| 検索ビュー | 植物 | 項目ビュー |
| I. | プロローグ |
植物界を構成する生物の一群(→ 分類の「5界分類」)。動物が他の生物を食べてエネルギー源とする「従属栄養」によって生きるのに対し、植物は光合成によって無機物から栄養をとる「独立栄養」をいとなむ。
植物の形態には、草本植物(草)および木本植物(木)、蔓植物、シダ植物、コケ植物など地球をおおい、また水中に分布するさまざまなものがある。大きさと複雑さは多様で、小型で維管束のない苔類のように、直接地表水に接触してそれに依存するものから、最大の生物である巨大なセコイアのように、その維管束系で水やミネラル(無機質)を80m以上の高さまですいあげるものまである。
人類によって食料や住居、繊維、薬として直接利用される植物は、種の数の割合でいうとごくわずかである。その筆頭にあげられるのはイネ、コムギ、トウモロコシ、マメ類(→ マメ科)、ワタ、針葉樹、タバコで、経済や国家はこれらに依存している。人類にとってさらに重要なのは、植物界全体と30億年以上つづいている光合成による間接的な恩恵である。化石燃料として蓄積された植物は、産業社会にエネルギーを提供し、また長い歴史を通じて、動物の進化を可能にする酸素を大気へ供給してきた。現在、世界のバイオマス(生物量)は圧倒的に植物によって構成されている。植物は食物連鎖全体をささえるだけでなく、気候をやわらげ、土壌をつくって維持し、植物がなければ石や砂の塊にすぎないものを生物が生息できるようにしている。
| II. | 植物界の特徴 |
植物は多細胞の緑色の生物で、真核細胞(→ 細胞)からなり、細胞は主としてセルロースでできた比較的かたい細胞壁にかこまれている。植物のもっとも重要な性質は光合成の能力、すなわち光エネルギーを化学エネルギーへ変換することによってみずから栄養をつくる能力があることである。光合成は、緑色の葉緑素をふくむ葉緑体とよばれる色素体(細胞小器官)でおこなわれる。なかには、葉緑素がなく、死んだ生物や生きている生物から栄養を吸収して、栄養的には腐生性または寄生性の植物もあるが、これらも植物体から進化したものであることがその精妙な構造からわかる。
菌類も真核生物で、長い間植物界に属するとされてきたが、葉緑素と色素体がなく細胞壁がセルロースでなくキチンをふくんでいることから、現在では別の界に分類されている。菌類は自分自身で栄養を生産せず、ほかの生物体から吸収する。
藻類の仲間も、多くが真核生物であることと、ほとんどがかたい細胞壁をもち光合成をおこなうことから、以前は植物界に分類されていた。しかし色素、細胞壁、形態にさまざまなタイプがあることから、現在では、植物に似たものと、そうでないものの2つの別の界に属すると考えられている。藻類の1門である緑藻類(緑色植物)は、葉緑素、細胞壁、細胞の構造の細部が植物に似ていることから、植物界は緑藻類から生じたと考えられている。
動物界も多細胞の真核生物だが、ほかの生物体を食べることで栄養をとるという点で植物とまったくことなる。菌類のように栄養を吸収するのではなく口で摂取し、かたい細胞壁がなく、少なくともある生育段階で感覚の機能をもつことによって運動するのがふつうである。
| III. | 植物の大分類 |
植物界の多くの生物種はいくつもの門にわけられ、総計約26万種ある。コケ植物は水や栄養の体内通道のための維管束のない植物3門にまたがる多様な約1万6000種からなり、蘚類、苔類、ツノゴケ類がふくまれる。コケ植物は、維管束系をもたないので非維管束植物とよばれる。よくみかける葉のような植物体は、この生物の生活環における有性世代、つまり配偶子をつくる世代である。維管束がなく、配偶子が移動するため水のうすい層を必要とするので、コケ植物は一般に小さく、湿潤な所に生育する。しかし好適な環境下では大きくなるものもあるし、ごく小さいが砂漠の生活に適応したものもある。
