検索ビュー 硫酸

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硫酸
I. プロローグ

三酸化硫黄SO3を水に吸収させてえられる濃硫酸(濃度98%)とよばれるものは、無色で粘性のある酸性の液体。濃硫酸を水でうすめた希硫酸は強酸(酸)で、強い酸化作用がある。

硫酸の作用ははげしく、あやまって皮膚に付着させると熱傷(やけど)をおこし、目に入った場合には失明する。水でうすめると作用は穏やかになるが、硫酸と水とが混合するとはげしく発熱するので、多量の水に硫酸を少しずつくわえて希釈する。逆に、多量の硫酸に水をそそぐと、くわえた水が沸騰して硫酸をとびちらせるので危険である。体に硫酸が付着した場合には、大量の水ですみやかに硫酸をあらいながせば被害を少なくおさえられる(酸と塩基)。

II. 製造法の変遷

硫酸は取り扱いに注意を要するが、強い化学作用をもつ物質として、古くから利用されてきた。8世紀のアラビアの錬金術師ゲーベルは、天然の硝石と硫酸塩やミョウバンを高温で加熱し、生成する三酸化硫黄を水にとかして硫酸を製造した。15世紀には硫黄と硝石(硝酸カリウムKNO3)を燃焼させたガスを釣鐘形(つりがねがた)のガラス器にみちびき、水にとかして硫酸を製造していた。

硫酸がはじめて工場で生産されるようになったのは1740年で、イギリスのジョシュア・ウォードがリッチモンドで約300リットルのガラス容器でおこなった。46年には、発明家ジョン・ローバックが、イギリスのバーミンガムにガラス器のかわりに鉛室(鉛張りの部屋)式の工場をつくり、大規模な生産がはじまった。1924年にバナジウム触媒の発見とともに現在の接触式製造法(接触法)がおこなわれるようになった。鉛室法

1. 日本での工業生産

日本では1872年(明治5年)に大阪の造幣局に、貨幣製造の工程で貴金属の洗浄に使用する硫酸をつくるための鉛室がつくられた。1933年(昭和8年)ごろには、ドイツで開発されたバナジウム触媒が輸入され、接触法による製造がはじまった。硫黄は日本で豊富に産出するため、明治時代には、単体の硫黄が大量に原料となったが、やがて金属精練時の排ガス脱硫が主流になり、現在は石油などの脱硫からえられるものも多くなっている。

III. 性質

硫酸の作用には、酸としての作用と、酸化剤としての作用とがある。硫酸を水で希釈した希硫酸は酸としての作用が強い。水溶液中では硫酸分子の大部分が水素イオンH+を分離しているため、強酸としてはたらく。たとえば、鉄Feは酸化されて、硫化鉄(II)FeSO4にかわり、水素Hを発生する。これは、亜鉛やスズなどの金属でも同様である。

Fe + H2SO4 → FeSO4 + H2

これに対して濃硫酸は酸化剤としての作用が強い。とくに加熱した濃硫酸は最大の酸化力をもち、銅や銀、水銀、鉛などの不活性な金属さえも熱濃硫酸には溶解する。ただし金と白金族元素は、熱濃硫酸にとけない。たとえば、銅Cuと熱濃硫酸による酸化反応では、硫化銅(II)CuSO4にかわり、水H2Oと二酸化硫黄SO2が発生する。

Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + 2H2O + SO2

1. 脱水作用

濃硫酸には強力な脱水作用があるが、これは硫酸分子が水分子と強く結合するためである。水をふくまない炭水化物からも、水素原子と酸素原子を2対1の比率でうばい、化学的には水分子に相当する物質をうばう。濃硫酸に木、綿、砂糖、紙をひたすと、黒く炭化するのはこのためである。濃硫酸は空気中の水分を吸収するため、乾燥剤としても利用される。

IV. 生産

硫酸の生産方法には硝酸法と接触法があるが、どちらも二酸化硫黄を原料として使用する。二酸化硫黄は、硫化鉄鉱や硫黄を加熱してつくられるが、金属精錬で生じる排ガスや石油精製の脱硫からの原料も利用される。現在、工業生産される硫酸のほとんどは、接触法で生産されている。

1. 硝酸法

硝酸法では鉛室または煉瓦製(れんがせい)の塔が、反応容器として使用される。反応容器におくられた二酸化硫黄は、天井から散布される水に溶解して亜硫酸H2SO3となり、さらに硝酸の分解で生じる三酸化二窒素N2O3や二酸化窒素NO2によって酸化されて硫酸となる。この過程で消費された酸化窒素類は一酸化窒素NOとなるが、排ガス中から回収されたのちに酸化され、ふたたび反応容器におくられる。硝酸法で生産される硫酸の純度は低く、濃度も60~70%程度なので、濃硫酸をえるには濃縮を必要とする。

2. 接触法

接触法は、黄鉄鉱FeS2または硫化銅や硫化亜鉛などを焼いてえられた二酸化硫黄SO2を原料にする。二酸化硫黄を触媒反応を利用して酸化し、生じた三酸化硫黄SO3を水にとかして硫酸とする。酸化反応は400~550°Cの温度でおこなわれる。かつては触媒に白金がつかわれたが、安価で性能の高い五酸化バナジウム触媒V2O5が実用化されてからは、使用されなくなった。接触法では、濃度96%以上の濃硫酸を、直接製造することができる。

4FeS2 + 11O2 → 2FeO3 + 8SO2
2SO2 + O2 → 2SO3
SO3 + H2O → H2SO4

濃硫酸に、さらに過剰の三酸化硫黄を吸収させたものは、昇華する三酸化硫黄が空気中の水分を吸収し、白煙のようにみえることから、発煙硫酸とよばれる。発煙硫酸からはピロ硫酸(二硫酸)H2S2O7を生成することができるが、これは無色透明の結晶で、吸湿性があり、加熱すると三酸化硫黄を放出して分解する。

V. 用途

硫酸は、化学工業の各方面で幅広い用途をもつため、生産される硫酸の総量は、その国の化学工業の水準をあらわすとまでいわれている。硫酸の用途では、過リン酸石灰(→石膏の「用途」)や硫安(硫酸アンモニウム)など、化学肥料の製造が大きな割合をしめる。化学工業でも硫酸は広く利用され、各種の有機化合物の合成、石油精製(石油)、合成繊維やパルプ(紙)の製造など、需要は多方面に広がっている。

化学式H2SO4。分子量98.08。融点10.35°C。沸点340°C(分解)。密度1.834g/cm³。