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イネ
I. プロローグ

イネ科イネ属の一年草(二年草)。コムギ、トウモロコシとならぶ世界の三大穀物のひとつで、その穀粒である米が世界でもっとも多くの人々の主食となっている。一般にイネとよばれるのはアジアイネで、野生種から品種改良された栽培イネである。なお、日本のイネの品種、および稲作の歴史については、稲作で、農耕儀礼などについては稲作儀礼、田植えを参照。

II. イネの形態

イネは、日本では冬を越すことはなく、一年草として栽培されるが、熱帯では何年も生きることがある。高さ0.5~1mで直立し、葉は長さ30cmくらいの線形(葉の図「葉の形」)で、縁や葉脈上に棘状(とげじょう)の突起がならび、ざらつく。葉の付け根に長さ8~15mmの葉舌(ようぜつ)とよばれる舌状の小片があり、めだつ。夏に円錐状(えんすいじょう)に多数の小穂(しょうすい)を出し、花を咲かせる。

1. 小穂の構造

イネ科植物の花序は、ふつう小穂から構成される。小穂には、ふつう、基部から順に、第1苞穎(ほうえい)、第2苞穎とよばれる2つの鱗片状の部分があり、その先に1個から数十個の小花(しょうか)がつく。1つの小穂に複数個の小花がつく場合、基部に近いほうから順に第1小花、第2小花と番号をつけてよばれる。

小花には護穎(ごえい)または外花穎(がいかえい)、内穎(ないえい)という2つの鱗状(うろこじょう)の部分があり、その中に雄蕊(おしべ)や雌蕊が入っている。雌蕊の子房がそだってできる果実は穎果(えいか)とよばれ、胚乳(はいにゅう)、胚芽、そのまわりにある糠層(ぬかそう)からなる。

イネ科では、これらの小穂を構成する各部分が、分厚くなったり、膜状になったり、棘や毛などが生えたり、退化したりなどと、多様に変形している。

2. 米になる部分

われわれが日常、主食として食べている「白米」は、穎果の胚乳の部分で、籾殻(もみがら)は、護穎と内穎に相当する部分である。穎果に籾殻がついたままの状態は籾、籾殻をとりのぞいた状態は玄米、胚芽と糠層は米糠とよばれる。

III.

精米した米、白米には約25%の糖質、少量のヨード、鉄、マグネシウム、リン、および微量のタンパク質と脂肪がふくまれる。そして、米糠にはタンパク質、ビタミンB複合体、ビタミンEおよびビタミンKがふくまれている(ビタミン)。そのため、栄養価の高い米糠をとりのぞいた白米は、栄養的にはおとった食物といえ、白米食は脚気などの疾患の原因となる。近年、米糠の栄養価が認識され、米糠をとりのぞかない玄米の消費量が多少のびてきている。

日本をはじめ東アジアでは米からデンプンを抽出し、発酵させて酒(アルコール飲料:日本酒)をつくる。ほかの穀物とことなり、米はパンには加工されない。粒のまま、炊(た)いて食べるのがふつうで、慣習によっては味付けして食べる。米はふつう家畜の飼料にはもちいられないが、米作地帯では米糠などが、利用されることもある。アルファ化米

IV. インディカとジャポニカ

イネ(アジアイネ)には日本型(japonica:ジャポニカ種)とインド型(indica:インディカ種)とがある。日本型のイネは籾(もみ)の長さと幅の比がインド型にくらべて小さく、丸みをおびていて、表面に毛が多い。玄米の質は軟らかで、アルカリ溶液にとけやすい。精白した米は飯にすると粘りが強く、味は比較的濃厚である。これに対してインド型は籾が細長く、毛も少なくて、玄米はアルカリ溶液にとけにくい。飯にしても粘りが少なく、味は淡泊である。

