| 検索ビュー | 核酸 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
細胞やウイルスにふくまれる鎖状の高分子化合物。核酸という呼び名は、初めに細胞の核から分離されたことに由来する。ただし、細胞核でなく、細胞質にみられるものもある。
核酸には、少なくとも2つの機能がある。すなわち、DNAによる世代間の遺伝形質の伝達と、RNAによる特定のタンパク質の合成をうながすことである。その機能を発揮する方法の解明は、分子生物学の推進力となってきた。
核酸は生命体の基本物質で、地球にはじめて生命の原初形態があらわれた約35億年前に、最初に形成されたと信じられている。核酸がになう遺伝暗号の起源は、生命そのものの起源(→ 進化:遺伝学)と時間的にきわめて接近しているとみとめられている。その配列がタンパク質のアミノ酸配列を指示する仕組みは、1960年代までに大筋が明らかにされた。
| II. | DNAとRNA |
核酸には、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)の2種類がある。DNAとRNAの両分子とも、長い鎖が螺旋(らせん)構造となっている。鎖の主体はベントース(五炭糖)とリン酸のつながりで、これに4種類の小さな塩基とよばれる構築単位が結合している。螺旋上の塩基の配列順序が、遺伝暗号となり、そして細胞はこの遺伝暗号をもちいて、自身の複製や生存に必要なタンパク質の合成をおこなう。
| 1. | DNA(デオキシリボ核酸) |
すべての細胞は、遺伝物質としてDNAをもつ。細菌の細胞にはDNAの長い環状の螺旋が1つしかないが、その螺旋には、細胞が同じ娘(じょう)細胞を複製するために必要な情報がふくまれている。哺乳類の細胞では、DNAの螺旋は何本かの染色体としてまとめられている。すなわち、DNA分子あるいはその組み合わせが、子孫の形態や機能を指定している。ウイルスには遺伝物質としてDNAでなくRNAをもつものがある。ただし、一般に、ウイルスそのものは生物とは考えられていない。
| 1.A. | DNAの構造解明 |
DNAの一般的な構造を明らかにしたのは、イギリスの生物物理学者クリックおよびウィルキンズと、アメリカの分子生物学者ワトソンの先駆的研究である。ウィルキンズと後輩の女性研究者ロザリンド・フランクリンが1951年に撮影したDNA分子のX線解析写真をつかって、クリックとワトソンはDNA分子のモデルを作成し、52年末にその完成をみた(論文は53年)。この業績により、3人の科学者は62年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。
| 1.B. | DNAの合成 |
アメリカの生化学者コーンバーグは、DNAを無生物の材料物質から合成し、1959年のノーベル生理学・医学賞をアメリカの生化学者オチョア(RNAの研究)と共同受賞した。コーンバーグの合成したDNAは自然界のDNAと構造は似ていたが、生物活性はしめさなかった。しかし67年には、彼らは生物学的にも活性であるDNAを比較的単純な化学薬品からつくりだすことができた。
| 2. | RNA(リボ核酸) |
RNAは、DNAとは少しちがった機能をもつ。すなわち、細胞によるタンパク質合成の実行をたすける。これはウイルス研究の中心テーマのひとつである。ウイルスは宿主である細胞に、ウイルスの核酸のみでなくそのタンパク質を、さらに製造するように強制することで増殖する。
宿主の細胞は自己のRNAではなく、侵入してきたウイルスに由来するRNAの遺伝暗号にしたがってタンパク質を合成する。すなわち細胞は、自分に必要なタンパク質ではなく、ウイルスのタンパク質を製造する。これによって、宿主の細胞は破壊され、新しく形成されたウイルスは解放されて他の宿主細胞に感染することになる。
| 2.A. | RNAの機能の研究 |
3種類のRNAの構造とそのタンパク質合成における機能が確定されている。コーネル大学のロバート・ホーリーとアメリカ農務省の合同研究チームが、タンパク質合成の際にアミノ酸をはこんでくる転移RNA(tRNA)について、また、農務省のジェームズ・マディソンとジョージ・エバートが、タンパク質合成の装置であるリボソームがもつRNAについて研究した。
タンパク質合成における遺伝暗号の役割については、アメリカの生化学者のニレンバーグとインド生まれのアメリカの遺伝学者で、ウィスコンシン大学のハル・コラーナが重要な研究をおこなった。1970年にコラーナははじめて、遺伝子の完全な合成を達成した。
また、1980年代初めに、コロラド大学のトーマス・チェックがひきいる生物学者のチームは、RNAが真正の触媒として機能することを証明して、酵素の概念を広げた。