他の門は維管束植物類と総称される。維管束組織は、水、ミネラル、栄養の移動のための内部通道組織である。維管束組織には、水やミネラルを土中から茎や葉へおくる木部と、葉で生産された栄養を茎、根、貯蔵器官や生殖器官へはこぶ師部の2種類がある。維管束植物類は維管束が存在することのほか、茎葉のある植物体が維管束植物の生活環の中では無性世代、つまり胞子をつくる世代である点で、コケ植物とは対照的である。
維管束植物類は進化するにつれ、無性世代が大きく複雑になり、配偶子をつくる世代は退化して胞子体の組織に内包されるものになった。より大きく多様な胞子体に進化できたことと、維管束系で水をすいあげられることで、維管束植物類は地表水に直接依存する必要がなくなった。こうして、高緯度北極地域をのぞく陸上の生育域すべてで優勢になり、さまざまな動物に食物やすみかを提供することになった。
| IV. | 細胞の構造と機能 |
植物の種の数が膨大であることは、個々の植物をつくっている細胞に多くのことなる型があることの反映でもある。しかし、型のことなるこれらの細胞の間にも基本的な類似性があり、この類似性がことなる植物種の共通の起源と相互関係をしめしている。個々の植物細胞は少なくともある程度独立しており、細胞膜すなわち原形質膜と細胞壁によって隣接する細胞から区分されている。この膜と壁によって個々の細胞としての機能をはたせるようになり、同時に、原形質連絡とよばれる細胞質の連絡路をとおして、周囲の細胞との連絡が可能になる。
| 1. | 細胞壁 |
植物の細胞を動物の細胞と区別するもっとも重要な特徴は、細胞壁である。植物ではこの壁によって細胞の内容物が保護され、細胞の大きさが制限される。これはまた、植物が生きていくうえで重要な構造的・生理的役割をはたし、輸送・吸収・分泌に関与する。
植物の細胞壁は何種類もの化学物質からなっており、そのうちセルロースがもっとも重要である。セルロース分子は結合して微小繊維となり、細胞壁構造の枠組みをつくる。ほかに、細胞壁の重要な構成物質として、硬さをあたえるリグニン、細胞の水がへるのをふせぐクチンやスベリンのようなろう状物質がある。多くの植物細胞には、生長中の細胞の1次壁と、生長がおわった細胞の1次壁の内側にできる2次壁の両方がある。原形質連絡は1次細胞壁と2次細胞壁の両方を貫通して、物質輸送の経路になる。
| 2. | 原形質体 |
細胞壁の内側には細胞の生きた内容物があって、原形質体とよばれる。この内容物は3層からなる1枚の膜につつまれている。原形質体には細胞質と核がふくまれる。細胞質にもまた、膜につつまれたさまざまな細胞器官(オルガネラ)や液胞がふくまれる。核は細胞の遺伝の単位である。
| 2.A. | 液胞 |
液胞は膜でつつまれ細胞液でみたされた空間である。細胞液はほとんどが水で、さまざまな糖、塩類、その他の化学物質がとけている。液胞は動物細胞にはみられない。
| 2.B. | 色素体 |
色素体は細胞小器官(器官に似た特殊化した細胞内の部分)で、2枚の膜でしきられている。重要な色素体は3種類ある。葉緑体には葉緑素とカロチノイド色素がふくまれ、それらは太陽からの光エネルギーを種々の炭素化合物の結合によって化学エネルギーとして固定するプロセス、すなわち光合成がおこなわれるところである。白色体は色素をふくまず、デンプンや油脂、タンパク質の合成に関与する。有色体はカロチノイドをつくる。
| 2.C. | ミトコンドリア |