日本型のイネは温帯地方、あるいは熱帯でも標高の高い所で栽培されており、日本をはじめ、朝鮮半島、台湾、中国大陸の長江(揚子江)以北の平坦地、タイ、インドシナの北部山岳地帯などで栽培されている。これに対して、インド型のイネは中国の長江以南、東南・南アジア各国の平坦地、南アメリカなど熱帯の主要米産国で栽培されている。したがって、世界全体ではインド型のイネの栽培面積および生産量は、日本型のイネにくらべてはるかに大きい。

2002年4月、欧米と中国の研究グループがそれぞれ、日本型とインド型のイネの全遺伝情報(ゲノム)をほぼ解読することに成功し、アメリカの科学誌「サイエンス」に発表した。それによると、日本型のゲノムは約4億2000万の塩基対からなり、その中に遺伝子は3万2000~5万個ふくまれると推定され、またインド型のゲノムは約4億6600万の塩基対からなり、遺伝子はその中に4万6022~5万5615個ふくまれると推定されている。これらのくわしい解読データはインターネットなどを通じて世界じゅうの研究者に提供されるので、今後、ゲノムをもとにした遺伝子組み換え技術で優良品種が次々と誕生すると考えられている。

V. 水稲と陸稲

イネは変異が多く、世界で広く栽培されているので、栽培方法や栽培時期によってさまざまな区分がされている。

水稲(すいとう)と陸稲(りくとう:おかぼ)は栽培方法によるもので、灌漑水をもちいたり、水をたたえた耕地に栽培するイネを水稲、畑地で栽培するイネを陸稲とよぶ。

また、栽培時期によって、インドやビルマでは雨季に栽培する晩生種はアマンaman(冬米)、早生種はアウスaus(秋米)、乾季に栽培するイネはボロboro(夏米)とよばれている。これらはいずれも栽培環境の違いによって生まれた、イネの生態型である。

VI. イネの起源地

イネ(アジアイネ)の起源地については東南アジア低湿地説にかわり、近年はアッサム・ヒマラヤ・雲南地方の高緯度地帯とみる説が有力になっていた。しかし最近、中国湖南省の彭頭山遺跡(ほうとうざんいせき)から、野生種から栽培種への過程をしめす籾痕(もみあと)のある約9000年前の土器がみつかった。さらに、1997年に同省の長江中流域からインディカ種でもジャポニカ種でもない栽培イネ1万2000粒が発掘されるなど、長江流域説が急浮上している。

VII. イネの日本への伝播ルート

日本列島にも栽培イネが長江下流域の江南地方からつたわったが、そのルートには4つの説がある。

第1は陸路で朝鮮半島に入り、玄界灘をわたって北九州へ、第2は山東半島から黄海をわたって朝鮮半島に入り玄界灘をへて北九州へ、第3は江南から東シナ海をへて朝鮮半島に入り、さらに玄界灘をわたって北九州へ、第4は江南から島伝いに沖縄・奄美諸島をへて九州へという説である。このとき日本に入ったのはジャポニカ種だが、今後、朝鮮半島の考古学調査などで同種のイネが発見されれば、ルート問題は解決される可能性がある。

VIII. イネ属の植物

イネ(アジアイネ)の属するイネ属の植物は、世界に約20種知られている。イネ属は熱帯から温帯に分布し、河川沿いの水湿地や、雨季に水がたまる場所などに生える。イネ属で栽培される種は、アジアイネのほかにもう一種、アフリカイネがあるが、アフリカ西部でわずかに栽培されるだけである。オリザ・ルフィポゴンは、東南アジアから北オーストラリア、中央アメリカに分布し、イネの直接の祖先とされる野生種である。

「稔るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という言い回しがあるが、野生のイネ属の植物は、穎果が熟すと、穂から穎果を脱落させる性質があり、穂が重くならないので垂れることはない。頭を垂れるのは、人類に品種改良された栽培イネだけである。なお、ライスの名でよばれているが、ワイルドライスとか、インディアンライスとよばれている植物は、イネ科ではあるが、イネとは近縁ではなく、マコモ属の一年草である。

分類:イネ科イネ属。イネ(アジアイネ)の学名はOryza sativa。アフリカイネはO. glaberrima。オリザ・ルフィポゴンはO. rufipogon