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放射能
I. プロローグ

放射能とは、原子核が自発的に崩壊する性質をもつことをいう。このときに、アルファ粒子(a粒子)やベータ粒子(β粒子)とよばれる原子よりも小さい粒子の放出や、X線やガンマ線(g線)とよばれる電磁波を放射する。

II. 発見

原子核の自然崩壊の現象は1896年、フランスの物理学者アントワーヌ・ベクレルによって発見された。彼はウラン元素がガラスや黒い紙で隔離されているにもかかわらず、写真乾板を感光させることを観察した。また、感光をひきおこす光線が検電器に感知することも観察した。つまり、光線は電荷をもっていることがわかったのである。

1898年、フランスの物理学者マリーおよびピエール・キュリー(キュリー夫妻)は、放射能とは原子の物理的、化学的な状態に関係なく、原子そのものに関係した現象であることをたしかめた。ウラン含有鉱石のピッチブレンド(瀝青ウラン鉱)のほうがベクレルのつかったウラン塩よりも放射能が強いことから、鉱石にはほかの放射性元素がふくまれていると推定し、ピッチブレンドの化学処理にとりくみ、ポロニウムとラジウムという2つの新しい放射性元素を発見した。その後もトリウム、アクチニウム、ラドンと放射能をしめす元素の発見がつづいた。

III. エネルギーとしての放射能

やがて放射能は、それまで知られていなかったような高いエネルギー源であることがわかってきた。キュリー夫妻はラジウムの崩壊にともなう熱量を測定し、1gで毎時約420ジュール(J)のエネルギーを放出することを確認した。この熱量の放出は何年間もつづく。ちなみに、1gの石炭を完全に燃焼したときの全エネルギーは約3万3500Jにすぎない。この発見から放射能の研究は発展し、多くの現象がしらべられていったのである。

IV. 放射能の種類

1899年、イギリスの物理学者アーネスト・ラザフォードは、放射線には少なくとも2種類があることを発見した。厚さ1000分の数センチのアルミニウムを透過するアルファ粒子と、それより透過力が100倍強いベータ粒子である。つづいて放射性放出を電場と磁場(磁界)の中をくぐらせる実験によって、ベータ粒子よりもはるかに透過力の強いガンマ線の存在が明らかになった。電場の中で、ベータ粒子は正の電極の方向に大きくまげられる。アルファ粒子は負の電極の方向にわずかな量だけまげられる。しかしガンマ線はまったくまげられない。したがってベータ粒子は負の電荷をもっており、それより重いアルファ粒子は正の電荷をもち、ガンマ線は電荷をもっていないことがわかった。

1. 放射性崩壊

1903年にソディはラジウムが崩壊してラドンになるという発見をし、放射性崩壊においては元素の化学的性質が変化するということを証明した。電場でアルファ線をまげる実験によって、アルファ粒子の電荷と質量の比は水素イオンの約2倍であることがわかった。そこで、アルファ粒子はヘリウムの2価イオン(4He2+:ヘリウム原子から2つの電子をのぞいたもの)であると推定された。この仮説はラザフォードとガイガーにより、アルファ粒子を出している元素の近くに、うすいガラスの真空容器をおくことによって証明された。アルファ粒子は、ガラスを透過して中に入るが、そこに閉じこめられ、数日後に容器の中にヘリウムの存在していることが分光器をつかってたしかめられたのである。ベータ粒子は電子であり、ガンマ線はX線と同じような性質をもっているが、エネルギーがずっと大きい電磁波であることも、明らかになってきた。

2. 原子核の仮説

放射能の発見当時には、原子は物質を構成する究極の分割不可能な単位であるとされていた。しかし、アルファ粒子やベータ粒子が、物質の独立した単位であることがわかり、原子はこれらの粒子を放出して別な原子に転換することがわかってくると、原子は分割可能であり、究極の基本粒子ではないという認識をもたらした。

1911年、ラザフォードは、09年にガイガーらが発見したアルファ粒子がうすい金属箔(はく)で散乱される現象を、原子の中に原子核が存在するという散乱の現象として説明した。それ以来、原子核の構造についても精密な仮設がたてられては研究され、原子構造理論が発展してきた。→原子の「原子模型」

3. 原子核と放射能

放射能現象はすべて原子の構造によって説明することができるようになった。原子は密度の高い原子核と、それをとりかこむ電子の雲からできている。さらに原子核は、電気的に中性の原子の場合には、電子と同じ数の陽子と中性子からできている。アルファ粒子、つまり二価のヘリウムイオンは、2個の陽子と2個の中性子からできており、したがって原子核からのみ放出される。アルファ粒子が放出されると、原子質量単位(原子量)がもとの原子核より4だけ小さい新しい原子核になる(中性子と陽子の質量はそれぞれほぼ1である)。これをアルファ崩壊とよんでいる。