色素体がさまざまな方法でエネルギーの蓄積に関与するのに対し、別の細胞器官に分類されるミトコンドリアは呼吸の場所である。この過程で、有機化合物から細胞の主要なエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)へ、化学エネルギーがうつされる。このエネルギーの移転は、解糖、クレブス回路(クエン酸回路)、電子伝達の3つの段階でおこなわれる。色素体と同様、ミトコンドリアは2重の膜でしきられており、内側の膜はおれまがって多数のひだになっている。このひだの表面で呼吸反応がおこる。
| 2.D. | リボソーム、ゴルジ体、小胞体 |
上記のほかに細胞質中にある重要なものは、リボソームとゴルジ体の2つである。リボソームはアミノ酸が結合してタンパク質を形成するところで、ゴルジ体は細胞からの物質の分泌にかかわる。さらに、小胞体とよばれる複雑な膜系が細胞質のいたるところをはしっており、連絡網としてはたらいていると考えられ、細胞質内のさまざまな種類の物質がこれをとおっておくられる。リボソームはしばしば小胞体とつながっており、その小胞体は細胞の核をつつむ2重膜につながっている。
| 2.E. | 核 |
核は、どのタンパク質をつくるかを指定することによって、進行している細胞の機能をコントロールする。核は遺伝情報をもち、細胞分裂のとき、それを次の世代の細胞へつたえることもする。
| V. | 組織系 |
植物細胞は形や大きさもいろいろあり、似た種類の細胞が構造上・機能上の単位である組織として集合し、植物を全体としてつくりあげ、活発に分裂している細胞の成長点に新しい細胞および組織が形成される。これらの成長点は分裂組織ともよばれ、植物の1次生長がおこる茎や根の先端(頂端分裂組織)、あるいは2次生長がおこる茎や根の側部(側部分裂組織)に存在する。維管束植物では、表皮系、維管束系、基本組織系の3つの組織系がみとめられる。
| 1. | 表皮系 |
表皮系は、植物体のもっとも外側の層である表皮からなる。植物の外皮を形成して、葉、花、茎、根、果実、種子をおおう。表皮細胞には、機能と構造の面でひじょうに多くの種類がある。
表皮には、ガスと大気とを交換する開口部である気孔があるものもある。この開口部は孔辺細胞とよばれる特殊化した細胞にかこまれ、孔辺細胞の大きさと形がかわることによって気孔の開口部の大きさが変化し、ガス交換が制御される。表皮はクチクラとよばれる防水層としてはたらくろう状物質でおおわれ、蒸発による水の損失をふせいでいる。植物が側部分裂組織の活動で根や茎の径が増大する2次生長をしている場合は、表皮は、成熟すると死んでしまう防水性の強い細胞(主としてコルク組織)でできた周皮でおきかえられる。
| 2. | 維管束系 |
維管束組織系は、木部と師部の2種類の通道組織からなる。木部は水や水に溶解した無機栄養物を、師部は栄養をはこぶ働きをする。木部は栄養をたくわえ、植物体を支持する働きもする。
| 2.A. | 木部 |
木部は仮道管と道管という、通道をおこなう2種類の細胞からできている。先がしだいに細くなり2次壁をもつ細長い細胞で、両方とも細胞質がなく、成熟すると死んでしまう。壁には壁孔があり、これは2次肥厚がおこらなかった部分で、ここをとおって水が細胞から細胞へと移動する。道管はふつう仮道管より短くて幅がひろく、壁孔のほかに穿孔(せんこう)がある。これは、1次肥厚も2次肥厚もない細胞壁の部分で、水と溶解した栄養が自由にとおることができる。
| 2.B. | 師部 |
栄養分の通道組織である師部は、成熟したのちも生きている細胞からできている。師部の主要な細胞である師要素には、細胞壁に細孔の集まりがあり、そこをとおって隣接細胞の原形質が連絡することから、師(篩:ふるい)という語がつかわれている。師要素には2種類ある。細胞壁に比較的形のそろったせまい孔がかたまっている師細胞と、いくつかの細胞壁にほかより大きい孔がある師管要素である。師要素には成熟しても細胞質はあるが、核や他の細胞器官はない。師細胞に付随して細胞核をもつ伴細胞があり、物質をつくり師要素へ分泌したり、師要素から老廃物をとりのぞいたりする働きをしている。
