| 検索ビュー | 素粒子 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
物質を構成する最小の単位であり、ふつう直径が10-13cmから10-16cmの粒子をいう。素粒子や素粒子間の相互作用を研究する素粒子物理学がまたの名を高エネルギー物理学ともよばれるのは、不確定性原理がしめすように、こうしたきわめて小さいものの物理現象のエネルギーがひじょうに高いからである(→ 量子論)。素粒子という言葉は、物質の構成要素がこれ以上分割することができないと考えてつけられた。研究がすすむにつれ、前に素粒子とよばれていた粒子の中には、今では複雑な構造をしているとわかっているものもあるが、そのまま素粒子とよんでいる場合もある。
| II. | 粒子物理学の登場 |
粒子物理学は、物質のより小さい構成要素を探求するところからはじまった。20世紀以前は塊としての物質、目にみえる物質の性質が研究された。19世紀末には、分子や原子の物理学が発達した。原子や分子の大きさはおおむね10-8cmであり、その構造の研究のおかげで1925~30年の間に量子論という大きな成果が生みだされた。
1930年代の初めには、原子核の構造の研究がはじまった。原子核の大きさはおおむね10-12~10-13cmである。原子核の研究についての知識は、原子力発電や、原子爆弾や水素爆弾に応用されるほどに発達した(→ 核エネルギー:核兵器)。第2次世界大戦後になると、原子核の基本構造を理解するには、素粒子の構造を研究することが必要であると認識されるようになった。
| III. | 分類 |
粒子はさまざまな性質によって区別され、現在では数百種の素粒子が知られている。大きくは4種類のグループに分類され、ゲージ粒子(力を伝達する粒子)、レプトン、クォーク、ハドロンである(付表の代表的な分類リスト「素粒子表」参照)。ただし、ハドロンはじつはクォーク複数個が結合してできた複合粒子であり、厳密な意味では「素」粒子ではない。
原子核を構成している基本的な成分は陽子と中性子であり、原子核の周りを電子がまわって原子となる。光子は電波、可視光線、X線などの電磁波の基本単位をなす粒子である。中性子は孤立した粒子としては不安定であり、平均917秒の寿命で崩壊する。しかし、陽子と結合して酸素16とか鉄56といった原子核を形成すると、安定する。
電子、光子、陽子、中性子以外の素粒子は、1945年以後に宇宙線の分析や高エネルギー加速器をつかった実験によって発見された(→ 加速器)。重力を伝達するグラビトン(重力子)などのように、存在が予言されてはいるがまだ発見されていないものもある。
1928年、イギリスの物理学者ポール・ディラックは、すべての素粒子には反粒子とよばれる別のタイプの粒子があることを理論的に予言した。32年、アメリカの物理学者カール・アンダーソンは電子の反粒子を発見し、陽電子(ポジトロン)と名づけた。反陽子は、55年アメリカの物理学者オーエン・チェンバレンとエミリオ・セグレによって発見された。光子のような素粒子は、自分自身が反粒子でもある。物理学者はふつう、反粒子には粒子の記号の上にバーをつけて表記する。
粒子は、スピンつまり角運動量によってボソン(ボース粒子)とフェルミオン(フェルミ粒子)に分類される。ボソンは、プランク定数hを2pで割ったものの整数倍のスピンをもっており、フェルミオンは、同じ定数の半整数倍のスピンをもっている。
| IV. | 相互作用 |
素粒子は相互に力をおよぼしあい、たえず生成したり消滅したりしている。これは相互作用とよばれる。素粒子の相互作用として現在、4種類が知られている。

それぞれの相互作用は、特定の種類のボソンを交換することによっておこなわれる。強い相互作用はもっとも強く、クォークを結合して核子(陽子と中性子)を形成する力である。この相互作用はグルーオンの交換によって生じる(→ 量子色力学)。