ウランの同位体のうち、質量238の核種(238U)は、アルファ粒子を放出したとき、質量234の新しい核種(234U)になる。238Uの原子核から出るアルファ粒子の2つの陽子は、それぞれ1単位の正の電荷をもっている。原子核の正電荷の数は、原子核の外の電子殻(でんしかく)にある負の電子の数とつりあっていて、それが原子の化学的性質を決定している(価電子)。アルファ放出によって、238Uの原子核は電荷を2単位うしなうので、新しい原子はウランの原子番号92より2少ない原子番号をもつようになる。つまり、質量数が234で、原子番号90の元素、トリウムの同位体(234Th)である。

234Thが放出するのは、ベータ粒子、つまり電子である。ベータ放出は中性子が陽子に転換することによっておこる。したがってベータ放出によって原子核の電荷、つまり原子番号が1ふえることになる。これをベータ崩壊とよんでいる。電子の質量は無視できるほど小さいので、234Thの崩壊によってできる同位体は、質量数が234で原子番号が91のもの、つまりプロトアクチニウムの同位体(234Pa)である。

4. ガンマ線

ガンマ線の放射はふつうアルファ粒子の放出やベータ粒子の放出にともなっておこる。ガンマ線は電荷も質量ももたないので、ガンマ放射によって原子核の変化はおこらず、一定量の放射エネルギーをうしなうだけである。ガンマ放射は、原子核のアルファ放出やベータ放出のあとにのこる不安定状態の調整である。中心となるアルファ放出やベータ放出と、その結果であるガンマ放射はほとんど同時におこる。しかし、ガンマ放射をともなわないアルファ放出やベータ放出も少数例あるし、逆にガンマ線のみを放射する同位体もある。純粋なガンマ放射は、同位体が核異性体とよばれる2つの形態で存在する場合におこる。核異性体は、原子番号も質量数も等しいがエネルギー準位がことなる同位体である。ガンマ放射は、励起状態(高いエネルギー準位にある)の異性体から基底状態(低いエネルギー準位にある)の異性体への遷移にともなっておこる。234Paは、そのようなエネルギーのちがう2つの状態が存在し、ガンマ線の放射をしめす例である。

5. 放出速度

アルファ放出やベータ放出、ガンマ放射のいずれも、原子核からとびでるときの速さはきわめてはやい。アルファ粒子が物質中を通過すると、物質内の電子との相互作用によって減速され、やがて停止する。同じ物質から放出されるアルファ粒子は、ほぼ同じ速度でとびだす。たとえば質量数が210のポロニウム同位体(210Po)から出るアルファ粒子は空気中を3.8cmすすんでから停止する。一方、212Poの場合は8.5cmで停止する。したがってアルファ粒子の到達距離の測定は、同位体の判別に利用できる。一方、ベータ粒子はアルファ粒子よりもはるかにはやい速度で放出される。したがって、同様の仕組みで制止されるにもかかわらず、アルファ粒子よりも透過力はかなり大きい。しかし、ベータ粒子はさまざまな速さで放出されるので、最高速度および平均速度によって分類される。

ベータ粒子のエネルギー(速度)の分布は連続スペクトルをしめすため、電荷も質量もないニュートリノとよばれる素粒子の存在が仮定されるようになった。現在では、ベータ崩壊の際にニュートリノ放出がおこっていると考えられている。ガンマ線の透過距離はベータ粒子より数倍大きく、ときには厚さ10cm近い鉛板をも透過する。

6. イオン化

アルファ粒子とベータ粒子は物質中を通過するときにイオンをつくりだす。物質が気体のときにはイオン化を容易に観察することができる。ガンマ線は電荷をもたないので直接にはイオン化をひきおこさない。しかし、物質との相互作用で原子から電子をはじきだすことがある(放射線生物効果)。

ベータ線のおこすイオン化は、アルファ線が空気中を1cm通過するときにおこすイオン化の100~200分の1である。ガンマ線は、ベータ線の約100分の1のイオン化をおこす。ガイガー=ミュラー計数管やイオン化装置(粒子検出器)は、アルファ粒子やベータ粒子、ガンマ線のそれぞれの量を測定し、その量から放射性物質の崩壊率をもとめている。放射線の単位であるキュリー(Ci)はラジウムの同位体、226Raの崩壊率にもとづいており、1キュリーは、ラジウム1gが1秒間におこす370億回の崩壊をあらわしている。

7. そのほかの崩壊

放射能の種類はほかにもある。同位体の中には陽電子(e+)を放出するものがある。陽電子は電荷の符号が逆である以外はふつうの電子(e-)と同じである。陽電子放出は、ふつうベータ崩壊にふくめられるが、負の電子を放出する通常のベータ崩壊(β-崩壊、陰電子崩壊)と区別するために、β+崩壊(陽電子崩壊)ともよばれる。陽電子放出では原子番号が1つへり、原子核内で陽子が中性子に転換することによっておこなわれると考えられている。

電子捕獲とよばれるものは、原子核にもっとも近い電子殻にあるK電子が、原子核に捕獲され、原子核内の陽子が中性子にかわる過程である。この場合も原子番号が1つへり、電子が軌道からはずれるときにX線が発生する。