| 3. | 基本組織系 |
植物の基本組織系は3種類の組織で構成されている。第1は柔組織とよばれ、植物体のいたるところでみられる。成熟しても生きていて細胞分裂の能力があり、ふつう1次壁のみで厚さは均一である。柔組織の細胞は、多くの特殊化した生理学的機能をもつ。たとえば、光合成、貯蔵、分泌、傷の治癒などである。柔組織は木部や師部にもある。
第2の厚角組織も、成熟したのちも生きており、厚さが均一でない1次細胞壁をもつ細胞でできている。厚角組織は柔軟で、植物のわかく生長している部分で支持組織としてはたらく。
第3の厚壁組織は、成熟すると原形質がなくなる細胞でできており、厚い2次壁にはふつう木化を促進するリグニンがふくまれている。厚壁組織は、植物の生長をおえた部分を支持し強化する。
| VI. | 植物の器官 |
維管束植物は、一般的に根、茎、葉の3種類の器官からなる。これらの器官はすべて上記の3種類の組織系をふくむが、それぞれちがった方法で細胞がことなる機能をはたすよう特殊化している。
| 1. | 根 |
根の機能は、植物を生えているところに固定し、水や養分を吸収することである。このため、一般に根は地中にあって下の重力の方向へ生長する。茎とことなり葉や節はない。根の成長点のすぐ背後に表皮組織があり、表皮細胞が生長した根毛でおおわれている。根毛は根の表面積をふやし、その表面から水や栄養が吸収される。
根の内部は大部分が木部と師部からなるが、大きく変化して特殊な機能をはたすものが多くある。ビートやニンジン、ダイコンなどは、根が重要な栄養貯蔵器官となっている。このような根は柔組織が豊富である。多くの熱帯の木は気生の支持根をもち、これは茎を垂直にたもつのに役だっている。着生植物は、寄主植物の樹皮の上をながれる雨水をすばやく吸収するため、変形した根をもっている。
根は頂端分裂組織の活動によって長さをまし、側部分裂組織の活動によって径をふやす。支根は根の内部の成長点の背後からある程度距離をおいたところに発生し、特定の細胞が分裂するようになる。
| 2. | 茎 |
茎はふつう地上にあり、上へむかって生長し、葉は茎の節に規則的なパターンでつく。茎の節と節の間の部分は節間とよばれる。茎は先端にある頂端分裂組織の活動により長さをます。この成長点は新しい葉を生じる部分でもあり、新しい葉は茎の先端にある頂芽がのびるまで、それをとりまいて保護する。一年のある時期葉がおちる落葉樹の頂芽は、ふつう芽鱗(がりん)とよばれる変化した葉によって保護される(→ 芽)。
茎は根にくらべて、外観も内部構造もより変化にとんでいるが、やはり3つの組織系により構成され、共通の機能がいくつかある。維管束系は束状の構造で茎の端から端まではしり、葉と根の維管束組織とつながったネットワークをなしている。草本植物の維管束組織は柔組織でとりかこまれ、これに対し木本植物の茎は主としてかたい木部組織でできている。茎は側部分裂組織の活動によって径が太くなり、木本植物では樹皮と木質部ができる。樹皮は師部もふくみ、傷や水の損失をふせぐ保護外皮の役をはたす。
植物界には、サンザシの棘(とげ)のように茎が変化したものが多くある。つる性の茎には、ブドウやツタの巻きひげのように、のびて支持物に付着することができるよう特殊な変形をしたものがある。葉が退化したりまったくない植物も多くあり、それらは茎で光合成をする(→ サボテン)。茎が地表をはい、茎で栄養生殖するものもある。多くのイネ科の草もこの方法で繁殖する。ほかに、茎が地下にあって栄養貯蔵器官としての役割をはたすものがあり、これによって冬を生きのびる場合も多い。チューリップやクロッカスの球根がその例である。