次に強力なのは電磁相互作用であり、原子や分子で電子を原子核に結合させる力となる。この相互作用は光子を交換しておこなわれる。化学反応とは、電子を原子核に結合するこの電磁的結合の転換を意味している(→ 化学反応)。
いわゆる弱い相互作用は原子核の放射性崩壊における相互作用で、これはボソンW+、W-、あるいはZ0の交換によっておこなわれる。原子核の放射性崩壊は1896年にフランスの物理学者・化学者アントワーヌ・ベクレルがウランからの放射線、98年にキュリー夫妻はラジウム、ポロニウムからの放射線を観察し、そろってノーベル賞を受賞している。
物質の重力相互作用は、素粒子の相互作用の中でもっとも弱いものであるが、大きな規模の現象において重要である。この相互作用は理論上ではグラビトンの交換によっておこなわれるとされるが、グラビトンの存在はまだ実験で証明されていない。
| 1. | 対称性と強い相互作用 |
パリティ不変性(パリティ保存則)は4つの相互作用のすべてに観察されると思われていた。しかし、1956年、中国の物理学者のT.D.リー(李政道)とC.N.ヤン(楊振寧)は、弱い相互作用は左巻き状態にだけはたらくと考えられることをしめした(→ パリティ)。左巻き状態とは、粒子が動く方向とスピンの方向が反平行になっている状態である。
→ 小林・益川理論
| V. | 保存の法則 |
素粒子の相互作用の力学は、ニュートンの運動の3法則の運動方程式にしたがう。ニュートン力学においては、エネルギー、運動量、角運動量が保存されるとする。素粒子の相互作用においてもこの保存則はそのまま有効であるが、さらに別の保存の法則が発見されており、原子核や素粒子の構造と相互作用で重要な役割を演じる。
| 1. | 対称性と量子数 |
20世紀までの物理学では、対称性の原理というのは流体力学と結晶学(→ 結晶)でもちいられるだけであった。1925年以降、原子や原子の振る舞いについて量子論が発展するにつれて、対称性をとりいれることによって、原子状態をあらわす量子数や原子状態間の遷移を支配する選択規則がみちびきだされた。
粒子物理学における対称性の原理では、空間的な鏡像対称、空間反転、すなわちパリティ(P)保存則、時間の反転対称(T)、荷電の共役変換(C)が重要である。空間反転とは、空間座標の座標軸の向きがかわることをいう。3つの空間座標x、y、zについて、符号がかわるなら-、かわらないなら+とすることをパリティ(同値性、偶奇性)といい、座標軸の左右どちらであっても粒子の物理現象そのものは同じで、パリティは時間とともに変化することはない。時間反転とは、空間座標はかえずに時間軸の向きを変換することである。
| 2. | 対称性とクォーク |
素粒子の分類は、量子数にもとづいていた。したがって対称性の考えと切りはなすことのできないものであった。アメリカの物理学者マレー・ゲル・マンとジョージ・ツワイクは1964年、それぞれ独立に、3種類のクォークとその反粒子が存在することを提唱し、バリオンと中間子はクォークでできていると説明した。当時はアップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークの3種類が考えられていたが、対称性から4番めのクォークの必要性が認識されていた。74年には予言どおり、チャームクォークと反チャームクォークの複合粒子であるJ/Ψ粒子(ジェープサイ粒子)が発見された。それ以来、バリオンと中間子のクォーク模型の正しさをしめす証拠がつみ重ねられてきている。素粒子の標準モデル理論では、6種類のクォークの存在を仮定したが、すべてが実験的に確認されている。
| VI. | 相互作用の場の理論 |