ウランの核種や、人工的につくりだされた超ウラン元素の同位体の多くは、アルファ粒子を放出するアルファ崩壊だけでなく、自然に核分裂(自発核分裂)をおこして崩壊することが知られている。

V. 半減期

238Uや²³²Thなどの崩壊は、崩壊率(比崩壊率)に変化がないまま永遠につづくかのようにみえる。しかしほかの同位体の中には時間とともに比崩壊率がいちじるしく小さくなるものもあり、234Thなどは、ウランから分離されたのち25日以内に、最初の放射能強度の半分になる。放射性物質はすべて固有の崩壊期間、つまり半減期をもっている。半減期がきわめて長いので崩壊の変化が観測できない同位体もある。たとえば238Uの半減期は4億4680万年、²³²Thの半減期は約140億年もある。

VI. 人工放射性元素

周期表で原子番号83のビスマス以降の原子番号の元素はすべて放射性である。さらに、原子番号がビスマス以前の元素でも、鉛(原子番号82、以下同)、タリウム(81)、白金(78)、レニウム(75)、ハフニウム(72)、ルテチウム(71)、ガドリニウム(64)、サマリウム(62)、ネオジム(60)、ランタン(57)、インジウム(49)、ルビジウム(37)、カリウム(19)、炭素(6)、水素(1)などにも天然の放射性同位体がある。

1919年、ラザフォードは通常の窒素原子(14N)にアルファ粒子を衝突させ、はじめて原子核反応をおこした。そのとき窒素原子は、アルファ粒子を捕獲して陽子を放出し、酸素の安定な同位体である17Oになるのが観測された。この反応は次のように記述する。

¨N + ¸He → ©O + §H

ここで、化学記号の左下は原子番号、左上は質量数である。アルファ粒子はヘリウムの原子核(¸He)として、陽子は水素の原子核(§H)としてあらわされている。

1933年、このような原子核反応が、ときには放射性元素を生成することが明らかになった。フランスの化学者イレーヌおよびフレデリックのジョリオ・キュリー夫妻が、アルミニウムにアルファ粒子をうちこんで、はじめて人工的に放射性物質をつくりだした。アルミニウム原子核はアルファ粒子を捕獲し、中性子を放出してリンの同位体を生成し、短い半減期で陽電子放出によって崩壊する。彼らはまた、ホウ素から窒素の同位体を、マグネシウムからアルミニウムの同位体を生成できることも発見した。

これ以来、多くの原子核反応が発見され、周期表のすべての元素に対して、アルファ粒子、陽子、中性子、重陽子(重水素の原子核)などをうちこむ実験がおこなわれた。こうした研究の結果、今では1000種以上の人工の放射性元素が知られている。この研究で活躍するのが加速器である。うちこむ粒子を加速器によってかなり加速することができ、標的の原子核に捕獲される可能性を高めることができるからである。

1. 利用の拡大

原子核反応の研究や重い元素における人工放射能の探求は、原子核分裂の発見と原子爆弾(核兵器)の開発につながっていった(→核エネルギーの「原子の分裂と融合」)。自然界には存在しないいくつかの超ウラン元素も生成されている。原子炉の開発によって、周期表のほとんどすべての元素について、放射性同位体の大量生産が可能になった。放射性同位体がつかえるようになり、化学、生物学、医学の研究が促進された。トレーサー:放射線医学

人工的につくられた放射性同位体の中で、炭素の放射性同位体である14C(炭素14)がとくに重要である。14Cは、5730年の半減期をもち、光合成など生命活動のさまざまな側面を、以前には考えられなかったような基礎的な方法で研究することが可能になった。

また、地球の大気の中にはきわめて少量であるが、宇宙線にさらされた窒素原子が元素変換した14Cが存在する。この14Cは二酸化炭素にふくまれ、光合成や代謝の過程で、すべての生命体が吸収している。生命体の死後、吸収は停止し、14Cはベータ崩壊してゆくので一定の濃度を保つことはできなくなる。これを利用して、骨やミイラなど歴史的、考古学的に重要なものの年代が、14Cの測定によって推定できるようになった。→年代測定法の「放射年代測定法」

2. さまざまな利用法

中性子を照射して分析対象物を放射化する中性子放射化分析も、人工放射元素のひとつの応用例である。他の手段によっては検出できないような不純物の元素を、原子炉の中で中性子を照射して放射能をもたせる(放射化する)と、放射性同位体となって放射能を出すようになる。それを分析することによって、不純物がなんであるかを知ることができる。そのほかにも、医療や工業面でのX線などの放射線撮影、放射線の励起による発光(リン光)光源としての利用。また、アルファ線の電離作用を利用した静電気除去装置や、放射能の透過量を測定することで対象物の厚みをはかる厚みゲージなどにもつかわれている。放射性同位元素が出す熱を電気に変換する原子力電池(アイソトープ電池)は心臓ペースメーカーや惑星探査機の電源としても利用されている。このほかにも人工放射性元素の応用例は多岐にわたっている。