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エルニーニョ
I. プロローグ

熱帯域の太平洋におこる大気海洋現象。エルニーニョが発生すると、エクアドルやペルーの西岸沖の水温が高くなり、さまざまな異常気象が発生する。

II. エルニーニョ現象

「エルニーニョ」という言葉は、毎年12月になるとその地域にやってくるエルニーニョ海流という暖流(海洋)の名前であった。しかし、現在では、3~7年に一度発生して、1年間以上持続する異常気象の名前としてもちいられる。原因がわからないころは、エルニーニョ海流の異常現象と考えられたためにこの言葉がもちいられたが、現在では、異常気象をおこす現象はエルニーニョ海流とまったく関係ないことがわかっている。エルニーニョ海流と区別して、異常気象現象をエルニーニョ現象とよぶこともある。

エルニーニョはスペイン語で「神の子」という意味である。それはイエス・キリストの誕生に由来する。暖流はふつうクリスマスのころにやってくるので、海流を幼子イエスになぞらえたのである。

気象学の分野では、熱帯域の太平洋の1年間の平均気圧が、西太平洋で高いときには東太平洋で低くなり、数年後にはその反対になるというように数年周期で振動する現象が知られており、南方振動とよばれていた。現在では、この現象とエルニーニョが関連した現象であることがわかっており、エンソ(ENSO:El Niño(エルニーニョ) and Southern Oscillation(南方振動))ということもある。

III. 発生のメカニズムと影響

異常気象は、熱帯の太平洋南東部の海面水温が異常上昇するときに発生する。ふつうの状態では、海面水温の高い海域は西部熱帯太平洋だけである。そこは、ペルーやエクアドルの沖にくらべて5°C以上水温が高い。また、西部熱帯太平洋の海面気圧も低く、周囲から空気があつめられて、しめった空気が上空まではこばれ、雲が発生して、東南アジア、ニューギニア、北部オーストラリアに多量の雨をふらせる。

一方、東部熱帯太平洋では、日射によって熱せられた海面付近の海水が、東から西にむけてふく貿易風によって西にはこばれてしまうので、深海から冷水がわきあがる。そのために海面水温が低く、海面気圧が高くなるので、空気は乾燥する。

IV. エルニーニョの影響

エルニーニョが発生すると、いつも東から西にふいている貿易風は弱くなるか、場合によっては、風向きが反対になる。すると、太平洋の西側に風でおしつけられていた暖水が東向きにうごきだし、東太平洋までおおってしまうため、南アメリカ大陸の西岸沖の海面水温がいちじるしく上昇する。その結果、今まで乾燥した大気でおおわれていた地方が、大量に水蒸気をふくむ空気でおおわれ、いつもは雨がほとんどふらない地方に集中豪雨が発生する。一方、いつもは降水量の多い西太平洋に雨がふらなくなり、東南アジア、インド、南アフリカに干ばつをもたらす。1997年から翌年にかけてのエルニーニョでは、異常な乾燥の影響もあって、インドネシアで大規模な森林火災が発生した。また、北アメリカ大陸の各地にも異常気象が発生する。

V. 経済的な打撃

エルニーニョは、ペルーの沿岸部やエクアドルの経済に大きな影響をあたえる。この地方の沖合は、世界有数の漁場になっている。とくにカタクチイワシの一種のアンチョビー漁は有名である。また、魚を食べる海鳥がたくさん生息しており、その糞(ふん)は肥料になるので、グアノ(チリ硝石:硝石)とよばれる重要な産業資源になっている。しかし、エルニーニョが発生すると、海面が西からやってきた栄養分にとぼしい暖水におおわれるので、魚や鳥は死んでしまうか、餌(えさ)をもとめて遠くにいってしまう。そのために、エルニーニョによってペルーやエクアドルの経済は大打撃をうける。

1982年から83年にかけて発生したエルニーニョは20世紀最大規模のものであった。そのほかにも、72年、76年、87年、91年、93年に発生している。最近では、97年から98年にかけて、82年と同規模のエルニーニョが発生した。

VI. ラニーニャ

エルニーニョは、気圧の南方振動と関係していることから、振動現象のひとつの側面である、と考えることができる。その振動の逆方向への振れになにか名前をつけたいということで、1980年代にエルニーニョの研究者がラニーニャ(La niña=女子)という名前をつけた。エルニーニョがスペイン語で「男子」という意味であるから、対になる言葉をえらんだのである。しかし、エルニーニョでない状態は、従来、ふつうの状態としてあつかわれてきたわけで、それに名前をつけたからといって異常気象が頻発するわけではない。エルニーニョの際には、はっきりした海面水温の異常が生じるが、その振幅にくらべると、ラニーニャの状態の海面水温の変化は小さい。

気象学:気候