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朝鮮語
I. プロローグ

主として朝鮮半島とその周辺の島々で話されている言語。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)では「朝鮮語」といい、大韓民国(韓国)では「韓国語」という。日本では、国立大学の学科、科目名としては一般に「朝鮮語」という名称を使用し、私立大学などでは「韓国語」あるいは「コリア語」という名称をつかっているところもある。また、学術用語として使用する場合は「朝鮮語」を総称的に使用することが多い。

なお、「ハングル語」という名称をつかう人がいるが、これは厳密にいうとただしくない。「ハングル」は文字をさす言葉であって、言語をさすものではないからである。

II. 分布と人口

韓国と北朝鮮をはじめ、中国、ロシア、日本、アメリカ合衆国などに分布し、話し手の数は7000万人をこす世界有数の言語のひとつである。

III. 方言

一般に次の6つに分類される。西北部方言(平安南道、北道など)、東北部方言(咸鏡南道、北道など)、中部方言(京畿道、忠清南道と北道など)、東南部方言(慶尚南道、北道)、西南部方言(全羅南道、北道)、済州島方言。

IV. 系統

これまで主張されてきた朝鮮語の系統説で有力なものは、アルタイ系諸語(トルコ語、モンゴル語、ツングース諸語)や日本語との親族関係である。しかし、いずれの説も厳密に言語学的な意味で証明されたとはいえず、有力な「仮説」のままにとどまっている。

V. 音韻

日本語の音節が、促音(っ)や撥音(ん)などの特殊な音節をのぞけば、母音でおわる開音節を原則としているのに対し、朝鮮語の音節には、開音節だけでなく、子音でおわる閉音節もある。

世代による違いはあるものの、母音音素には一般に8つがみとめられる。おおむね日本語の「あ、い」に加え、「え、う、お」の母音がそれぞれ2種類ずつある、と考えるとわかりやすい。

子音音素は、日本語では清濁、つまり有声か無声かの違いによる区別が重要な役割をはたすのに対して、朝鮮語では、はきだす息の量の違いが重要な役割をはたす。破裂音と破擦音には、まったく息をださない音(濃音)、はげしく息をだす音(激音)、その中間の音(平音)の3種類があり、摩擦音の[s]にも平音と濃音の2つがある。また、[r]と[l]の区別はなく、語頭や母音間では[r]であらわれ、語末では[l]であらわれる。

VI. 語彙

日本語と同様、漢語と固有語と外来語の3種類に分類される。しかし、語彙全体に占める漢語の割合については両言語とも半数近くを占めるが、基礎語彙に占める漢語の割合は朝鮮語のほうがはるかに多い。また、日本の植民地時代(韓国併合)には日本語から多くの語彙がはいりこんだ。国語浄化運動の高まりにより、純粋の朝鮮語におきかわったものが少なくないが(たとえば「割り箸(ばし)」に対する固有語の「木の箸」)、「うどん、おでん」などのように依然として生活に深くはいりこんでつかわれているものもある。また、日本語でありながら、漢字で書かれているために、漢語としてとりいれられたものも少なくない(たとえば「葉書」「手続き」など)。

1. 代名詞

指示詞は、「こ、そ、あ、ど」からつくられる派生形からなる日本語の指示詞体系とよく似た体系をもち、使い方も日本語とほぼ同じである。

一人称代名詞には「謙譲形」がある。二人称代名詞には丁寧体の度合いによりいくつかの形がある。ただ、目上の人に対してはこの形をさけて、姓や地位をあらわす語に、先生や社長などの敬称をつけていうのがふつうであり、よびかけにも使用される。三人称代名詞は指示詞をつかって「この人」などのようにあらわす。

2. 数詞

日本語と同様、固有語と漢語の2つの系列がある。日本語の固有数詞が11以上になると漢語の系列にうつるのに対して、朝鮮語は99まで固有語があり、100から漢語の系列にうつる。また、助数詞も発達しており、対象物の形状によってつかいわけられる。助数詞にも漢語と固有語がある。

数詞と助数詞が結合する場合、日本語では漢数詞が圧倒的に優勢なのに対して、朝鮮語では固有数詞が圧倒的に優勢である。しかし、なかには同一の助数詞が、漢数詞と結合するか固有数詞と結合するかで意味がことなるものもある。また、日本語の「1冊の本」のようないい方はふつうではなく、「本1冊」というのがふつうである。

3. 親族名称

兄弟をあらわす名称については、日本語では、男と女、年長と年少という2つの特徴で、兄(男上)、姉(女上)、弟(男下)、妹(女下)のように区別することができるが、朝鮮語では、兄や姉については自分と同性であるか、異性であるかで形がことなる。一方、弟や妹については、性を区別せずに「同生」とよび、性を区別する場合は、前に「男」「女」をつけることになる。