| 3. | 葉 |
葉はほとんどの植物で主要な光合成器官である。ふつう扁平な葉身は、内部は主として葉肉とよばれる柔組織からなり、これはすき間のあるゆるくならんだ細胞でできている。このすき間は空気でみたされ、細胞はここから二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する。葉肉は、葉身の上下の面を表皮組織でおおわれた間にある。維管束網が葉肉をはしり、細胞壁に水を供給し、光合成の栄養産物を植物体の他の部分へはこぶ。
葉身は葉柄(ようへい)とよばれる細い部分で茎につながり、葉柄はほとんど維管束組織で構成されている。托葉とよばれる突起状などの小片が、しばしば葉柄の基部につくる。
特殊化した形態の葉は多い。変化して棘となったものもあり、これは動物に食べられないよう身をまもるのに役だつ。葉が大きく変化していて、昆虫をわなにかけて消化し、必要な栄養をえているものもある(→ 食虫植物)。鮮やかな色をした花弁のような葉もあり、小さくてめだたない花にかわって花粉媒介者をひきつける役をはたしている。もっとも大きく変化した葉は、花そのものであるといえよう。心皮、雄蕊、花弁、萼片(がくへん:→ 萼)といった花の各部分は、すべて葉が変化したものであり、生殖の機能をはたしている。
| VII. | 生長と分化 |
さまざまな植物の組織や器官系の生長と分化は、いろいろな内部的・外部的因子によって制御されている。
| 1. | 植物ホルモン |
植物ホルモンは、植物により生みだされる特殊な化学物質で、生長と発達を調節する主要な内部因子である。ホルモンは植物の特定の部分で生みだされ、他の部分へはこばれ、そこでごく少量で効果をあらわす。対象となる組織によって、ひとつの植物ホルモンがことなった効果をもつ。こうして、もっとも重要な植物ホルモンのひとつであるオーキシンは、生長する茎の先端でつくられ他の部位にはこばれるが、そこで生長を促進することもあれば抑制することもある。たとえば茎では、オーキシンは細胞の伸長と維管束組織の分化をうながすが、根では主根系の生長を抑制し不定根の形成をうながす。花、果実、葉のおちるのをおくらせる働きもある。
ジベレリンも重要な植物ホルモンで、50種類以上が知られている。茎の伸長を調節し、デンプンを糖に分解して胚に栄養をあたえる酵素の生成を開始することによって、一部のイネ科草本の種子を発芽させる。サイトカイニンは、側芽の生長をうながしてオーキシンと反対の作用をし、芽の形成も促進する。さらに、植物はある種の炭素化合物の部分的な分解によってエチレンガスを生みだし、生じたエチレンは果実の成熟と脱離を調節する。
| 2. | 向性 |
さまざまな外部の因子も植物の生長と発生にとっては重要で、しばしばホルモンとともに作用する。外的刺激に対する反応の重要なものとして向性があり、これは植物の生長の方向に変化をひきおこす反応である。たとえば、茎が光の方向へまがる屈光性、茎または根が重力に反応する屈地性がある。茎は負の屈地性を示し、重力と反対の方向へ生長するが、これに対し根は正の屈地性をしめす。光周性は明暗の24時間周期に対する反応で、とくに開花を左右する。一部の植物は短日性で、明期間がある基準より短いときにだけ開花する(→ 生物時計)。他のさまざまな因子、たとえば植物自体の年齢も、温度のような外的環境も、開花に複雑に関係している。
| VIII. | 生態系 |
植物は地中に根をはっていることから、一般に、じっと静かに受け身の生活をしていると思われている。しかし、植物とその周りの生物的環境との間に発達した巧妙な相互関係をみれば、たちまちこのような考えはかわってしまう。
| 1. | 共生と競争 |