19世紀半ば以前は、相互作用は距離をへだてて作用すると考えられていた。イギリスの科学者マイケル・ファラデーは、ある物体が他の物体におよぼす相互作用は、場をとおして伝達されるという考えをはじめて提唱した。スコットランドの物理学者ジェームズ・マクスウェルはファラデーの考えを数式にあらわし、マクスウェルの方程式とよばれる方程式の形に電磁場の理論をまとめた(→電磁気学の「マクスウェルの方程式と電磁場」)。1916年、アルバート・アインシュタインは重力相互作用の理論(一般相対性理論)を発表し、それが2つめの場の理論となった(→ 相対性理論)。アインシュタインはこの2つを統一的に記述する統一場の理論を構築しようとしたがはたせなかった。当時はのこる2つ、つまり強い相互作用と弱い相互作用は知られていなかった。
量子力学の発展とともに、1930~40年代に場の理論は困難に直面した。困難というのは、量子力学的計算においては、粒子間の距離がひじょうに近いような状態まで確率的な和をとらなければいけないということに起因する。素粒子の自己エネルギーなどを計算すると、計算の中に無限に近い距離でのエネルギーまで入ってくるために値が発散してしまい、うまく結果がえられないのである。これは発散問題とよばれる。困難を部分的に克服するために、日本の物理学者の朝永振一郎をはじめ、アメリカの物理学者ジュリアン・シュウィンガー、リチャード・ファインマン、イギリス生まれのアメリカの物理学者フリーマン・ダイソンらも47~49年にかけて「くりこみ理論」とよばれる方法を開発した。くりこみ理論は、無限大に発散してしまう電子の質量と電荷が有限であるように、量子力学的効果を計算する前の質量や電荷(それぞれ「裸の質量」「裸の電荷」とよばれる)を逆符号の無限大とおき、結果としてえられる値が実測値に一致するようにするもので、これをもちいることにより、実際的な計算結果が出せるようになった。しかし、数学的に厳密に考えると、無限大引く無限大で有限部分をのこすような計算には意味がないという批判もあり、このような立場からは場の理論の基礎は不完全なままであるといえる。
| 1. | 場の理論の統一 |
4つの相互作用は、きわめてことなるものである。それをひとつの概念的な全体に統一しようとする努力は、1920年以前にアインシュタインによって電磁場と重力場を統一しようとする試みとしてはじめられた。しかし、この試みは成功しなかった。アメリカの物理学者シェルドン・グラショーとスティーブン・ワインバーグ、パキスタンの物理学者アブドゥス・サラムの3人は、電磁相互作用と弱い相互作用を統一するモデルを生みだして79年のノーベル物理学賞を受賞した。
このモデルで骨格をなす理論にはドイツの数学者H.ワイルらの開発したゲージ対称性の考えや、日本生まれのアメリカの理論物理学者の南部陽一郎らによる対称性の自発的破れに関する考察などがある。なお、南部はその功績がみとめられ、2008年にノーベル物理学賞を受賞した。これらの理論においてもくりこみ理論が有用であることがしめされた。
→ 統一場理論
| 2. | 将来の展望 |
現在の到達点は、すべての相互作用の性質はさまざまな形のゲージ対称性によって支配されているという認識である。歴史をさかのぼると、最初にこの考えをもちいたアインシュタインは座標変換に関して対称な重力理論を探求し、1916年の一般相対性理論として結実した(→ 重力)。今後の素粒子物理学の主要テーマとなるゲージ対称性の概念により、究極的にはすべての相互作用の統一をなしとげて、さらにすべての成分粒子におよぼす相互作用も統一するための試みが、超対称性や超重力、超弦理論といった理論としてすでにあらわれてきている。
最終目標は、統一的な対称性の原理によって物質の基本構造を理解することである(→ 大統一理論)。残念ながら、近い将来にこの目標が達成されることはありそうにない。その努力には理論的にも実験的にも困難がある。理論面では、ゲージ理論の量子化は数学的にひじょうに複雑なものであることがあげられる。実験面では、粒子が小さければ小さいほど構造解明にますます大型の加速器と検出器が必要となる(→ 粒子検出器)ことが重要な問題である。このさき研究には莫大(ばくだい)な人的、財政的な資源が必要となるので、学問の進歩の速度はゆっくりとしたものになるであろう。