兄弟以外の親族名称については、かなり複雑である。たとえば、「父方のおじ」で結婚している場合、父親の兄のことを「大きいお父さん」、父親の弟のことを「小さいお父さん」とよび、さらにその配偶者をそれぞれ「大きいお母さん」「小さいお母さん」とよぶ。

VII. 文法
1. 語順と品詞

語順は日本語と類似し、修飾語は被修飾語の前におかれ、動詞や形容詞などの述部は文末にくる。また、名詞のあとに種々の助詞がつき、動詞や形容詞は語幹のあとに活用語尾がつく。ただ、名詞につく助詞のうち、日本語の「が、は、を、で(手段)、と」に相当するものは、名詞が母音でおわっているか子音でおわっているかによってことなる形になる点が日本語とちがっている。

用言の否定の表し方には、語幹のあとに否定をあらわす活用語尾をつけるものと、語幹の前につけるものの2種類がある。語幹の前に否定の要素をつけるほうが口語的な表現である。

品詞は、日本語の品詞とほぼ同じであるが、注意すべきことは、動詞と形容詞とがほとんど同じ活用をするということである。

2. 敬語

日本語の敬語が相対敬語であるのに対して、朝鮮語はよく絶対敬語といわれる。日本語では、年長者であっても、自分の身内について他人に言及する場合は謙譲語をつかうのがふつうであるのに対して、朝鮮語では尊敬語をつかうのがふつうである。もっとも、会社などで自分の上役のことをさらにその上役に対して言及するような場合には尊敬語をさける傾向があり、その意味では相対敬語の性格ももっているといえよう。

3. アスペクト(相)と補助動詞

日本語の「~ている」に対応することなる2つの形があり、一方は「動作自体の継続」をあらわし、もう一方は「結果の状態の継続」をあらわす。

日本語の「~てみる」「~ておく」「~てしまう」「~てやる」などと同様、「みる」「おく」などが本来の意味をうしない補助動詞的に使用される用法がある。

4. 擬声語と擬態語

日本語におとらず擬声語や擬態語が豊富で、陽母音と陰母音の違いで、小と大、弱と強、明と暗などの違いをあらわし、その程度も平音、濃音、激音の順で大きくなるのがふつうである。

VIII. 歴史

朝鮮語の確実にさかのぼりうる最古の言語は新羅の言語だが、資料不足のため全体像を明らかにすることはきわめてむずかしい状態にある。

朝鮮語の古い姿がかなりはっきりした形でわかるようになるのは、15世紀の中ごろにハングルが制定されて以後のことである。この時期から仏典や経書などの翻訳作業が盛んにおこなわれ、質、量ともに言語資料が増大してくるのである。

それまでは正統な文字は漢字であり、漢文の経典を読んだり、文書を書いたりする場合に、吏読(りとう)とよばれる助詞や用言の活用語尾を漢字でしめすという方法をもちいていた。

1. 音韻の変化

当時の母音体系は、陽母音と陰母音と中性母音とにわかれ、原則として単語内では陽母音は陽母音だけで、陰母音は陰母音だけで結合し、中性母音はいずれとも結合できた。この現象は「母音調和」とよばれ、母音ではじまる助詞や活用語尾にまでおよんだ。ところが、母音の一部の消失や、二重母音の一部の短母音化など、母音体系が大きくかわり、その影響で母音調和の現象もくずれた。

子音音素としては、かつてはつかわれ、現在は消失したものがあった。また、かつては語頭にも複数の子音がたったが、そのほとんどが現在単子音化し、濃音となった。さらに、ピッチアクセント(高低アクセント)が単語の意味を区別する機能をもっていたが、中央方言ではそれがうしなわれて、現在慶尚道方言など一部にしか保存されていない。

ところで、漢字音の研究などから、激音は古代韓国語にはなかったのではないかと推定されているし、濃音も新しく発生したものだと考えられている。朝鮮語がアルタイ系の言語に属していたとすれば、一方で有声と無声の対立をうしない、他方で激音や濃音という新しい音素を獲得したことになるが、朝鮮語の系統を考える場合、それを解明することが大きな課題だといえる。

2. 文法の変化

敬語法の体系のうち、謙譲法の機能が弱化し、新しい丁寧体のスタイルを発達させた。これは、接辞の結合の順序にも大きな変化をあたえた。また、時制体系においても、大きな変化をみせている。現在の過去形は、本来完了形をあらわす接続形に存在詞「いる」をつけた「~している」から発達してきたものである。さらに、母音でおわる名詞につく主格助詞が新たに発達し、「は」「を」などに相当する助詞とともにもちいられるようになった。