| 放射能 | 項目ビュー | ||||
| 印刷するには、[ファイル] メニューの [印刷] をクリックします。 | |||||
| IV. | 放射能の種類 |
1899年、イギリスの物理学者アーネスト・ラザフォードは、放射線には少なくとも2種類があることを発見した。厚さ1000分の数センチのアルミニウムを透過するアルファ粒子と、それより透過力が100倍強いベータ粒子である。つづいて放射性放出を電場と磁場(→ 磁界)の中をくぐらせる実験によって、ベータ粒子よりもはるかに透過力の強いガンマ線の存在が明らかになった。電場の中で、ベータ粒子は正の電極の方向に大きくまげられる。アルファ粒子は負の電極の方向にわずかな量だけまげられる。しかしガンマ線はまったくまげられない。したがってベータ粒子は負の電荷をもっており、それより重いアルファ粒子は正の電荷をもち、ガンマ線は電荷をもっていないことがわかった。
| 1. | 放射性崩壊 |
1903年にソディはラジウムが崩壊してラドンになるという発見をし、放射性崩壊においては元素の化学的性質が変化するということを証明した。電場でアルファ線をまげる実験によって、アルファ粒子の電荷と質量の比は水素イオンの約2倍であることがわかった。そこで、アルファ粒子はヘリウムの2価イオン(4He2+:ヘリウム原子から2つの電子をのぞいたもの)であると推定された。この仮説はラザフォードとガイガーにより、アルファ粒子を出している元素の近くに、うすいガラスの真空容器をおくことによって証明された。アルファ粒子は、ガラスを透過して中に入るが、そこに閉じこめられ、数日後に容器の中にヘリウムの存在していることが分光器をつかってたしかめられたのである。ベータ粒子は電子であり、ガンマ線はX線と同じような性質をもっているが、エネルギーがずっと大きい電磁波であることも、明らかになってきた。
| 2. | 原子核の仮説 |
放射能の発見当時には、原子は物質を構成する究極の分割不可能な単位であるとされていた。しかし、アルファ粒子やベータ粒子が、物質の独立した単位であることがわかり、原子はこれらの粒子を放出して別な原子に転換することがわかってくると、原子は分割可能であり、究極の基本粒子ではないという認識をもたらした。
1911年、ラザフォードは、09年にガイガーらが発見したアルファ粒子がうすい金属箔(はく)で散乱される現象を、原子の中に原子核が存在するという散乱の現象として説明した。それ以来、原子核の構造についても精密な仮設がたてられては研究され、原子構造理論が発展してきた。→原子の「原子模型」
| 3. | 原子核と放射能 |
放射能現象はすべて原子の構造によって説明することができるようになった。原子は密度の高い原子核と、それをとりかこむ電子の雲からできている。さらに原子核は、電気的に中性の原子の場合には、電子と同じ数の陽子と中性子からできている。アルファ粒子、つまり二価のヘリウムイオンは、2個の陽子と2個の中性子からできており、したがって原子核からのみ放出される。アルファ粒子が放出されると、原子質量単位(→ 原子量)がもとの原子核より4だけ小さい新しい原子核になる(中性子と陽子の質量はそれぞれほぼ1である)。これをアルファ崩壊とよんでいる。
ウランの同位体のうち、質量238の核種(238U)は、アルファ粒子を放出したとき、質量234の新しい核種(234U)になる。238Uの原子核から出るアルファ粒子の2つの陽子は、それぞれ1単位の正の電荷をもっている。原子核の正電荷の数は、原子核の外の電子殻(でんしかく)にある負の電子の数とつりあっていて、それが原子の化学的性質を決定している(→ 価電子)。アルファ放出によって、238Uの原子核は電荷を2単位うしなうので、新しい原子はウランの原子番号92より2少ない原子番号をもつようになる。つまり、質量数が234で、原子番号90の元素、トリウムの同位体(234Th)である。
234Thが放出するのは、ベータ粒子、つまり電子である。ベータ放出は中性子が陽子に転換することによっておこる。したがってベータ放出によって原子核の電荷、つまり原子番号が1ふえることになる。これをベータ崩壊とよんでいる。電子の質量は無視できるほど小さいので、234Thの崩壊によってできる同位体は、質量数が234で原子番号が91のもの、つまりプロトアクチニウムの同位体(234Pa)である。
