第1声部)は、反進行(+&)である。2つの声部がともに上行ないし下行する進行(第7小節の第1、2声部)を、平進行()()というが、これはめったにみられない。旋律と同様、各声部のリズムもつねに独自の動きをする。

対位法は、さまざまな形で音楽に活気をあたえてきた。たとえば、中世フランスの作曲家ペロタンによるリズムを反復する初期ポリフォニー、イタリアのパレストリーナやフランドルのラッススら、16世紀の作曲家による旋律と和声のバランスがとれた盛期ポリフォニー、18世紀初期にバッハがつくりだした壮麗な音の大伽藍(がらん)、古典派時代(18世紀末~19世紀初め)に、いきいきとした対位法的な構成を推移部や展開部にもちいた、モーツァルト、ハイドン、ベートーベンの楽曲、旋律同士が不協和にぶつかりあうハンガリーのバルトークやロシア出身のストラビンスキーらの20世紀音楽、ベースの旋律を土台に自由に展開されるジャズの即興演奏など、対位法をもちいた作例は数限りない。