| I.
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プロローグ |
ゲシュタルト心理学は、ブントにはじまる構成主義心理学へのアンチテーゼとして展開をみた、20世紀前半の重要な心理学思潮のひとつである。
| II.
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構成主義 |
ブントの構成主義の立場は、次の2つの前提の上にくみたてられている。(1)全体は並列的にあたえられた要素的内容の総和にほかならず、全体の特性はすべて要素の「寄せ集め」の上にくみたてられる。(2)個々の刺激とその感覚(ないしその生理的過程)との間には1対1の対応がある。これらはそれぞれ、モザイク・テーゼおよび恒常仮説とよばれた。これらを批判する中で、部分や要素に対する全体の優位性をテーゼとしてかかげたゲシュタルト理論が生まれる。
| III.
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構成主義への批判 |
1912年、ウェルトハイマーは上記の構成主義心理学を批判する目的をもって、仮現運動(見かけの運動知覚のひとつ)に関する研究を発表した。暗室において細長い光の帯aを瞬間的に提示し、短時間(最適時間は約60ミリ秒)おいてから次に光の帯bを瞬間的に提示すると、aからbにむかって光の帯がとぶのが知覚される。このキネマ性運動知覚は、先の構成主義の2つの前提によっては理解することができない。なぜなら、a、bは相互に独立の光の帯の点滅があるにすぎないにもかかわらず、光の帯の点滅は知覚されず、むしろいきいきとした運動印象が知覚されるからである。この運動印象は、したがって個々の刺激の特性によるものではなく、刺激条件の全体的な性質によるものと考えなければならない。
| IV.
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ベルリン学派の主張 |
このウェルトハイマーの仮現運動に関する研究を出発点として、ケーラー、コフカなど、ベルリン学派の人々は主に知覚を中心にそのゲシュタルト論を展開した。たとえば4点が正方形を構成するように配置されているとき、その1点を対角線の中点に移動させると、要素の数は同じであるが、しかしその4点が形づくるのは直角二等辺三角形である。これからわかるように、最初の図形とあとの図形の相違はたんなる構成要素の数の相違ではなく、むしろ形のもつ全体的性質(ゲシュタルト)の違いである。この形のまとまり(ゲシュタルト)において、各部分は全体に対して独立に自存してはおらず、むしろその全体の中で相互に依存しあっている。より一般化していえば、所与は、本来、いろいろな秩序において構造をそなえた「まとまりのある」ものとしてあたえられ、そのような全体ないし全体特性はけっして要素ないし部分に還元できない。これがゲシュタルト理論の基本主張である。
| V.
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ゲシュタルトの意味 |
もともと「ゲシュタルト」という用語そのものは、グラーツ学派のいう「ゲシュタルト性質」に由来する。ゲシュタルト性質とは、要素に分解したのでは霧散してしまうような性質、つまりそれを構成する要素の総和以上のなにものかであり、それ自体が一つの全体であるような性質のことである。たとえば、メロディは個々の音の総和以上のなにものかである。このことは、ある調のメロディがほかの調に移調されてもメロディの全体性質(ゲシュタルト性質)はかわらない事実に明らかである。しかしながら、ベルリン・ゲシュタルト学派によれば、グラーツ学派の全体性質の理解は、いまだ「要素の総和になにかがつけくわわったもの」という要素主義の残滓(ざんし)をとどめている。これを払拭し、部分に対する全体の優位を強く主張してはじめてゲシュタルト理論たりうるのだという。
| VI.
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ゲシュタルト法則 |
ウェルトハイマーは、全体的なまとまりとしてのゲシュタルトは所与の自発的な体制化によると考え、この体制化の規定要因を、ゲシュタルト要因ないしゲシュタルト法則とよんだ。それらを列挙すると、(1)近接の要因:ほかの条件が一定ならば、近い距離にあるものがまとまる。(2)類同の要因:ほかの条件が一定ならば、同種のものがまとまる。(3)閉合の要因:たがいにとじあうものは、とじあわないものよりまとまりやすい。(4)よい曲線の要因:滑らかな曲線になるようにまとまる。(5)共通運命の要因:たがいに変化し、ともにうごくものは一つにまとまる傾向にある。彼はこれらの要因にくわえて、「心的現象はそのつどの条件のゆるすかぎりにおいて、全体として形態的にもっともすぐれ、もっとも秩序だった、もっとも簡潔なまとまりをなそうとする傾向がある」ことを指摘し、これをプレグナンツ(prägnanz)の原理とよんだ。各ゲシュタルト要因は、このプレグナンツの原理の具体的な表れとみることができる。
| VII.
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実験現象学派 |
さて、こうしたゲシュタルト心理学の要素主義批判、連合主義批判は、別の角度からみれば、構成主義心理学がいきいきした心的現象から遊離し、観念的に切りだした要素の思弁的分析に終始してきたことへの批判でもあった。そこからゲシュタルト学派の人々は、自らのゲシュタルト研究はいきいきしたあるがままの心的事象に回帰し、それらを綿密に記述していこうとする立場でもあると主張する。こうして、素朴な自然的態度のもとに現象をあるがままの相においてとらえ、とりあげられた現象の本質的条件を解明しようとする、D.カッツ、E.J.ルビンなどの実験現象学派の立場が、ゲシュタルト心理学に重なってくる。なかでも、現象的世界が「図と地」の構造をもつというルビンの現象学的記述は、ベルリン学派によって高く評価され、ゲシュタルト心理学への重要な貢献とみなされた。
| VIII.
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発展と変容 |
知覚研究を中心に開始されたベルリン学派の研究は、その後、ケーラーの類人猿の知恵実験、コフカの知覚研究、ウェルトハイマーの生産的思考の研究などへと拡大され、「洞察」「枠組」「関与系」といった重要な概念を生みだし、大きな学問的運動へと広がりをみせていった。しかし、ナチズムの台頭とともに、中心的に活躍した多くのユダヤ系研究者(ウェルトハイマー、ケーラー、コフカもそこにふくまれる)が亡命を余儀なくされ、当時のアメリカにおける行動主義心理学の活発な動きにのみこまれてしまった。
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