| 検索ビュー | 卵(生物学) | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
多細胞生物の雌性の配偶子。卵子ともいう。eggという語は、おもに動物についていう。植物もふくめた、ひろい生物学用語としては、同じく卵と訳すovumがつかわれる。鳥類、爬虫類、そして哺乳類のうち親の体外で成熟する動物の、複雑な構造をもった卵を、とくに卵(たまご)という(→ 発生学:受精)。人間の食物である卵(たまご)の生産については、養鶏、卵(たまご)参照。
解剖学の観点からみると、卵の主要部は、原形質の微小粒、原基、胚盤であり、ここから動物が発生する。さらに栄養源となる、これらよりずっと大きな卵黄がふくまれる。すべての卵は、ゼリー質の塊、殻、被膜など、なんらかの保護構造をそなえている。卵の構造と発生には、卵が形成され成熟する状況によって、さまざまなものがある。
動物が卵をうみつけて、体外で孵化(ふか)させることを卵生といい、やわらかい膜でおおわれた卵を形成して体内で成熟させ、生きている幼体をうむことを胎生という。また、かたくて丈夫な殻をそなえた卵を、親の体内で成熟させることを卵胎生という。卵胎生の動物は、生きている幼体をうむが、これは産卵とみなされる。卵黄の量が少ない卵は、母親の体内にとどまり、母親から栄養分の補給をうける。
体外にうみつけられる場合は、短時間のうちに発生して、幼虫(→ 幼生)のような、栄養分を自給できる形態をとる。形成される卵の数は、卵が生きのびる可能性しだいでことなってくる。卵が生きのびるのに不利な状況のもとでは、多数の卵が形成される。魚のマンボウや、貝のカキなどは、数千万もの卵をうむ。1つの卵から発生する個体数も、1個体から、ある種のアシブトコバチの数百まで、さまざまである。
哺乳類のうち、単孔類の場合は卵を体外にうみつける。カモノハシとハリモグラは、羊皮紙のようなうすい殻と多量の卵黄をもつ卵をうむ。
| II. | 鳥類の卵 |
原基と卵黄のほかに、タンパク質の塊である卵白をふくんでいる。卵白は、雛(ひな)の発生に必要な補足的な栄養源である。卵は2層からなる丈夫な膜である卵殻膜におおわれ、その上を、おもに炭酸カルシウムでできた3層からなるかたい殻がおおっている。殻は、抱卵する親鳥の体重から卵を保護する。ツカツクリをのぞき、すべての鳥は自分の体温で卵をあたためる。
| III. | 爬虫類の卵 |
ヘビの中には、生きた幼体をうむものもいる。爬虫類の卵は、ふつう革のような膜構造におおわれている。膜構造は、羊皮紙の層のようにうすいものから、鳥の卵に似たあつい殻までさまざまである。卵はすべて、多量の卵黄をふくんでいる。うみおとされる卵の数も、十数個からニシキヘビの100個前後までさまざまである。ニシキヘビは、近縁のボアとちがって抱卵する。
爬虫類はたいていの場合、地中の浅い所に卵をうめて日光であたためるか、地面にほった穴に卵をうむかする。ワニのように、発酵した植物質からなる巣で抱卵する例もわずかにみられる。トカゲはほとんど成長しきった卵をうみ、卵がうみつけられるとすぐに、幼体がやわらかい殻をやぶって外にでてくる場合もあれば、母親の卵管で卵が孵化する場合もある。
| IV. | 両生類の卵 |
カエルの卵は球形で、ふつうゼラチン状の物質におおわれている。長いひも状に、あるいは塊の状態で、うみつけられる。トノサマガエルの卵のように小粒なものから、エンドウ豆くらいのものまで大きさはさまざまである。たいていの種が水中に、ときには水草に付着させて産卵する。
種によっては、しめったコケや、水面の上にはりだした木の枝や葉に、卵をうみつける。放卵後、メスあるいはオスの背や脚に、卵を付着させてはこぶカエルもいる。イモリやサンショウウオのうち、水生種はふつう水中に産卵する。陸生種は、しめった地面にほった穴に産卵するのがふつうだが、生きた幼体をうむものもいる。
| V. | 魚類の卵 |
サメ、エイ、ガンギエイなどからなる軟骨魚類には、鳥の卵に似て、卵黄と卵白のある角質の殻でおおわれた卵をうみつけるものがいる。ツノザメは、卵を水底の物質に糸で付着させる。メクラウナギの卵は円柱状で、両端にかぎ状の突起がついており、これにより卵がつながっている。
硬骨魚類の卵はふつう球形で、丈夫な卵嚢におおわれている。サケにみられるように、水底に放出されて砂や小石の間にしずむ卵もあれば、ゼラチン質につつまれて水にただよう卵もある。アンコウの卵塊が後者の例で、幅60cm、長さ9mに達することがある。また、種によっては、ナマズのように、孵化するまで親の口腔(こうこう)の中で卵が保護される。生きた幼体をうむものも、わずかにいる。
| VI. | 無脊椎動物の卵 |
軟体動物、甲殻類、昆虫など無脊椎動物の卵の形態には、じつにさまざまなものがある。軟体動物の卵には、モップの先のひものように束になった、たくさんの細長いケースにうみつけられるイカの卵のようなものもある。もっとも高等な甲殻類は、卵を体の下側の外肢に付着させ、保護する。
ミジンコは2種類の卵をうむ。ひとつは小型の夏卵で、背中側の嚢(育房)の中で保護される。もうひとつは大型の冬卵で、受精するまで、甲のひだ(卵殻包)の中で保護される。通常の生殖は、夏卵の孵化を通じておこなわれる。しかし寒さがきびしくなったり、生息する湖沼の水が不足すると、冬卵が受精して放出される。冬卵は、孵化するのに良好な環境がととのうまで、長期間にわたり休眠状態をたもちつづける。昆虫の卵は、多くの種の卵殻にみられる模様の複雑さのほか、卵や、それをつつんでいるさや状の卵鞘の形態にも多様な特徴がある。
| VII. | 食物としての卵 |
卵のうち、人間がいちばんよく食べるのはニワトリの卵である。しかし、アヒルなど、そのほかの鳥の卵も、日常的に食用とされる。またさまざまな魚の卵が、たとえばチョウザメの卵はキャビア、サケの卵はイクラ(ロシア語で魚卵の意)とよばれ食卓にのぼる。タラの卵のたらこやボラの卵巣を加工したからすみなども、日本人の食生活になじみ深いものになっている。