雌雄のある多くの植物が受粉して種子をつくるには、雄花の花粉が雌花に達しなければならない。花粉を媒介するのは、風(物理的環境の一部)の場合もあるが、多くの場合、昆虫、コウモリ、あるいは鳥(生物的環境の構成員)である。種子の分散を媒介者にたよる植物もある。たとえばセイヨウミザクラは、受粉したのちにサクランボを大きくして鳥をひきよせ、果実を食べた鳥は遠くはなれた場所で種子を排泄する。
植物はほかにも、マメ科植物とその根の小さなこぶの中にいる根粒菌のように、共存をはかる多くの関係を進化させている。草原のイネ科の草や、ひらけた土地に繁茂する植物は、森林がせまり日光がさえぎられないようにしてくれる草食動物のおかげで生育できる。
植物同士の光をめぐる競争を通じて、多くの種は葉の形、樹冠の形、丈高さなどの太陽光線をとらえる仕組みを進化させてきた。さらに、多くの植物は自分の近くにほかの種の植物の種子が発芽し定着しないような化学物質を生みだし、光だけでなく無機養分の資源から競争相手の種を排除することもある。クルミなどは、このようなアレロパシー(他感作用)とよばれる化学的阻害作用を利用している。
| 2. | 食物連鎖 |
植物は自分で栄養をつくることができる独立栄養の生物だから、食物連鎖のいちばん基礎的な位置にある。自分で栄養をつくることができない従属栄養の生物は植物ほど定着的な生活をしないのがふつうで、最終的には栄養源を独立栄養の生物に依存する。植物はまず第1次消費者の草食動物に食べられ、これが次に第2次消費者の肉食動物に食べられる。分解者は食物連鎖のあらゆる段階で活動する。食物連鎖の各段階で大量のエネルギーがうしなわれ、各段階でたくわえられるのはエネルギーの約10%だけである。このため、食物連鎖には数段階しかない。
| 3. | 植物と人類 |
古代の農耕の開始から今日にいたるまで、野生状態から手をくわえられて食料・繊維・住居・薬の原料となった種の数は、わずかでしかない。植物の栽培と育種のプロセスはほとんど偶然にはじまり、住居の近くにあつめられた野生の果物や野菜の種子が発芽し、自然に近いやり方で栽培されたと思われる。
エンマコムギとヒトツブコムギ(→ コムギ)は、考古学者の調査によると、前6000年代とされている中東の遺跡から出土している。食料としてすぐれた価値があるため、長年にわたって選別淘汰がくりかえされ育種されてきた。現在では、多くの栽培植物について、野生の祖先やその植物が発生した起源の植物群落にさかのぼることはほとんどできない。この選別の過程は、すでにあった植物育種の知識を生かしておこなわれたのではなく、むしろ産業が発達する以前の人間と植物との不断の密接な関係によるものであった。
しかし今日では、人間と植物の関係はまるでことなるものになった。植物の栽培にほとんどあるいはまったく関係しない人々が大多数を占めるようになり、植物栽培にかかわる農業者も単一作物への専門化がすすんでいる。一方、品種改良は大きく加速され、これは遺伝学の進歩によるところが大きい。植物遺伝学は、現在ではわずか数年で耐風性トウモロコシのような植物の系統を開発することが可能で、作物の収量は大いに増加している。
同時に、人類は食物とエネルギーの需要を増大させ、科学者が世界の植物個体群の正確な目録をつくり、どの植物種が人類に役だちうるかを解明する以前に、あらゆる植物種と生態系を破壊してしまうほどになっている。ほとんどの種はあまり知られないままにあり、大きな可能性をもつと考えられる種は熱帯に存在するが、そこでは人口が急速に増加し、開拓によってすぐにも土地は乾燥した不毛の荒れ地になってしまう恐れがある。植物の基本知識はそれ自体重要だが、今日人類が直面している多くの問題を解決しようとする際にも有効である。→ 農業:食料需給
→ 双子葉植物:単子葉植物:有毒植物