| 4. | ガンマ線 |
ガンマ線の放射はふつうアルファ粒子の放出やベータ粒子の放出にともなっておこる。ガンマ線は電荷も質量ももたないので、ガンマ放射によって原子核の変化はおこらず、一定量の放射エネルギーをうしなうだけである。ガンマ放射は、原子核のアルファ放出やベータ放出のあとにのこる不安定状態の調整である。中心となるアルファ放出やベータ放出と、その結果であるガンマ放射はほとんど同時におこる。しかし、ガンマ放射をともなわないアルファ放出やベータ放出も少数例あるし、逆にガンマ線のみを放射する同位体もある。純粋なガンマ放射は、同位体が核異性体とよばれる2つの形態で存在する場合におこる。核異性体は、原子番号も質量数も等しいがエネルギー準位がことなる同位体である。ガンマ放射は、励起状態(高いエネルギー準位にある)の異性体から基底状態(低いエネルギー準位にある)の異性体への遷移にともなっておこる。234Paは、そのようなエネルギーのちがう2つの状態が存在し、ガンマ線の放射をしめす例である。
| 5. | 放出速度 |
アルファ放出やベータ放出、ガンマ放射のいずれも、原子核からとびでるときの速さはきわめてはやい。アルファ粒子が物質中を通過すると、物質内の電子との相互作用によって減速され、やがて停止する。同じ物質から放出されるアルファ粒子は、ほぼ同じ速度でとびだす。たとえば質量数が210のポロニウム同位体(210Po)から出るアルファ粒子は空気中を3.8cmすすんでから停止する。一方、212Poの場合は8.5cmで停止する。したがってアルファ粒子の到達距離の測定は、同位体の判別に利用できる。一方、ベータ粒子はアルファ粒子よりもはるかにはやい速度で放出される。したがって、同様の仕組みで制止されるにもかかわらず、アルファ粒子よりも透過力はかなり大きい。しかし、ベータ粒子はさまざまな速さで放出されるので、最高速度および平均速度によって分類される。
ベータ粒子のエネルギー(速度)の分布は連続スペクトルをしめすため、電荷も質量もないニュートリノとよばれる素粒子の存在が仮定されるようになった。現在では、ベータ崩壊の際にニュートリノ放出がおこっていると考えられている。ガンマ線の透過距離はベータ粒子より数倍大きく、ときには厚さ10cm近い鉛板をも透過する。
| 6. | イオン化 |
アルファ粒子とベータ粒子は物質中を通過するときにイオンをつくりだす。物質が気体のときにはイオン化を容易に観察することができる。ガンマ線は電荷をもたないので直接にはイオン化をひきおこさない。しかし、物質との相互作用で原子から電子をはじきだすことがある(→ 放射線生物効果)。
ベータ線のおこすイオン化は、アルファ線が空気中を1cm通過するときにおこすイオン化の100~200分の1である。ガンマ線は、ベータ線の約100分の1のイオン化をおこす。ガイガー=ミュラー計数管やイオン化装置(→ 粒子検出器)は、アルファ粒子やベータ粒子、ガンマ線のそれぞれの量を測定し、その量から放射性物質の崩壊率をもとめている。放射線の単位であるキュリー(Ci)はラジウムの同位体、226Raの崩壊率にもとづいており、1キュリーは、ラジウム1gが1秒間におこす370億回の崩壊をあらわしている。
| 7. | そのほかの崩壊 |
放射能の種類はほかにもある。同位体の中には陽電子(e+)を放出するものがある。陽電子は電荷の符号が逆である以外はふつうの電子(e-)と同じである。陽電子放出は、ふつうベータ崩壊にふくめられるが、負の電子を放出する通常のベータ崩壊(β-崩壊、陰電子崩壊)と区別するために、β+崩壊(陽電子崩壊)ともよばれる。陽電子放出では原子番号が1つへり、原子核内で陽子が中性子に転換することによっておこなわれると考えられている。
電子捕獲とよばれるものは、原子核にもっとも近い電子殻にあるK電子が、原子核に捕獲され、原子核内の陽子が中性子にかわる過程である。この場合も原子番号が1つへり、電子が軌道からはずれるときにX線が発生する。
ウランの核種や、人工的につくりだされた超ウラン元素の同位体の多くは、アルファ粒子を放出するアルファ崩壊だけでなく、自然に核分裂(自発核分裂)をおこして崩壊することが知られている。