楔形文字(くさびがたもじ)
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楔形文字(くさびがたもじ)
II. 初期の楔形文字

もっとも初期の楔形文字は象形文字であった。しかし、楔形文字用の特別の道具で、やわらかい粘土の上に字画をきざむのは、象形文字の不規則な線よりも、まっすぐな線のほうがはるかに楽だった。このため、先のとがった字画をきざむのに便利な、葦(あし)でできた筆が発明され、象形文字の形は、しだいに楔の形の字画から構成されるものにかわっていった。そして、この楔の形の字画からなる文字が様式化されて、もとの象形文字とはかなりちがった形になったのである。

もとは、楔形文字のひとつひとつが意味をもつ単語だった。具体的な形でその意味をあらわすことのできない単語は、関連した意味をもつ象形文字であらわされていた。たとえば、「よい」という意味は星をあらわす文字で、「立つ」や「歩く」という意味は足をあらわす文字であらわされていた。したがって、いくつもの意味をもつ文字も一部にはあった。

シュメール語の単語は大部分が1音節からなっていたため、しだいに単語をしるした文字は意味に無関係に音節だけをあらわすようになっていった。ただ、1つの文字が1つの音節をあらわすというわけではなく、1つの文字にいくつかの意味があって、それぞれ読み方がちがう場合には、その文字は複数の音節をあらわした。このように、1つの文字で複数の音をあらわすものを「多音字」という。いっぽう、シュメール語には、意味がちがっていても同じ音節に対応するものもたくさんあった。したがって、1つの音節が複数の文字であらわされることもあった。

楔形文字は、最終的には600以上もの文字をもつようになった。このうちの約半分は表意文字と音節文字の両方としてつかわれたが、残りは表意文字としてだけつかわれた。表意文字の中には、単語の属している種別(人間、木、石など)をあらわす限定詞としてもちいられるものもあった。このような限定詞は、漢字でいえば偏にあたるものである。表意文字と音節文字がまじりあった文字体系は、楔形文字の歴史を通じて存続した。

楔形文字がシュメール語以外の言語をしるすためにももちいられるようになると、表意文字は、日本語で漢字を訓読みしたように、その言語で同じ意味をあらわす単語のもつ音でよまれたときには、表意文字や多音字の数をへらして、文字の体系を単純にする試みがなされたこともあったが、アルファベットのように1つの文字が1つの音をあらわすしくみは、標準的な楔形文字では、ついに実現しなかった。ただ、ウガリト文字と古代ペルシャ文字では、1字1音のしくみにまで単純化している。